相続の生前対策

生前贈与と相続の違いとは?制度の仕組みからお得さや注意点まで解説

監修

中村亨

日本クレアス税理士法人 代表 税理士 公認会計士

大切なご自身の財産を大切な人へ遺す方法として、生前贈与と相続という2つの方法が考えられます。

1つは生前に財産を贈与する「生前贈与」であり、もう1つは財産を所有していた方が亡くなった後に財産を「相続」する方法です。

2つの方法には生前と死後という大きな違いがありますが、この他にはどのような違いがあるでしょうか。

そこで本記事では、生前贈与と相続の違いをわかりやすく解説します。

それぞれの制度の仕組みや注意点もあわせて解説しますので、ぜひご一読ください。

1. 生前贈与と相続の違い|制度の仕組みとは

生前贈与も相続も、大切な財産をご自身以外の方へ渡す仕組みです。

2つの制度は生前と死後という違いだけではなく、発生する税金や具体的に利用できる制度も異なっています。

この章では生前贈与と相続について、それぞれの仕組みを通して違いを解説します。

1-1. 生前贈与の仕組み

生前贈与とは、財産を渡す「贈与者」と受け取る「受贈者」が双方合意の下で贈与の契約を交わし、双方が生前のうちに財産を移転することを意味します。

贈与の方法にはいくつかの方法があり、代表的な制度は以下のとおりです。

  • 暦年贈与

一般的に広く利用されている贈与制度で、 1月1日から12月31日までの1年間のうち、110万円の基礎控除額の範囲内であれば贈与税が発生せず申告も不要です。

  • 相続時精算課税制度

累計2,500万円までの贈与については贈与時に税金がかからず、相続の際にまとめて相続財産へ加算して相続税として精算する制度です。

暦年贈与との併用はできません。

なお、2024年1月以降は年間110万円の基礎控除枠が新設されています。

  • 贈与にのみ適用される特例や控除がある

おしどり贈与(配偶者控除)や教育資金の一括贈与、住宅取得資金贈与の特例など、いくつかの非課税枠が用意されており、目的に応じて利用が可能です。

贈与税の課税は、贈与を受けた人(受贈者)が納税義務を負う点が特徴です。

また、親族だけではなく、第三者にも贈与することが可能です。

より詳しく生前贈与について知りたい方はこちら▼

【関連記事】生前贈与にかかる贈与税や税率|非課税枠で節税対策をしよう

1-2. 相続の仕組み

相続とは、被相続人が亡くなった後に、所有していた相続財産(遺産)を法律に基づいて引き継ぐことを意味します。

相続の仕組みは主に以下のとおりです。

  • 原則は法定相続人が対象

配偶者や被相続人の子どもなど、民法で定められた法定相続人(以下:相続人)が財産を相続します。

ただし、生前に被相続人が作成した遺言書がある場合は、相続人以外の方が財産を受け取ることも可能です。

  • 相続財産にはマイナスの財産も含まれる

相続人が相続する「相続財産」は現金や預貯金、不動産といったプラスの財産だけではなく、ローンや借入金などのマイナスの財産も含みます。

相続税が課税される際は、マイナスの財産は「債務控除」が可能です。

  • 相続税が課税される

相続税は基礎控除である「3,000万円+(600万円×法定相続人数)」を超える相続財産の総額に対して課されます。

  • 相続特有の控除や特例がある

配偶者控除や小規模宅地等の特例など、相続にしかない有利な制度が設けられています。

相続では、「相続したくない」「債務があるため放棄したい」場合などは相続放棄も可能です。

複数の相続人がおり、遺言書がない場合は遺産分割協議で誰が相続財産を取得するか決める必要があります。

より詳しく相続について知りたい方はこちら▼

【関連記事】相続とは?税理士が教える基本ルールや手続き・賢い節税対策【完全保存版】

1-3. 生前贈与と相続|2つの制度の違いとは

上記を踏まえ、生前贈与と相続の違いについて、図でまとめました。

 

