遺産相続

原戸籍とは?取得方法や戸籍謄本との違い・相続時に必要な理由を解説

監修

中村亨

日本クレアス税理士法人 代表 税理士 公認会計士

原戸籍とは、戸籍法改正前に作られた旧式の戸籍謄本を意味します。

正しい読み方は「げんこせき」ですが、現戸籍と混同されやすいため「はらこせき」や「はらこ」と呼ぶことが一般的です。

日本では日本国民の国籍や親族関係(夫婦・親子・兄弟姉妹など)を戸籍制度によって管理しており、時代にあわせて管理方法も変更されてきました。

相続時には原戸籍の取得が必要となることも多いですが、戸籍謄本との違いがわからない方も多いでしょう。

そこで本記事では、原戸籍の概要や取得方法、戸籍謄本の違いを中心に詳しく解説します。

相続時に必要となる理由にも触れますので、ぜひご一読ください。

※戸籍謄本は「戸籍全部事項証明書」と言いますが、本記事内では戸籍謄本に統一して記載しています。

1. 原戸籍とは?

原戸籍とは、戸籍が法改正などによって新しく作り替えられた際に、新しい戸籍と分けるために古い戸籍を指す言葉です。

戸籍は個人の身分関係(出生、婚姻、死亡など)を記録する公文書ですが、時代の変化に合わせて様式や管理方法が変更されてきました。

原戸籍は、現在の戸籍には記載されていない過去の身分事項が記録されているため、相続手続きや身分関係の証明において非常に重要な役割を果たしています。

この章では原戸籍について、戦後に行われた2つの改正について解説します。

1-1. 昭和改製原戸籍

昭和改製原戸籍とは、昭和22年(1947年)の戸籍法改正によって旧民法下の「家」制度に基づく戸籍から、新民法下の「夫婦と子」を単位とする戸籍へと作り替えられた際の、古い戸籍を意味します。

この改正以前の戸籍には、戸主を中心とした家単位の記録がされており、現在の戸籍には記載されない多くの情報が含まれています。

例として、現在の戸籍では筆頭者とその配偶者、子が記載されますが、昭和22年以前の戸籍では、その家を構成するすべての人々の情報が記載されていました。

戸主から筆頭者への変更はこの時に行われています。

1-2. 平成改製原戸籍

平成改製原戸籍とは、平成6年(1994年)の戸籍法改正によって、戸籍の様式が紙の手書きからコンピュータによるデータ管理に切り替えられた時より前の、古い戸籍を指します。

平成の改製で戸籍がコンピュータ化されたため、様式が現代の読みやすい活字式に統一されました。

書式も「B4サイズ縦書き」から、今も継続している「A4サイズ横書き」へ変更されています。

また、平成の改製にあたっては、婚姻や死亡で除籍になっている方については、新しい戸籍に記載されなくなりました。

在籍している方も、新しい戸籍に記載されない内容(離婚事項など)があるため、相続時などでは原戸籍の取得を行うよう指示を受けることがあります。

参考:東京都港区 改製原戸籍とは、どのようなものですか

2. 原戸籍と戸籍謄本の違いとは

原戸籍と戸籍謄本は、いずれも戸籍を証明するための公的な証明書ですが、記載内容や取得方法には違いがあります。

相続時などに必要となる際には、こうした違いを把握しておくことが大切です。

2-1. 記載内容の違い

戸籍謄本には、主に現在の身分事項が記載されます。

一方、原戸籍には戸籍が作り替えられる前の身分事項が記載されており、現在の戸籍には載っていない情報が多く含まれています。

 

