「相続し不動産の譲渡所得税が高い」
「株式を相続し、相続税を払ったと思ったら今度は譲渡所得税がかかるの?」
相続した不動産や株式などの財産を売却した場合は「譲渡所得税」が発生します。
税金の支払いが続き、相続人に重い負担が続いてしまうのです。
しかし、譲渡所得税の負担を軽減する「取得費加算の特例」を活用することでその負担を軽減できます。
相続税の一部を取得費に加算し譲渡所得を抑えられるため、譲渡所得税を節税できる方法です。
しかし、特例には適用要件や期限などの注意点もあります。
十分に理解していないと適用漏れや予想外の税負担を招く可能性があるため慎重に判断しましょう。
そこで本記事では、取得費加算の特例の仕組みや計算方法、適用に際する注意点ついてわかりやすく解説します。
取得費加算の特例について知りたい・相続財産の売却を予定されている方は、ぜひご一読ください。
目次
1. 取得費加算の特例とは?制度の概要を解説

取得費加算の特例とは、相続や遺贈により取得した財産を一定期間内に譲渡した場合、支払った相続税の一部をその財産の取得費に加算でき、譲渡所得税を軽減できる制度です。
財産の売却で得た収入金額から、財産の購入にかかった費用(取得費用)や売却にかかった費用(譲渡費用)を差し引いた「譲渡所得」に対しては、通常「譲渡所得税」が課税されます。
そこで、取得費加算の特例を適用することで取得費用を大きくし、結果として譲渡所得が小さくすることで、譲渡所得税が減るという仕組みです。
相続は相続財産に対して相続税がかかります。
その上、売却でも譲渡所得税がかかってしまうと、納税で手元に残る財産が大幅に目減りしてしまう可能性があります。
そこで国は、譲渡所得税を軽減する措置として、取得費加算の特例を用意しているのです。
参考:国税庁 No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
2. 取得費加算の特例を適用できる4つの要件

相続税の取得費加算を適用するためには、次の4つの要件を満たす必要があります。
- 1.財産の取得方法が相続や遺贈である
- 2.財産を取得した人がが相続税を負担したこと
- 3.相続開始の翌日から3年10カ月以内に売却している
- 4.当初申告要件を満たしていること
それぞれの要件を詳しくみていきましょう。
2-1. 財産の取得方法が相続や遺贈である
取得費加算の特例を適用するためには、財産の取得方法が相続や遺贈でなければなりません。
遺贈とは、相続人以外の方が遺言書の指定によって財産を受け継ぐことを指します。内縁の配偶者や相続人以外の親族などが相続財産を取得するケースです。
本制度は相続税に関する特例のため「相続税の対象である財産ではなければ特例が適用できない」と覚えておきましょう。
2-2. 財産を取得した人が相続税を負担した
取得費加算の特例は、譲渡所得税を計算するときの取得費用に、財産を相続した際に支払った相続税の一部を加算できる制度です。
そのため、財産の取得者が相続税を負担していなければ特例を適用できません。
もしも本制度を適用したとしても支払っている相続税がない場合は、節税効果はありません。
相続税は本制度以外にも、基礎控除や配偶者の税額の軽減などの控除・特例適用できるため、相続税が0円になるケースもあります。
その他の控除や特例により相続税を支払っていない場合には、取得費加算の特例は利用できません。
2-3. 相続開始の翌日から3年10ヶ月以内に売却している
取得費加算の特例を適用するためには、相続税の申告期限の翌日から3年以内に財産を売却していなければなりません。
相続税の申告期限は「相続開始の翌日から10ヶ月以内」と定められているため、両者を合算すると「相続開始の翌日から3年10ヶ月以内」が取得費加算の特例の適用期限です。
取得費加算の特例は、相続税と譲渡所得税を短期間で納めなければならない人の負担を軽減することを目的としており、上記期限を超えて財産を保有している場合には、取得費加算の適用対象外となります。
相続時の段階から取得した相続財産の売却を決めている場合には、本制度が適用できる相続開始の翌日から3年10ヶ月以内に財産を売却するようにしましょう。
相続税申告について詳しく知りたい方は、ぜひ下記記事も併せてご覧ください。
【関連記事】相続税申告は自分でできる?判断基準や手続きの流れを解説!
2-4. 当初申告要件を満たしている
取得費加算の特例を適用するためには、当初申告要件を満たしている必要があります。
当初申告要件とは、納税者にとって有利になる制度の適用を受けるために、当初の申告において“制度の適用を受けることの意思表示”を要求しているものをいいます。
引用:税務研究会
「うっかり適用を忘れてしまった」場合でも、後から取得費加算の特例を適用することはできません。
本制度は更正の請求(※)による適用はできないため、余分な譲渡所得税を払わないように注意しましょう。
(※)更正の請求とは、提出した相続税申告書の内容に誤りがあり、税金を多く納め過ぎていた場合などにおいて、正しい税額に訂正してもらうよう税務署に求める手続きです。
3. 取得費加算の特例要件はチェックシートでの確認がおすすめ

