「家族信託契約書のひな形は実際に使ってもいい?」「自分で作成するメリット・デメリットは?」
家族信託契約書を自分で作成しようと思い、上記のような疑問を抱いている方もいるでしょう。
ネットで検索すると家族信託契約書のひな形を見つけられますが、すべてのケースに最適なわけではないので、利用する上で注意が必要です。
この記事では家族信託契約書で必要な6つの事項、ひな形の利用方法、自分で作成するうえでの注意点について解説します。
家族信託契約書のひな形を使って自分で作成しようと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 家族信託契約書は自分で作成できる?
家族信託契約書の作成について、とくに資格が必要なわけではありません。
司法書士や弁護士などの専門家でなくても、作成することは可能です。
ただし、あくまで作成可能なだけであり、実際に効力のある契約書を作成するのは簡単ではありません。
法律や相続に関する知識がないと、契約書に不備が生じる恐れがあり、契約が無効になる恐れがあります
契約書の内容によっては、家族・親族間でトラブルに発展してしまうこともあります。
さらに、税務の知識がないために節税できず、税金が高くなってしまうことも考えられます。
このように家族信託契約書ではさまざまな知識やスキルが必要なため、素人の方が作成するのは難しく手間もかかります。
2. 家族信託契約書で必要な6つの事項
家族信託契約書を有効に活用するには、以下6つの事項が必要です。
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それぞれの内容をくわしく解説していきます。
2-1. 家族信託の趣旨
当該契約書が家族信託契約であることを示すことため、最初に趣旨として記載します。
2-2. 家族信託の利用目的
家族信託を利用する目的を記載します。
たとえば以下のような事例が考えられます。
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利用目的によって契約書に記載する内容は異なってくるため、目的を明確にすることは重要です。
現在は、親が認知症になった際に預金の引き出しや不動産売却が困難になることの対策として、家族信託を利用するケースが多く見られます。
なお、利用目的を1つに決める必要はなく、複数の目的を設定しても問題ありません。
2-3. 家族信託の対象財産
信託契約の対象となる財産を明記します。
信託財産の具体例として、自宅アパートやマンション、現金・預金、株式などの金融商品があります。
不動産を信託財産とするケースは多いですが、管理費用が信託財産にないことで問題につながる恐れがあります。
場合によっては、不動産の修繕費用や売却費用に充てるための財産についても信託財産に含めることが必要です。
信託によって管理・処分ができるのは、契約書に記載されている財産のみで、その他の財産は対象外です。
なお、年金を対象にしたいと考える方もいるかもしれませんが、信託財産は信託口口座で管理する必要があります。
年金が振り込まれるのは本人の銀行口座のみのため、信託財産に含めるのは不可能です。
2-4. 委託者・受託者・受益者・帰属権利者
家族信託で主な役割を果たすのは、委託者・受託者・受益者の3つです。
委託者は財産管理を依頼する人、受託者は管理を任される人、受益者は管理による利益を享受する人です。
認知症対策の場合、財産管理によって認知症になった人の生活を維持するのが目的であるため、受益者は委託者と同一に設定するケースが多く見られます。
この他に、家族信託契約が終了した後の財産の帰属権利者についても定める必要があります。
2-5. 受託者の権限・管理方法
財産管理を任された受託者が、どこまでの管理が認められるのか、権限を明記します。
不動産の場合はたとえば通常の管理に加えて、担保の設定や売買もできるよう設定できます。
逆に、通常の管理までを認めて、売買はできないようにすることも可能です。
2-6. 家族信託の終了時期
家族信託の終了時期は、一般的に委託者の死亡時または受益者と受託者の合意で、それ以外に設定することも可能です。
たとえば認知症の父が不安なので、父が死亡した後の母の財産管理まで視野にいれて、母と子供で家族信託を契約するとします。
その場合は母が先に死亡したときに備えて、信託期間を「父および母の双方が死亡するまで」とするのも良いでしょう。
財産の帰属権利者について決める必要があるのも、契約終了時に財産の帰属先について揉めないようにするためめです。
3. 家族信託契約書の作成方法・ひな形の使用について
家族信託を作成する際の具体的な進め方について説明します。
3-1. ひな形は参考に留めそのまま使わない
ネットで検索すればひな形はいくつか見つけられますが、そのまま利用するのはやめましょう。
家族信託が開始したのは2007年からで、法律の世界ではまだまだ歴史の浅い制度のため、実務家でもまだ研究が進められています。
このため契約書の内容がまだ固まり切っていない面があり、ネットで見られるひな形は参考程度に留めるほうが良いです。
