名義人が亡くなると預金口座が凍結されてしまう点や相続税の納税資金を考慮すると、銀行預金の相続手続きはなるべく早めに進めるべきです。手続きは基本的に取引先銀行の担当部署が進めてくれますが、遺言書や遺産分割協議書は相続する人自身で用意しなければなりません。
相続税申告を踏まえて請求する書類も含め、一生に一度あるかないかの相続で迷いがちな「銀行預金の相続手続き」の必要書類や流れについて易しく解説します。
※本記事解説の手続きや必要書類は、あくまでも大手銀行で行われる一般的なサービスを元に紹介しています。個別ケースについては、専門家と取引先銀行に相談しましょう。
1.銀行預金の相続とは
最初に押さえておきたいのは、名義人が死亡した際の口座処理の方法です。
死亡の届出があった時点では、ひとまず凍結処理が行われます。その上で、相続手続きの申請があれば解約処理が開始され、口座残高は相続人名義の口座へと払い戻されます。
つまり、口座名義人が死亡した後に出金するには、相続手続きを済ませる必要があるのです。
※処理方法の詳細は銀行ごとに異なります。また、同一の銀行でも、口座の取引状況等により処理方法を変える場合があります。
銀行口座の凍結については、コラム「相続発生時の「銀行口座の凍結」とは?」も合わせてご参考ください。
2.相続の手続き方法
銀行預金の相続(解約と払い戻し)は、亡くなった人が取引していた銀行の担当窓口で申請して進めます。また、相続人が2人以上いる場合の手続きでは、遺言書もしくは相続人の話し合い(=遺産分割協議)で、口座残高の取得分が決まっている状態であることが前提です。
相続する人にとって取り立てて必要な手続きは、担当窓口に提出する書類の準備です。
【銀行口座の相続の流れ】
相続開始
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遺言書の捜索
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(財産目録等がない場合)相続財産の調査
▼
(遺言書がない場合)遺産分割協議※
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取引先銀行の相続担当部門への問い合わせ
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必要書類の提出
▼
口座解約完了+払い戻し
※協議がまとまらない場合、家庭裁判所に調停の申立てを行って引き続き合意を目指すことができます。
2-1.まずは「相続財産の調査」から始める
家計管理やATM利用の利便性の面から「メイン口座以外にも預金口座を持っている」という人は多いでしょう。同じように、亡くなった人にも“へそくり”を預け入れる秘密の口座や、近年利用者数の増えている無通帳口座(ネット取引専用口座など)が残されている可能性があります。
以上の点から、取引先銀行の一覧が分かるもの(財産目録やエンディングノート)が遺品にない場合は、相続財産の調査から始める必要があります。
具体的には、亡くなった人の生活圏にある銀行で「名寄せ」を行って取引がないか確かめる方法が考えられます。調査経験がないと発見に至れない口座が残される可能性があるため、弁護士などの士業に任せるのがベストです。
2-2.さしあたり必要な費用のための「相続預金の払戻し制度」
亡くなった口座が凍結状態のままでは、葬儀費用等のさしあたり必要な支出に困ることがあります。そこで2019年、全国の銀行で「遺産分割前の相続預金払戻し制度」が開始されました。
本制度を利用すれば、遺言書がなく遺産分割協議も終わっていない状況でも、早々に下記限度額内で出金できます。
【遺産分割前の相続預金払戻し制度】
相続人1人あたりの払戻し可能額=死亡日の口座残高÷3×制度を利用する人の法定相続分
※同一銀行で出金できるのは150万円が上限
なお、本制度は後述する「法定相続人」にあたる人しか利用できません。 制度利用時の必要書類や手続きは銀行ごとに異なるため、事前に問い合わせしましょう。
3.銀行への相続手続きで必要な書類とは?