相続税の取得費加算の特例はご説明のとおり、細やかな要件が設定されています。
要件を満たしているか確認したい場合は、国税庁が作成しているチェックシートで判断することがおすすめです。

出典:国税庁「相続財産を譲渡した場合の相続税額の取得費加算の特例チェックシート(令和5年分)」
上記のチェックシートの項目がすべて「はい」の場合には、取得費加算の特例が適用できます。
譲渡所得税を確定申告する場合には、このチェックシートの添付が必要になるため、事前に入手しておきましょう。
4. 取得費加算の特例の計算方法

取得費加算の特例は「取得費加算できる相続税」を計算した後、「譲渡所得」「譲渡所得税」を算出します。使用する計算式は以下です。
<取得費加算できる相続税の計算式>
相続税額 × 譲渡財産の相続税評価額 ÷(取得財産価額+相続時精算課税制度適用財産価額+生前贈与加算価額)
それぞれの計算方法をみていきましょう。
4-1. 取得費加算できる相続税・譲渡所得の計算方法
下記の条件を具体例として、まずは取得費加算できる相続税を求めていきましょう。
|
計算式に当てはめると下記のとおりです。
「5,000万円 × 9,000万円 ÷ 1.8億円 = 2,500万円」
取得費加算できる相続税が算出できたら、譲渡所得を計算しましょう。
<譲渡所得の計算式>
「収入金額 - (取得費用 + 取得費加算できる相続税 + 譲渡費用)」
計算式に当てはめると下記のとおりです。
「9,000万円 - 5,000万円 + 2,500万円 + 200万円 = 1,300万円」
譲渡所得が計算できたら、次は譲渡所得税の計算です。
4-2. 譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税は、「譲渡所得 × 税率」で計算できます。
税率は、財産の所有期間によって変わるので注意が必要です。
短期譲渡所得 | 売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下 | 39.63%(うち住民税9%) |
長期譲渡所得 | 売却した年の1月1日時点で所有期間が5年超 | 20.315%(うち住民税5%) |
(※)平成25年から令和19年までは、復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1パーセントが上乗せされます。
例の場合における譲渡所得税を、それぞれ算出してみましょう。
「短期譲渡所得 = 1,300万円 × 39.63% = 約515万円」
「長期譲渡所得 =1,300万円 × 20.315% = 約264万円」
保有期間によって譲渡所得は大きく変わります。
所有期間は、相続後ではなく、相続前からの通算になる点に注意しましょう。
4-3. 取得費加算の特例の適用有無による納税額の違い
取得費加算の特例を適用しなかったら譲渡所得税はどの程度支払う必要があるのでしょうか。
<取得費加算の特例を適用しない場合>
「譲渡所得:9,000万円 - 5,000万円 + 200万円 = 3,800万円」
「短期譲渡所得:3,800万円 × 39.63% = 約1,505万円」
「長期譲渡所得:3,800万円 × 20.315% = 約772万円」
500万円〜1,000万円ほど、譲渡所得税の金額が変わります。
大きな節税効果が期待できるので、取得費加算の特例が適用できるか必ず確認しましょう。
5. 取得費加算の特例には確定申告が必要

