認知症を発症したことが銀行側に知られてしまうと、銀行口座が凍結されてしまいます。
銀行口座が凍結されてしまうと、誰もその口座からお金を引き出すことができません。
ただ、認知症による銀行凍結は、家族信託という制度の利用で防ぐことが可能です。
本記事では、認知症によって銀行口座が凍結されてしまう理由や口座凍結対策を解説。
とくに家族信託については、利用のメリットや手続きの流れまで紹介します。
認知症対策を検討している・口座凍結は避けたいという方はぜひご覧ください。
目次
1. 認知症になると銀行口座が凍結されてしまう
銀行口座を持っている状態で認知症を発症してしまった場合には、口座が凍結されてしまいます。
口座凍結とは、引き出しや預け入れなどの取引が停止されることを指します。
口座が凍結されると取引すべてが停止されるため、引き出しはもちろん振り込みや引き落としなどもできなくなってしまいます。
口座が凍結される原因はいくつかあり、代表的なものは下記のとおりです。
<口座凍結の原因>
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これらが原因で口座は凍結されますが、口座が凍結される理由はそれぞれの原因ごとに異なります。
以下では、認知症によって口座が凍結されてしまう理由やそのタイミング・対処法についてみていきましょう。
1-1. 銀行口座が認知症によって凍結される理由
認知症によって銀行口座が凍結されてしまう理由は3つあります。
<認知症が原因で口座が凍結されてしまう理由>
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認知症の方は物忘れが激しくなってしまうため、引き出したことを忘れてしまい、トラブルに発展する可能性があります。
毎回対応していては銀行側の負担も大きくなり、取引が安定しなくなってしまうために口座が凍結されてしまうのです。
また、介護費用をめぐった家族争いに銀行が巻き込まれないようにするために、口座凍結を行う場合があります。
認知症となってしまった人の口座から介護費用を引き出して使っていたとしても、ほかの親族からしたら本当に介護費用に充てているのか疑われトラブルに発展することがあります。
そうなったときに銀行側も出金に対応したとして責任を問われる可能性があるため、事前に口座を凍結するのです。
そして、大前提として口座からの出金には本人の意思能力が必要になります。
認知症になってしまうと意思能力が失われてしまうため、認知症と銀行側が判断した時点で口座が凍結されてしまうのです。
認知症の口座凍結にはさまざまな理由がありますが、一番大切なことは本人に意思能力が確認できるかという点になります。
1-2. 認知症によって銀行口座が凍結されるタイミング
認知症によって銀行口座が凍結されるタイミングは、口座の名義人が認知症によって意思能力が低下していると銀行側が認識したときです。
認知症と診断されたらすぐに口座が凍結されてしまうわけではなく、何らかの理由で認知症になったことを銀行側が把握したときに口座凍結の処置が取られます。
銀行側が認知症を知る理由としては、下記のようなパターンが挙げられるでしょう。
<銀行側が認知症を知る理由>
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また、介護費用に充てるためATMでは扱えない金額を窓口対応で下ろそうとした場合なども考えられます。
すぐに知られるということは考えにくいですが、認知症が発症してしまうといずれ銀行側にも伝わって口座が凍結されてしまうでしょう。
1-3. 条件を満たせば一時的な引き出しが可能
銀行口座が凍結されてしまった場合には、基本的にその口座からお金を引き出すことはできません。
しかし、状況の説明とともに介護費用に充てるという証明ができれば、一時的に凍結口座から現金を引き出すことが認められる場合があります。
ただ、あくまで一時的なものになるので、定期的に引き出すことはできません。
介護では継続的にお金が必要になるため、銀行側から成年後見制度の利用が推奨されるでしょう。
2. 認知症になる前にできる4つの口座凍結対策
認知症になる前にできる口座凍結対策は大きく4つあります。
<口座凍結対策>
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それぞれどのようなタイミングで使える方法なのかみていきましょう。
2-1. キャッシュカードの暗証番号を聞く
認知症が疑われる場合には、その人のキャッシュカードの場所と暗証番号を聞いておきましょう。
口座凍結はすぐに行われるわけではないため、発症後一時的な取引はできる可能性があります。
ただ、あくまで一時的な対策のため、口座が凍結されてしまった場合には取引できません。