銀行への相続手続き申請時に必要な書類は、下記の5種類です。
【計5種類】預金相続の必要書類 ※以下すべて要
- 銀行所定の申請書
- 印鑑証明書(手続きする人+相続人全員分)
- 口座情報が分かるもの(通帳やキャッシュカードなど)
- 被相続人※1の死亡が分かる書類(戸籍謄本or除籍謄本※2)
- 相続関係を証明できる書類
※1)被相続人とは…亡くなった口座名義人を指します。
※2)除籍謄本とは…「結婚・離婚・死亡などにより構成員の全員が異動し、結果誰もいなくなった戸籍」の写しを指します。
①所定の申請書に関しては、銀行により「相続届」や「相続関係届出書」とのように名称が異なります。相続したい旨を伝えれば、必要な申請書は担当部署側で用意してもらえます。
また、②印鑑証明書に関しては、ほとんどの銀行で「発行6か月以内のもの」と指定されていることに注意しましょう。亡くなってから早々に交付申請するのが理想的ですが、遺産分割協議等に時間がかかってしまったケースでは、改めて交付申請する必要があります。
※印鑑証明書の発行時期について
都市銀行の多くは「発行6か月以内」としていますが、一部の地方銀行や信用金庫は「発行3か月以内」等とより最新のものを指定する場合があります。個別ケースで印鑑証明書を準備する際は、相続手続き先の銀行に相談しましょう。
3-1.相続関係を証明できる書類とは
問題は、提出を要するもののうち②相続関係を証明できる書類です。
この書類に関しては、口座残高の取得分を決めた手段により、以下4パターンに分かれます。
【表】預金相続に必要な「相続関係を証明する書類」の一覧
口座残高の取得分を決めた手段 | 相続関係を証明する書類 |
遺言書がある | ・遺言書 ・家裁発行の「検認証明書」※ |
遺産分割協議を行った | ・相続関係者全員分の戸籍謄本 ・遺産分割協議書 |
家庭裁判所で調停を申し立てた | ・相続関係者全員分の戸籍謄本 ・家裁発行の「調停調書謄本」 |
家庭裁判所で審判を行った | ・相続関係者全員分の戸籍謄本 ・家裁発行の「審判書謄本」 |
※遺言書の形式が「自筆証書遺言」もしくは「秘密証書遺言」である場合のみ必須です。
表の通り、遺言書で指定された取得分に従って払い戻しを受ける場合を除き「相続関係者全員分の戸籍謄本」が必要です。
具体的には「口座名義人の出生から死亡までの戸籍謄本」に加えて「相続人全員分の亡くなった人との関係が分かる戸籍謄本」を準備し、亡くなった人を中心とする血縁関係が分かるようにしなければなりません。
4.法定相続人について
遺言書がないケースでの手続きで「相続関係者全員分の戸籍謄本」が必要になるのは、法律上相続権を持つ人(=法定相続人)の情報を確認するためです。
法定相続人にはそれぞれの取得割合(=法定相続分)も法律上目安が決められており、遺産分割協議の際の参考にできます。
注意しなければならないのは、法定相続人・法定相続分のどちらも家族構成によって異なる点です。したがって、提出しなければならない戸籍謄本の組み合わせに関しては、預金相続しようとする人自身で判断しなければなりません。
ここでは、個別ケースに当てはめて必要な戸籍謄本を判断できるよう、法定相続人・法定相続分を判断する際の基本ルールを紹介します。
4-1.法定相続人とは
法定相続人になり得るのは、被相続人から見て「配偶者」「子」「父母や祖父母などの直系尊属」「兄弟姉妹」のいずれかの続柄にあたる人です。
と言っても、上記全員が相続権を持つわけではありません。下記のように優先順位があり、配偶者が最優先され、配偶者取得後の残った遺産に関しては最も順位の高い人が取得します。
【相続順位一覧】
配偶者:相続順位1位~3位に優先して相続
相続順位1位:子(養子・認知した子・元配偶者の子も含む)
相続順位2位:直系尊属(1位がいない場合に相続)
相続順位3位:兄弟姉妹(1位・2位がいない場合に相続)
※子や兄弟姉妹が先に死亡している場合は、その子にあたる孫以降の直系卑属や甥・姪が代わりに相続権を得ます(=代襲相続)。
なお、相続順位のある人の情報に関しては「同順位以上の法定相続人がいないこと」の証明情報が必要です。例えば、子どもをもうけなかった夫婦の預金口座について、最後に亡くなった妻の兄弟姉妹が相続しようとする際は「父母の死亡記載のある戸籍謄本」を取得しなければなりません。
以上のように、家族の人数・経歴が複雑化しているほど、必要な戸籍謄本の数は増えます。 相続の実務に触れたことがない人にとっては「そもそも誰のどんな事項が書かれた戸籍謄本が必要なのか」すら判断しづらいでしょう。
4-2.法定相続分とは
法定相続分に関しては、下記表のように「法定相続人の組み合わせ」で異なります。
【相続人の構成別】法定相続分の一覧表
相続人の構成 | 配偶者 | 子 | 直系尊属 | 兄弟姉妹 |
配偶者のみ | 2分の1 | 2分の1 | ― | ― |
配偶者と直系尊属 | 3分の2 | ― | 3分の1 | ― |
配偶者と兄弟姉妹 | 4分の3 | ― | ― | 4分の1 |
子のみ | ― | 全部 | ― | ― |
直系尊属のみ | ― | ― | 全部 | ― |
― | ― | ― | ― | 全部 |
法定相続人の情報が分かる戸籍謄本一式さえあれば、相続に関与しない第三者でも法律で定められる取得の確認が可能です。
