遺言書には3種類の形式があり、そのうちの1つに公正証書遺言があります。
公正証書遺言はメリットが多い方法で、実務上での利用が最も推奨されています。
しかし、どのように作成したらいいかわからないという方もいるでしょう。
そこで本記事では、公正証書遺言の概要や作り方を解説。
また、作成費用や必要書類なども紹介します。
公正証書遺言についてくわしく知りたい方はぜひご覧ください。
目次
1. 公正証書遺言とは|どこで作成する?
公正証書遺言とは、3種類ある遺言書のうちの1つで、信用力・証拠力が高いことが特徴です。
遺言書のなかで最も利用が推奨されている方法で、さまざまなメリットがあります。
以下では公正証書遺言の作成場所や作成条件を解説します。
1-1. 公証役場で公証人が作成する遺言
公正証書遺言は原則として、公証役場で作成される書類です。
遺言者と証人立ち会いのもと、公証人がパソコンを用いて作成します。
公証役場とは法務省管轄の公的機関で、遺言に限らずさまざまな手続きを取り扱っています。
また、公証人とは法務大臣から任命された法律の専門家で、公証事務を担う人を指します。
1-2. 証人2名の立ち会いが必要
公正証書遺言の作成には、2名以上の証人の立ち会いが必要です。
証人は、遺言者が本人の意思で遺言を遺しているのか・誰かに書かされているわけではないか、などを確認・証明する役割を担います。
そのため、未成年者や相続と利害関係にある人は、証人になることはできません。
なお費用はかかってしまいますが、頼める人が周りにいない場合には、公証役場に紹介してもらうことが可能です。
2. 公正証書遺言の作成費用
公正証書遺言は公的機関を利用するため、作成費用がかかります。
作成費用は財産価額に応じて、下記のように手数料が設定されています。
<公正証書遺言の手数料>
たとえば財産価額が2億円の場合には、下記のように手数料が算出できます。
「2億円の手数料 = 43,000 + (13,000×2) = 69,000円
財産が大きくなるほど、手数料も高くなるため注意しましょう。
3. 公正証書遺言の作成に必要な書類
公正証書遺言の作成には、下記の書類が必要です。
<公正証書遺言の作成に必要な書類>
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公証役場では遺言内容について、本人確認や相続人との血縁関係を確認します。
また、実際に存在する財産なのかも確認するため、さまざまな書類の提出が求められます。
書類は事前の郵送または作成日に持参する必要があるので、作成日に間に合うように準備しましょう。
なお、公証役場によって必要書類が異なる場合があるため、利用する公証役場に事前に問い合わせてみてください。
4. 公正証書遺言の作り方・作成の流れ
公正証書遺言は下記の手順で作成しましょう。
<公正証書遺言作成の流れ>
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それぞれのステップごとに公正証書遺言の作り方を解説します。
4-1. 遺言内容を仮作成
公正証書遺言は自分で作成する必要はありませんが、公証人に希望を伝えるため、あらかじめ内容を仮作成しておきましょう。
遺言書のように形式を整える必要はなく、メモのような形で誰に何を相続させたいのかなどを残します。
また遺言執行者の指定や遺産分割の禁止など、遺産分割方法以外の事項も決定しておくと、スムーズに面談が進められます。
4-2. 予約を取り公証人と面談
遺言内容が仮作成できたら、公証人と面談を行うための予約を取りましょう。
公正証書遺言は1日で終了するものではなく、事前の面談をもとに公証人が遺言を作成し、その確認などを別日に行います。
面談に際しても、内容が固まりきらない場合は数日に及ぶこともあります。
遺言の内容についての相談は公証人の業務範囲外になるため、必要であれば専門家に相談しましょう。
なお、この段階では証人の立ち会いは必要ありません。
4-3. 証人を2名用意・作成日の予約
面談が終了したら、伝えられた必要書類を準備するとともに証人を2名集めましょう。
知人に頼める場合は知人に依頼し、誰にも頼めないという場合には、公証役場や専門家に依頼することができます。
知人以外に頼む場合には謝礼が必要で、1人1万円ほどが相場となっています。
証人と必要書類が用意できたら、公証役場に作成日の予約を取りましょう。
4-4. 公証役場に行き遺言書を作成
作成当日になったら、証人2名とともに必要書類を持参して公証役場に行きましょう。
(必要書類は事前の郵送も可能)
また、実印と事前に伝えられた公正証書の作成手数料も忘れずに持っていきます。
なお、証人は認印と本人確認書類が必要です。
作成当日は、公証役場で遺言内容の確認が行われます。
具体的には、原本を公証人が、正本を遺言者が、謄本を証人が見ながら確認していきます。
相違点があればその場で公証人に申し出て、修正を行なってもらいます。
問題なければ、遺言者・証人2名・公証人がそれぞれ署名・押印を行い、公正証書遺言が完成します。
4-5. 正本・謄本を受け取り保管
公正証書遺言の作成が完了したら手数料や証人への謝礼を支払い、手続きがすべて終了します。
原本は公証役場で保管されますので、遺言者は正本と謄本を受け取り自宅などで保管しましょう。
