車を買ってもらうと贈与税がかかる?親子間での譲渡は?節税方法を解説

監修
中村亨
日本クレアス税理士法人 代表 税理士 公認会計士
「車を買ってもらうと贈与税がかかる?」
「タダ譲るだけなのに税金が発生するの?」
車を所有できる年齢になると、親や祖父母から車を譲ってもらう・買ってもらうという方もいるでしょう。
実は、いくら血縁関係にあるといっても、一定の要件を満たす場合には贈与税がかかってしまいます。
せっかく相手へのプレゼントとして車を贈るなら、税金がかからない方がいいですよね。
そこで本記事では、どのような場合に車に対して税金がかかってしまうのか解説し、節税方法まで紹介します。
車の贈与を考えている・受ける予定があるという方はぜひ最後までご覧ください。
目次
1. 車を買ってもらう・譲渡を受ける場合にも贈与税がかかる

前述の通り、たとえ血縁関係にあったとしても、車を買ってもらったり譲ってもらったりした場合には贈与税がかかるケースがあります。
具体的には下記2つのケースにおいて、贈与税が発生するので注意が必要です。
- 110万円(基礎控除)を超える車の場合
- 本来の価格より安い金額で譲る場合
なぜ贈与税が発生するのかくわしくみていきましょう。
1-1. 110万円(基礎控除)を超える車の場合
贈与税には誰もが利用できる基礎控除額が110万円分設けられているため、評価額が110万円を超える車の贈与を受けた場合には贈与税がかかります。
ただし、これは車以外の財産贈与を受けていないことを前提とした場合です。
贈与税は毎年1月1日〜12月31日の間に贈与されたすべての財産の合計から、基礎控除を引いた分に対して課税されます。
そのため、車以外の財産の贈与を受けていた場合には、110万円以下の車であっても贈与税が発生する可能性があるのです。
例)贈与税が発生してしまう場合
- 現金:60万円
- 車:100万円
- 贈与合計:170万円
- 基礎控除額:100万円
- 課税対象額:50万円
上記のような場合には、車の価格は100万円ですが、現金の贈与も受けているため贈与税がかかってしまいます。
ケースによって贈与税の発生有無は変わってくるため、110万円は一つの基準として覚えておきましょう。
1-2. 本来の価格より安い金額で譲る場合
本来の価格よりも安い金額で車を譲る場合には、「本来の価格 ー 譲った金額 = 贈与税の対象」となり、場合によっては贈与税が発生します。
たとえば本来500万円の価値がある車をタダで譲った場合、贈与を受けた相手は何の対価も支払わず500万円分の財産を手にしたことになるため、贈与税の対象となってしまうのです。
では、「少額でも相手からお金を受け取れば良いの?」と考える方もいるでしょう。
しかし、少しお金を受け取ったからといってその金額が著しく低い場合には、贈与税の対象となってしまいます。
明確な基準は決められていませんが、財産の80%ほどまでが適正な価格といわれています。
よかれと思って孫や子どもに車を譲ってしまうと、贈与税の負担をかけてしまう可能性があるので注意しましょう。
2. 車の贈与税はいくらからかかる?3ステップで計算