以上の点から、口座残高の取得分がどうしても決められないケース(他の相続人と連絡がとれない等)では、イレギュラー対応として口座残高のうち法定相続分に相当する金額を払い戻してもらえる場合があります。
4-3.相続関係の証明は「法定相続情報証明制度」が便利
相続関係の証明に関しては、2017年より「法定相続情報証明制度」が利用できるようになりました。あらかじめ法務局へ相続関係者全員分の戸籍謄本を1セット提出することで、相続関関係の証明情報として提出できる「法定相続情報一覧図」を交付してもらえます。
本一覧図は何枚でも交付でき、預金相続以外の手続き(不動産登記や相続税申告など)でも、戸籍謄本一式に代わる証明情報として提出できます。相続手続き全体での書類集めにかかる負担を軽減できるため、積極的に利用を検討しましょう。
なお、取引先銀行によっては「法定相続情報一覧図」による相続手続きを受け付けてくれないことがあります。事前に確認しておきましょう。
5.残高証明書の発行依頼について
預金の相続手続きでは、亡くなった日の口座残高が分かる「残高証明書」も銀行に請求しましょう。遺産分割で誰がいくら取得するのか決めるためだけでなく、法律上定められる「相続税の課税額を計算する際の基準」として当日の残高を調べなければならないからです。
残高証明書の請求にあたって必要なものは、申請書と所定の費用(目安として2,500円以内/1口座)に加え、下記提出物となります。
【残高証明書の交付に必要なもの】※以下すべて要
- 被相続人の死亡が分かるもの(戸籍謄本や除籍謄本など)
- 発行申請する人と口座名義人の相続関係が分かる戸籍謄本
- 発行申請する人の実印+印鑑証明書
- 口座情報が分かるもの(通帳やキャッシュカードなど)※
※相続手続き中の場合は不要になるケースが大半です(担当部署側で全支店に口座情報を照会するため)。
なお、請求の際は「証明基準日」として死亡日を伝えた上で、死亡日から相続手続きによる解約日までの預金金利である「既経過利息」 も一緒に確認したい旨を伝えましょう。税法の解釈上、支払われた金利(※源泉徴収される所得税の部分を除く)も課税額計算の基準になるからです。
6.預金の名義変更の代行を依頼するには
相続に伴う銀行預金の解約と払戻しは、弁護士・税理士・司法書士のいずれかに依頼できます。どの士業でも面倒な書類収集等(戸籍謄本の取得など)を一括で任せられますが、預金関連の手続きにこだわらず、状況に合わせて得意分野がマッチする士業を選びましょう。
弁護士の得意分野
遺産分割方法のアドバイスや、意見対立する相続人との交渉など「法律的な相談や手続き全般」を得意分野とします。
預金の取得割合をなかなか決められない時や、書類作成も含めてトラブルに介入してほしい時に相談すると良いでしょう。
司法書士の得意分野
不動産登記を得意分野としており、相続法関連の知識に基づくアドバイスや遺産分割協議書の作成にも長けています。
遺産の取得分を円満に決められるケースで、預金の他に不動産の名義変更も必要なケースを中心に、相続手続きについて助言が欲しいときに相談すると良いでしょう。
税理士の得意分野
税務全般に通じており、相続税申告の代行とそれに伴うアドバイスを得意分野とします。
前もって税額優遇につながる制度を知りたいケースや、納税資金に不安があるケース、特に預金以外にも不動産などの高額資産があるケースで相談すると良いでしょう。
相続手続きのミスのなかで最も避けたいもののひとつは、過少申告や申告漏れ指摘による追徴課税です。特に課税額に関しては、資産状況と遺産分割方法により控除額が変わる点が見過ごせません。
相続を専門分野とする税理士であれば、同分野に知見のある弁護士・司法書士と連携を取っており、亡くなった直後から問題になる「遺産分割に関する悩み」から対応できます。
7.名義変更の期日と注意点
銀行預金の名義変更に関して、特に期日があるわけではありません。
ただし現実的には、相続税の申告期限(死亡から10か月目)までに手続きを済ませるべきでしょう。口座が凍結されたままでは、相続税納税のためのお金を準備することも出来ないからです。
また、晩年患った認知症などが原因で直近の取引がないケースでは、なるべく早く名義変更を済ませるよう心がけましょう。
取引のない機関が10年に及ぶ口座は「休眠口座」 として扱い、銀行から預金保険機構へ移管する準備が進められます。休眠口座に何らかの処理を入れようとすると、銀行の担当部署による口座状況の確認が欠かせません。これに伴い、相続手続きに時間がかかってしまうのです。
8.まとめ
預金相続の処理は銀行担当者に任せられますが、相続人側で行う提出書類の準備がネックです。
遺言書がないケースでは、遺産分割協議や家裁での調停を経て、さらに「相続関係者全員分の籍謄本一式」を準備しなければなりません。さらに言えば、遺産分割がなかなか進まない可能性や、相続税申告を見越した「残高証明書」の取得なども理解しておく必要があります。
手続き全体を通して、特に遠隔地に住む人や高齢者にとっては負担が大きいと言わざるを得ません。なるべく弁護士・司法書士・税理士等の専門家に委ねることで、相続する人の日常生活への影響を最小限にできます。
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相続相談はどこにするべき?専門家(税理士、司法書士、弁護士)の強み
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