生命保険にかかる税金は、「保険金を誰が受け取るか」だけでなく、「保険料を誰が支払っていたか」によっても変わります。

保険料の負担者と受取人が異なる場合には、相続税・贈与税・所得税のいずれかが課税される可能性があるため、申告内容を誤ると、必要のない税負担が生じたり、税務調査の対象になったりするおそれがあるのです。

特に、母親が支払っている自分名義の生命保険については、「みなし贈与」や「相続税の対象になるか」といった誤解が多いポイントです。

生命保険の扱いは複雑な部分が多いですが、本記事では以下の4つのテーマに絞って、生命保険と税金の関係をわかりやすく解説します。

生命保険と相続税の関係を知りたい・自分の生命保険の扱いについて知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

1.みなし贈与とは|贈与税の対象になる可能性がある

みなし贈与とは|贈与税の対象になる可能性がある

自分では贈与を受けたつもりがないのに、贈与税の課税対象となるケースがあります。これを「みなし贈与」といいます。

みなし贈与とは、形式上は贈与の合意がなくても、実質的に贈与と同じ経済的利益を受けたと判断される場合に、税務上「贈与があった」とみなされる制度です。

この場合、たとえ本人に贈与を受けた自覚がなかったとしても、贈与税の対象となります。

みなし贈与に該当する代表的な例は以下のとおりです。

これらはいずれも、実質的に財産を無償で取得したことになるため、贈与税が課される可能性があるのです。

中でも注意すべきなのが、本記事のテーマである「母親が保険料を負担している私名義の生命保険」のようなケースです。

この場合、保険料を支払っているのが母親、契約者が自分であると、「保険料の贈与」とみなされる可能性があります。

次項では、生命保険に関する契約関係(契約者・保険料負担者・受取人)ごとに、どの税金が関係するのかを具体的に確認していきましょう。

2.生命保険と相続税の関係

生命保険と相続税の関係

生命保険における課税関係は、「保険料を誰が負担していたか」によって大きく異なります。

被保険者が亡くなった際に支払われる保険金も、その資金の出どころによって、相続税・贈与税・所得税のいずれが適用されるかが変わってくるのです。

以下は、保険金の課税関係を簡潔に整理したものです(被相続人が被保険者であり、相続人が受取人である前提)。

【関連記事】生命保険には相続税がかかる?みなし相続財産と非課税枠について解説

保険契約者と保険金受取人が異なる場合は、保険料の支払者が誰かが特に重要です。

次項にて、家族間でよくあるケーススタディを紹介します。

2‐1.【ケーススタディ】母親が保険料を負担してくれている

本記事のテーマである「母親が自分名義の生命保険の保険料を負担している」ケースは、税務上の取扱いが非常に重要になります。

表面的には自分名義の保険契約であっても、保険料を負担しているのが母親であれば、その保険契約は母親の財産によって成立していると見なされてしまうのです。

そのため、母親に相続が発生した際には、その生命保険契約も母親の相続財産の一部として相続税の対象となる可能性があります。

一方で、親が生前に現金を子や孫に贈与し、そのお金で子や孫が生命保険契約を結ぶというケースもあります。

こうした場合は、本当に贈与が成立しているかどうかがポイントです。

詳しくは後述しますが、きちんと贈与契約書を作成し、必要に応じて贈与税の申告を行っていれば、保険契約は子や孫の財産に基づくものと判断されるため、相続税の対象とはなりません。

2‐2.生命保険料を贈与する場合の注意点

では、母親からの保険料負担を「贈与」として明確に成立させるにはどうすればよいのでしょうか。

贈与は民法上、贈与する人ともらう人の「合意があって初めて成立する契約」とされています。つまり、贈与を証明するためには、書面など明確な証拠を残しておくことが重要です。

もっとも基本的な証明手段が「贈与契約書の作成」です。

保険料の支払いが贈与によるものであると毎年明示しておけば、贈与税の課税や相続時の財産認定においてもトラブルを回避できるでしょう。

次項では、実際に贈与があったことを証明する方法や準備しておくべき書類について解説します。

3.贈与があったことを証明するための準備とは?

贈与があったことを証明するための準備とは?

生命保険の保険料を親が代わりに支払っていた場合、そのお金が正式に贈与されたものだったと証明できなければ、相続税の対象として扱われるリスクがあります。

そのため、「これは贈与でした」と示せるよう、事前にしっかりと準備しておくことが非常に重要です。

具体的に準備すべきは次の2つです。

  1. 贈与があったことを証明する証拠を残しておく
  2. 所得税の確定申告において、この生命保険について生命保険控除を使わない

※たとえば、母親が支払った保険料について、母親自身が生命保険料控除を使ってしまうと、「保険料を負担している=契約者は母親である」と税務署に判断される可能性があります。

これでは、贈与ではなく相続財産とみなされかねない、ということです。

3-1. 贈与があったことの証明方法

では、具体的にどのようにすれば「贈与があった」と証明できるのでしょうか。

基本的には、以下の3つの対応を確実に行うことが求められます。

これら3つを実行しておけば、税務署から「本当に贈与だったのか?」と疑われた場合でも、贈与が成立していたことをしっかりと説明できるでしょう。

4.(補足)生命保険料控除について

(補足)生命保険料控除について

今回のように、母親が保険料を支払っているケースでは、所得税の確定申告における生命保険料控除の扱いにも注意が必要です。

具体的には、母親が保険料を支払っていたとしても、その保険が子(契約者本人)名義であり、贈与として成立させたいのであれば、母親はその保険について生命保険料控除を適用してはいけません。

なぜなら、保険料控除を使うという行為は、「この保険料は私(母親)が負担しています」と自ら税務署に示すことと同義になるためです。

その結果、贈与の成立が否定され、保険契約が母親の所有とみなされ、将来的に受け取る保険金が相続財産とされてしまうのです。

このように、生命保険についても、生命保険の契約者本人が保険料を負担している場合には問題はないのですが、今回のケースのように家族が負担しているような場合、将来受け取る保険金が一時所得や贈与と見なされ、課税が生じる可能性を認識し、対策を講じることが重要です。

5. 母親が保険料を負担している場合には贈与の証明が必要!

ここまで、「母親が保険料を支払っている私の名義の生命保険は相続税の対象になる?」というテーマに沿って、相続における生命保険金の扱いについて解説してきました。

結論として、保険料を実質的に母親が負担している場合、その保険契約は母親の財産とみなされる可能性が高く、母親の相続時に相続税の対象となるリスクがあります。

しかし、保険料の負担分が明確な贈与として成立している場合は、受け取る保険金が相続財産とは扱われず、相続税の課税対象外とすることも可能です。

そのためには、贈与契約書の作成・口座振込の記録・贈与税申告の有無など、形式的にも実質的にも贈与が成立していたことを証明できる準備が不可欠です。

また、生命保険を活用した相続対策まで考えるのであれば、まずは一度、税理士などの専門家に相談することが賢明です。状況に応じた適切なアドバイスを受けることで、将来の税負担を軽減し、大切な資産をより確実に次世代へ引き継ぐことができるでしょう。

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