車の贈与税はいくらからかかるのか、具体的な計算方法を解説します。
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それぞれのステップをくわしくみていきましょう。
2-1. 対象車の評価額を求める(査定)
車の贈与税を調べる場合には、まず対象となる車の評価額を求めるところから始めましょう。
国税庁によって車は「一般動産」とされており、評価方法は「原則として、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価」することと規定されています。
売買実例価額 売買実例価額とは、市場で実際に取引される際の価額のことを指します。 車の場合は、今その車を中古車市場で売りに出した場合に取引される値段が売買実例価額です。 精通者意見価格 精通者意見価格とは、その分野の専門家による鑑定によって示された価額を指します。 業者に売る際は査定をしてもらい買取価格を提示してもらいますが、この買取価格が精通者意見価格です。 参考:国税庁 |
中古車市場で同じ車がどのくらいの金額で取引されているのか確認し、わからない場合には業者に査定を依頼しましょう。
2-2. 基礎控除を引いて課税価格を計算する
車の評価額を求められたら、基礎控除を引いて贈与税の課税価格を計算しましょう。
贈与税の基礎控除110万円は、誰でも利用可能です。
今回は車の評価額が600万円だったケースをみてみましょう。
例)
- 車の評価額:600万円
- 基礎控除額:110万円
- 課税価格:490万円
車の評価額が600万円の場合の課税価格は490万円になります。
2-3. 贈与税率を乗じて贈与税を算出する
課税価格を求めることができたら、税率を乗じて贈与税額を算出しましょう。
実は、贈与財産には2種類あり、どちらに該当するかによって税率が変わります。
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それぞれの財産に適用される税率は下記のとおりです。
<一般贈与財産の税率>
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超え | 55% | 400万円 |
<特例贈与財産の税率>
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超え | 55% | 640万円 |
課税価格が490万円の場合の贈与税を計算してみます。
- 一般贈与財産の場合:490万円 × 30% - 65万円 = 82万円
- 特別贈与財産の場合:490万円 × 20% - 30万円 = 68万円
同じ車であっても、贈与税額に違いが生じることを知っておきましょう。
2-4.算出した贈与税の申告と納税を行う
受け取った財産にかかる贈与税を算出したら、申告と納税を行います。
贈与税の申告期限は、財産を受け取った年の翌年2月15日~3月15日まで、納税期限は翌年3月15日までです。
先に申告を済ませ、納税を後回しにすると忘れてしまう可能性があるため、申告と一緒に済ませるといいでしょう。
申告は、住んでいる地域を管轄する税務署で行います。
申告書類は税務署窓口で受け取れますが、ホームページからダウンロードすることも可能です。
作成した書類の提出方法は以下の3種類です。
- 税務署の窓口に提出する
- 税務署に郵送する
- e-Taxで提出する
税務署に足を運ぶ時間がある、または作成した書類に不備がないか不安な方は、税務署の窓口に提出しましょう。
時間がない方は郵送、またはe-Taxを利用します。
e-Taxは税務署ホームページから電子ファイルを提出するだけで済むので、申告の手間を省けます。
2-5. 車の評価額を算出できない場合の評価方法
車の売買価格がわからない、または専門業者に査定を依頼できないときは、減価償却で評価額を計算しましょう。
減価償却とは、法定耐用年数に応じた価値の減少分を、購入時の価格から差し引くものです。
新車は軽自動車が4年、普通車が6年と耐用年数が定められているものの、中古車を購入した場合は自身で耐用年数を計算する必要があります。
耐用年数を計算し、減価償却を算出したうえで評価額を求めなければならないので、専門的な知識が必要になるでしょう。
知識がなければ正しい評価額の算出が難しくなるので、専門家にお任せすることがおすすめです。
3. 車の贈与税を節税する5つの方法

車の贈与税を節税する方法を5つ紹介します。
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それぞれのケースで、どのように節税するのかみていきましょう。
3-1. 名義はそのままに車を貸す
車の貸し借りは「使用貸借」とみなされるため、贈与税がかかることはありません。
そのため、車の名義は親や祖父母のままに、子どもや孫に車を貸す方法もおすすめです。
名義変更をしなければ所有権が移ることはなく、財産が移動したことにはなりません。
日常的に使用することも問題はなく、通常よりも多く書類を揃えることで所有者の代わりに車検を通すことも可能です。
贈与税がかかってしまいそうな車の場合には、「名義をそのままにして貸す」選択肢があることを知っておきましょう。
3-2. 複数の業者に査定してもらう
贈与税を抑えるためには、複数の業者に査定してもらいできるだけ安い査定額を獲得することがおすすめです。
贈与税の計算方法で分かったように、車の評価額が下がることで課税価格も下がり、最終的な贈与税額も下がります。
そして、車の評価額には「精通者意見価格」が使用できるので、1社だけでなく複数の業者に査定してもらいましょう。
通常なら高い査定額が欲しいですが、譲渡を考えている場合にはできるだけ安い査定額を獲得することが大切です。
3-3. 特例贈与財産として贈与する
特例贈与財産として贈与することで、税率が下がり贈与税を節税可能です。
特例贈与財産となるためには、下記の条件を満たす必要があります。
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18歳以上が大きな条件となるので、18際以上になるまで待ってから贈与することがおすすめです。
3-4. 中古車になってから譲る
贈与税を節税するためには、中古車になってから譲るといいでしょう。
なぜなら、車の評価額は中古車市場での取引価格が使用できるからです。
新品に近い状態で譲るよりも取引価格を抑えることができるので、中古車になってから譲るのがおすすめです。
3-5. 購入資金を現金で贈与する
車の購入資金を現金で贈与して、節税する方法もおすすめです。
孫や子どもに車を買ってあげると、買ってもらった側に贈与税が発生してしまいます。
基礎控除額を利用すれば、1年間の贈与額が110万円まで贈与税がかかりません。
子どもや孫がローンで購入した車の毎月の返済額を現金を贈与して援助することで、贈与税がかからずに子どもや孫を援助できるでしょう。
4. 贈与に関する注意点
贈与税を節税する方法を押さえるとともに知っておきたい注意点があります。
注意点を把握することで、贈与の落とし穴を避けられるでしょう。
注意しておきたいのは以下の2点です。
- 購入費用を受け取ると定期贈与になる恐れがある
- 車の売買で車を譲り受けても贈与税が発生するケースもある
上記の2点について、くわしく見ていきましょう。
4-1.車の購入費用を受け取ると定期贈与になる恐れがある
車そのものではなく、購入費用を受け取ることで定期贈与になる恐れがあります。
前述したように、贈与税には年間110万円の基礎控除があります。
110万円以内の贈与であれば税金はかからないので、購入費用額を分割し、数年に分けて贈ればいいのではと考える方もいるでしょう。
しかし、毎年同じ時期に同じ額を受け取っていると、定期贈与とみなされ、贈与税が発生するかもしれません。
定期贈与と判断されると、受け取る総額が課税対象となり、贈与税を納める必要があります。
贈与税を抑えるなら、お金を受け取る時期と金額を毎年変え、贈与毎に贈与契約書を作成することがおすすめです。
工夫することで定期贈与ではなく、連年贈与とみなされる可能性が高まるため、贈与税を節税できます。
4-2. 売買で車を譲り受けても贈与税が発生するケースもある
贈与ではなく、売買形式で車をもらっても、贈与税が発生するケースもあります。
贈与税は高いため、車を安く売る形で譲れば納税を回避できるのでは?と考える方も多いでしょう。
売買形式にしても、あまりにも安い価格で取引されていれば、税務署に目を付けられてしまいます。
たとえば、譲る車の価値が300万円であることに対し、50万円で譲っていたとします。
差額の250万円を贈与としたとみなされ、受け取った人は250万円にかかる贈与税を納めなければなりません。
売買形式であっても、取引金額によっては贈与税がかかると考えておきましょう。
5. 車の贈与税についてよくある3つの質問

