国税庁の調査によると、平成29年に亡くなられた方約134万人に対し、相続税の課税対象となった被相続人は約11万2千人で、課税割合は8.3%でした。相続が発生した場合、課税対象であれば税理士に、たとえ課税対象とならなくても、「遺産分割協議で揉めている」「不動産の名義変更が必要」などの理由から、弁護士や司法書士といった専門家の支援を必要とするケースは多々あります。
他方で、これまで当社には「どの専門家に相談すればいいのか分からない」「専門家にいくらかかるのか分からない」という声を多く寄せられています。相続は個々の事情によって対応内容が変わるため、「一般的な対応内容」「平均費用」を知ることが難しく、戸惑われている状況が伺えます。
そこで、ネットリサーチを活用し相続に関連する手続きの専門家への依頼傾向、およびその相場感について調査を行いました。アンケートでは、相続の経験の有無によって感じる相場観や費用に対する意識の差異が出ることが判明しました。
調査結果のサマリー
- 弁護士費用は半数以上が「高い」。専門家によって変わるコスト感
- 「不動産の名義変更」が最も多い相談内容
- 3割超が複数の専門家に相続を相談
- 専門家への手数料は10万円以下と予想
- 想像している費用は高く・経験者の費用は低い
調査結果
弁護士費用は半数以上が「高い」。専門家によって変わるコスト感。
まずは、相続の経験があると回答した222サンプルを対象に、相続が発生した際にどのような専門家に依頼したのか、また、支払った費用についての感覚を伺いました。
弁護士に相談をした方は、53%の方が支払った費用に対して「高い」「やや高い」と回答しています。
そのように感じた理由については、以下のような回答がありました。相続は何度も経験するものではないため過去の経験から相場感が得られにくいこと、また、相続人それぞれに事情が異なるため標準価格と言ったものが出しにくく、相対的な価格の評価しかできないことが理由として想定されます。
・相場が分からない(50代/男性/自営業)
・平均が分からない(50代/男性/会社員)
・相談と書類作成費用だけで結構高額だと感じました。(50代/男性/自営業)
・思ったより費用が嵩んだ(50代/女性/会社員)
・自分が思っていた金額より多かった(70代/女性/専業主婦)
相談した先として最も多く回答があった司法書士は、支払った費用に対して「妥当」が43%と最も高く、「高い」「やや高い」がそれぞれ20%と続きます。
「妥当」と感じた理由については、以下の回答のように「事前の調査」を実施したことによりかかった費用に妥当性を見いだせた、という意見が多く見られました。
・司法書士はあらかじめ料金がわかっているので納得するが、その他専門家は料金がまちまちなため。(60代/男性/技術系会社員)
・色々な親戚やら上司に聞いてまわり、相場の値段もインターネットなどで調べていて、妥当なところに相談したので妥当だと思いました。(女性/30代/アルバイト)
・世間一般の金額と比較した。(男性/60代/自営業)
・相場を人に聞いたところ同じくらいの費用がかかったと聞いたから(40代/女性/会社員)
各専門家に支払った費用に対する意識にはこのように違いが出ていますが、実際にこれらの費用は「どのような相談を依頼したのか」によって変わってきます。
次に、どのような相談をしたのかを見てみます。
「不動産の名義変更」が最も多い相談内容
相続の専門家に相談した内容は、「不動産の名義変更」が最も多く「相続税の申告手続」「遺産分割協議書の作成方法」と続きます。
国税庁が平成30年12月に発表した「平成29事務年度における相続税の調査の状況について」によると、相続財産の金額の構成比では不動産が最も高い割合を占めています。加えて、場合によっては申告や納税が不要である相続税とは異なり(※1)、土地の名義変更は行っておくべきものです(※2)。これらの理由から、不動産の名義変更を行った件数が最も多く回答があったと推察します。
またこの結果は、先の「相談した専門家」と相関します。司法書士は不動産登記のエキスパートであり、相続登記の依頼先として望ましい専門職です。そのため、実際に相続が発生した方が相談した専門家として、司法書士を挙げる回答が多くあったと思われます。