生前贈与

相続

財産移転のタイミング

生前に贈与者と受贈者が合意の下で自由に移転できる

被相続人の死亡後に財産が移転する

対象者

親族以外を含め、第三者にも贈与可能

原則は法定相続人(遺言書で変更可能)

課税される税

贈与税

相続税

控除・特例

・暦年贈与や相続時精算課税制度における
110万円の基礎控除
・おしどり贈与(配偶者特例)など

・基礎控除
・配偶者控除
・小規模宅地等の特例など

2. 生前贈与と相続|どちらがお得?おすすめ?

生前贈与と相続は、財産を次の世代へ引き継ぐ代表的な方法です。

「どちらの方が税金が安くなるのか?」「不動産を持っている場合はどちらが有利なのか?」など、気になるポイントは多いでしょう。

実際には、贈与税や相続税の仕組みの違い、不動産取得に伴う費用などを総合的に判断する必要があります。

そこで本章では、それぞれの特徴や税負担を比較しながら、どちらを選ぶべきかを解説していきます。

2-1. 贈与税と相続税はどちらが安い?

贈与には贈与税、相続には相続税が課税されますが、贈与税の税率は相続税より高めに設定されています。

これは「生前に多額の財産を移転して、相続税を回避するのを防ぐ」ことを目的としています。

しかし、贈与税には「基礎控除」や「特例による非課税枠」などが用意されており、工夫次第で贈与税の負担を抑えることができます。

例えば、親や祖父母から子や孫へ教育資金を贈与できる「教育資金贈与の非課税制度」を利用する場合、一定の要件をクリアすると1,500万円まで非課税です。

単純に税率だけで比較すると相続が有利ですが、用途や非課税枠を踏まえると贈与をした方がよいケースもあります。

2-2. 生前贈与をすることで相続税を抑える効果がある

財産が多く、将来相続税が発生する可能性が高い場合には、生前贈与を活用することで相続税を軽減できます。

生前に贈与すれば、相続時の相続財産を減らせるためです。

ポイントは「非課税の仕組みを利用して贈与する」ことです。

例として、以下の仕組みを活用すれば、贈与を先行して行うことで相続時の相続税を抑える効果が得られます。

  • 暦年贈与は毎年110万円まで非課税
  • 教育資金一括贈与の非課税制度(最大1,500万円まで)
  • 住宅取得資金の贈与の非課税制度(条件付きで最大1,000万円まで)

これらの制度を利用しながら、毎年少しずつ財産を移転すれば、相続発生時に残る財産を減らすことができ、結果的に相続税を大幅に抑える効果があります。

また、家賃収入がある物件などを早期に贈与しておくと、贈与後は収入が受贈者の財産となるため、こちらも相続時に大きな節税効果があります。

ただし、贈与はこれまで以上に早く始めることが大切です。

2024年以降は法改正により、これまで被相続人が亡くなる3年前までの生前贈与が「相続税の加算対象(相続税の持ち戻し)の対象でしたが段階的に7年へ延長されています。

せっかくの相続税対策の効果が発揮できなくなってしまうため、注意が必要です。

2-3. 登録免許税・不動産取得税は相続が有利

所有している不動産を贈与もしくは相続で移転する場合、生前贈与と相続ではかかる税金に大きな違いがあります。

①生前贈与の場合

・登録免許税(所有権移転登記): 固定資産税評価額の2%

・不動産取得税:原則課税され、税率は3〜4%

土地や住宅用家屋を取得する場合には軽減措置があり、2027年(令和9年)3月31日までの間は 課税標準額が「固定資産税評価額×1/2」 となり、さらに税率も3%に軽減されます。

