遺産相続において、法定相続人には「法定相続分」という遺産の相続割合が規定されています。
この法定相続分は相続人の構成によって異なるため、ケースによって異なります。
そのため、相続における法定相続分がわからないという方もいるでしょう。
そこで本記事では、法定相続分の概要や決まり方を解説。
また、パターン別に法定相続分の考え方も紹介します。
法定相続分について知りたいという方はぜひご覧ください。
目次
1. 遺産の相続割合を決定する方法
相続が発生した場合、遺産の相続割合を相続人間で決定する必要があります。
遺産の相続割合を決定する方法は4つあり優先順位もあるため、事前に整理しておきましょう。
一般的な遺産相続では、下記の流れで遺産の相続割合を決定していきます。
<遺産の相続割合を決定する4つの方法>
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それぞれの方法についてくわしくみていきましょう。
1-1. 遺言書があれば内容通りに相続する
遺産相続において被相続人が遺言書を遺している場合には、遺言書の内容通りに相続割合が決定されます。
遺言では、遺産の相続方法について被相続人の意思を遺しておくことが可能です。
法的に定められているルールに則って文書化(遺言書)することで、法的な効力を有する文書になります。
そのため、遺言書が遺されている場合には、相続人の意思よりも遺言書の内容が優先されます。
なお、遺言執行者・相続人全員の同意があれば遺言書の内容を無視することも可能です。
※遺言書内で禁止されていない場合に限る
1-2. 遺産分割協議で相続割合を決定する
遺言書が遺されていない場合には、遺産分割協議で相続割合を決定していきます。
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分割方法を協議して決定する話し合いを意味します。
遺産分割協議には法定相続人全員の出席が必要なため、法定相続人の決定・財産目録の作成を終えた後で遺産分割協議を行いましょう。
法定相続人には、民法によって法定相続分が設定されていますが、必ず従う必要はありません。
むしろ、実際の相続では遺産分割協議が行われることも多いです。
遺産分割協議で相続割合を決定する場合には、決定した内容を文書化し、遺産分割協議書として残しましょう。
遺産分割協議書は、遺産の名義変更などに必要な重要な書類です。
1-3. 法定相続分で相続する
遺言書がなく、遺産分割協議も行わないという場合には法定相続分で相続割合が決定します。
前述のように法定相続人には、民法によって法定相続分というものが認められています。
相続人の構成によって、それぞれの法定相続分は変化するため、相続ケースごとに法定相続分を確定させる必要があります。
相続人同士に不満がない場合には、法定相続分で相続することでスムーズに手続きを進められるでしょう。
1-4. 話し合いが難航する場合には裁判所を利用する
遺言書がないことにくわえ、法定相続分でなく遺産分割協議で遺産の相続割合を決定する場合には、話し合いが難航する場合があります。
相続人同士で、遺産分割協議が難航してしまった場合には、調停・審判を利用することになります。
相続人同士が不仲である場合や、相続割合に不満がある相続人がいる場合には、トラブルに発展しやすいです。
そのような場合にはまず、調停を利用して第三者(調停委員)を交えた話し合いが行われます。
そして、調停でも話し合いがまとまらなかった場合には審判に移ります。
審判では、相続人同士の主張を裁判所が判断して相続割合を決定します。
決定には法的な効力があるため、不満があったとしても従うしかありません。
最終手段とはなりますが、どうしても遺産分割協議でまとまらないという場合には、調停・審判で相続割合を決定しましょう。
2. 相続割合は法定相続人の構成で異なる!
法定相続分で相続割合を決定する場合には、法定相続人の構成で各人の相続割合が異なります。
相続では、配偶者と子供が法定相続人なるケースもあれば、子供のみが法定相続人になるなど、さまざまなケースがあります。
この章では法定相続人についてくわしく解説します。
2-1. 法定相続人とは|配偶者または血族関係者
法定相続人とは、被相続人の遺産を相続する権利を持つ人です。
配偶者または血族関係者が法定相続人となり、その範囲は民法の886条から890条で定められています。
法定相続人は、被相続人との関係性によって相続順位が決定します。
被相続人との関係性と相続順位は下記のとおりです。
配偶者がいる場合には、配偶者は常に法定相続人となります。
また配偶者以降は、第1順位の親族から順に法定相続人となる権利を持ちます。
2-2. 法定相続人ではない人
被相続人との関係性によって、法定相続人なれない人を紹介します。
<法定相続人になれない人>
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それぞれ、なぜ法定相続人になれないのかみていきましょう。
2-2-1. 離婚した元夫・元妻
元夫や元妻など、離婚している元配偶者は法定相続人になることはできません。
ただ、事実離婚の場合には法定相続人としての権利があります。
重要なのは法的に婚姻関係を結んでいるかどうかです。
そのため、子供が成長するまで婚姻関係を続けており、その間に配偶者が亡くなった場合などには法定相続権を持ちます。
また、法的に離婚している場合でも、その相手との間に子供がいた場合には、その子供は第1順位の法定相続人になります。
2-2-2. 内縁の相手
法的に婚姻関係を結んでいない内縁の相手は、法定相続人になることはできません。