車の贈与税についてよくある質問をまとめました。
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車関連の税金についての疑問を払拭し、申告や納税に戸惑わないようにしましょう。
5-1. 名義変更をしない場合の注意点は?
名義変更をせずに車を貸す場合には、自動車保険の適用範囲に注意が必要です。
保険が効かない状態で事故を起こしてしまうと、子どもや孫の自己負担で損害賠償請求に応じなければなりません。
自動車保険の適用範囲を確認するとともに、使用貸借状態に有利に働くオプションがあれば追加することも検討しましょう。
保険の適用範囲にだけ注意できれば、贈与税を回避できるおすすめの方法です。
5-2. 生活に必要な車でも贈与税がかかる?
子どもや孫などに対して扶養義務者が贈与する場合、学費や生活費など生活に通常必要とされるものに関しては贈与税がかかりません。
そのため車を贈与する場合でも、扶養の一環であるとみなされる場合には、贈与税の対象外となります。
たとえば、地方の大学に進学し、通学に車がないと学業に支障をきたしてしまう場合など。
しかし、公共交通機関が発達している場合や贈与する車が高級車である場合には、嗜好品とみなされる可能性が高いです。
本当に生活に必要な車以外には、贈与税がかかる可能性が高いので注意しましょう。
5-3. 車の贈与税が無申告だと税務署にばれる?
車の贈与税が発生しているにもかかわらず、無申告だと税務署にばれる可能性が高いです。
車の贈与税は他の財産と同じく、贈与があった年の翌年の2月1日から3月15日までに申告・納税しなければなりません。
税務署はさまざまなルートから車の購入資金を調べる方法を持ってるため、ほとんどの場合でばれてしまいます。
なお、申告・納税義務を怠った場合には、ペナルティを課せられてしまうので注意しましょう。
6. 車にかかる贈与税の仕組みを理解して節税しよう!
車を買ってもらったり、譲ってもらったりした場合、その車に対して贈与税が発生します。
たとえ血縁関係にある人からの贈与でも関係なく、基礎控除を超える場合には贈与税を支払わなければなりません。
しかし、名義変更をせずに車を貸す・特例贈与財産として贈与するなどの工夫をすることで、贈与税の節税が可能です。
ただ、贈与税がかかるかはケースバイケースのため、判断に迷う場合には税の専門家である税理士に相談しましょう。

監修
中村亨
日本クレアス税理士法人 代表
税理士
公認会計士
2002年8月に会計事務所として創業、2005年には税理士事務所を開業し、法人や個人のお客様の会計・税務の支援をする中で、「人事労務の問題を相談をしたい」「事業承継を検討している」といったお客様のニーズに応える形でサービスを拡大し続け、現在では社会保険労務士法人など複数の法人からなるグループ企業に成長してきました。お客様に必要なサービスをワンストップで提供できることが当社の強みです。