家族信託は家族間の財産管理方法の1つで、認知症対策に利用できる制度です。
家族信託を利用するには信託契約書を作成し、当事者間で信託契約を結ぶ必要がありますが、費用はどのようになっているのでしょうか。
また、専門家に依頼した場合にはどのくらいの報酬を支払う必要があるのでしょう。
本記事では、家族信託の費用について実費や報酬相場をはじめ、安く抑える方法についても解説します。
家族信託の費用が知りたいという方はぜひご覧ください。
目次
1. 家族信託にかかる費用総額の相場と内訳
家族信託にかかる費用は信託財産の金額に比例するため、一概にこのくらいの費用ということはいえません。
しかし、一般的な家族信託のケースでは、総額で20万円〜100万円ほどが相場となる場合が多いです。
家族信託は開始する際にかかる金額が一番大きいため、初期費用が準備できればその後はまとまった資金は必要ありません。
具体的には下記の費用が家族信託では必要になります。
<家族信託の利用に必要な費用>
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専門家への依頼をしない場合には、かからない費用もありますので、家族信託のやり方によっても費用が変動します。
下記では、家族信託にかかる費用を期間ごとに整理してみていきましょう。
2. 家族信託の開始にかかる8つの費用相場
家族信託を開始する際の初期費用は、下記の8つから構成されています。
内容 | 費用相場 |
---|---|
家族信託に関するコンサルティング報酬 | 専門家報酬:信託財産の0.5〜1% |
家族信託契約書の作成費用 | 専門家報酬:10〜15万円 |
家族信託契約書を公正証書で作成する費用 | 実費:5,000円〜25万円 専門家報酬:10〜15万円 |
信託登記手続きの費用 | 専門家報酬:5〜15万円 |
信託登記に必要な登録免許税 | 固定資産税評価額の0.4% 土地の場合:0.3% |
収入印紙にかかる印紙税 | 一通あたり:200円 |
信託口口座の開設費用 | 5〜10万円 |
必要書類の収集・郵送費用 | 実費:5,000円~1万円程度 |
それぞれどのような場合にかかる費用なのかみていきましょう。
2-1. 家族信託に関するコンサルティング報酬
家族信託の内容や方針を決定する際に、外部に委託した場合にはコンサルティング報酬がかかります。
家族信託は法律の専門家である弁護士や司法書士に依頼することが一般的。
また、税金についての相談も行いたいという場合には税理士へ依頼するケースも存在します。
専門家への報酬は事務所側が独自に設定できるため、同じ内容であっても依頼先によって費用が異なります。
報酬は信託財産の大きさに比例して設定されているところがほとんどで、信託財産の0.5〜1%ほどが相場となっています。
たとえば、1,000万円の信託財産だとしたらコンサルティング報酬は5〜10万円となります。
家族信託の目的は財産管理の自由度を上げ対策する事にありますので、すべての財産ではなく最小限の財産に留めることでコンサルティング報酬を抑えることが可能です。
2-2. 家族信託契約書の作成費用
家族信託契約書の作成を自分で行なった場合には無料ですが、専門家に頼んだ場合には報酬としての費用が発生します。
一通あたり10~15万円が作成報酬の相場となっています。
家族信託は委託者と受託者の間で取り交わす長期の契約となるため、専門家の指導のもと内容を決定し作成されることが一般的です。
そのため、コンサルティング費用の中に作成費用を含めている事務所もあります。
内容は独自に決定し、作成だけを委託するという場合には上記の費用がかかってきます。
2-3. 家族信託契約書を公正証書で作成する費用
家族信託契約書を公正証書として作成する場合には、別途費用が発生します。
公正証書とは証拠力・信用力が高い公文書で、作成された内容を確実に証明することが可能です。
公正証書の作成は公証役場にて、公証人が読み上げ文書化していきます。
実費として5,000円~25万円ほどが必要です。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額 |
引用:日本公証人連合会公式HP
作成を専門家に依頼した場合には、実費とは別に10〜15万円の報酬がかかります。
公証役場は通常の役場とは異なり、平日の9〜17時までしか開庁していないため、時間を作るのが難しいという場合には専門家への依頼が必要です。
なお事務所によっては、公正証書の作成報酬をコンサルティング費用に含んでいるところもあります。
2-4. 信託登記手続きの費用
信託財産に不動産を含む場合には、信託登記が必要になります。
信託登記とは、該当の不動産が信託財産であることを公示するための手続きです。
専門家に依頼する場合には、10〜15万円の費用がかかります。
信託登記は、登記のプロである司法書士か弁護士に依頼することが一般的です。
2-5. 信託登記に必要な登録免許税
信託登記を行う場合には、登録免許税という税金が発生します。
登録免許税は一律で設定されており、固定資産税評価額に比例して大きくなります。
建物の場合には固定資産税評価額の0.4%、土地の場合には0.3%が登録免許税として必要です。
たとえば、建物が4,000万円・土地が2,000万円の不動産の場合には、240万円が登録免許税でかかります。
2-6. 収入印紙にかかる印紙税
