家族信託は自分の財産を信頼できる家族に信託し、認知症や老後に備えるための財産管理方法です。
家族信託には3者の登場人物がおり、そのなかで最も重要な役割を受託者が担います。
家族信託を検討している方のなかには、受託者についてくわしく知りたいという方もいるでしょう。
そこで本記事では、受託者の役割やなれる人の条件を解説。
また、受託者に任せられる権限や義務についても紹介します。
家族信託を検討している・受託者について知りたいという方はぜひご覧ください。
目次
1. 家族信託において受託者は重大な役割
家族信託において、受託者はとても重大な役割です。
家族信託では委託者から受託者に財産を信託し、受託者がその財産管理をすべて担います。
そのため受託者がいい加減な人であると、財産管理や家族信託の利用そのものに問題が生じてしまうのです。
また、家族信託は委託者となる方の認知症対策や老後対策にも利用されるため、委託者の将来にも影響を及ぼしてしまいます。
受託者に任される権限や義務の範囲は広く大変な役割ではあり、家族信託において受託者が重要な役割であることを理解しましょう。
2. そもそも家族信託とは?
家族信託は財産管理方法の1つで、近年認知症対策になるとして注目を集めています。
家族信託では、財産に関する権利を財産権と運用・処分権に分け、後者を信頼できる人物に信託します。
そのため、元々の所有者は財産権を持ちながら、運用や処分をほかの人に任せることができるのです。
たとえば現金を信託財産にしておけば、認知症を発症してしまっても、信託された人が自由にその財産を利用できます。
通常認知症を発症してしまうと口座凍結が起こり、本人の財産を引き出すことや運用することができなくなってしまいます。
しかし、家族信託を事前に利用しておけば、このような事態を回避することが可能です。
また、現金だけでなく不動産を信託財産にすることで、不動産の管理を任せるといったことも可能。
家族信託は、認知症対策などの目的に合わせてさまざまな利用方法・メリットがある財産管理方法なのです。
2-1. 家族信託に必要な3つの役割
家族信託では「委託者」・「受託者」・「受益者」の3つの役割があります。
<家族信託の登場人物>
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一般的な家族信託では、委託者と受益者が同一人物であるパターンが多いです。
たとえば、父が所有する不動産を息子Aに信託し、そこから生じた利益は父が受け取るなど。
もちろん、受益者を別に設定することも可能で、3者が全員異なる人物になるパターンもあります。
ただ、どのような場合であっても受託者が一番重要な役割であることに変わりはありません。
2-2. 家族信託の仕組み
家族信託では、委託者と受託者の間で信託契約を結び財産を信託します。
信託契約では、受益者や信託財産・期間・信託内容などを細かく設定可能です。
そのため、信託契約に含める内容によって、さまざまなアレンジができます。
2-3. 信託財産は受託者の名義になる
家族信託を利用する場合には、信託財産の名義を委託者から受託者に変更する必要があります。
そのため、受託者は信託財産に対して強い権限を持ち、処分や運用などを単独でできるようになります。
たとえば、不動産を信託された後に委託者が認知症を発症してしまった場合には、委託者の意思能力が確認できなくても、受託者のみの意思で不動産が売却可能です。
※信託契約において「処分できない」などの規定がない場合
受託者は信託契約において定められた範囲内であれば、自由に財産を管理・運用・処分できます。
3. 受託者になれる人
家族信託で受託者になれる人には、どのような人が当てはまるのでしょう。
実は、受託者になるために特別な資格などは必要ありません。
受託者になれる人の条件をみていきましょう。
3-1. 未成年者でなければ家族以外でもなれる
実は、家族信託では未成年者でなければ家族以外でも受託者になることが可能です。
家族信託という名前で運用されている方法ですが、家族間でしか利用できないといった制限はありません。
親等の制限はなく、親族などの血縁関係者でなくても、成人している方であれば受託者になれます。
また、複数人でも受託者になれます。
受託者を複数人設定することで、受託者にかかる負担を分散させることができるメリットがあります。
しかし、複数人が財産に関する権限を権限を持つため、共同所有という形になり財産の利用や処分の自由度が低くなる点には注意が必要です。
くわしくは後述しますが、複数人を受託者に指定する場合には、信託口口座を作れなくなってしまうなどの点にも注意しましょう。
3-2. 法人も受託者になれる
家族信託における受託者は、必ずしも個人である必要はなく、法人を受託者として設定することも可能です。
株式会社・合同会社・一般社団法人など、法人形態も受託者の条件には関係ありません。
個人が受託者の場合には、その受託者が病気や事故などを原因として、受託者の役割を全うできない場合が想定されます。
しかし、法人を受託者にしておけばそういったリスクを回避でき、より安定的な家族信託が実現できるのです。
4. 受託者になれない人
未成年者でなければ受託者になれることを説明しましたが、実はほかにも受託者になれない人がいます。
家族信託で受託者になれない人は、どのような人なのかみていきましょう。
なお、以前までは、成年被後見人・被保佐人の方が受託者になることはできませんでしたが、2019年の法改正によって就任できるようになっています。
4-1. 未成年者
前述の通り、未成年者の方は受託者になることはできません。
成人年齢の引き下げに伴い、現在は18歳未満の方が未成年に該当します。
そもそも未成年者は法律の観点から、十分な判断能力はないとされており、単独で有効な契約を結ぶこともできません。
そのため、財産管理を一任することは難しいとされ、法律で受託者に就任できないことが規定されています。
4-2. 弁護士・司法書士などの士業
弁護士や司法書士・税理士などの士業の方も受託者になることは難しいです。
必ずしもなれないというわけではありませんが、仕事として受託者になる場合には内閣総理大臣からの免許が必要になります。