※1:相続財産には法定相続人の数に応じて非課税枠が広がる「基礎控除」があります。この基礎控除以内でかつ、その他の控除や特例を使用しない場合、原則的に申告は不要です。
※2:相続に伴う不動産の名義変更(相続登記)は、2020年5月現在の法制度上は義務ではありませんが、国全体としての不動産資源の損失回避や国民間のトラブルの発生を避けるため、国は義務化の検討をし始めています。(参考:相続登記の義務化もあり得る?相続登記の簡素化が求められる所有者不明土地
3割超が複数の専門家に相続を相談
相続が発生した時に相談した専門家の数の調査では、3割を超える方が複数の専門家に相続を相談したと回答をしました。
相続はそれぞれの状況に応じて相談する専門家が異なってきますが、人脈を活用して専門家に依頼する・必要な作業のみ依頼する、など、専門家を選ぶ際に工夫が見られました。
・税理士は司法書士の紹介(60代/女性/自営業)
・概ね、個人で作成し、仕上げのみ助力いただいた(70代/男性/その他)
・税務署に直接相談に行った。(40代/男性/自営業)
・法人契約している顧問弁護士に相談(60代/男性/経営者・役員)
・古くから付き合いのある税理士(50代/男性/経営者・役員)
さて、ここからは「相続の経験がない」方の回答をご紹介します。経験の有無によって費用感にどのような差異があるのでしょうか。
専門家への手数料は10万円以下
相続が発生した場合にどの専門家に相談するか、またその際の手数料はどのくらい必要だと考えているかについての回答です。
相談する専門家は税理士・司法書士・弁護士の順に多く、30,001円~100,000円が想定する手数料のボリュームゾーンとなっています。また、それぞれ15%~20%の方は「費用は30,000円以下」と回答しています。
想像している費用は高く・経験者の費用は低い
相続が発生し専門家に相談した場合に必要だと想像している手数料について、その金額の妥当性を問いました。
弁護士に相談するという方は「妥当」「高い」が32%と最も多い回答となり、「高い」「やや高い」を合わせると46%と半数近くに上りました。
司法書士・税理士に相談するという方は「妥当」が最も多く回答されました。また、司法書士・税理士・銀行については、実際に相続を経験した人の費用感よりも、経験していない人が想像する費用感の方が「高い」「やや高い」と回答する傾向がありました。
今回実施したアンケートでは、相続を経験した方は「想像していたよりも高かった」というコメントが多くありました。また、経験の有無によって費用感に隔たりがあることも分かりました。それらは、相続に対する理解度の低さが理由にあると推察します。
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また、相続登記や相続税の申告など、専門家の手を借りず相続人だけで最低費用で手続きを終わらせることは、決して不可能ではありません。法務局や税務署、市区町村役場などへの問合せを活用し、迷いながらでも完了までこぎつけることが出来るでしょう。ですが、専門家に依頼することで「迅速さ・確実さ」というメリットを享受できるだけではなく、将来起こり得るトラブルなどのリスクを事前に回避できるという大きな利点があります。
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調査について
調査概要
調査方法 :インターネットリサーチ
調査対象 :30歳~70歳の男女
調査期間 :2020年4月23日~2020年4月30日
有効回答数 :487サンプル
回答者の年齢構成比
本調査では、「相続の経験がある」222サンプル、「相続の経験がない」265サンプルの回答を調査しました。それぞれ年齢の構成比は以下の通りです。
会社概要
会社名 :日本クレアス税理士法人
所在地 :東京都千代田区霞が関3丁目2番5号 霞が関ビルディング33階
設立 :2002年9月
代表 :中村 亨(公認会計士・税理士)
事業内容 :会計・税務、相続・事業承継、M&A(仲介・コンサルティング)、FAS(株価算定/財務調査/企業再編)、人事労務/給与計算)、IFRS(国際財務報告基準)・決算開示(ディスクローズ)支援、内部統制(J-SOX)・内部監査、海外現地法人サポート
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