遺言書のなかでも、自筆証書遺言は全文を自筆する形で作成する遺言書です。
実は自筆証書遺言が法的な効力を有するためには、定められた要件を満たす必要があります。
要件を知らないばかりに、遺言書が無効になってしまうという例も少なくありません。
そこで本記事では、自筆証書遺言の書き方を要件とともに解説。
また、パターンごとの書き方やポイント・注意点も紹介します。
自筆証書遺言の書き方が知りたい・無効にならないか不安という方はぜひご覧ください。
目次
1. 自筆証書遺言とは|自分で作成する遺言書
自筆証書遺言とは、3種類ある遺言書のなかで本文を自筆して作成する遺言書を指します。
一般的な遺言書として想像されるのは、この自筆証書遺言です。
メリットも多い作成方法ですがデメリットもあるため、作成する前に自筆証書遺言の特徴を理解しましょう。
以下では、自筆証書遺言のメリット・デメリットを解説します。
1-1. 自筆証書遺言のメリット
自筆証書遺言には3つのメリットがあります。
<自筆証書遺言のメリット>
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自筆証書遺言は、自分で作成でき公的機関を介する必要がないため、作成に費用がかかりません。
また、ノート・ペン・印鑑・封筒があればいつでも作成を始められる点も大きなメリットでしょう。
また、中身を確認されることもないため、内容を秘密にできるというメリットもあります。
手軽に遺言書を作成したいという場合に、おすすめの遺言書です。
1-2. 自筆証書遺言のデメリット
自筆証書遺言には、メリットだけでなく下記5つのデメリットがあります。
<自筆証書遺言のデメリット>
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自筆証書遺言は自分で作成して保管するため、相続人がそもそも存在を知らないということも珍しくありません。
そのため、遺言書自体を見つけてもらえないというデメリットがあります。
また、仮に遺言執行前に見つかってしまった場合には、悪意ある相続人によって偽造や隠蔽のリスクがあります。
そして、最も大きなデメリットとしては、形式の不備によって無効になりやすい点が挙げられます。
相続人側にも、検認をしなければならないというデメリットがあるため、利用する際には注意が必要です。
1-3. 法務局の「自筆証書遺言書保管制度」について
2020年7月10から法務局で「自筆証書遺言書保管制度」が開始されました。
この制度は、自筆証書遺言を法務局が遺言者に代わって保管してくれる制度で、自筆証書遺言のデメリットを払拭することが可能です。
保管制度を利用すると、原本を法務局が管理してくれるため、偽造や変造・隠蔽などのリスクはなくなります。
また、原本が保管されているため、紛失時には再発行も可能です。
利用には1件につき3,900円の費用がかかりますが、預かってもらうタイミングで形式に不備がないか確認してもらえます。
そのため、無効になる可能性も低く、家庭裁判所による検認も不要になります。
ただし、遺言内容の確認まではされないので、100%遺言が有効になるとはいえません。
また、保管中の閲覧には1,400円または1,700円の費用がかかる点には注意が必要です。
しかし多少の注意点はあるものの、自筆証書遺言のデメリットがほとんど払拭できます。
自筆証書遺言を作成する場合には、保管制度の利用がおすすめです。
2. 自筆証書遺言の要件
自筆証書遺言が法的な効力を有するためには、作成要件を満たす必要があります。
実際の相続では、要件を知らないばかりに無効になってしまう例も少なくありません。
自筆証書遺言を無効にしないためにも、作成要件を整理しておきましょう。
<自筆証書遺言の要件>
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最低限守るべき要件を4つ解説します。
2-1. 財産目録以外は全文自筆する
自筆証書遺言では、財産目録以外の全文を自筆して作成しなければいけません。
パソコンや代筆は認められませんので注意しましょう。
唯一、財産目録だけはパソコンでの作成が認められています。
しかし、パソコンで作成した財産目録には遺言者の署名押印が必要です。
見落とされがちですが、全文にはタイトルも含まれるので注意しましょう。
2-2. 署名・押印する
自筆証書遺言には、必ず自筆の署名と押印が必要です。
押印は消え掛かっているなど不明瞭なものは、無効になってしまう可能性がありますので注意しましょう。
なお、認印でも問題はありませんが、実印の方が信用性が高くなるため推奨されています。
2-3. 日付を明確に記載する
遺言書には作成した日付を明確に記載しましょう。