取得費加算の特例を適用するためには、相続財産を譲渡した年の翌年2月16日〜3月15日までに確定申告も行う必要があります。
確定申告をする際に「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」を提出した上で税金を申告・納税を行いましょう。
以下で、確定申告に必要な書類から計算明細書の記載方法を解説します。
5-1. 確定申告時の必要書類
取得費加算の特例について確定申告する際には、提出が必要な書類が2種類あります。
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
- 確定申告書付表兼計算明細書【土地・建物用】(譲渡所得の内訳)
平成30年までは相続税申告書の添付も必要でしたが、現在は上記の2種類を添付すれば問題ありません。
確定申告は専門的な知識を要するため、不安な場合には税理士などの専門家に相談しましょう。
5-2. 取得費加算の特例の計算明細書の記載方法
先ほどの具体例で挙げた財産が不動産だと仮定して、計算明細書の記載方法を解説します。

参照:国税庁「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」
- 所在地:不動産の登記住所を記載
- 種類:登記事項証明書の地目を記載
- 利用状況:記入なし
- 数量:登記事項証明書の地積を記載
「相続税の課税価格」「相続税評価額」「相続税額」を記載する必要がありますが、相続税申告書と同じ内容を記載しましょう。
相続税申告と取得費加算の算出が正確にできていれば、登記事項証明書と照らし合わせながらすぐに記載できます。
6. 相続税の取得費加算の特例を利用する際の4つの注意点

相続税の取得費加算の特例を利用する際に、注意することが4つあります。
- 早めに遺産分割協議を完了させ財産取得者を確定する
- 相続開始日の翌日から3年10カ月以内に売却する
- 取得費がわからないと税負担が大きくなる可能性が高い
- 代償分割を利用すると取得費加算の特例効果が小さくなる
それぞれの注意点をみていきましょう。
6-1. 早めに遺産分割協議を完了させ財産取得者を確定する
取得費加算の特例を適用するためには、相続財産を譲渡し、相続税の支払いも終えている必要があります。
つまり、複数の相続人がいる場合は、早期に遺産分割協議を終えている必要があるのです。
相続税申告期限である「相続開始の翌日から10ヶ月以内」には、遺産分割協議を完了させ、申告を終えていることが大切です
相続には法定相続分という考え方があるものの、実際の相続手続きにおいては、相続人同士で遺産分割協議を行い、全員が納得する形で相続人を決定する場合が多いです。
特に不動産がある相続では、共有化を避けるためにも誰が取得するか丁寧に話し合うことが望ましいでしょう。
やむを得ない事情で申告期限までに遺産分割協議が終わらない場合、「3年以内の分割見込書」を作成しましょう。
「3年以内の分割見込書」を添付し、一旦法定相続分で相続税の申告・納税を行うことで、遺産分割協議の期限を延長することが可能です。
遺産分割協議が完了したタイミングで、相続税の修正申告や更正の請求を行うことで、相続税の還付を受けることもできます。
6-2. 相続開始日の翌日から3年10カ月以内に売却する
取得費加算の特例を適用するためには、相続開始日の翌日から3年10カ月以内に相続財産を譲渡し終えている必要があります。
遺産分割協議が長引き、「3年以内の分割見込書」を添付して相続税申告をした場合でも、この期限が延長されることはないので注意しましょう。
上場株式など売却しやすい財産は時間がかかりにくいですが、不動産の場合は時間を要することも少なくありません。
特に過疎地や空き家は売却まで時間を要する傾向があります。
「相続開始日の翌日から3年10カ月以内」までに財産の譲渡を完了できるようにするためにも、売却手続き手続きは早めに進めましょう。
6-3. 取得費がわからないと税負担が大きくなる可能性が高い
取得費加算の特例を適用するにあたって、財産の取得費がわからない場合には、「譲渡価格の5%」を取得費として計上できるというルールが存在します。
しかし、譲渡価格の5%となると、実際の取得費よりも小さくなるケースも多く、税負担が大きくなる可能性が高いです。
下記の例を元に、どのくらい税負担が変わってくるのか解説します。
- 取得費:4,000万円
- 譲渡価格:8,000万円
- 仲介手数料:400万円
- 長期所有:税率20.315%
<取得費不明の場合>
譲渡所得:8,000万円 -(8,000万円 × 5% + 400万円) = 7,200万円
譲渡所得税:7,200万円 × 20.315% = 約1,463万円
<取得費がわかっている場合>
譲渡所得:8,000万円 -(4,000万円 + 400万円) = 3,600万円
譲渡所得税:3,600万円 × 20.315% = 約731万円
このように、約2倍も税金が変わってしまうケースも珍しくありません。
取得費加算の特例を適用する場合でも、この概算取得費のルールが適用されることになりますので、譲渡所得税の計算が不利になる可能性がある点に注意が必要です。
ご自身が該当する可能性がある場合は、税理士にご相談いただき、適切な対応を検討されることがおすすめです。
6-4. 代償分割を利用すると取得費加算の特例効果が小さくなる
不動産のように相続財産の種類によっては、公平な分配が難しいケースがあります。
そのような場合に「代償分割」が利用されることがあります。
代償分割とは、遺産の分割に当たって共同相続人などのうちの1人または数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人が他の共同相続人などに対して債務を負担するもので現物分割が困難な場合に行われる方法です。
代償分割を利用した場合には、相続財産を売却する際に、代償金の一部を相続税評価額から差し引く必要があります。
相続税評価額が下がることで、取得費に加算できる相続税の金額も下がるため、結果として取得費加算の特例の効果が小さくなってしまうのです。
7. 取得費加算の特例が適用できない3つのケース

