生前準備あるいは相続開始を迎えたばかりの人にとって、相続税の計算方法は基礎知識と言っても差し支えありません。「高齢の相続人」や「配偶者の居宅」などを対象にした特例についても理解を深めれば、税額軽減の可能性も予測できます。
「専門家や税務署に相談する前に、まずは自分で相続税を試算してみたい」と思い立ったときは、その手順や税制について概観しましょう。
1.相続税はいくら納めるもの?
相続税の目安は「遺産評価額が○円なら〇円程度かかる」とのように一般化できません。遺産のうち課税対象となる金額は、債務に代表される“負の遺産”・適用可能な控除・相続人構成などの様々な要素が加味されるからです。
なお、個別ケースでの相続税の納税額は、国税庁の定める所定の計算式で算出できます。左記の計算式が分かれば「誰が・どの財産について・どのくらい納税するのか」を調べられます。
1-1.相続税の税率と控除額
相続税の計算にあたっては、税率と控除額を事前に押さえる必要があります。
どちらも「遺産を取得した人ごとの法定相続分」に対応しており、正味の遺産額に応じて段階的に上昇する方式が採られています(下記表参照・2020年8月時点)。
法定相続分に対応する取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | 0万円 |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
2.相続税の計算方法
相続税の試算では、まずざっくりと「①遺産総額から課税対象額を求め、②相続税の総額を計算してから、③遺産を取得した人ごとの最終的な納税額を算出する」と理解しましょう。以下では、下記の想定ケースを用いてシミュレーションしながら解説します。
【相続税計算シミュレーションのための例】
- 被相続人・・・・・・・父
- 法定相続人・・・・・・母・長男・次男
- 遺産総額・・・・・・・1億1,000万円
- 債務と葬儀費用の合計・1,000万円(母負担)
- 各人の法定相続分・・・母2分の1・長男4分の1・次男4分の1
- 遺産分割による各人の取得額・・母7,000万円・長男2,000万円・次男2,000万円
- 適用する税制・・・・・配偶者の税額の軽減のみ
※生前贈与・死亡保険金の給付・死亡退職金の給付の3点はなかったものとします。
※本例では、亡父の遺言により法定相続分とは異なる遺産分割を行ったものとします。
①「課税遺産総額」を計算する
遺産のうち課税対象となる金額(=課税遺産総額)を計算する際は、まず各人の取得財産について下記A~Fの価額を整理します。
【課税対象になる財産】
A:相続or遺贈による取得財産の価額
B:「みなし相続財産」(死亡保険金や死亡退職金など)の価額
C:生前贈与(相続時精算課税※適用後の分)の財産価額
D:C以外の生前贈与(死亡3年以内の分)の財産価額
【課税対象から差し引くことのできる財産】
E:非課税財産の価額
F:債務および葬儀費用の価額
※相続時精算課税とは…生前の被相続人から一定の親族への贈与財産を対象に、贈与税について一定の控除と一律税率を課す税制です。相続時精算課税制度についてメリット・デメリットを含めてこちらの記事で詳しく解説していますので、ご参考ください。「相続時精算課税制度のメリットとデメリットをわかりやすく解説~安易な判断をしないために」
各財産の価額を整理した後は、下記のフローで計算を進めます。
Step1.各人の「正味の遺産額」を計算する
まずは相続人ごとの純粋な経済的利益の額(=正味の遺産額)を、上記の財産価額を元に“(A+B-E)+(C-F)+D”で算出し、その結果を合算します。
シミュレーション
- 母の「正味の遺産額」 :7,000万円-債務と葬儀費用の合計1,000万円=6,000万円
- 長男の「正味の遺産額」 :2,000万円
- 次男の「正味の遺産額」 :2,000万円
→母6,000万円+長男2,000万円+次男2,000万円=1億円
Step2.「基礎控除」を差し引く
基礎控除の計算式は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で行い、正味の遺産額の総額から差し引いて「課税遺産総額」を算出します。
シミュレーション
- 基礎控除=3,000万円+600万円×3=4,800万円
→課税遺産総額=1億円-4,800万円=5,200万円
②「相続税の総額」を計算する
課税遺産総額が算出できた段階で、税率・控除を用いて「相続税の総額」の計算を始めます。
Step1.課税遺産総額を法定相続分に沿って分割する
まずは「相続法上の承継割合(=法定相続分)に沿って取り分を決めたもの」と想定し、課税遺産総額を分割します。
シミュレーション
- 法定相続分の課税価格:母2,600万円(2分の1)・長男と次男がそれぞれ1,300万円(4分の1)
Step2.相続税の総額を計算する
法定相続分に沿った各人の相続税を求め、最後に合算します。
シミュレーション
- 母の相続税額 :2,600万円×税率15%-控除50万円=340万円
- 長男と次男の各相続税額 :1,300万円×税率15%-控除50万円=145万円
→相続税の総額=母340万円+長男145万円+次男145万円=630万円
③「各人の納税額」を計算する
相続税の総額が分かれば、納税額の算出まであと一歩です。
Step1.②の章で計算した「相続税の総額」を実際の取得割合に沿って分割する
課税遺産総額に対する実際の取得割合に沿い、相続税の総額を按分して「各人の課税額」を求めます。
シミュレーション
- 母 :相続税の総額630万円×(6,000万円÷1億円)=378万円
- 長男 :相続税の総額630万円×(2,000万円÷1億円)=126万円
