遺産相続

相続時に印鑑証明書・実印を渡したくない際の対処法|安易に渡すのは危険!

監修

中村亨

日本クレアス税理士法人 代表 税理士 公認会計士

相続の手続きで、親族から「実印と印鑑証明書を出してほしい」と言われて戸惑った方もいるでしょう。

印鑑証明書や実印は、ただの「書類」や「ハンコ」ではありません。

親族だからと信頼し、託した後に悪用される可能性もあります。

本記事では、印鑑証明書と実印を渡したくない時の対処法から、相続における印鑑証明書の必要性までを解説します。

親族に印鑑証明を託すことに不安を感じている方や、相続手続きで印鑑証明書の扱いに悩んでいる方は、ぜひ最後までご覧ください。

1. 印鑑証明書とは?

印鑑証明書とは、印鑑が本人のものであることを証明する公的な書類です。

主に重要な契約や法的な手続きをする際に、本人確認の手段として利用される大切な書類です。

なぜ相続で印鑑証明書が必要なのでしょう。

印鑑証明書が取得できる場所も併せて解説します。

1-1. なぜ相続時に印鑑証明書が必要なのか

相続では、協議で決まった遺産分割に「本人が同意している」ことを証明するために印鑑証明書が必要です。

話し合いにより遺産分割が決まれば「遺産分割協議書」を作成します。

遺産分割協議書には、全員が同意した証明として署名と捺印が必要です。

その同意が本人の物であることを証明するために、印鑑証明書が求められます。

すなわち、相続では印鑑証明書が「本人の同意」を証明する大切な書類です。

1-2. 印鑑証明書が取得できる場所

印鑑証明書を取得するには、事前に市区町村役場で印鑑を登録することが必要です。

既に、印鑑登録をした場合、以下の場所で印鑑証明書を発行できます。

  • 印鑑登録をした市区町村役場
  • コンビニ

印鑑証明書を発行する際には、以下を準備していきましょう。

  • 印鑑登録証(※市区町村役場で発行する場合)
  • マイナンバーカード
  • 発行手数料(200~500円程度)