ただし、住宅以外の建物などは軽減の対象外となり、通常の税率(4%)が適用されます。

② 相続の場合

・登録免許税:固定資産税評価額の0.4%

・不動産取得税:原則として 相続による取得は非課税

ただし、特定遺贈など相続人以外が取得する場合には課税されるケースもあります。

したがって、不動産に関しては 登録免許税・不動産取得税の両面で相続の方が有利 です。

特に財産の大部分が不動産である場合、生前贈与を行うと相続時よりも多くの税負担が発生する可能性があるため、制度上の軽減措置や不動産の種類・用途を十分に確認したうえで判断する必要があります。

参考: 国税庁 No.7191 登録免許税の税額表

    総務省 不動産取得税

2-4. 贈与税は高くなりやすいが対象となる財産は限定される

生前贈与を行う場合、贈与税が相続税に比べて高くなりやすいという特徴があります。

特に高額な不動産や金融資産を一度に贈与すると、想定以上の税負担が発生することも少なくありません。

一方で、相続税は亡くなった時点での相続財産のすべてが課税対象となりますが、贈与税はあくまで「実際に贈与した財産」に限って課税されます。

そのため、贈与税の負担は相続全体に比べれば限定的ともいえます。

さらに、贈与には年間110万円の基礎控除があり、教育資金や住宅取得資金のように一定の条件を満たせば非課税制度を利用することも可能です。

このように、生前贈与は一度に大きな負担がかかるリスクがある反面、計画的に行えば対象財産を限定できるというメリットがあります。

3. 生前贈与がおすすめされるケースとは

「生前贈与」と「相続」のどちらを選ぶかは、財産の種類や家族のご状況によっても変わります。

特に生前贈与は、計画的に活用することで節税につながるだけでなく、財産を渡す相手やタイミングを柔軟に調整できるメリットがあります。

以下は、生前贈与の検討がおすすめされるケースです。

3-1. 早めに相続税対策を開始したい

相続税は相続財産全体に課税されますが、贈与税はあくまで贈与した財産だけが対象となります。

早い段階から贈与を進めておけば、相続財産を計画的に減らすことが可能です。

相続税が発生することが明らかで、少しでも次の世代の負担を減らしたいという方は、生前贈与の活用がおすすめです。

3-2. 収益のある不動産を贈与したい

賃貸物件などの収益不動産は、将来的に継続して収益を生むと相続財産が膨れ上がってしまいます。

早めに贈与しておけば、その後の収益は受贈者に帰属するため、相続財産の増加を抑える効果が期待できます。

また、早期に収益不動産を贈与しておくと、受贈者が自由に修繕や運用、売却などもできるようになります。

3-3. 法定相続人以外の方へ財産を渡したい

相続では原則として法定相続人が財産を相続します。

しかし、生前贈与であれば孫や兄弟姉妹、さらには法定相続人以外の第三者にも財産を渡すことが可能です。

贈与者が元気なうちから財産を託せるため、柔軟に贈与先を決めることができます。

なお、相続においても遺言書を用いて第三者に財産を渡せますが、「相続に巻き込んでしまう」「2割加算の特例が適用される」などのデメリットがあります。

3-4. 親族の進学や結婚などを資金面でサポートしたい

親族の学費や結婚資金などを支援したい場合には、生前贈与を通じて非課税制度を活用できます。

代表的なものが「教育資金の一括贈与非課税制度」や「結婚・子育て資金の一括贈与非課税制度」です。

まず「教育資金の一括贈与非課税制度」では、30歳未満の子や孫に対して教育資金を一括して贈与する場合、最大1,500万円まで非課税となります(ただし、学校以外に支払う塾や習い事などは500万円までが上限)。

この制度を利用すれば、高額になりがちな学費や留学費用をサポートしつつ、贈与税の負担を回避できます。

「結婚・子育て資金の一括贈与非課税制度」では、18歳以上50歳未満の子や孫に対して結婚費用や子育て資金を贈与する場合、最大1,000万円まで非課税となります(うち結婚費用は300万円が上限)。

