暦年贈与による 贈与税の計算は、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与によりもらった財産を合計し、その合計額から基礎控除額の110万円を差し引きます。その後、その残りの金額に税率をかけ、税額を計算します。
コラム「贈与税額の早見表~ひと目でわかる!【保存版】」では贈与税の改正前後をご紹介しましたが、本記事では実際に贈与する財産の価格別に贈与税がいくらかかるかシミュレーションをしてみたいと思います。
目次
1. 【特例贈与・一般贈与】贈与税の税率表と財産別シミュレーション
暦年贈与は、「特例贈与」と「一般贈与」に分かれます。
「特例贈与」とは、親や祖父母など直系尊属から、その年の1月1日において20歳以上となる子や孫などに贈与することです。祖父から孫への贈与、父から子への贈与などがあてはまります。
「一般贈与」とは、兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合など、「特例贈与」にあたらない贈与を指します。
特例贈与は一般贈与によりも税率が低く、控除額が多く設定されています。
<特例贈与と一般贈与の税率と控除額の比較>
特例贈与 | 一般贈与 | |||
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 | 控除額 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - | 10% | - |
300万円以下 | - | - | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 15% | 10万円 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 | 50% | 250万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 | 55% | 400万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
次に、実際の財産の価格、つまり“基礎控除前”の財産価格別の贈与税額をご紹介します。
<財産価格別の贈与税額シミュレーション>
特例贈与 | 一般贈与 | |||
贈与金額 | 贈与税額 | 実質税率 | 贈与税額 | 実質税率 |
110万円 | 0 | - | 0 | - |
200万円 | 9万円 | 4.5% | 9万円 | 4.5% |
400万円 | 33.5万円 | 8.4% | 33.5万円 | 8.4% |
600万円 | 68万円 | 11.3% | 82万円 | 13.7% |
1,000万円 | 177万円 | 17.7% | 231万円 | 23.1% |
2,000万円 | 585.4万円 | 29.3% | 695万円 | 34.8% |
3,000万円 | 1,035.5万円 | 34.5% | 1,195万円 | 39.8% |
5,000万円 | 2,049.5万円 | 41.0% | 2,289.5万円 | 45.8% |
1億円 | 4,799.5万円 | 48.0% | 5,039.5万円 | 50.4% |
2. 建物・不動産を贈与した際の贈与税の計算シミュレーション
建物や不動産を贈与した場合、どれくらい税金がかかるのかが気になるという方も多いでしょう。
建物や不動産は、価値を調べたうえで贈与税の算出をしていく必要があります。
どのように計算すればいいかわからずに困る方もいるので、ここでは建物・不動産の贈与税計算シミュレーションを紹介します。
シミュレーションを参考に、自身の贈与税を計算してみましょう。
2-1. 建物や不動産を受け取った際の計算方法
建物や不動産を受け取った場合は、固定資産税評価額に1.0を掛けた額が贈与された額になります。
故人が不動産を所有している間に固定資産税を納税していれば、納税通知書が保管されています。
納税通知書に固定資産税評価額が記載されているので、そちらを確認しておきましょう。
計算方法の1.0を掛けても、固定資産税評価額に変動はありません。
そのため、記載されている固定資産税評価額そのものが贈与された額だと考えましょう。
例として、固定資産税評価額3,800万円の不動産を贈与された際のシミュレーションを紹介します。
|
同じ額の不動産を受け取っても、直系尊属から受け取ったかどうかによって205万円の差が出ます。
控除を活用することで納税額を抑えられるので、適用条件を満たしている控除がないかを確認しておきましょう。
2-2.土地を受け取った場合の計算方法
土地を受け取った場合は、路線価方式・倍率方式のどちらかで評価額を算出しなければなりません。
日本全国の土地には路線価が定められており、所有している土地が面している道路に定められる路線価を参考に計算します。
例として、路線価20万円、200平方メートルの土地を贈与してもらった場合のケースを見てみましょう。
路線価20万円、200平方メートルの土地のシミュレーション
20万円(路線価)×1.00(奥行補正率)×200平方メートル(土地面積)=4,000万円 |
奥行補正率は、土地の形状に応じて変動する数値です。
そのほかにいくつかの補正率があり、調整したうえで計算式にあてはめなければなりません。
場所によっては路線価が定められていないので、その場合は固定資産税評価額に一定の倍率をかけて計算する必要があります。
例として、北海道札幌市の厚別区下幌にある、固定資産税評価額2,000万円の土地のシミュレーションを倍率方式で見てみましょう。
倍率方式のシミュレーション
2,000万円(固定資産税評価額)×1.3(厚別区下幌の評価倍率)=2,600万円 |
評価倍率は地域別に定められており、国税庁ホームページから確認できます。
まずは路線価を確認し、定められていない場合は固定資産税評価額と評価倍率表を入手しましょう。
3. 平成27年(2015年)改正前後の贈与税額
平成27年(2015年)1月1日の贈与税の税制改正により、贈与額が高額な場合を除いて、贈与税の負担が少なくなりました。高齢者の方の資産を次世代に移転、推進するのが狙いと言われています。
平成27年(2015年)1月1日の贈与税の税制改正により、贈与額が高額な場合を除いて、贈与税の負担が少なくなりました。高齢者の方の資産を次世代に移転、推進するのが狙いと言われています。
※相続時精算課税制度の対象とならない贈与財産についての見直しです。