印鑑証明書は市役所だけでなく、マイナンバーカードがあれば身近な場所でも簡単に取得できます。

2. 印鑑証明書・実印を渡したくない場合の対処法

親族とはいえ、印鑑証明書や実印を渡して悪用されないか不安を感じる方も多いでしょう。

しかし、相続分割には通常印鑑証明書が必要になるため、遺産が受け取れなくなります。

印鑑証明書と実印を渡したくない場合は、以下の対応を検討しましょう。

  • 代表相続人になり自分が相続手続きをする
  • 専門家に相続手続きの代行を依頼する

それぞれの対応方法を、1つずつ解説します。

2-1. 代表相続人になり自分が相続手続きをする

相続人の中で手続きを代表して行う「代表相続人」になり、自分で相続手続きをする方法です。

これにより、他の人に印鑑証明書や実印を渡さずに手続きが進められます。

代表相続人になると、相続人全員の意見をとりまとめて、自分が窓口になって手続きを進められます。

ただ、印鑑証明書を渡さずに手続きを進められるものの、相続手続きは複雑で手間もかかるため注意が必要です。

2-2. 専門家に相続手続きの代行を依頼する

相続の専門家に手続きを代行してもらう方法があります。

司法書士や行政書士などの専門家は、複雑な相続手続きを法律に基づいて正確に進めてくれます。

また、関係が良好でない親族がいた場合は、第三者を挟んで話ができるのでスムーズに協議が進めることも可能です。

自分で印鑑を渡すリスクを避けたいなら、相続手続きの専門家に任せるのが安心で確実な方法です。

3. 相続時に印鑑証明書・実印が必要な4つのケース

相続の場面では、次の4つのケースで印鑑証明書や実印が必要になります。

【必要になる主な場面】

  • 遺産分割協議書を作成する際
  • 有価証券の名義変更や預貯金の払戻し時
  • 不動産を相続登記する際
  • 生命保険金・自賠責保険などの請求時

1つずつ解説します。

3-1. 遺産分割協議書を作成する際

相続人が複数人いる場合や、遺言書がない場合、遺産分割を協議して決めます。

話し合いで決まったことをまとめた書類を「遺産分割協議書」といいます。

遺産分割協議書の内容に、相続人全員が同意していることを証明するために、実印と印鑑証明書が必要です。

3-2. 有価証券の名義変更や預貯金の払戻し時

相続で預貯金の払戻しや有価証券の名義変更をするときも、相続人全員の印鑑証明書と実印が必要です。

有価証券の名義変更や預貯金の払い戻しを行うとき、金融機関や証券会社から「相続人が本人であること」と「相続内容に同意していること」の2つを確認されます。

遺言書があり相続人が1人の場合は、その相続人の印鑑証明書と実印だけで手続きが可能です。

3-3. 不動産を相続登記する際

不動産の所有者が死亡した際に、不動産の名義を相続人に変更する手続きがあります。

相続で不動産の名義を変えることを「相続登記」といい、手続きの際に実印と印鑑証明書が必要です。

登記の申請には「相続人全員が内容に同意している」証明が求められます。

また、遺産分割協議書を作成している場合は、その添付が必要です。

しかし、遺産分割協議書を作成した場合や、民法に基づいて相続分割をする「法定相続」の場合は印鑑証明書の提出は不要です。

3-4. 生命保険金・自賠責保険などの請求時

生命保険金や自賠責保険を請求するときにも、実印と印鑑証明書を準備しましょう。

生命保険金の場合は「受取人」の実印と印鑑証明書が必要です。

保険金の請求にも、相続人の本人確認と意思確認のため、印鑑証明書と実印が欠かせません。

4. 相続税申告時に印鑑証明書が不要な3つのケース

相続税の申告では、すべてのケースで印鑑証明書が必要なわけではありません。

以下の3つのケースでは、印鑑証明書は不要です。

  • 遺言書がある相続の場合
  • 財産を引き継ぐ相続人が1人の場合
  • 遺産分割協議以外で相続手続きを行なう場合

1つずつ解説します。

4-1. 遺言書がある相続の場合

遺言書がある場合、相続税申告時に実印と印鑑証明書は不要です。

遺言書の内容にそって相続手続きを行うため、相続人同士で遺産分割を話し合うことはなく、遺産分割協議の作成もありません。

遺言書がある場合、相続内容が決まっているため、印鑑証明書を出さなくても手続きが進められます。

4-2. 財産を引き継ぐ相続人が1人の場合

相続人が1人だけの場合、相続税の申告で印鑑証明書は不要です。

相続人が1人の場合、すべての財産を受け取れます。

そのため、遺産分割を話し合う必要がなく、遺産分割協議書の作成も必要ありません。

相続人が1人の場合、相続税の申告でも印鑑証明書の提出は不要です。

4-3. 遺産分割協議以外で相続手続きを行う場合

遺産分割協議以外で相続手続きを行う場合も、相続税申告に印鑑証明書は不要です。