2-2. 代理人カードの作成・代理人予約サービスの利用
代理人カードとは、本人のキャッシュカードとは別に生計を共にする親族が持てるカードです。
入院時や本人が外に出れないといった状況を想定して、金融機関が設定しているカード。
ほとんどの金融機関では1口座に対して1枚しか発行できず、代理人カードを使うことで本人と同じ口座からお金を引き出すことができます。
ただ、代理人カードであっても口座が凍結されてしまったら取引はできなくなります。
代理人予約サービスとは、取引ができなくなる場合に備え、本人の代わりに取引が可能な代理人を指定できるサービスです。
代理人となった人は、本人の意思が確認できなくなった場合でも本人に変わって資産の管理ができます。
しかし、代理人予約サービスも成年後見を行うまでの一時的なサービスのため、長期間利用していると銀行側から成年後見を推奨されるようです。
2-3. 任意後見制度の利用
任意後見制度を利用することで、口座凍結を解除できるようになります。
任意後見制度とは、自分が認知症を発症してしまったときなどに備えて、自分の代理権を与える人を事前に指定できる制度です。
任意後見は本人の意思能力が欠如してしまった場合に効力が発揮され、代理人(任意後見人)は本人に代わりさまざまな手続きを行うことができます。
ただ、任意後見契約は公証役場で締結する必要があり、代理人が正常に役割を果たすか監督する後見監督人をつけなければなりません。
手間がかかるとともに、後見監督人には報酬を払う必要があるため費用もかかります。
しかし、手間と費用がかかるものの任意後見人は口座凍結を解除し、介護費用を引き出すことが可能です。
2-4. 家族信託の利用|口座凍結対策に最適
家族信託を利用することで、口座凍結自体を回避することができます。
家族信託とは財産管理方法の1つで「委託者」・「受託者」・「受益者」から成る制度です。
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認知症対策として家族信託を利用し、信託財産を金銭にすることで、事前に介護費用を受託者に預けることができます。
<家族信託・認知症対策の例>
親の認知症対策として、親の口座にある金銭を信託財産にして息子と信託契約を結びます。
この場合親が委託者と受益者を兼任し、息子が受託者となります。
受託者である息子が信託財産の管理用に作成した、新しい口座に信託する金銭を移します。
すると、認知症を発症してしまった場合でも、親の口座は凍結されてしまいますが、信託管理用の口座は凍結されません。
このように、家族信託を利用することで実質的に口座凍結を防ぎ、口座内の金銭を介護費用に充てることができます。
3. 認知症対策に家族信託を利用する5つのメリット
認知症対策に家族信託を利用するメリットは、大きく5つあります。
<家族信託を認知症に利用するメリット>
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それぞれどのようなメリットなのかみていきましょう。
3-1. 財産管理の自由度が高い
家族信託はほかの認知症対策に利用できる制度に比べ、財産管理の自由度が高いというメリットがあります。
家族信託では信託財産の増収を目的とした運用が可能で、委託者の意思能力が失われた後でも自由に財産を扱えます。
認知症発症後に利用できる制度として成年後見制度がありますが、この制度では財産の保守・管理が大前提となります。
そのため、財産の増加を目的とした投資などを行うことができません。
また財産管理委任契約では、売却など本人の意志能力を必要とする財産運用は制度の範囲外となっています。
信託財産の売却やさらなる増収を目的としている場合には、意思能力が失われた後でも財産管理ができる家族信託がおすすめです。
3-2. 受託者を自分で決定できる
家族信託では、財産管理を行う受託者を自分で決定できるというメリットがあります。
成年後見制度では、財産管理を行うことになる後見人を自分の意思で選ぶことができません。
後見人を選ぶのは家庭裁判所で、ほとんどのケースにおいて弁護士や司法書士などの専門家が選出されています。
そのため、自分の財産を信頼できる身内に託したいという場合には家族信託の利用がおすすめです。
3-3. 相続による遺族負担が軽減できる
家族信託を利用することで、自分の相続に関わる遺族の負担を軽減することが可能です。
家族信託には遺言と同じような効力があり、帰属権利者に指定された人が信託財産の相続人となります。
そのため、信託財産に関して遺産分割協議を行う必要がなくなります。
ただ適切に家族信託を利用できないと、遺留分を侵害してしまうなど、かえって相続トラブルを引き起こしてしまう可能性がありますので注意しましょう。
3-4. 共有不動産に関するトラブルを回避できる