また家族信託の利用目的・財産・信託期限などは、個人個人で内容が大きく異なるため、ネット上のひな形をそのまま使うと危険です。
3-2. 契約書の作成:6つの必要事項を記載する
家族信託契約書の作成では、先ほど解説した6つの必要事項を記載します。
記載例は下記のとおりです。
項目 | 内容 |
利用目的 | 母親の認知症対策・遺産分割対策 |
当事者 | ・委託者兼受益者:母親 ・受託者:長女 ・後継受託者:次女 |
信託財産 | 自宅マンションと銀行口座の預金1,000万円 それ以外の現金は母親が管理 |
受託者権限 | 自宅マンションの管理(売却を除く)および日常の金銭管理 |
信託期限 | ・母親の死亡時 ・母親と長女の話し合いで終了を決めた時 |
残余財産の帰属先 | ・自宅は長女へ、口座の預金は長女と次女で等分する ・それ以外の財産については別途遺言書で定める |
第4条:受託者、第5条:信託期間などのように、条文形式でまとめていきます。
上記についても、あくまで一例として参考に留めてください。
3-3. 契約書の作成:必要に応じて事項を追記する
必要な場合は、以下の項目も契約書に追記していきます。
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受託者の任務終了は、受託者の死亡時や認知症などによって判断能力が失われたときなど、任務が終了する条件について記載します。
事務代行は、家族信託の遂行にあたり、必要な事務を特定の人に代行させることが可能な旨を記入します。
その他に決めておきたいことを任意で記載することもできます。たとえば事務処理や代行で発生したコストが財産の額を超えた時に、誰がどれだけ負担するかについてなどです。
4. 家族信託契約書を自分で作成する場合について
家族信託契約書を作成するのに特別な資格は不要なため、自分たちだけで作成することも可能です。
ここからは、自分で作成する場合のメリット・デメリット、費用について解説していきます。
4-1. 家族信託契約書を自分で作成するメリット
家族信託契約書を自分で作成する場合のメリットは下記のとおりです。
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自分で作成する場合の大きなメリットは、専門家への依頼料を支払わなくて済むことです。
司法書士・弁護士・税理士などに依頼すると、信託財産の1%程度のコンサルティング費用が掛かります。
信託財産の額によって、数十万円~数百万円の費用負担が必要です。
自分でやるならコストを大幅に削減できるため、家族信託契約でお金をかけたくない方に向いています。
ただし、契約書を公正証書化する費用や不動産の登録免許税など、それ以外に発生する費用もあります。
専門家に頼まないならすべて無料でできるということではないので、注意しましょう。
4-2. 家族信託契約書を自分で作成する注意点・デメリット
法律や税務の専門家でない方が契約書を作成することには、下記のような注意点があります。
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家族信託の設計次第では、贈与がなされたとみなされ、贈与税が課されてしまうことがあります。
みなし贈与を回避するには、受益権の移転の仕方や残余財産の帰属先など、契約の設定を工夫する必要があります。
法律知識がないと対応は難しいでしょう。
また契約書の条項に漏れがあると、それだけで不動産の売却や処分ができなくなることもあります。
たとえば委託者兼受益者が認知症で判断能力が低下し、さらに受託者が死亡してしまうと、受益者の代理人が必要になります。
この場合、条項で受益者代理人を定めていないと、不動産の売却や処分はできなくなります。
4-3. 自分で作成する際にかかる費用
想定ケース | 費用と内訳 |
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自分で行う場合の実費 | ・信託契約書に貼付する収入印紙:200円 ・公正証書の作成費用:4万~10万円 ・戸籍謄本 ・印鑑証明書 ・住民票など各種書類の発行手数料:約1万円 |
信託口口座の開設費用 | ・1口座あたり5万~10万円 |
信託登記にかかる費用 | ・登録免許税 土地:財産評価額×0.3% 建物:財産評価額×0.4% |
専門家に依頼しなくても上記の実費の支払いは必要で、公正証書の作成や信託口口座の開設で数万円の費用が発生します。
不動産の登録免許税は評価額に税率がかけられるため、評価額が高いと税金も高くなります。
5. 家族信託契約書を専門家に作成してもらう
専門家に契約書を作成してもらう場合のメリット・デメリット、費用について見ていきましょう。
5-1. 専門家に作成を依頼するメリット
家族信託契約書を専門家に作成してもらうことには、下記のようなメリットがあります。
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法律の専門家が契約書を作成することで、内容に不備や誤りが発生する可能性が低くなります。