この免許の取得は難しいため、士業の方が免許を持っていない場合には、受託者に就任してもらうことは難しいでしょう。
しかし、家族や親族に士業の方がおり、士業として仕事を受けるわけではなく、ただの個人として受託者に就任することは可能です。
5. 受託者の設定パターン
実際の家族信託でどのような運用がされているのか、特殊な受託者の設定パターンをみていきましょう。
通常の運用では、個人を受託者として設定し、役割を兼任させることは珍しいです。
家族信託の目的によっては、特殊な設定パターンが必要になるため、どのようなパターンがあるのか整理しておきましょう。
5-1. 複数の受託者を設定する
前述の通り、受託者を複数人設定することが可能です。
たとえば、父が委託者兼受益者となり、長男と次男が受託者になるパターンなど。
両親とともに生活している家族がいる場合などに、複数人の受託者が設定されることが多いです。
同居している受託者が、委託者の健康的な生活に必要な財産を管理し、離れて暮らす委託者が不動産などほかの財産を管理するなど。
複数の受託者を設定することで、受託者の負担を分散させることができ、一人当たりの負担を軽減することが可能です。
しかし、複数人を設定する場合には下記の2点に注意する必要があります。
<受託者を複数人設定する場合の注意点>
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受託者を複数人設定した場合には、金融機関において信託口口座の開設ができません。
信託口口座とは、信託財産管理専用の口座を指し、倒産隔離機能や口座凍結されないなどのメリットがある口座です。
家族信託では個人財産と信託財産を明確に分けて管理する必要があるため、信託口口座の利用がおすすめですが、複数人受託者がいる場合には開設できなくなってしまうので注意しましょう。
また、財産管理の権限を複数人で分けて所有することになるため、財産管理の判断には受託者の過半数以上の同意が必要になります。
たとえば、不動産を処分したいとなった場合に、過半数以上の同意が得られなければ、不動産を処分することができません。
受託者が2人の場合には2人の同意が必要になるなど、家族信託のメリットである財産管理の自由度が低くなってしまう点に注意しましょう。
そのため、複数人の受託者を設定したい場合には、1人を受託者に設定し、もう1人は信託監督人に指定するといった形がおすすめです。
5-2. 委託者が受託者になる自己信託
平成19年9月30日から改正信託業法が施行され、委託者と受託者を同一人物とする自己信託が可能になっています。
自己信託は、親なき後問題を解決するための手段として利用されることが多いです。
親なき後問題とは、障害がある子供が親が亡くなった後に1人で生活していくことが困難になってしまう問題を指します。
親なき後問題への対策としては、委託者である親が自分に対する信託契約を行い、受益者に障害のある子供を指定します。
生きている間は自分で財産を運用し、自分の死後は信頼できる人物に財産を引き継ぐように設計することで、親なき後も受益者である子供が信託財産からの利益を受け取ることが可能です。
ただ、生活を全面的にサポートするためには身上監護も必要になるので、成年後見制度や任意後見制度を組み合わせて利用する必要があります。
5-3. 受益者が受託者になる
受益者が受託者になる家族信託は、基本的に認められません。
なぜなら、自分の利益のために自分の財産を運用することは、信託法が定める本来の目的から外れるからです。
ただ、後発的な理由で受益者が受託者になるパターンがあります。
たとえば、委託者兼受益者であるAが、受託者Bが亡くなった場合に受託者になることを信託契約で定めている場合です。
この場合、受託者Bが亡くなると次の受託者がAになるため、受益者=受託者という構造になります。
ただ、この状態は本来の信託目的から外れているため、長くても1年程度しか信託の効力を維持することができません。
6. 受託者に与えられる権限や義務
続いて、受託者に与えられる権限や義務・責任についてみていきましょう。
受託者は家族信託で重要な役割を担うため、その権限や義務の範囲はとても広いです。
受託者を決める際には、どのような業務を行い、権限や義務・責任の範囲がどこまであるのかを把握していることが求められます。
適切に受託者を選任するためにも、受託者の役割を事前に整理しておきましょう。
6-1. 受託者に与えられる権限
受託者には信託財産の管理・運用・処分など、さまざまな権限が与えられます。
信託目的に反しない限りは、単独で財産を処分する権利も持つため、財産に対して強い権限を持つことになります。
しかし、受託者の権限に制限がないわけではなく、信託契約によって権限が制限される場合があります。
信託契約では委託者と受託者の間で信託契約を結びますが、この信託契約のなかで受託者に与える権限を指定することが可能です。
たとえば「信託財産を受託者単独では売却できない」・「売却する場合には兄弟Aの同意が必要」など。
受託者が強い権限を持って暴走してしまうことを避け、望み通りの事故信託を実現するためにも、受託者に与える権限は慎重に吟味しましょう。
6-2. 受託者が負う義務・責任
受託者は財産に対して強い権限を持つ反面、さまざまな義務・責任が与えられています。
財産の管理など受託者としての役割を遂行するためには、さまざまな義務・責任を負う必要があるため、どのようなものがあるか事前に整理しておきましょう。
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受託者はこれらすべての義務や責任を全うする必要があります。
権限が大きい反面、義務や責任も多く、安請け合いしてしまうと後から大変な目に遭うことも珍しくありません。
そのため、受託者がどのようなことをしなければならないのか、責任や義務を事前に把握しておきましょう。
では、もしこれらに違反してしまった場合、受託者はどうなってしまうのでしょうか。
6-3. 受託者が権限・義務に違反した場合はどうなる?