「9月某日」など、特定の日付が特定できないものは認められませんので、年月日を明確に記載する必要があります。
遺言書では日付はもちろん、相手や財産などを記載する場合にも、1つのものを特定できるレベルの情報を記載しなければなりません。
2-4. 訂正ルールを守る
内容を間違えてしまった場合には、訂正もルールに沿って行わなければなりません。
修正テープや塗り潰しは認められませんので注意しましょう。
訂正ルールは下記の手順で行なっていきます。
<訂正ルール>
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どれか1つでも抜けてしまうと、遺言書全体が無効になってしまうので訂正ルールにも注意しましょう。
3. 自筆証書遺言の書き方・作成の流れ
自筆証書遺言を書く際には、下記の手順で作成しましょう。
<自筆証書遺言の書き方・流れ>
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それぞれのステップで行うことを解説します。
3-1. 必要な道具を準備する
自筆証書遺言を作成する際には、下記の道具を準備しましょう。
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紙に規定はありませんので、大きい紙でも小さい紙でも問題ありません。
また、ペンも同様ですがシャープペンシルや鉛筆などではなく、ボールペンなど消えないものを選択しましょう。
3-2. 下書きを作成する
自筆証書遺言は、訂正ルールも厳格に定められているため、まずは下書きから作成しましょう。
下書きを作成する際には、遺言内容を固めることから始めていきます。
誰に何をどのくらい相続するのか、付言はつけるのかなどを決定します。
そのうえで、例文や見本などを参考に下書きを作成しましょう。
3-3. 財産目録をパソコンで作成する
下書きの作成と同時に財産目録をパソコンで作成していきましょう。
財産目録ではすべての財産をリストアップし、その財産が特定できる情報をまとめていきます。
財産によっては、さまざまな情報が必要になるため、財産に関する資料を集めるところから始めましょう。
財産目録がパソコンで作成できたら、忘れずに自筆で署名し押印します。
3-4. 下書きを清書する(訂正含む)
財産目録も完成したら、下書きを清書していきましょう。
清書に関しては、ボールペンなど消えない筆記用具を使って行なっていきます。
もし、間違えてしまった場合には「2-4.訂正ルールを守る」で紹介した手順に沿って、訂正しましょう。
3-5. 封筒に入れて封印し自宅などで保管する
清書が完了したら、封筒に入れて封印しましょう。
自筆証書遺言の場合には、公証役場での手続きが必要ないため、自宅などで保管することになります。
しかし、自宅での保管はデメリットが大きいため、法務局の自筆証書遺言書保管制度の利用がおすすめです。
4. 自筆証書遺言の書き方・作成のポイント
自筆証書遺言を作成する際には、要件を守ることはもちろん下記のポイントを意識しましょう。
<自筆証書遺言の書き方・作成のポイント>
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それぞれのポイントを解説します。
4-1. 相手や財産を明確に記載する
自筆証書遺言を作成する場合には、相手や財産に関する情報を明確に記載しましょう。
遺言書では、誰が見てもその個人や財産を特定できる情報を記載することが求められます。
特定の相続人だけが分かる情報では不十分のため、下記の例を参考に相手や財産を記載しましょう。
- 相手:氏名/生年月日/年齢/続柄/住所
- 財産(不動産):住所/名称(ある場合)/地番/家屋番号
相手や財産が不明瞭な場合には、相続人の混乱を招く可能性が高く、最悪の場合には遺言書の該当部分が無効になってしまいます。
適切な効力を発揮するためにも、情報を明確に記載しましょう。
4-2. 財産目録はパソコンでの作成がおすすめ
財産目録は自筆でも作成可能ですが、作成の手間を考えるとパソコンでの作成がおすすめです。
もし自筆して間違ってしまった場合には、訂正が必要になり余計な手間もかかってしまいます。
その点パソコンであれば、すぐに修正可能です。
また、財産目録は通帳や登記簿謄本のコピーなども認められているので、なるべく手間がかからない方法を選択するといいでしょう。
しかし、どのような場合でも自筆の署名と押印は必要です。
4-3. 事前に必要書類を集めておく
遺言書を作成する場合には、事前に必要書類を集めておくとスムーズに作成が進められます。
主な必要書類としては、下記の書類が挙げられます。
<遺言作成に必要な書類>
財産に関する書類 |
預金通帳 |
相続人に関する書類 | 相続人の戸籍謄本 血縁関係を記したメモ など |