家庭の事情や人間関係などを考慮し、個々で最適な契約内容を提案してもらえます。
実務経験が豊富な専門家は、家族間でトラブルが発生しやすいパターンも把握していますので、紛争を回避するための対策も可能です。
家族信託契約でとくに不動産の登記は複雑な手続きですが、司法書士など専門家に依頼すれば代行してもらえるので手間も省けます。
5-2. 専門家に作成を依頼するデメリット
専門家に依頼するデメリットは、以下の3点です。
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先ほど解説した通り、専門家への依頼料は数十万円~数百万円が相場です。
それ以外の費用負担も必要になるため、財産が少ないと依頼料が大きな負担となる場合があります。
司法書士+税理士など、複数の専門家に別々に依頼することで、費用が増えることもあります。
また、専門家選びがうまくいかない可能性もあることに注意が必要です。
専門家であっても家族信託の業務実績が少ない人もいるので、契約書の内容が不適切だったり、遂行に時間がかかったりするかもしれません。
5-3. 専門家への作成依頼費用
専門家に契約書作成を依頼する場合、以下の費用が発生します。
費用と内訳 | |
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専門家に依頼する費用 |
・相談料:信託財産の1%(相場) ・登録代行手数料:1件あたりおよそ8万円〜12万円 ・信託契約書の作成手数料:1通あたりおよそ10万円〜30万円 |
専門家へ依頼する場合、まず相談料として信託財産の1%程度の負担が必要です。
書類作成や手続きなどの代行手数料として、数万円~数十万円の費用も発生します。
専門家と契約する前に、見積もりを出してもらって判断しましょう。
依頼内容のパターン別に、複数の見積もりを作成してもらえる場合もあります。
6. 家族信託契約書についてよくある質問
家族信託契約書では、下記のような質問を寄せられることが多くあります。
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1つずつ解説していきます。
6-1. 家族信託契約書はなぜ必要なの?
家族信託契約書を作成する理由は、書類として残すことで後々の紛争やトラブルを回避するためです。
家族信託では財産を特定の家族に任せるため、任されなかった家族が不満を持つ可能性があります。
また、家族信託について知らされていない状態で他の家族が独断で進めてしまうことも、トラブルの原因です。
家族信託契約書を作成し、家族が確認して合意をすることで、トラブルの予防につながります。
作成した契約書は家族が署名・捺印をするため、合意を取ったことの証明になります。
6-2. 家族信託契約書は公正証書で作成するべき?
家族信託契約書は公正証書でないと無効になるわけではありません。
しかし財産の移行という重大な効果をもたらすことを考慮し、契約書としての客観的な有効性を高めるために公正証書として残すのが一般的です。
公正証書は公証人が関与して作成するので書類として証明力があり、安全性や信頼性が高いのが特徴です。
家族信託契約書を公正証書にしておけば、書類について後から突っ込まれても反論できます。
6-3. 家族信託契約書は後から変更できる?
家族信託は数十年と長期に渡って運用されることもあるため、途中で契約変更が必要になることも十分考えられます。
信託法では、家族信託契約を変更するには下記3つの方法があると定めています。
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1.は原則的な変更方法で、変更のための条件はとくにありません。
2.は信託の目的に反しないことが明らかであることを条件に、変更が認められます。
それ以外の方法として、個別の契約で定めた方法での変更も可能です。
6-4. 家族信託契約書は遺言書より優先される?
家族信託契約書は、遺言書より優先されます。
信託契約を締結すると信託財産は名義変更によって、委託者の名義ではなくなります。
委託者の名義ではなくなった財産について、遺言書で帰属先を指定することはできません。
一方で遺言書では、家族信託で指定された財産以外についての指定は可能です。
7. 家族信託契約書はひな形を参考に作成しよう
家族信託契約書は、利用目的・委託者や受託者・信託財産・信託期限など6つの項目を記入していくことで作成できます。
ネット契約書でひな形が公開されていますが、そのまま利用するのはおすすめではありません。
開始から日の浅い制度で内容が固まり切っておらず、実務家による研究が進められている段階のため、参考程度に留めておきましょう。
自分で家族信託契約書を作成することもできますが、法律や税務に関する知識が求められ、手続きの手間もかかります。
自分で作成するのは難しいと感じるなら、司法書士などの専門家に依頼するのがおすすめです。
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