取得費加算の特例が適用できない3つの代表的なケースを紹介します。
- 夫婦間相続の場合
- 譲渡所得に該当しない場合
- 法人が遺贈によって財産を取得した場合
それぞれのケースを詳しくみていきましょう。
7-1. 夫婦間相続の場合
夫婦間相続の場合には、取得費加算の特例を使えないケースがあります。
夫婦間での相続では控除枠が大きい「配偶者の税額の軽減」を利用できるため、相続税が0円となり本制度を利用しないケースが多いためです。
配偶者の税額の軽減では、下記どちらか多い方まで非課税で財産を相続できます。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分
ほとんどの場合で非課税になるため「財産取得者が相続税を負担していること」という特例の要件を満たすことができません。
夫婦間相続の場合には、取得費加算を利用できるかよく確認しましょう。
7-2. 譲渡所得に該当しない場合
取得費加算の特例は譲渡所得に対してのみ適用できる特例のため、相続財産が事業所得などに該当する場合には特例が適用できません。
具体的には、下記3つの所得に該当する場合です。
- 事業所得
- 雑所得
- 山林所得
たとえば、個人事業の棚卸資産などを相続して譲渡した場合には、事業所得に該当します。
相続財産を譲渡したからといって、すべての財産が特例の対象にはならないため注意しましょう。
7-3. 法人が遺贈によって財産を取得した場合
この特例は法人が遺贈によって財産を取得し、それを売却する場合には適用できません。
個人が不動産を売却して利益を得た場合、それは「譲渡所得」となり、原則として「譲渡所得税」がかかります。
取得費加算の特例は、この譲渡所得税の計算に影響を与えるものです。
一方、法人が遺贈によって財産を受け取り、それを売却して得たお金は、すべて法人の「収益」として扱われます。
この収益は、法人の事業活動で得た他の収益と合算され、最終的に法人の「利益」として計算されます。
そして、この利益に対しては「法人税」がかかります。
つまり、法人にとっては、何かを売却して得たお金は、事業活動の一環として生じた収益であり、個人の譲渡所得のような特別な税制上の区分けはされません。
そのため、個人向けの税負担軽減策である「取得費加算の特例」は、法人の税金計算には関係しないのです。
法人が遺贈財産を売却する際は、その売却益が法人の「利益」に計上され、通常の法人税の対象となると覚えておくと良いでしょう。
8. 取得費加算の特例と併用できる・できない特別控除