これらの書類を集めておくことで、スムーズに遺言書の作成が進められるでしょう。
4-4. 複数枚になる場合には契印する
遺言に記載する内容や財産の数によっては、遺言書が複数枚になる可能性があります。
そのような場合には、契印を利用しましょう。
契印とは、ページにまたがって押す印のことを指し、2枚以上の書類が連続した1つの書類であることを証明できます。
実印による契印があれば、本人が作成したことへの信頼性が上がります。
トラブルの種をできる限り減らすためにも、複数枚に渡る場合には契印を利用しましょう。
4-5. ミスが多い場合には書き直しがおすすめ
自筆証書遺言の作成時にミスが多くなってしまった場合には、訂正ではなく書き直すことがおすすめです。
前述のように訂正には厳格なルールがあり、訂正の仕方1つで遺言書の効力が失われてしまう場合があります。
訂正箇所が多くなるごとに無効リスクが高まるため、ミスが多い場合には訂正ではなく書き直しがおすすめです。
5. 自筆証書遺言のパターン別の書き方
実際の遺言書には、目的に応じてどのような文言を記載するべきなのでしょうか。
下記5つのパターン別に自筆証書遺言の書き方を紹介します。
<自筆証書遺言のパターン>
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5つのパターンを整理し、実際に遺言書を書く際の参考にしてみてください。
5-1. 遺言書の書き方|全財産を子どもに相続させる場合
遺言書によって全財産を子どもに相続させたいという場合には、下記のように記載しましょう。
<記入例>
遺言者(名前)は、全財産を長男である(名前)に相続させる。 付言事項:妻(名前)へ。あなたの老後や相続のことを考え、全財産を長男である(名前)に託すことにしました。あなたの老後についても話し合い2人で決めた結果です。 |
付言事項は法的な拘束力を持ちませんが、相続人やその周りの関係者に対して自身の考えを伝えることができる箇所です。
今回の例では、法定相続人である妻に対して配慮するために付言事項を使用しています。
また、遺言書では適切な言葉遣いが大切で、財産を渡す場合には「相続する」ではなく「相続させる」と記載しましょう。
5-2. 遺言書の書き方|全財産を妻に相続させる場合
遺言書によって全財産を妻に相続させたいという場合には、下記のように記載しましょう。
<記入例(子どもがいる場合)>
遺言者(名前)は、全財産を妻である(名前)に相続させる。 付言事項:長女(名前)へ。母への感謝や老後の生活を考え母に全財産を託すことにしました。母を看取った後は長女(名前)が残りの財産を引き継いでください。 |
子どもがいる場合には法定相続人になるため、付言事項によって子どもへの気持ちを遺しておきましょう。
<記入例(子どもがいない場合)>
遺言者(名前)は、全財産を妻である(名前)に相続させる。 |
もしほかにも法定相続人がいる場合には、付言事項によって配慮を行えると妻も安心して全財産を相続できる可能性が高まるでしょう。
5-3. 遺言書の書き方|財産の一部を孫に遺贈する場合
遺言書によって財産の一部を孫に相続させたいという場合には、下記のように記載しましょう。
<記入例>
遺言者(名前)は、長男の次男である(名前)に下記の預金を遺贈する。 「〇〇銀行〇〇支店(普通預金)口座番号:〇〇〇〇〇」 |
今回の例では銀行口座を指定して、財産の一部を孫に遺贈することを想定しています。
ほかにも、株式や不動産の場合などが想定できますが、どのような場合でも財産を特定できる情報を欠かさないようにしましょう。
なお孫への相続は、遺贈にあたるため「遺贈する」という文言を使用します。
5-4. 遺言書の書き方|兄弟の誰かに多く相続させる場合
遺言書によって兄弟の誰かに多く相続させたいという場合には、下記のように記載しましょう。
<記入例>
遺言者(名前)は、財産の3分の2を姉である(名前)に相続させる。 付言事項:弟(名前)・母(名前)へ。これまでお世話になった姉への感謝として、多く財産を遺すことにしました。残りの財産は2人で平等に分け合ってください。 |
兄弟に優劣をつける場合には、必ず付言事項を利用しましょう。
また、法定相続人がほかにいる場合にはその人にも、自分の意思を伝えておくと相続トラブルを回避できる可能性が高まります。
5-5. 遺言書の書き方|友人に財産を遺贈する場合
遺言書によって財産を友人に相続させたいという場合には、下記のように記載しましょう。
<記入例>
遺言者(名前)は、下記の株式を友人である(名前)に遺贈する。 「〇〇証券株式会社で保有している全株式」 |
友人への相続も、遺贈にあたるため「遺贈する」という文言を使用しましょう。
また、会社名は正式名称で記載する必要があります。