- 次男 :相続税の総額630万円×(2,000万円÷1億円)=126万円
Step2.「各人の課税額」に各種税額控除を適用する
遺産を取得した人ごとに適用できる特例を確認し、最終的な「各人の納税額」を求めます。
シミュレーション(最終的な納税額)
- 母:0万円(配偶者の税額の軽減を適用)
- 長男:126万円
- 次男:126万円
3.相続税の減額につながる税制一覧
相続税申告では「遺産を取得した人の身分」「取得する資産の種類」に合わせ、税額減額につながる特例や控除が利用できます。下記で挙げるものは、相続事例の多くが当てはまる代表的な税制です。
3-1.相続人の身分ごとに利用できる制度
相続人の身分(年齢・健康状態・被相続人との続柄)に応じた税制には、下記の3種類があります。
配偶者の税額の軽減
亡くなった人の配偶者が取得する遺産については、法定相続分相当額(上限1億6,000万円)まで課税されません。
<配偶者の税額軽減の詳細>
- 対象者・・・亡くなった人の法律上の配偶者にあたる人
- 軽減内容・・対象者の取得分について「法定相続分相当額」もしくは「1億6,000万円」のいずれか多い方を非課税とする
未成年者控除
未成年者が遺産を取得した場合は、対象者の年齢に応じた額を本人の課税額から控除できます。
<未成年者控除の詳細>
- 対象者・・・法定相続人であり、遺産を取得したときに20歳未満かつ日本国内に住所がある人(※1)
- 軽減内容・・対象者の課税額から「10万円×満20歳になるまでの年数」を控除。控除額が対象者の課税額を超える場合、控除額の剰余分を扶養義務者(※2)の相続税額に適用。
※1:対象者・未成年者ともに一時居住者か非居住者であった場合は対象外です。
※2:扶養義務者が控除を受けられるのは、被相続人の配偶者・直系血族・兄弟姉妹・その他3親等内の親族のうち一定の身分である場合に限られます。
障害者控除
障害のある人が遺産を取得した場合も、対象者の年齢に応じた額を本人の課税額から控除できます。
<障害者控除の詳細>
- 対象者・・・法定相続人であり、遺産を取得したときに20歳未満かつ日本国内に住所がある人(※1)
- 軽減内容・・「10万円×満85歳になるまでの年数」を控除。控除額が対象者の課税額を超える場合、控除額の剰余分を扶養義務者(※2)の相続税額に適用。
3-2.相続する財産ごとに利用できる制度
他にも「相続する財産の性質」に着目した税制として、下記の2種類を代表例として挙げられます。
小規模宅地等の特例
遺産に「亡くなった人の居住や事業の用に供されていた土地」がある場合、その課税評価額を最大80%減額できます。
【表】小規模宅地等の特例の要件・減額率・限度面積
特例適用の要件 | 対象になる土地 | 減額割合 | 限度面積 |
特定居住用宅地等 | 被相続人・配偶者・生計を一にする親族・その他一定の親族が居住する宅地 | 80% | 330㎡ |
貸付事業用宅地等 | 被相続人自身もしくは生計を一にしていた親族の貸付事業の用に供されている宅地等 | 50% | 200㎡ |
特定事業用宅地等 | 被相続人自身もしくは生計を一にしていた親族の事業の用に供されている宅地等 | 80% | 400㎡ |
特定同族会社事業用宅地等 | 被相続人or被相続人の親族が出資した法人の事業の用に供されている宅地等 | 80% | 400㎡ |
死亡保険金の非課税枠
死亡保険金(みなし相続財産)には、法定相続人の数と連動する非課税枠があります。
<死亡保険金の非課税枠の詳細>
- 対象者・・・死亡保険金を受け取った相続人
- 軽減内容・・死亡保険金のうち「500万円×法定相続人の数」を非課税とする
4.二次相続について
忘れられがちなのは、相続人に含まれる高齢者や病人を通じて「2回目の相続」(=二次相続)が起きる可能性です。相続税の課税も2回にわたって生じることを踏まえ、試算と納税資金対策に加味しなければなりません。
なお、10年以内に発生した二次相続に関しては「相似相続控除」 で税額軽減を図ることができます。
5.二次相続の相続税シミュレーション
下記では、個別ケースで二次相続を見込んで試算できるよう、先章の例を再度用いてシミュレーションを行います。
【相続税計算シミュレーションのための例】
- 被相続人・・・・・・・母
- 法定相続人・・・・・・長男・次男
- 遺産総額・・・・・・・5,100万円
- 債務と葬儀費用の合計・100万円(長男負担)
- 各人の取得・額・・・・長男と次男で各2,500万円
- 適用する税制・・・・・なし
※時系列は先章のシミュレーションの後で、被相続人を父とする1回目の相続で課税が発生しているものとします。
シミュレーション結果
- 正味の遺産額・・・・・長男2,500万円・次男2,500万円
- 課税遺産総額・・・・・正味の遺産額の合計5,000万円-基礎控除4,200万円=700万円
→相続税の総額 :70万円(各人35万円ずつ負担する)
→二次相続までの納税額の合計:322万円(各人161万円ずつ負担する)
二次相続の対象となる財産の代表例は「配偶者のために残した居住用不動産」です。左記のように換金性の低い資産は、しばしば「納税のための現金が足りない」という事態を引き起こします。
相続発生が立て続く可能性があるときは、なるべく家族や専門家を交えて対策を練りましょう。
6.まとめ
税額の計算式・各種控除の要件ともに複雑です。万が一にも間違った計算のまま進めてしまうと、大きな誤算に繋がります。
本記事をもとにした計算はあくまでも“目安”と考え、正確な税額や節税対策についてはなるべく専門家に任せましょう。
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