前述のように、相続では法的に婚姻関係を結んでいるかがとても重要です。
ただ、内縁の相手との間に子供(非嫡出子)がおり、認知している場合には、その子供は嫡出子と同じ第1順位の法定相続人になります。
2-2-3. 子供の配偶者など
子供の配偶者も法定相続人になることはできません。
法定相続人になれるのは被相続人の配偶者または血族関係者のため、その範囲は子供の配偶者までは届かないのです。
たとえ、介護などで子供の配偶者などにお世話になっていた場合でも、法定相続で遺産を渡すことはできませんので注意しましょう。
何らかの理由により子供の配偶者にも遺産を渡したいという場合には、遺言による遺贈や生前贈与の利用がおすすめです。
贈与税や相続税の2割加算などに注意しつつ、必要に応じて利用しましょう。
2-2-4. 再婚相手の連れ子
基本的に、再婚相手の連れ子は法定相続人になることはできません。
ただし例外として、再婚相手の連れ子と養子縁組を結んだ場合には、連れ子も法定相続人になれます。
養子は実子と同じように扱われるため、第1順位の法定相続人です。
再婚してその子供に自分の遺産を相続させたいという場合には、連れ子と養子縁組を結びましょう。
2-2-5. 孫(代襲相続人の場合を除く)
基本的に孫は法定相続人になることはできません。
そのため、孫に遺産を遺したい場合には遺言書や生前贈与を利用しましょう。
ただし例外として、孫が法定相続人になれる場合もあります。
それは、代襲相続が発生した場合です。
本来の相続人である子供が相続の発生時にすでに亡くなっていた場合には、再代襲が発生し孫に法定相続権が移ります。
法定相続人になれない人を紹介しましたが、状況によって法定相続人になれる場合もありますので事前に条件を整理しておきましょう。
3. 法定相続分とは遺産の相続割合のこと
法定相続分とは、法定相続人に認められている遺産の相続割合のことを指します。
相続人の構成によって、各相続人が受け取る法定相続分は変動するため、パターンごとに具体例を用いて解説していきます。
<相続人の構成パターン>
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よくある構成パターンを知り、実際の相続にお役立てください。
3-1. 「配偶者+子ども」の法定相続分
法定相続人が配偶者と子ども(直系卑属)だった場合には、法定相続分はそれぞれ1/2です。
<例>
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この例の場合、配偶者と子どもは1/2ずつ分け合うため、500万円ずつが両者の法定相続分となります。
さらにそこから、子どもは2人いるため500万円を等分し、それぞれ250万円ずつを相続します。
最終的にこの例の場合には「配偶者:500万円」・「子どもA:250万円」・「子どもB:250万円」が法定相続分です。
このように、同じ相続順位の人が複数人いる場合には、人数で等分して相続割合が決定します。
3-2. 「配偶者+父母」の相続割合
被相続人に、配偶者がおり子どもがいない場合には、配偶者と父母が法定相続人になります。
父母は直系尊属になるため「配偶者2/3」・「直系尊属が1/3」がそれぞれの法定相続分です。
<例>
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この例の場合には、まず法定相続分で配偶者が600万円・父母が300万円を相続します。
さらにそこから父母の分を2人で等分し、それぞれ150万円ずつを相続。
最終的にこの例の場合には「配偶者:600万円」・「父:150万円」・「母:150万円」が法定相続分となります。
3-3. 「配偶者+兄弟姉妹」の法定相続分
被相続人に配偶者がおり、子どもがいなく直系尊属も亡くなっている場合には、配偶者と兄弟姉妹が法定相続人となります。
配偶者と兄弟姉妹の構成の場合には「配偶者:3/4」・「兄弟姉妹:1/4」の割合で遺産を相続します。
<例>
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この例の場合には、まず法定相続分で配偶者が750万円・兄弟姉妹が250万円を相続します。
さらにそこから兄弟姉妹の分を2人で等分し、それぞれ125万円ずつを相続。
最終的にこの例の場合には「配偶者:750万円」・「兄A:125万円」・「姉B:125万円」が法定相続分となります。
3-4. 「配偶者不在」の相続割合
配偶者がいない・すでに亡くなっている場合は、相続順位の一番高い人が全遺産を相続します。
たとえば、子どもがいる場合には子どもが、子どももいない場合には父母がすべての財産の相続権を持ちます。
<例>
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この例の場合には、子ども2人で1,000万円を相続します。
そこから2人で等分し、それぞれ500万円ずつを相続。
最終的にこの例の場合には「子どもA:500万円」・「子どもB:500万円」が法定相続分となります。
4. 特殊なパターンでの法定相続分
実際の相続では特殊な相続パターンも珍しくないため、事前に特殊なパターンごとの法定相続分についても整理しておきましょう。
<特殊なパターン>
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それぞれのパターンごとの法定相続人の変化や法定相続分について解説します。
4-1. 相続放棄者がいる場合
相続放棄者がいる場合には、ほかの相続人の法定相続分が増加します。