遺産分割協議書は、協議書の内容に相続人全員が同意していることを証明するため、実印と印鑑証明書を求められます。

そのため、以下のような遺産分割協議以外で相続手続きを行う場合は、印鑑証明書の提出は不要です。

  • 家庭裁判所の調停や審判で遺産分割を決めた
  • 法定相続分どおりに遺産分割をする

5. 印鑑証明書がない場合の対処法

印鑑証明書は、15歳以上であれば居住地の市区町村で、印鑑の登録手続きを行えます。

印鑑証明書がない場合や、手続きの要件にあてはまらない場合の対処法は以下の3つです。

  • 役場で印鑑登録手続きをする
  • 【未成年】特別代理人の印鑑証明書を準備する
  • 【海外居住者】サイン(署名)証明を準備する

1つずつ解説します。

5-1. 役場で印鑑登録手続きをする

印鑑証明書がない場合は、役場で印鑑登録手続きを行いましょう。

印鑑登録は、15歳以上であれば住民票のある市区町村で手続きが可能です。

印鑑登録後、印鑑証明書を発行できます。

印鑑証明書がない方は、まずは役場で印鑑登録手続きが必要です。

5-2. 【未成年】特別代理人の印鑑証明書を準備する

相続人に未成年がいる場合は、「特別代理人」の印鑑証明書が必要です。

未成年はひとりで遺産分割の話し合いに参加できません。

親が代理で決めることも可能ですが、親も相続人の場合は不公平になる恐れがあるため、家庭裁判所が選任する特別代理人が未成年者の代わりに、遺産分割の協議を行います。

そのため、遺産分割協議書の実印と印鑑証明書は「特別代理人」のものが必要です。

未成年の相続人は、特別代理人の印鑑証明書を準備しましょう。

5-3. 【海外居住者】サイン(署名)証明を準備する

印鑑登録は、住民票がある市区町村役場で発行できます。

そのため、海外に住んでいる人は、印鑑証明書を発行できません。

海外居住者で印鑑証明書を出せない場合は、代わりに「署名証明(サイン証明)」を準備します。

署名証明は、本人の「サイン」を証明する書類で、現地の大使館や領事館で発行してもらえます。

相続において印鑑証明書が用意できない海外居住者は、早めに署名証明を取得しておきましょう。

6. 相続時の印鑑証明書・実印についてよくある質問

相続手続きには、印鑑証明書と実印が重要です。

相続時に印鑑証明書が必要な時、印鑑証明書が不要な手続きや印鑑証明書の発行方法まで解説しました。

ここからは、相続時の印鑑証明書や実印についてよくある質問をまとめました。

6-1. なぜ安易に渡すのは危険なの?

相続手続きをする際、印鑑証明書や実印を安易に渡すのはとても危険です。

なぜなら、合意していない内容も勝手に遺産分割協議書に記され、押印されてしまうリスクがあるからです。

また一度作成し押印した遺産分割協議書の内容を変更したり、撤回したりすることは基本的にはできません。

相続では、実印と印鑑証明書の管理を慎重に行いましょう。

6-2. 相続手続き全体で何枚取得しておけばいい?

相続手続きにおいて印鑑証明書は2〜3枚を目安に取得しておくと安心です。

遺産分割協議書の提出の他に、銀行口座の解約・証券口座の相続・不動産登記など、それぞれで提出を求められます。

事前に必要枚数を確認して計画的に準備するのがおすすめです。

6-3. 印鑑証明書に有効期限はある?

印鑑証明書に法律上の有効期限はありません。

しかし相続の手続きでは「発行から3~6ヶ月以内」のものを求められます。

これは、古い情報によるトラブルや不正を防止するためです。

相続手続きを行うときは、印鑑証明書の取得日を確認しましょう。

7. 印鑑証明書・実印を渡すリスクを知っておこう!

相続では、印鑑証明書や実印を他の相続人に安易に渡すことで、知らぬ間に遺産分割協議書に押印されてしまうなどのトラブルが発生する可能性があります。

印鑑証明書は本人の意思を証明する重要書類のため、「印鑑証明を渡したくない」と感じる方もいるでしょう。

相続手続きで後悔しないためにも、書類の内容を丁寧に確認し、自分の意思で署名・押印することが大切です。

しかし相続手続きは複雑で手間がかかります。忙しく対応しきれない場合は、専門家に相談しましょう。

監修

中村亨

日本クレアス税理士法人 代表
税理士
公認会計士

2002年8月に会計事務所として創業、2005年には税理士事務所を開業し、法人や個人のお客様の会計・税務の支援をする中で、「人事労務の問題を相談をしたい」「事業承継を検討している」といったお客様のニーズに応える形でサービスを拡大し続け、現在では社会保険労務士法人など複数の法人からなるグループ企業に成長してきました。お客様に必要なサービスをワンストップで提供できることが当社の強みです。

中村亨のプロフィールはこちら