年末年始は昨年よりもお正月に親族で集まった方は多いのではないでしょうか。
この時期には「お年玉をあげた(貰った)けど、贈与税の対象になるのか?」という質問を受けることがあります。
普段あまり気にしたことがない方もいらっしゃると思いますが、お年玉には【実は贈与税を支払わなくてはいけない】場合がありますので、今回は贈与税の基本的な部分をおさらいしつつ、お年玉の課税事情をお話したいと思います。
1.お年玉は贈与税の対象となるか
結論から申しあげますと、お年玉の金額や渡し方によっては、贈与税の対象となります。
お年玉を渡すということは資産を「あげる」「もらう」という行為であり、法律上は贈与に該当するためです。
しかし全てが贈与税の対象になる訳ではなく、「個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物又は見舞いなどのための金品で、社会通念上相当と認められるもの」については贈与税がかからないことになっています。
お年玉は「年末年始の贈答」に該当するので、【社会通念上相当と認められる金額】であれば贈与税の対象から外して良いことになります。
2.社会通念上相当と認められる金額とは?
ではいくらまでであれば社会通念上相当と認められるのでしょうか?
1つの目安としては贈与の基礎控除額である110万円です。
贈与は1年間(1/1~12/31)に受け取った額が110万円を超えなければ贈与税は発生しない仕組みになっています。つまりこの110万円というラインを超えない額であれば、いくらお年玉をあげても贈与税はかかりません。
しかし大きな注意点があります。
この110万円というラインは、【貰った側の視点で考える】という点です。
例えば、お孫さんに対して100万円のお年玉をあげたと仮定します。この時点では110万円のラインを超えていないので税金の心配はありません。しかし、お孫さんが別の親族の方から50万円貰った場合、貰った側であるお孫さんから見ると、合計150万円受け取っていることになり、110万円のラインを超えた部分に対して贈与税を納める義務が発生してしまうのです。
相続対策を兼ねてお年玉を渡すことで、思わぬ税額が発生しないためにも、周りの親族はどれ位渡すつもりなのかも念頭に入れて金額を決める必要があります。
3.お年玉を現金以外で渡した場合
お年玉を現金以外、例えば自動車などの物品を渡した場合でも、現金と同様、市場価格が110万円を超えるような物品の場合は贈与税がかかります。
しかし物品が自動車の場合に限り、贈与税がかからない抜け道があります。
それは「受贈者(贈与を受けた人)の名義にしない」ことです。
自動車を「買ってあげた」のではなく、あくまで「新しく購入した自分名義の車を、孫に貸している」という扱いにすれば、資産が移っている訳ではないので 贈与税の対象外にすることが出来ます。
4.現金であっても目的によっては非課税枠や特例が使える
ケース1:教育資金援助を目的とする場合の非課税枠
この春からお孫さんが高校や大学に入学される場合、教育費を支援したいと思う方は多いと思います。その場合は、教育費に関する非課税枠が適用できる可能性があります。
「夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常認められるもの」については贈与税がかからないと決まっているからです。つまり扶養義務者からの教育的支援であれば、税金がかからずに贈与をすることができます。
しかし1つだけ条件があり、「生活費や教育費として必要な都度直接これらに充てるためのもの」に限られています。「将来これくらい必要だろう」と纏まった金額を先に渡してしまうと『必要な都度』という条件から外れてしまうのでご注意ください。
非課税枠を適用させるためには、その都度贈与を行わなければならないため、とても手間がかかりますが、直接学校に振り込んでも問題はありません。ただし、学校によっては両親からの振込しか対応してくれないところもありますので、事前に確認していただくことをおススメします。
ケース2:教育資金援助を目的とする場合の特例「教育資金の一括贈与」
教育資金援助を目的とした場合で「必要な都度贈与や振込を行うのは面倒」という方は特例の適用をご検討ください。
「教育資金の一括贈与」という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、30才未満の子または孫に対する教育資金の贈与であれば「1,500万円までなら一括の贈与でも税金を免除しますよ」という特例です。
この特例は金融機関で専用の口座を作る必要がありますが、都度お金を動かす手間が省けるので、とても需要のある制度です。
しかしこちらにも注意点はあり、贈与を受けた側が30才になるまでに全額使い切れなかった場合には、残額に対して贈与税が課されてしまいますので、しっかりと将来設計を立ててからでないと思わぬ贈与税を支払うことになってしまいます。
ケース3:不動産購入費の援助を目的とする場合
子や孫が新たに不動産を取得するにあたり、資金援助を行う場合にも特例があります。
かなり馴染みのある特例ですが、住宅取得等資金にかかる贈与税の非課税措置といって、贈与を受けた側が、その年の1月1日時点で20歳以上であり、かつ贈与を受けた年の合計所得が2,000万円以下だった場合には最大で1,500万円までは贈与税が免除されます。
2022年の税制改正大綱で、適用期間を2023年まで延長するという方向なので、もうしばらくこの特例は利用できるかと思います。
5.贈与税に関するその他の制度
その他に贈与税をかけずに資産を渡す方法としては「相続時精算課税制度」というものがあります。この制度は「2,500万円までであれば、贈与者(資産をあげる人)が亡くなる時まで」税金を先延ばしにできるものです。
実際に贈与者が亡くなった場合には、贈与税ではなく相続税の対象になるというところがポイントです。相続税の心配は無いがすぐに纏まった額を贈与したいという方がこの制度を使えば、贈与税も相続税も支払う必要が無くなるのです。
そしてこの制度の最大の注意点としては、「年間110万円の基礎控除が使えなくなる」点です。一度この制度を適用してしまうと2度と基に戻すことは出来ず、2,500万円を超えた部分については20%の贈与税がかかる為、事前に入念なシミュレーションが必要となります。
6.まとめ
このように、例えお年玉として渡した現金であっても、金額や渡し方によっては贈与税の対象になってしまいます。
贈与税が発生してしまうような状態で放置していると、無申告加算税や延滞税といったペナルティを課せられてしまいます。お年玉を「渡し過ぎかな」「貰いすぎかな」といった感覚がある方は注意が必要です。
またお年玉以外の身近な慣習でも、贈与税がかかってしまう場合もあります。税金のルールは「知らなかった」からといって免れる事はできませんが、逆に予め知識があれば多額の贈与であっても税金を支払わなくて済む場合が多々あります。
日本クレアス税理士法人では相続税専門チームによる質の高い相続税申告は勿論のこと、生前の贈与による節税、遺言書作成といった生前対策のご相談も承っております。些細な事でも構いませんのでお気軽にご相談ください。
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監修:日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士 中川義敬 2007年 税理士登録、近畿税理士会登録。2009年に税理士法人コーポレート・アドバイザーズ(現 日本クレアス税理士法人)入社。 2007年から現在に至るまで、東証一部上場企業から中小企業・個人の税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業承継コンサルティング、経理アウトソーシング決算早期化等に従事。 医院の新規開業と承継を利用した開業について、事業承継に必要な自社株対策とは?など、社内外のセミナーで講師としても幅広く活躍。税理士及び相続診断士の資格を持つ。 事業承継・相続対策などのご相談に関しては、個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業承継」、「争続にならない相続」のアドバイスを行う税理士として定評がある。 <講演実績・プロフィール>日本クレアス税理士法人 スタッフのご紹介-執行役員 税理士 |
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