家族信託を利用することで、受託者に不動産運用の決定権を集約できるため、トラブルを回避できる可能性があります。
共有不動産では、不動産の売却や大規模な修繕を行う場合には、権利を有している全員の合意が必要です。
権利者が1人でも合意しなかった場合には、その運用を行うことができず、最悪の場合には塩漬け不動産となる可能性もあるでしょう。
しかし、家族信託を利用し受託者に権限を集約することで、受託者単独での不動産管理・運用が可能になります。
ほかの権利者は受益者として収益を受け取りつつ、受託者が適切な運用を行うことで余計なトラブルを回避できるのです。
3-5. 二次相続以降の財産承継を指定できる
家族信託では、相続ではできない二次相続以降の財産承継を指定できます。
相続では遺言によって財産の承継先を指定可能ですが、指定できるのは一次相続のみです。
その点、家族信託の受益者連続信託という方を利用すれば、二次相続以降も承継先が指定できます。
たとえば「自分の死後は妻に、妻の死後は息子Aに、息子Aの死後は孫Bに、、、」といった形です。
さらに家族信託では財産の管理方法を指定できるため、売却ができないように契約で縛ることもできます。
二次相続以降も承継先を指定したいという場合には、家族信託を利用しましょう。
4. 家族信託を利用する手続きの流れ
家族信託手続きは、下記の流れで進めていきましょう。
<家族信託手続きの流れ>
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それぞれのステップにおける手続きを解説します。
4-1. 家族信託の内容を関係者で話し合う
家族信託の手続きでは、契約内容を関係者全員で話し合うことから始めましょう。
家族信託契約では実質的な相続人を決定することになるため、相続の財産分割に影響します。
また、長期的な契約になるため、受託者となる人の負担が非常に大きいです。
その分、受託者は大きな権限を持ち、報酬を受け取る可能性もあります。
そのため、関係者全員の合意が取れていないと、契約の途中でトラブルになる可能性もあるでしょう。
後々のトラブルに発展しないよう、最初から関係者全員で話し合っておくことが大切です。
4-2. 家族信託契約書を公正証書で作成・締結
家族信託の内容が固まったら、契約書を公正証書で作成しましょう。
公正証書とは、証拠力・信用力に優れた公文書です。
家族信託は長期に渡る契約になるため、契約の途中に内容に不満を持つ人が出てくる可能性があります。
最悪の場合訴訟などに発展する可能性があり、その際に私文書で作成していると正当な主張ができなくなってしまいます。
また、紛失・盗難時には再発行することもできないため、リスクがかなり大きいです。
費用や手間はかかってしまいますがその分メリットも大きいため、家族信託の契約書は公正証書で作成しましょう。
4-3. 信託財産を管理する信託口口座を開設
契約が締結できたら、信託口口座を開設しましょう。
信託口口座とは、特定の銀行で設けられている信託財産管理専用の口座です。
家族信託における受託者は「分別管理義務」によって、個人財産と信託財産を明確に分けて管理しなければなりません。
管理方法には下記の2つがありますが、信託口口座での管理が推奨されています。
<信託財産の管理方法>
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信託口口座には、差し押さえの対象にならない「倒産隔離機能」・口座が凍結されないという2つの大きなメリットがあります。
財産管理の自由度を損なわないためにも、信託口口座で信託財産を管理しましょう。
4-4. 委託者の口座から信託財産を移し管理開始
信託口口座の開設が完了したら、委託者の口座から信託財産を移して管理を開始します。
金銭の場合には、上記のように対応しますが、ほかの財産の場合には名義変更などが必要です。
たとえば、不動産では「信託登記」・「所有権移転登記」を行う必要があります。
信託財産ごとに所定の手続きを行い、管理を開始しましょう。
5. 家族信託を認知症対策に利用する際の注意点
認知症対策に家族信託を利用する場合には、下記の3点に注意しましょう。
<家族信託を認知症対策に利用する注意点>
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それぞれの注意点について解説します。
5-1. 家族信託の専門家が少ない
家族信託を実務として扱っている専門家が少ない点に注意しましょう。
家族信託は、利用するケースによって個別の設計が必要になります。
理想通りの契約を設計することは、専門知識があっても難しいため、実績が依頼先を選ぶ際の一つの指標となるでしょう。
しかし、近年利用者が増加している制度のため、実務として扱っている専門家はまだまだ少ない現状があります。
依頼先を選定する際には、家族信託の受任実績を必ず確認しましょう。