相続放棄とは、プラスの財産・マイナスの財産関係なく、すべての財産を相続しないことを指します。
これは法定相続人に認められている権利で、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に手続きを行う必要があります。
なお、相続放棄を行うと相続人としては扱われなくなります。
<例>
子どもAが相続放棄を行なった場合には法定相続分が下記のように変化。
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この例では、同じ相続順位の子どもAがいなくなったことで、子どもBの取り分が増加しました。
4-2. 相続人がすでに亡くなっている場合
本来相続人になるはずであった人が、すでに亡くなっている場合には代襲相続が発生します。
<代襲相続人になる人>
亡くなっている本来の相続人 |
代襲相続人 |
子ども |
孫・ひ孫・玄孫〜 |
兄弟姉妹 |
甥・姪 |
この際に注意したいのは、兄弟姉妹の代襲相続は子どもである甥・姪の1代までしか発生しないことです。
なお、直系卑属である場合には、孫・ひ孫・玄孫など、どこまでも再代襲が発生します。
代襲相続では、本来の相続人が持っていた法定相続分を代襲相続人が引き継ぎます。
<例>
孫2人に代襲相続が発生した場合、法定相続分は下記のように変化。
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孫2人が子どもが持っていた法定相続分1/2を引き継ぎ、2人で等分するため、それぞれ1/4ずつを引き継ぐことになります。
4-3. 相続欠格・相続廃除者がいる場合
相続欠格・相続廃除者がいる場合、その人に子どもがいる場合には代襲相続が発生します。
相続欠格とは、遺産を受け取ろうとして不正を働いた相続人の権利を、被相続人の意思とは関係なく剥奪すること。
相続廃除とは、被相続人の意思で相続人の権利を剥奪することを指します。
これらが起こった場合には、代襲相続が発生するため、前述の例と同じように法定相続分が変化します。
4-4. 被相続人に借金がある場合
実は債権者の同意がない限り、借金などのマイナスの財産は法定相続分に応じて返済義務を負わなければなりません。
プラスの財産は遺産分割協議などで自由に相続割合を決めることができますが、マイナスの財産はそうではないため注意しましょう。
<例>
法定相続分でそれぞれの財産を分けると下記のとおり。
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もし遺産分割協議によって、配偶者がプラスの財産をすべて相続することになったとしても、子どもに相続される「マイナスの財産500万円」がなくなることはありません。
そのため、被相続人に借金がある場合には、相続によってそれぞれの相続人に損が出ないようしましょう。
5. 法定相続分がない人に遺産を遺す方法
法定相続分がない人に遺産を遺したい場合には、下記3つの方法を利用しましょう。
<遺産を残す方法>
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それぞれの方法で遺産を遺す方法・注意点を解説します。
5-1. 生前贈与
生前贈与を利用することで、法定相続分がない人にも財産を渡すことが可能です。
文字通り生前に行う贈与になるため、事前に財産を渡すことになります。
生前贈与では、贈与者と受贈者の間で贈与契約を結ぶことで、さまざまな財産を贈与可能です。
しかし贈与税には注意が必要で、特例を使用しない限り年間110万円以上の贈与には贈与税が発生します。
受贈者との関係によっては、教育資金や結婚資金を特例を使用して贈与することも可能です。
もし、財産を渡したいという人がいる場合には、生前贈与を適切に利用しましょう。
5-2. 遺言書|遺留分に注意!
遺言書を利用することで、法定相続分がない人にも財産を遺すことが可能です。
これは遺贈と呼ばれ、被相続人の意思によって「Aさんに〇〇万円を相続する」といった指定ができます。
ただし、遺贈を利用する場合には「相続税が2割加算されてしまう可能性がある」・「遺留分を侵害するとトラブルに発展する可能性がある」点に気をつけましょう。
とくに遺留分には注意が必要で、遺留分侵害額請求が相続人間で行われてしまうと、自分の死後に禍根を残してしまいます。
遺留分とは、相続人に保障されている最低限度の相続割合を指し、侵害された場合には正当な権利を持ってほかの相続人に対して補填請求ができます。
この人にお世話になったからといって何も考えずに遺言書を残すと大変なことになるため、遺留分を侵害しない・付言を残すことが大切です。
5-3. 家族信託
家族信託は財産管理方法の1つですが、遺言書のような効力もあります。
具体的には、帰属権利者に法定相続人以外の人を指定することで、家族信託の終了時に信託財産の所有権を渡すことが可能です。
これは遺贈と同じ扱いになるため、遺言書と同じく、2割加算や遺留分の侵害に注意しましょう。
6. 遺産の相続割合は法定相続人などケース別に異なる
ここまで遺産の相続割合(法定相続分)について解説してきました。
遺産の相続割合は、法定相続人の構成や代襲相続の有無など、さまざまな条件によって異なってきます。
実は法定相続分を無視してもいいこと・マイナスの財産に関しては無視できないなど、実際の相続の際に気をつけるべき部分がいくつも存在します。
ケースごとにそれぞれの法定相続分を計算する必要があるため、複雑な場合には専門家への相談がおすすめです。
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