5. 公正証書遺言の5つのメリット
公正証書遺言には、下記5つのメリットがあります。
<公正証書遺言のメリット>
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メリットを整理して、公正証書遺言の利用を検討しましょう。
5-1. 無効になりにくい
公正証書遺言の大きなメリットとして、遺言書が無効になりにくいことが挙げられます。
遺言書には厳格な作成ルールが定められていますが、経験豊富な公証人が遺言書を作成してくれるため、内容の不備によって無効になる可能性は低いです。
遺言書は効力を発揮してはじめて意味のある文書になるので、無効にならないのは大きなメリットになるでしょう。
5-2. 信用力・証拠力が高い
公正証書遺言は、公的機関である公証役場で作成される文書です。
本人確認や意思の確認を厳格に行ったうえで作成されるため、信用力・証拠力が極めて高いという特徴があります。
そのため、仮に相続トラブルによって調停や審判を起こされた場合でも、遺言書の内容が覆ることはほとんどありません。
5-3. 検認手続きが不要になる
公正証書遺言で作成しておくと、相続人が家庭裁判所で行う検認手続きが不要になります。
検認は、遺言書発見当時の内容や存在を証明するための手続きで、秘密証書遺言・一部の自筆証書遺言では必須の手続きです。
検認が不要になることで、相続人の手間を軽減できるというメリットにつながるでしょう。
5-4. 文字が書けなくても作成可能
公正証書遺言は自筆する必要がないため、手が不自由な方や高齢な方で文字が書けなくても作成できるメリットがあります。
遺言者に意思能力があり、言葉で内容を伝えることができれば公証人が作成してくれます。
なお署名押印に関しては、事前に事情を公証人に説明しておくことで、代理で行ってもらうことが可能です。
5-5. 外出できなくても作成可能
公正証書遺言は原則公証役場で作成しなければなりませんが、やむを得ない事情がある場合には公証役場でなくとも作成可能です。
たとえば病気や怪我などによって外出が困難な場合は、事情を説明することで、公証人に出張してもらうことができます。
6. 公正証書遺言のデメリット
メリットが多い公正証書遺言ですが、デメリットもあります。
<公正証書遺言のデメリット>
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デメリットも加味したうえで、利用を検討しましょう。
6-1. 作成には手間と費用がかかる
公正証書遺言は公証役場を利用する手続きのため、作成に手間と費用がかかる点がデメリットとなるでしょう。
面談日や作成日には公証役場に出向く必要があり、書類や証人の手配にも手間がかかります。
またほかの遺言書とは異なり、公証役場に財産価額に応じて手数料の支払いが必要です。
6-2. 閲覧・検索にも手間と費用がかかる
相続人にかかるデメリットとして、閲覧・検索に手間と費用がかかる点が挙げられます。
公正証書遺言の原本はデータとしても公証役場に保管されるため、正本や謄本が見つからなかった場合には、公証役場でデータを閲覧する必要があります。
なお、閲覧できるのは遺言者の氏名・生年月日・作成日などのみのため、内容確認のためには謄本を印刷することになります。
費用はそこまで高くなく、閲覧に200円・印刷に250円の費用がかかります。
ただし、誰でも簡単に閲覧できるわけではありません。
閲覧するためには法定相続人や受遺者など、相続に利害関係のある人が、公証役場に下記の書類を持参する必要があります。
<閲覧・検索に必要な書類>
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代理人が申請することも可能ですが、その場合には追加で下記の書類が必要です。
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6-3. 変更ができず新しく作成する必要がある
公正証書遺言は、作成した内容を途中で変更することができません。
どうしても内容を変えたいという場合には、新しく公正証書遺言を作成する必要があるので注意しましょう。
なお、遺言書は新しい日付のものが優先されるため、自筆証書遺言を新たに作成しても問題はありません。
7. 公正証書遺言の効力が失われる場合
公正証書遺言の効力が失われる可能性は低いですが、下記のような場合には無効になってしまうことがあります。
<公正証書遺言の効力が失われる場合>
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制度の運用上ほとんど起こり得ないパターンですが、稀にこのような理由で公正証書遺言の効力が失われることがあります。
8. 公正証書遺言の作成は司法書士などの専門家に依頼しよう
公正証書遺言は、公的な機関で作成される信用力・証拠力が高い遺言書です。
作成に手間と費用はかかりますが、無効になりにくく、実務上では最も利用が推奨されています。
公正証書遺言では遺言内容を公証人に相談することはできません。
一度作成してしまうと変更ができない方法のため、内容を考える際には専門家に相談することがおすすめです。
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