ビジネス情報誌「ANGLE-アングルVol.71」(2019年9月2日発行)より、当社執行役員でもある税理士が執筆している相続や事業承継にまつわるトピックスをご紹介します。
相続が発生した際、原則として遺産分割協議が終了するまでは、預貯金を含む相続財産は相続人全員の共有財産となります。
つまり、遺産分割の前に、預貯金の払戻や名義変更ができず、葬儀費用・相続人の生活費の支払や被相続人の借入金返済が難しくなり、相続人が一時的に立て替える、または新たに借入れる等の問題が生じていました。
2018年7月6日に成立(同月13日公布)した「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」により、相続人の資金不足を解消するために、遺産分割協議が終わる前でも、金融機関から預貯金を引き出せる2つの「仮払い制度」が改正・創設されました。
改正内容
下記のいずれかの方法で、遺産分割協議前に金融機関から預貯金を引き出せることになりました。
1_家庭裁判所で手続きをする方法
家庭裁判所に遺産分割の審判または調停を申し立てたうえで、預貯金の仮払いを申し立てると、家庭裁判所の判断により他の共同相続人の利益を害さない範囲内で仮払いが認められる方法です。
2_直接、金融機関の窓口で手続きをする方法
各相続人が単独で、金融機関へ下記(ア)の金額を払戻し請求ができる方法です。ただし、(イ)の金額を上限とします。
(ア)相続開始時の預貯金の額×1/3×仮払いを求める相続人の法定相続分
(イ)法務省令で定められる金額(100~150万円の見込)
各方法のポイント
1_家庭裁判所で手続きをする方法
必要な金額について証明ができれば、申し立て額の範囲内で仮払いを認めてくれる可能性があります。そのため、相続人の 生活費や借入金の返済など、[2]の方法の上限金額以上の金額が必要な場合に適していると考えられます。
しかし、家庭裁判 所の手続きを要するため、コストや時間がかかってしまうデメリットがあります。
2_直接、金融機関の窓口で手続きをする方法
金融機関の窓口で直接手続きできるため、[1]の方法と比べて簡便的かつ短期間で払戻しができる方法です。しかし、各金融機関で100~150万円(見込)の上限が設けられる予定のため、多額の費用には適しません。そこで、比較的少額かつ緊急性が高いもの(葬式費用など)を支払うときに活用できます。
なお、どちらの方法でも、仮払いされた預貯金は、その相続人が遺産分割(一部分割)により取得したものとみなされます。そのため、後日、遺産分割のときに実際の相続財産から控除されることになります。
改正時期
本制度の施行日は、2019年7月1日です。
監修:日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士 中川義敬
2007年 税理士登録、近畿税理士会登録。2009年に税理士法人コーポレート・アドバイザーズ(現 日本クレアス税理士法人)入社。
2007年から現在に至るまで、東証一部上場企業から中小企業・個人の税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業承継コンサルティング、経理アウトソーシング決算早期化等に従事。
医院の新規開業と承継を利用した開業について、事業承継に必要な自社株対策とは?など、社内外のセミナーで講師としても幅広く活躍。税理士及び相続診断士の資格を持つ。 事業承継・相続対策などのご相談に関しては、個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業承継」、「争続にならない相続」のアドバイスを行う税理士として定評がある。
<講演実績・プロフィール>日本クレアス税理士法人 スタッフのご紹介-執行役員 税理士 |
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