遺言を作成するときには、もちろん遺言を作成する人より相続人のほうが長く生きていくことを想定して、遺言を作成します。
しかし、突発的な出来事で遺言者より受遺者(じゅいしゃ)のほうが早く死亡してしまう場合や、高齢化社会になり受遺者自体も高齢で受遺者のほうが早く死亡してしまう場合もあります。そのような事態にはならないほうが良いのですが、いざというときのために備えるのが相続対策です。
遺言者より先に受遺者が死亡した場合に備えて、予備的遺言という制度があります。今回は予備的遺言について解説していきたいと思います。
目次 |
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1.予備的遺言とは |
1.予備的遺言とは
遺言書は、自分が死亡したときに備えてあらかじめ書いておくものですので、遺言書が書かれてから執行されるまでにはタイムラグがあります。 その間に、受遺者が死亡するなどの事態が発生したときに備えて、遺言書の中にさらに次の受遺者などを指定していく方法が予備的遺言です。
2.遺言者より先に受遺者が死亡して遺言書がない場合
遺言書で受遺者が指定されており、遺言者より先に受遺者が死亡した場合には、その遺言で指定された受遺者の部分については遺贈の効力は生じません。
つまり、受遺者が受ける予定だった財産については相続人に帰属することになるので、通常の遺言書がなかったときのように、法定相続人全員に遺産分割協議によって、どのように財産を相続するかを決定します。
相続では、相続が発生する前に相続人が死亡していたり、相続人が相続権が失ったときには、その子供や孫が相続人になります。これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)といいます。
しかし、遺言書で受遺者が指定されている場合には、その受遺者については代襲相続という制度がありません。
したがって遺言書の遺贈が効力を失ってしまうと、その遺言書で遺贈されるはずだった財産は、もともとの遺贈者の相続人のものとなるので、法定相続人全員の遺産分割協議でどのように相続をするのかを決定することになるのです。
2-1.判例では?
最高裁判所の判例でも、長男に全財産を相続させるという遺言があり、被相続人の死亡前に長男が死亡した場合に、全財産を長男の子に代襲相続できるかどうかということが争われましたが、遺言で代襲相続されるという意思がなければ、法定相続分以外の代襲相続は認められないという趣旨の判決が出されました。
この場合、もし長男が生きていれば遺言により相続できたはずの財産は、長男の子は相続することができません。
しかし、もともとの相続権がありますので、遺産分割協議に参加してそこで決まった財産を相続することはできます。もし遺言書で、長男が死亡した場合には長男の子に相続させるということが書いてあれば、長男が遺言書で相続できた財産は、そのまま長男の子が相続できたということになりますね。
3.遺贈者より受遺者が先に死亡した場合の対応
では、受遺者が先に死亡してしまう場合に備えて、どのようなことを行えばよいのでしょうか。
3-1.(1)遺言書の書き換え
受遺者が先に死亡した場合に、第一に考えられるのは、遺言書を書き換えることです。
全部を作り直すことも一部を変更することも可能ですが、遺言書の書き換えには、相続の専門家のアドバイスのもとで行うことをおすすめします。
3-2.(2)予備的遺言の活用
遺言には、受遺者が死亡するなどの事態が発生したときに備えて、遺言書の中にさらに次の受遺者を指定することができます。これを予備的遺言といいます。
予備的遺言を書いておくことで、もし自分が生きていても認知症になるなどで遺言書を書き直すことができなくなった場合に備えることができます。
できるかぎり先のことを考慮した遺言を作成することで、相続に対する不安もなくなりますし、もし不測の事態が起こったときにも、争いごとの多い相続を円滑にすすめていくことができます。
4.予備的遺言の書き方と文例
予備的遺言の例としては、
全財産を長男に相続させる。ただし、私と同時もしくは私より先に長男が死亡した場合には、長男の子に相続させる。
という形式で書けばよいでしょう。
自筆証書遺言書の書き方はこちらのコラム「自筆証書遺言書の正しい書き方を種類別、ケース別で解説」で紹介しています。以下は、左記のコラム預貯金の記載例に予備的遺言の記載を追記する場合の文例です。
【預貯金の記載例】
第1条 遺言者は、遺言者の長男◯◯◯◯(昭和◯年◯月◯日生)に、下記の預貯金及び利息金を相続させる。
記
◯◯銀行◯◯支店
総合口座 普通預金 口座番号 ◯◯
総合口座 定期預金 口座番号 ◯◯
第2条 遺言者は、遺言者の長男◯◯◯◯が遺言者と同時もしくは遺言者より先に死亡した場合には、同人に相続するとした前条の預貯金及び利息を同人の長男△△△△(昭和△△年△△月△△日生)に相続させる。
具体的には、他の相続人との関係や財産の状態によって、どのように書けばよいのかが違ってきますので、相続の専門家に相談しながら遺言書を作成することをおすすめします。
5.予備的遺言のまとめ
相続は、相続人同士の関係や財産の状況によって、複雑なものになりがちです。
また、普段は仲のよい相続人同士も、相続となると争いが発生してしまうケースも多いのです。このような争いの多くは、事前に相続対策をしておくことで避けることができます。最初から被相続人の意思をはっきりさせて、どのように相続をさせるかを決めておけば相続人も納得することが多いからです。
しかし、せっかく争いのないように遺言書を作成しても、受遺者が亡くなるという不測の事態で争いが発生してしまっては悲しいですよね。
このような事態を避けるために、信頼できる相続の専門家のアドバイスのもと、不測の事態に備えて予備的遺言を含めた遺言書を作成しておきましょう。
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