自己株式の保有とは、株式会社の発行済株式について、その企業自身が発行済株式を取得し、保有することを言います。 ここでは自己株式取得の目的や保有に至るまでの手順、税務のポイントを確認していきましょう。
1.自己株式の取得の主な目的
自己株式を取得し、保有するための目的としては、主に以下のような項目が挙げられることが多いです。
- 資本効率の向上を通じた株主への還元
- ストックオプション制度の活用
- 企業グループの再編
- 中小企業での相続税対策
2.弊害を防止するための制度
自己株式取得について、規制緩和がされた後も、弊害を防止するためにルールがあります。
会社法では、会社の取引先などの債権者を保護するため、会社は、余裕資金がある場合に限って、自己株式を取得することができると定め、原則として財源規制を行っています。
2-1.財源規制
自己株式を取得するには、余剰金の分配可能額規制(会社法461条~464条)及び、業務執行者の期末の欠損てん補業務(会社法465条)が規定されている。
2-2.取得価格によって株主間に不公平感を生じさせないようにする
株主総会の一定の関与(会社法156条1項)、売主追加請求権(会社法160条2項、3項)が規定されている。。
2-3.取締役の違法行為に対し、差し止め請求ができる
反対派株主から株式を取得することで、取締役が自己の会社支配を維持するなど経営を歪める手段に利用する事を差し止める、取締役の違法行為差し止め請求(会社法360条)等がある。
3.自己株式の保有によりできること
自己株式には、議決権がありません(会社法308条)。 またその他の共益権も持たないと解釈されていて、余剰金の配当請求権もありません(会社法453条)。
自己株式は、取締役会の決議により償却したり、会社分割など企業再編の際に発行する新株に代えて、その自己株式を交付したり、第三者に売却処分をしたりと、様々に活用できます。
4.自己株式の取得にあたって、株主総会での手順
株主総会に提出する議案に定める事項として、自己株式の取得価額の総額、株式の種類や数、期間を示して承認を得ることになります。
自己株式を取得する財源は会社の財産ですから、配当の限度額を超えた自己株式を取得することは許されません。 自己株式の取得には、株主や債権者に不利 益を与える可能性があるため、一定の手続きが必要となります。
もし、定められた手続きを怠った場合、損害賠償請求を提起されるなど、大きなトラブルに発展する恐れがあります。 株主の承認を受けた後の実施時期については、取締役の判断で決定されます。
さらに、自己株式の取得状況などは、営業報告書への記載によって株主に報告します。 臨時株主総会での決議でも可能となったほか、当該決議により承認された取得の期間を1年以内で自由に定めることができるとしました。
5.自己株式の取得における税務(相対取引)のポイント
相対取引とは、市場を通さずに1対1で売買する取引のことをいいます。
5-1.発行法人の税務
取得の際に株主に交付される金銭等は、元本の払戻しの部分の額と利益の払戻しの部分からなるものとみなされます。
元本の払戻し部分の額は、税務上、資本積立金を減少させ、利益の払戻しの額は利益積立金を減少させます。
利益積立金の減少額は、配当金とみなされ(みなし配当)発行法人において、源泉徴収義務が発生します。
5-2.売却した株主の税務
個人株主、法人株主ともに自己株式の相対取引に応じた場合、これは資本等取引と考えます。
交付された金銭等は、有価証券の譲渡対価の部分と利益の分配の部分からなるものとみなし、交付金銭等の金額が発行法人の自己株式に対応する資本金等の額を超える部分の金額はみなし配当となります。
5-3.自己株式の処分
自己株式の処分差額については資本金等の金額の増減額とし、損益取引でなく資本等取引として取り扱います。
自己株式の消却については、取得時に資本の額を減少させることから、消却時の処理は不要となります。
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