戸籍謄本

原戸籍

役割

現在の身分関係を証明

過去から現在に至るまでの身分関係の変遷を証明

記載される内容

筆頭者・配偶者・未婚の子といった一世帯の最新情報

過去の婚姻・離婚や転籍など、戸籍から除籍された全員の情報がすべて記載

利用する場面

氏名や本籍地の証明、パスポートの申請など

相続手続き、相続人調査、保険金の請求など

2-2. 取得方法の違い

原戸籍と戸籍謄本では、取得できる場所にも違いがあります。

  • 原戸籍

原戸籍は本籍地の市区町村役場の窓口や郵送、市区町村役場が運営する市民サービスコーナーなどで取得できます。

コンビ二での取得はできません

令和6年(2024年)3月1日の法改正により、本籍地が遠方にある場合でも「広域交付請求」によって本籍地以外の市区町村役場で取得できるようになりました。

  • 戸籍謄本

現在の戸籍謄本は本籍地の市区町村役場の窓口や、コンビニでの取得も可能です。

令和6年(2024年)3月1日の法改正により、本籍地が遠方にある場合でも「広域交付請求」の利用が可能です。

いずれの場合も本籍地が遠方の場合、郵送での取得も可能です。

なお、広域交付請求については注意点もあります。

2-2-1. 広域交付請求における注意点

2024年3月から開始された戸籍の広域交付制度によって、本籍地が遠方であっても、最寄りの市区町村窓口で戸籍謄本などを取得できるようになりました。

しかし、この制度を利用する際には注意点があります。

戸籍を請求できる人が厳しく限定されているのです。

取得できる人は、戸籍に記載されている本人・直系尊属(父母・祖父母など)・直系卑属(子・孫など)に限定されています。

弁護士や税理士、司法書士などの第三者である代理人は利用できません。

また、兄弟姉妹の戸籍も直系尊属・直系卑属に該当しないため広域交付では取得できません。

本籍地の市区町村に郵送などで直接請求する必要があります。

コンピューター化されていない戸籍謄本も利用できず、戸籍抄本や除籍抄本、戸籍の附表も対象外です。

【関連記事】相続手続きに必要な戸籍謄本とは?種類や取り寄せ・本籍地以外からの取得方法を解説

3. 原戸籍が相続時に必要となる3つの理由とは

パスポートの取得時など、現在の身分証明には戸籍謄本のみで対応が可能ですが、相続手続きにおいては原戸籍が必要です。

記載内容の違いでも触れましたが、戸籍謄本には記載されていない内容があるため、原戸籍は重要な役割を果たします。

そこで、この章では原戸籍が相続時に必要となる理由を3つに分けてご説明します。

3-1. 相続人を特定するため

相続を進めるにあたっては、被相続人(故人)の法定相続人が誰なのか、正確に特定する必要があります。

しかし、現在の戸籍謄本では、婚姻や転籍(本籍地を移すこと)によって戸籍から抜けた人や、すでに亡くなった人の情報は記載されません。

そのため、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍をさかのぼって確認する必要があります。

この過程で、戸籍が作り替えられる前の古い戸籍である「原戸籍」を取得することで、認知した子や養子、またはすでに亡くなった相続人(代襲相続が発生する場合)などの存在を漏れなく確認できます。

相続人の特定は、遺産分割協議で欠かせない作業です。

もしも特定せずに手続きを進めてしまうと、後から新たな相続人が見つかり、遺産分割協議をやり直すといった大きなトラブルに発展する可能性があります。

3-2. 相続手続きの必要書類である

預貯金や不動産の名義変更など、多くの相続手続きでは「被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍」の提出を求められます。

手続きを受ける側が、提出された戸籍謄本類から法定相続人の特定を正確に行うためです。

この「すべての戸籍」には、現在の戸籍謄本はもちろん、除籍謄本や原戸籍も含まれます。

これらの書類が揃っていなければ、手続きを進めることができません。

3-3. 相続税申告の必要書類である

相続税の申告を行う際にも、法定相続人の特定が必要です。

相続税法では、配偶者の税額軽減や障害者の税額控除、生命保険金の非課税枠などの控除や特例が設けられています。

これらの控除や特例を適用するためには、税務署に対して誰が相続人であるかを証明する書類として、原戸籍を含むすべての戸籍を提出する必要があります。

3-3.1 除籍謄本も相続時に必要

原戸籍と同様に、除籍謄本も相続手続きで必須の書類です。

除籍謄本とは、戸籍に記載されていた人が死亡や婚姻などを理由に全員除かれた状態の戸籍です。

  • 除籍謄本:誰もいなくなった状態
  • 戸籍謄本:現在もご存命の方が戸籍内にいる状態

除籍謄本も原戸籍と同様で、コンビニで取得することはできません。

死亡による除籍の場合、死亡届提出から1~2週間かかり、情報の反映後に取得できます。

4. 相続時に必要な原戸籍・戸籍謄本類の取得の流れ

相続手続きを進める際には、被相続人だけではなく相続人の戸籍謄本類も収集する必要があります。

そこで、この章では相続時に必要な原戸籍や戸籍謄本類について、被相続人・相続人別に取得の流れを詳しく解説します。

4-1. 被相続人における戸籍謄本類の取得の流れ

被相続人の戸籍謄本類は、「出生から死亡までのすべての戸籍」を取得する必要があります。取得の流れは以下です。

  1. 死亡時の本籍地から取得を開始する
    まず、被相続人が亡くなった時点の本籍地がある市区町村役場で、戸籍謄本を取得します。この戸籍には、通常「いつ、どこから本籍を移したか(転籍)」や「いつ、誰と婚姻したか」といった情報が記載されています。

  2. さかのぼって順次取得する
    取得した戸籍に記載された「一つ前の本籍地」を確認し、その本籍地がある市区町村役場に請求します。これを繰り返すことで、出生までさかのぼり、すべての戸籍(戸籍謄本、原戸籍、除籍謄本など)を漏れなく取得できます。