印紙税法で定められているため、信託契約書には収入印紙を貼付する必要があります。
信託契約書に必要な収入印紙の印紙税は200円です。
印紙税は信託財産の大きさなどには左右されないため、どのような場合でも一定の金額となっています。
2-7. 信託口口座の開設費用
家族信託を利用するために信託口口座を開設する場合には、口座開設費用がかかる場合があります。
信託口口座とは、信託財産の管理を行う際に使用する口座です。
口座開設費用の相場は5〜10万円となっていますが、金融機関によっては無料で開設できるところも。
家族信託で運用する財産については、分別管理義務があるため個人の財産とは分けて管理する必要があります。
法律上、信託口口座を必ず開設する必要はありませんが、しっかりと信託財産の運用を進めていくためにも作成しておくことがおすすめです。
2-8. 必要書類の収集・郵送費用
家族信託では、信託契約書のほかにもいくつか必要な書類があります。
これらの収集費用や郵送費用として5,000円〜1万円ほどがかかるでしょう。
<家族信託の必要書類>
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関係者や財産が多くなるほどに、必要な実費も増加しますので注意しましょう。
3. 家族信託開始後にかかる可能性がある費用
家族信託は初期費用が一番大きく、基本的には最初しか費用がかからない手続きです。
しかし、場合によっては費用が発生する可能性があるため紹介します。
内容 | 費用相場 |
---|---|
信託監督人・受益代理人報酬 | 月額1〜2万円 |
家族信託内容の変更費用 | 公証役場の費用:5,000円〜25万円 登録免許税:不動産1個につき1,000円 専門家の費用:5~10万円 |
受託者への報酬 | 委託者と受託者間で決定 3〜5万円・収益の3〜5%ほどが一般的 |
家族信託の開始後は、上記3つの費用がかかる可能性がありますので1つずつみていきましょう。
3-1. 信託監督人・受益代理人報酬
家族信託の開始後、信託監督人や受益代理人を立てる場合には、月額で報酬が発生します。
報酬相場は毎月1〜2万円ほどとなっているため、年に10〜20万円ほどが必要になります。
なお信託監督人とは、受託者がしっかりと信託内容を遂行しているか監督する人です。
また受益代理人とは、受益者の代わりに権利を代理する人を指します。
これらの代理人は、受益者の保護と信託業務の円滑化を目的として、委託者が選任することが多いです。
3-2. 家族信託内容の変更費用
家族信託の内容は開始後からでも変更可能で、変更する場合には費用がかかります。
公証役場での費用は実費として5,000円〜25万円ほど、専門家に依頼した場合には5〜10万円ほどが相場となっています。
そのほか、必ずかかる費用として不動産1つにつき1,000円の登録免許税がかかりますので注意しましょう。
家族信託は長期の契約となるため、家族構成や事情が変わってくる場合があります。
そのため、財産承継者の変更や受託者の権利範囲を変更するなどが想定できます。
3-3. 受託者への報酬
家族信託の受託者には大きい負担がかかるため、受託者にも利益があるように報酬を支払う場合があります。
委託者と受託者の間で自由に報酬を決定できますが、3〜5万円・収益の3〜5%ほどが一般的です。
一点、信託した内容に対して過大な報酬である場合には、贈与とみなされてしまう可能性があります。
そうなってしまった場合には、贈与税を支払わなければなりませんので注意しましょう。
4. 家族信託の終了時にかかる費用
家族信託は、信託契約を交わすときに決定した終了事由を満たした際に契約が終了します。
たとえば、認知症対策として家族信託を利用していた場合には、受託者が亡くなったことで信託契約が終了することが多いです。
契約が終了した場合には、信託契約で定めていた帰属権利者に財産が承継されます。
家族信託を修了する際にも費用がかかりますので、整理しておきましょう。
内容 | 費用相場 |
---|---|
信託財産に金銭がある場合 | 振り込み手数料:1,000円ほど |
信託財産に不動産がある場合 | ・相続登記にかかる登録免許税 固定資産税評価額の0.4% ・信託の抹消登記にかかる登録免許税 不動産1つにつき1,000円 専門家報酬:8〜15万円 |
相続にかかる費用 | 相続税・税理士報酬 どちらも財産総額に比例 |
それぞれにかかる費用を解説します。
4-1. 信託財産に金銭がある場合
信託財産に金銭があった場合には、信託が終了した際に帰属権利者に金銭が承継されます。
その際には振り込み手数料が発生し、およそ1,000円ほどの費用がかかるでしょう。
金銭のみの場合には特殊な手続きを必要としないため、ほかの費用は発生しません。
4-2. 信託財産に不動産がある場合
信託財産に不動産がある場合には、金銭のみの場合とは異なり、承継に際して手続きが必要です。
具体的には相続登記と信託の抹消登記が必要になり、どちらも登録免許税がかかります。
前者の費用として固定資産税評価額の0.4%、後者の費用として不動産1つにつき1,000円が必ず発生しますので注意しましょう。
なお、相続登記が必要になるのは「帰属権利者が相続人である場合」です。
また登記手続きを専門家に依頼した場合には、8〜15万円ほどの費用も追加で発生します。
4-3. 相続にかかる費用