これらの非課税制度は一定の期限や条件が設けられており、注意点があります。

例えば、金融機関を通じた口座での管理や、領収書による使途の証明が必要です。

また、贈与を受けた人が期限までに資金を使い切れなかった場合、その残額には贈与税が課される点にも注意が必要です。

使いにくさも指摘されていますが、非課税で贈与できる点は注目すべきでしょう。

このように、制度を正しく理解して活用すれば、相続税対策を兼ねながら親族の人生の節目を資金面で支援できるため、贈与の大きなメリットとなります。

4. 相続がおすすめされるケースとは

相続には相続特有の控除や特例が用意されており、財産の内容や相続人の状況によっては、生前贈与よりも有利になるケースもあります。

おすすめされるケースは以下です。

4-1. 控除や特例を利用し節税したい

相続には基礎控除や配偶者控除、小規模宅地等の特例など、税負担を軽減する仕組みが整っています。

財産総額や種類によっては、生前贈与を行わなくても十分に節税効果が得られることがあります。

4-2. 遺言書や生命保険も含めて相続対策を進めたい

遺言書を作成すれば、法定相続人以外の親族や団体にも財産を遺すことが可能です。

贈与ではなくても、自分の意思を次世代に反映できます。

また、生命保険金には「法定相続人の人数×500万円」の非課税枠があり、相続税対策として活用できます。

生命保険金の非課税枠にはカウントされませんが、法定相続人以外の方が生命保険金(死亡保険金)を受け取ることも可能です。

ご自身の死後に用意されているこうした制度を活かすなら、相続を前提に資金の移転タイミングをどうするか、じっくりと計画を立てる方が合理的です。

4-3. 相続税の資金は確保できている

相続税を支払うための資金が十分に準備できている場合には、無理に生前贈与を行う必要はありません。

生前贈与は確かに相続税対策として有効な方法ですが、贈与方法や金額に応じて贈与税の申告などの手続きやコストが発生します。

資金に余裕があり、相続発生時にまとまった額を一括で納税できるのであれば、あえて複雑な贈与を繰り返すよりも、相続時にまとめて清算することも選択肢の1つでしょう。

4-4. 法定相続人の話し合いに任せたい

相続の場合、相続人同士が遺産分割協議を行い、話し合いを通じて遺産の分け方を決めていきます。

生前に贈与で分け方を決めてしまうと、特定の相続人だけが優遇されたと感じたり、相続開始後のバランスが崩れたりする可能性があります。

そのため、あえて生前に分配を固定せず、法定相続人全員の合意に委ねるという選択肢も考えられます。

また、相続には配偶者控除や小規模宅地等の特例など、多くの優遇措置が設けられています。

こうした制度の適用を相続人自身が協議することで、全体として公平かつ節税効果の高い分割が実現できる場合もあります。

5. 生前贈与と相続は税理士へご相談ください

生前贈与と相続は、いずれも大切な財産を次世代に受け渡すための仕組みですが、それぞれに特徴と注意点があります。

生前贈与は非課税制度や特例を活用すれば、相続税の軽減や柔軟な資産移転が可能です。教育資金や結婚・子育て資金の支援など、人生の節目に合わせて資金を届けられる点も大きなメリットといえるでしょう。

一方、相続には基礎控除や配偶者控除、小規模宅地等の特例など有利な制度が用意されており、相続税の方が贈与時よりも税率は低く設定されています。

どちらが有利なのかは財産の種類や総額、家族の状況に応じて異なるため、早い段階から税理士へご相談ください。

監修

中村亨

日本クレアス税理士法人 代表
税理士
公認会計士

2002年8月に会計事務所として創業、2005年には税理士事務所を開業し、法人や個人のお客様の会計・税務の支援をする中で、「人事労務の問題を相談をしたい」「事業承継を検討している」といったお客様のニーズに応える形でサービスを拡大し続け、現在では社会保険労務士法人など複数の法人からなるグループ企業に成長してきました。お客様に必要なサービスをワンストップで提供できることが当社の強みです。

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