もし、友人に何か言葉を遺したい場合には付言事項を利用してもいいでしょう。
6. 自筆証書遺言を作成する際の注意点
自筆証書遺言を作成する際には、下記5つ点に注意しましょう。
<自筆証書遺言の注意点>
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それぞれの注意点を整理することで、自筆証書遺言を正しい形で作成できるようになります。
6-1. 曖昧な表現を使用しない
遺言書では、曖昧な表現を使用しないようにしましょう。
先ほどの記入パターンで紹介したように「相続させる」・「遺贈する」などの文言を使用することが大切です。
とくに、「任せる」や「託す」などは受け取り手によって解釈が異なり、何を任されているのか・託されているのかが明確になりません。
たとえば「土地Aを任せる」という文言であれば「適切な状態を保つための管理を任せる」といった解釈も可能です。
相続人を混乱させないためにも、遺言書上では曖昧な表現を避けましょう。
6-2. 音声やビデオレターは認められない
遺言書を文書ではなく、音声やビデオレターで遺しても法的な効力は認められません。
必ず自筆で全文を作成し、遺言書として遺しておきましょう。
なお、付言事項のような形で自分の考えや気持ちを遺しておくことは全く問題ありません。
相続トラブルを避けるためにも、相続人に対してのビデオレターなどは効果的です。
6-3. 共同遺言にしない
遺言書を複数人で共同作成することはできません。
民法の975条によって、共同遺言の禁止が定義されているので注意しましょう。
たとえば「妻と2人の共同遺言とします」といった記述があるだけで、その遺言書は無効になってしまいます。
必ず遺言は単独で作成するようにしましょう。
6-4. 遺留分の侵害に気を付ける
遺言書を作成する際には、遺留分を侵害しないように気をつけましょう。
遺留分とは、一部の法定相続人に認められている最低限の遺産相続割合を指します。
たとえば、配偶者と子どもが法定相続人の場合に、配偶者に全財産を相続させる旨を遺言書で遺すと、子どもの遺留分を侵害してしまいます。
遺留分は「遺留分侵害額請求」によって取り戻すことができるため、相続人同士で争いが生じる要因になる可能性があります。
遺留分を侵害しないことを前提とし、もし事情があって侵害してしまう場合には、付言事項などを活用しましょう。
6-5. 作成後にミスがないか必ず確認する
遺言書を作成した後は、必ず内容にミスがないか確認しましょう。
自筆証書遺言の作成要件はもちろん、訂正ルールに相違はないか・財産目録に署名押印はあるかなど。
1つのミスで遺言書が無効になる可能性があるため、時間をおいて確認を行いましょう。
7. 自筆証書遺言や書き方についてよくある質問
自筆証書遺言やその書き方について、よくある質問を3つピックアップして紹介します。
<よくある質問>
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遺言書についての疑問を払拭し、実際に遺言書を作成する際にお役立てください。
7-1. 自筆証書遺言で指定できることは?
自筆証書遺言に限らず、遺言書では下記のことが指定可能です。
<遺言で指定できること>
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遺言書では、財産分割や財産の使用用途について、細かく指定可能です。
自分や相続人の状況に合わせ、適切な遺言書を作成しましょう。
なお、記載する項目が多くなると矛盾が発生してしまう可能性が高まります。
その場合、矛盾が生じている部分の効力が失われてしまうため、不安な場合には専門家に相談しながら作成しましょう。
7-2. 遺言書と遺言状は違う?
「遺言書」と「遺言状」に意味の違いはありません。
自筆証書遺言のタイトルとして「遺言状」という文言を使用しても大丈夫です。
7-3. 相続開始前に財産がなくなるとどうなる?
遺言書に記した財産が、遺言書の作成から相続開始の間になくなってしまった場合には、部分的に遺言書が無効になります。
その財産についての効力を失うだけに留まり、遺言書全体の効力がなくなることはありません。
8. 自筆証書遺言の作成は専門家への相談も検討しよう
ここまで自筆証書遺言の書き方や要件・作成のポイントなどを解説してきました。
自筆証書遺言は自分で手軽に作成できる遺言書で、要件を満たすことで法的な効力を有します。
しかしその要件は厳格に定められているため、作成では細心の注意を払う必要があります。
自筆証書遺言が無効にならないよう、作成が不安な場合には専門家に相談しましょう。
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