5-2. 身上監護まではカバーされていない
家族信託では、身上監護を行うことができないという注意点があります。
身上監護とは成年後見制度における考え方で、被後見人の生活や医療・介護などを適切に整えるために必要な契約行為を指します。
たとえば、認知症発症後の施設への入居契約は身上監護にあたります。
家族信託では身上監護までカバーされていないため、委託者に代わって受託者が入居契約を行うことはできません。
家族信託はあくまで財産管理制度のため、信託財産以外の契約行為などがカバーされていない点に注意しましょう。
包括的な認知症を検討している場合には、身上監護がカバーされている任意後見制度との併用がおすすめです。
5-3. 認知症の発症後には利用できない
家族信託は、認知症の発症後には利用できない点にも注意が必要です。
家族信託は契約行為になるため、開始当初には委託者の意思能力が求められます。
開始する時点で認知症を発症しているには、意思能力が欠如している状態のため、家族信託が利用できないのです。
ただ、軽度の認知症の場合には認められる場合もあります。
医師の判断や公証人に対して正確に受け答えができているか、という点が制度利用において重要です。
6. 認知症で口座が凍結されてしまったら成年後見制度を活用
認知症で口座が凍結されてしまった場合には、成年後見制度を活用しましょう。
家族信託などで事前に対策をしておらず、銀行口座が凍結されてしまった場合には成年後見制度を利用するしかありません。
一時的に口座から引き出す方法はあるものの、継続的な取引には成年後見制度が必須です。
以下では成年後見制度のメリット・デメリットをみていきましょう。
6-1. 認知症に対して成年後見制度を利用するメリット
成年後見制度の利用には、下記3つのメリットがあります。
<成年後見制度のメリット>
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成年後見制度を利用することで、銀行口座の凍結を解除することが可能です。
解除後は後見人が財産を管理し、介護費用などを下ろすことができるようになります。
また、後見人が財産を管理することになるので、親族による財産の使い込みを防止可能です。
そして、後見人は本人に代わって契約の解除を行うこともできます。
認知症を発症してしまうと、正常な判断が難しくなってしまいます。
高齢な家庭を狙った悪徳なセールス販売などは後をたたず、不当な売買契約を結ばされてしまうことも珍しくありません。
しかし、成年後見制度を利用していれば、後見人が被後見人の意志能力欠如を理由に契約の無効を主張可能です。
財産を適切に管理するだけでなく、財産を守るという面でも成年後見制度には大きなメリットがあります。
6-2. 認知症に対して成年後見制度を利用するデメリット
認知症に対して成年後見制度を利用するデメリットは下記のとおりです。
<成年後見制度を利用するデメリット>
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成年後見制度の利用には、開始時に実費や専門家報酬がかかるだけでなく、成年後見人に対して毎月報酬が発生します。
財産の多さに比例して報酬も高くなり、相場としては毎月1〜2万円程度となっているようです。
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成年後見制度は、基本的に本人が亡くなるまで継続する制度のため、その間は継続的に費用が発生します。
また、成年後見制度を開始すると財産管理の自由度は失われます。
被後見人の財産を守ることが前提となるため、被後見人の生活維持や医療介護を目的とした取引以外を行うことはできません。
暦年贈与を利用した相続税対策もできなくなるので注意しましょう。
財産管理の自由度を求めつつ認知症対策を包括的に行いたい場合には、任意後見制度と併用して家族信託を利用することがおすすめです。
7. 家族信託を活用して認知症による銀行口座の凍結を防ごう!
家族信託を利用することで、認知症による銀行口座の凍結を防ぐことが可能です。
また家族信託では、成年後見制度では難しい、増収を目的とした財産運用もできます。
ただ、身上監護まではカバーされていないため、包括的な認知症対策を行う場合には任意後見制度との併用を検討しましょう。
家庭によって認知症対策は大きく異なりますので、最適な制度利用を設計したい場合には専門家に相談することがおすすめです。
日本クレアス税理士法人では、司法書士や弁護士と連携して家族信託をトータルサポートいたします。
家族信託以外の制度についてもサポートが可能ですので、お気軽にご連絡ください。
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