家族信託の終了は、受益者の死亡が終了自由となることが一般的です。
家族信託の終了とともに相続が発生するため、相続税やその手続きに伴う税理士報酬が必要です。
相続税と税理士報酬はどちらも課税遺産総額に比例するため、ケースごとに必要な費用が異なります。
もちろん専門家に依頼しない場合には、税理士報酬はかかりません。
家族信託は財産管理方法であるため、直接的な節税効果がない点には注意が必要です。
5. 家族信託の費用を抑える3つの方法
これまで解説したように、家族信託にはさまざまな費用が発生します。
しかし、下記の方法を取ることで家族信託にかかる費用を抑えることが可能です。
<費用を抑える方法>
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それぞれの方法について解説します。
5-1. 家族信託を自分で開始する
家族信託を自分で開始することで、家族信託にかかる費用を抑えることができます。
家族信託は専門的な知識を必要とする契約のため、専門家のアドバイスのもと行うことが一般的です。
しかし専門家に依頼する場合には、コンサルティングや登記などさまざまな面で報酬を支払う必要があります。
そのため費用を抑えたいという場合には、自分で始めることで大きく費用を抑えることが可能です。
自分で行う場合には、家族信託制度への理解がないと希望通りの内容が実現できないので注意しましょう。
5-2. 信託する財産を最小限にする
信託財産を最小限にすることでも、家族信託にかかる費用を抑えることが可能です。
多くの場合、専門家報酬は信託財産の大きさに比例して大きくなります。
また、取り扱う財産が増えることで、登記の必要や手続きの増加が発生するため、その分の専門家報酬も必要になります。
すべての財産を信託する必要はありませんので、家族信託費用を抑えたいという場合には、信託財産を絞って行いましょう。
5-3. 家族信託契約書を公正証書にしない
家族信託契約書を公正証書にしなければ、その分の費用を抑えることができます。
「公正証書として信託契約書を作成しなければいけない」ということは法律で定められていません。
証拠力や信用力が高い公文書であることから、公正証書にすることが推奨されているだけです。
そのため、費用を抑えたいという場合には私文書で契約書を作成するといいでしょう。
しかし、紛失した場合に再発行ができない点や、信託口口座を開設できない可能性がある点などがデメリットとして発生します。
また、証拠能力が乏しいため家族間でのトラブルの種になる可能性がある点にも注意しましょう。
6. 家族信託にかかる可能性がある4つの税金
家族信託は、場合によって下記4つの税金がかかる可能性があります。
<家族信託にかかる可能性がある税金>
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それぞれの税金はどのような場合にかかるのかみていきましょう。
6-1. 贈与税
家族信託において贈与税の対象となるのは受益者です。
ただ、すべての受益者に対してかかるのではなく、他益信託の受益者に対してかかります。
他益信託とは、委託者と受益者が違う場合の家族信託です。
この場合には、委託者が所有する財産の収益をほかの人物が受け取ることになるため、その収益が贈与とみなされ贈与税がかかります。
そのため、委託者と受益者が同一人物である自益信託の場合に贈与税はかかりません。
6-2. 相続税
家族信託の終了自由が受益者の死亡である場合には、財産を承継する帰属権利者に対して相続税が発生します。
通常の相続と同様に、相続財産の総額が基礎控除を超えた場合にのみ相続税が発生する仕組みです。
また受益者が死亡した場合でも、次の受益者が指定されている場合には、帰属権利者ではなくその人に対して相続税が発生します。
どちらの場合でも、信託財産が相続財産として扱われるために相続税が発生するのです。
6-3. 所得税・住民税
自益信託の場合には、信託財産から発生した収益に対して所得税・住民税が発生します。
自分の財産から収益を得ていることになるため、その収益は所得とみなされ、所得税・住民税の対象となるのです。
家族信託を利用しているからといって、特別な控除や節税効果があるわけではありませんので注意しましょう。
6-4. 固定資産税
信託財産が不動産である場合には、受託者に対して固定資産税がかかります。
固定資産税とは、不動産の所有者に対して毎年発生する税金です。
家族信託においては、信託財産の名義人が受託者となるため、固定資産税も受託者が支払うこととなります。
ただ、この固定資産税は受託者自身の財産ではなく、信託財産から発生している収益で支払っても問題ありません。
7. まとめ
ここまで、家族信託にかかる費用を解説してきました。
家族信託では初期費用が一番大きいですが、開始後・終了時にも費用がかかる可能性があります。また家族信託の内容によっては、贈与税や固定資産税などがかかる場合もあるので注意しましょう。
家族信託は専門家に依頼せずに自分で行うことで、専門家報酬分の費用を大きく抑えることが可能です。
しかし、家族信託への理解が深まっていない状態で自分で行うことは現実的ではありません。
そのため、家族信託の利用を検討しているという場合には、まずは相談だけでも専門家に行うことがおすすめです。
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