4-2. 相続人における戸籍謄本類の取得の流れ

相続人自身の戸籍謄本類も、相続手続きに必要です。以下の流れで取得しましょう。

  1. 現在の戸籍謄本を取得する
    相続人自身の戸籍謄本は、現在の身分関係を証明するために必要です。相続人自身の本籍地の市区町村役場で取得します。

  2. 被相続人との関係を証明する
    被相続人と相続人の関係が、現在の戸籍謄本だけでは証明できない場合、婚姻前の戸籍や、親の戸籍なども取得しなければなりません。これにより、親子関係や夫婦関係を公的に証明できます。

相続手続きでは、相続人全員の戸籍謄本類が必要となるため、全員で協力して収集することが大切です。

4-3. 連絡がつかない相続人がいたらどうする?

相続手続きを進める場合、前述のように相続人全員の戸籍謄本類も必要となるため相続人全員に協力してもらう必要があります。

しかし、相続人の中には何らかの事情で連絡が取れないケースも見受けられます。

遺言書がない場合、相続人全員が遺産分割協議に参加する必要があるため、連絡がつかないと協議を進めることができません。

このような場合、主に以下の手続きを取る必要があります。

  1. 不在者財産管理人の選任申立て
    行方不明の相続人がいる場合、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てることができます。選任された管理人が、行方不明の相続人の代理人として遺産分割協議に参加します。

  2. 失踪宣告の申立て
    行方不明期間が7年以上の場合、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てることができます。失踪宣告が認められると、その相続人は法律上死亡したものとみなされ、遺産分割協議から除外されます。

これらの手続きは複雑で時間もかかります。

まずは戸籍調査で判明した親族などに連絡を取り、行方不明者の情報を集めることから始めましょう。

5. 原戸籍を含む相続時の必要書類の収集に困った時の相談先

相続手続きに必要な書類は戸籍謄本類に留まらず、その種類は多岐にわたっています。

特に財産の種類が多い場合や相続人数が多い場合などは、収集作業に時間と労力がかかるため注意が必要です。

特に、戸籍の収集は多くの時間と労力を要します。

書類の収集に困った時は、専門家への相談を検討しましょう。

5-1. 税理士

相続財産に相続税が発生しそうな場合、税理士に相談することがおすすめです。

相続税申告の相談時には、必要書類の収集もまとめて依頼できます。

相続時に相談できる主な内容:相続税の計算や申告、二次相続対策など

5-2. 弁護士

遺産分割協議が揉めている場合や遺留分に関するトラブル、複雑な相続人調査を要する場合は弁護士への相談がおすすめです

このようなケースでも、必要な書類の収集を依頼できます。

相続時に相談できる主な内容::遺産分割協議の代理交渉、調停・審判手続き、遺留分侵害など

5-3. 司法書士

相続財産に不動産が含まれる場合、司法書士に相談するのが一般的です。

登記時に必要となるため、戸籍謄本類の収集も依頼できます。

相続時に相談できる主な内容::不動産の名義変更(相続登記)手続きの代行、遺産分割協議書の作成、家庭裁判所への申立て書類の作成など

5-4. 行政書士

戸籍の収集や遺産分割協議書の作成など、書類の収集や相続に関する書類作成に困った場合は、行政書士に相談できます。

相続時に相談できる主な内容:戸籍の収集代行、相続関係説明図の作成、遺産分割協議書など

6. 原戸籍・戸籍謄本は相続時に必須|収集に悩んだら専門家へご相談ください

相続手続きにおいて、被相続人の出生から死亡までの身分関係を証明する原戸籍や戸籍謄本は、必須の書類です。

早期に収集することで法定相続人を正確に特定し、相続税申告や預貯金の名義変更といった、すべての手続きを円滑に進めることができます。

しかし、戸籍の収集は複雑で、本籍地が複数にわたる場合は、多くの時間と労力を要します。

また、連絡の取れない相続人がいるなど、予期せぬトラブルが発生することもあります。

もしもご自身での戸籍収集に不安を感じたり、手続きでつまずいたりした場合は、税理士や弁護士といった専門家への相談を検討しましょう。

監修

中村亨

日本クレアス税理士法人 代表
税理士
公認会計士

2002年8月に会計事務所として創業、2005年には税理士事務所を開業し、法人や個人のお客様の会計・税務の支援をする中で、「人事労務の問題を相談をしたい」「事業承継を検討している」といったお客様のニーズに応える形でサービスを拡大し続け、現在では社会保険労務士法人など複数の法人からなるグループ企業に成長してきました。お客様に必要なサービスをワンストップで提供できることが当社の強みです。

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