もし受託者が権限や義務に違反した場合には、それ相応のペナルティが課されることになります。
具体的な罰則は定められておらず、違反してしまった内容や状況によってペナルティは異なり、受託者を解任される可能性もあります。
たとえば、信託財産である現金を信託内容の範囲外で受託者が使い込んでしまった場合。
この場合、受益者は受託者に対して使い込んだ分の財産を元に戻す請求を行うことが可能です。
最初は当事者間での話し合いから始めますが、まとまらない場合には訴訟を起こし、裁判で解決していくことになるでしょう。
また、信託目的以外での使い込みは、信託法の忠実義務に反するため、受託者を解任することが可能です。
一般的には、受託者と委託者・受益者間の信頼関係は崩れてしまっているので、受託者を解任するという流れになるでしょう。
もし、この際に受益者が認知症などで意思能力を失っている場合には、受益者の意思によって受託者を解任することは難しいです。
そのため、このような場合に備え、受益者代理人を設定しておくことがおすすめです。
受益者代理人は、文字通り受益者の代理人としての役割を持つため、受益者の代わりに受託者を解任できます。
受益者代理人の指定には、事前に信託契約書のなかで受益者代理人を選定する旨を定めておく必要がありますので注意しましょう。
7. 受託者は報酬をもらえる?
受託者は財産管理や財産に関する事務に対しての報酬を受け取ることが可能です。
ただ、信託報酬を受け取る場合には、信託契約書の内容に信託報酬に関する条項を盛り込む必要があります。
条項に盛り込んでいない場合には、無報酬で受託者の役割を果たすことになります。
必ずし報酬を支払う必要はありませんが、代わりに財産管理などを任せる点から、報酬を渡したいと委託者も多いでしょう。
また受託者側も報酬があると、モチベーションにもなり、しっかりと受託者としての義務や使命を果たすことにつながる傾向があります。
報酬の設定方法に規定はないため、任せる内容にふさわしい報酬を設定しましょう。
ただ報酬が多すぎると、相続税対策などと疑われてしまう可能性がありますので注意が必要です。
なお、報酬の受け取り方も自由で、毎月現金で受け取る場合もあれば、信託財産で生じた利益の数%を年ごとにもらうという形でも問題ありません。
8. 受託者になる前に知っておくべき注意点
受託者になる前に知っておくべき注意点を2つ紹介します。
<受託者の注意事項>
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受託者を引き受けた後では、知らなかったで済まない問題になってしまうので、事前に注意点を整理しておきましょう。
8-1. 無限責任を負わなければいけない
受託者は信託財産に対して、無限責任を負わなければなりません。
そのため、信託財産で補えない債務が発生した場合には、個人資産から補填する必要があります。
たとえば、信託財産である収益不動産のリフォームを行なったとしましょう。
銀行などから融資を受けた場合には、債務を返済する必要がありますが、この債務返済が信託財産からの収益で間に合わない場合には個人資産から支払わなければなりません。
状況によっては、個人資産に大きく影響することもあるため、信託内容や運用方法については慎重に協議する必要があります。
8-2. すべてのことができるわけではない
受託者だからといってすべてのことができるわけではありません。
制度の運用上、信託財産は受託者の名義にはなります。
しかし、その財産に対してすべてが自由になることはなく、信託契約で定められた範囲内での運用しか認められません。
たとえば、信託契約において売却を禁止されている場合には、信託財産を売却することはできないのです。
9. 受託者の設定は慎重に行おう!
ここまで家族信託における受託者の役割や義務などについて解説してきました。
受託者は家族信託において、重大な役割を担い、家族信託の成立には欠かせない存在です。
財産に対して強い権限が与えられる反面、義務や責任なども重いため、受託者の選任は慎重に行いましょう。
もし家族信託の設計について不安がある、受託者の選び方がわからないという場合には、専門家に相談することがおすすめです。
日本クレアス税理士法人では、司法書士と連携して家族信託をトータルサポートいたします。
受託者についての無料相談も受け付けていますので、お気軽にご連絡ください。
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