取得費加算の特例は節税効果が大きい上に、他の特別控除と併用できる場合もあります。
以下では、併用できる・できない特別控除を詳しく解説します。
- 自己居住用財産の買換え等にかかる特例措置
- 自己居住用財産を譲渡する場合の3000万円特別控除
- 空き家を譲渡する場合の3000万円特別控除
それぞれ詳しくみていきましょう。
8-1. 【併用可能】 自己居住用財産の買換え等にかかる特例措置
自己居住用財産の買換え等に係る特例措置とは、個人が自身の居住用財産(マイホーム)を売却し、新たな居住用財産を購入した際に、一定の要件を満たすことで、譲渡所得税を将来に繰り延べるできる制度です。
この特例は売却益が非課税となるわけではなく、課税のタイミングを後にずらすもので、取得費加算の特例と併用できます。
たとえば、3,000万円で購入したマイホームを6,000万円で売却し、9,000万円のマイホームに買い換えた場合、3,000万円の譲渡益が課税対象です。
この特例を適用すると、売却した年の課税は行われません。買い換えたマイホームを売却した際にまとめて課税されます。
将来に持ち越される譲渡所得税を計算する際に、取得費加算の特例を利用することで、取得費に相続税の一部を加算可能です。
8-2. 【併用可能】自己居住用財産を譲渡する場合の3000万円特別控除
自己の居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除とは、個人が自身の居住用財産(マイホーム)を売却した際、一定の要件を満たすことで、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。
こちらも取得費加算の特例と併用できます。
たとえば相続したマイホームを7,000万円で売却した場合、取得費や譲渡費用に加え、3,000万円の控除を適用可能です。
取得費加算の特例と併用することで、大幅に譲渡所得税の負担を減らすことができるでしょう。
8-3. 【併用不可】空き家を譲渡する場合の3000万円特別控除
空き家を譲渡する場合の3000万円特別控除とは、相続により取得した空き家を売却する際、一定の要件を満たすことで、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例です。
空き家が社会問題となっている今、処分を円滑に進められる強力な特例ですが、取得費加算の特例との併用はできません。
特例を利用する際には、どちらの適用がメリットが大きいのか慎重に考えて、選択することが必要です。
判断がつかないという場合には、税理士などの専門家に相談しましょう。
9. 取得費加算の特例についてよくある質問

取得費加算の特例についてよくある質問をまとめました。
- 確定申告期限までに相続税額が確定しない場合はどうする?
- 取得費加算の特例を適用するための更正はいつまで可能?
- 相続財産を売却するベストなタイミングはある?
疑問を払拭して、取得費加算の特例を最大限活用しましょう。
9-1. 確定申告期限までに相続税額が確定しない場合はどうする?
取得費加算の特例は確定申告時に申請するため、相続税額が確定していないと、取得費に加算する相続税を確定できません。
このような場合には、取得費加算の特例を適用しなかった場合の税額を申告・納税します。
そして、相続税の申告・支払いが終わったタイミングで「更正の請求」を行いましょう。
通常、取得費加算の特例には当初申告要件があるため、「更正の請求」は認められませんが、先に確定申告期限が来ている場合には「更正の請求」が認められます。
9-2. 取得費加算の特例を適用するための更正はいつまで可能?
取得費加算の特例を適用するための更正の請求(所得税)は、相続税申告をした日の翌日から2ヶ月以内が期限となっています。
通常、所得税の更正の請求は法定申告期限から5年以内が期限とされていますが、このケースの場合には2ヶ月しか期限が設けられていないので注意しましょう。
9-3. 相続財産を売却するベストなタイミングはある?
相続財産を売却する予定がある場合には「相続開始の翌日から3年10ヶ月以内のうち最も高く売れる」時がベストなタイミングになるでしょう。
しかし、事情によっては以下のポイントも押さえながら判断されることもおすすめです。
①相続税の納税資金が必要な場合
相続税は、原則として「相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内」に現金で一括納付しなければなりません。
手元に納税資金がない場合は、速やかに財産を売却し、現金化する必要があります。
②不動産市場の動向
不動産価格は常に変動しています。
周辺地域の開発計画、金利の動向、経済状況などによって価格が上下するため、市場のピークを見極めることができれば、より高く売却できる可能性があります。
ただし思っているよりも安くしか売れない場合もあるため、不動産会社などのアドバイスも参考にしながら慎重に判断しましょう。
③管理コストの負担
相続した不動産を保有し続ける限り、固定資産税や都市計画税、管理費、修繕費などのコストが発生します。
活用予定のない不動産であれば、これらの維持費を考慮し、早めの売却を検討することも賢明です。
財産の性質によっては、時期により価格が下がるなど変動性がありますが、取得費加算の特例適用を検討している場合には、期限内に売却する必要があります。
適切な時期を見極めることは難しいですが、ご自身の事情も踏まえつつ相場を検討すると良いでしょう。
10. 取得費加算の特例は要件を確認しながら最大限活用しよう!
本記事では取得費加算の特例について、適用要件や注意点を交えながら詳しく解説しました。
相続にはさまざまな控除や特例が用意されており、種類によっては本制度と併用可能です。
ただし、特例の適用にはいくつかの要件があるため、実際に適用を検討される場合はあらかじめ税理士へ相談されることがおすすめです。