特例贈与、一般贈与それぞれ改正前後の税率をご紹介します。
<【特例贈与】贈与税額の比較>
平成27年1月1日以降 | 平成26年12月31日まで | |||
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - | 10% | - |
300万円以下 | - | - | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 15% | 10万円 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 | 50% | 225万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 | ||
4,500万円以下 | 50% | 415万円 | ||
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
<【一般贈与】贈与税額の比較>
平成27年1月1日以降 | 平成26年12月31日まで | |||
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 | 50% | 225万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 | ||
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
4. 【令和3年度税制改正大綱】気になる相続税・贈与税の一体化
令和3年度税制改正大綱には「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税のあり方を見直す」とありました。より中立的な税制を構築するとして、今後大幅な税制改正が予想されています。
元々、富裕層への富の集中に対して相続税・贈与税の強化は議論されていました。暦年課税贈与制度によって毎年110万円までは贈与税が課税されず、相続財産が圧縮されることが背景にあります。
実際に、野村総合研究所が作成している日本の富裕層の分析によれば、12年間で超富裕層・富裕層が増加していることが分かります。
<日本の富裕層の分析>
2007年 | 2019年 | 増加 | ||
超富裕層(5億円以上) | 世帯数 | 6.1万世帯 | 8.7万世帯 | 2.6万世帯 |
保有額 | 65兆円 | 97兆円 | 32兆円 | |
富裕層(1億円以上5億円未満) | 世帯数 | 84.2万世帯 | 124万世帯 | 39.8万世帯 |
保有額 | 189兆円 | 236兆円 | 47兆円 |
(出典:納税通信 第3674号)
富裕層への富の集中の解消に加え、コロナ禍による税収入減少への対策として、改めて検討すべきという時期に来たようです。
※なお、富裕税の導入は以前から議論はされていました。1961年の政府税制調査会で、富裕税導入が検討対象となり、移行、1964年、1977年、1980年、1983年、そして1986年の答申に導入に関する議論がありますが、これまで具体的には進展してきませんでした。
5. 【令和5年度税制改正大綱】贈与税・相続税の改正点
令和3年の税制改正に続き、令和5年度の税制改正大綱では贈与税・相続税の計算方法の改正が行われました。
改正内容は令和6年1月1日からの贈与・相続に適用されるため、該当する方は改正点を確認することが大切です。
ここでは、令和6年から適用される3つの改正点を解説します。
5-1. 改正点①:相続時精算課税制度の変更(基礎控除の創設)
令和5年度の改正によって、相続時精算課税制度に基礎控除が創設されました。
生前贈与を受けたときは、原則暦年課税制度が適用されますが、任意で相続時精算課税制度を選ぶことができます。
それぞれの特徴は以下の通りです。
暦年課税と相続時精算課税制度の特徴
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今回の改正によって、特別控除2,500万円とは別に110万円の基礎控除が適用されるようになりました。
相続時精算課税制度は一度選択すると生涯にわたって適用されるため、基礎控除と特別控除を利用することで納税額を大幅に押さえられます。
相続時の納税額や基礎控除によっては支払った贈与税が還付される可能性もあるため、生前贈与を行いやすくなるでしょう。
5-2. 改正点②:暦年課税の加算期間を延長
暦年課税の相続加算期間が見直され、3年以内から7年以内に変更されました。
暦年課税は年間110万円までの贈与なら、贈与税の支払いをせずに済む制度です。
少しずつ生前贈与を行うことで相続時の財産を減らし、相続税の節税を行うことが可能でした。
ただし相続開始前3年以内の期間に贈与された財産はすべて相続税に加算されるため、結果的に納税負担が重くなる恐れがあります。
今回の改正によって3年以内から7年以内に延長されたので、7年以内に受け取った財産はすべて相続税の対象になると考えておきましょう。
5-3. 改正点③:暦年課税の延長における贈与分の取り扱い
今回の改正によって相続時に加算する期間が4年延長されましたが、延長された期間に受け取った総額100万円までは相続時の加算対象外です。
たとえば、10年にわたって100万円の贈与を暦年課税で受け取っていたとします。
10年間×100万円=1,000万円ですが、相続開始から3~7年前の4年間は100万円が加算対象外になるため、1,000万円-100万円=900万円が相続時に加算されます。
暦年課税は60歳以下から利用できる制度ではあるものの相続時の負担が重くなるため、贈与を開始する年齢と利用する制度をよく比較することが大切です。
6. 贈与税がかからない方法とは?
生前贈与の際に、子どもや孫の負担をできるだけ抑えたいと考える方も多いでしょう。
贈与するものによっては贈与税がかからず、贈与税がかかる場合も工夫次第で納税額を抑えられます。
ここでは、贈与税がかからない財産と、贈与税を抑える方法を解説します。
6-1. 贈与税がかからない財産
贈与税がかからない財産にはさまざまなものがあるため、贈与を検討している方はチェックすることがおすすめです。
贈与税がかからない財産は以下の通りです。
贈与税がかからない財産
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贈与税がかからない財産は数多くあるものの、1つ1つに要件も定められています。
たとえば法人から贈与された財産には、贈与税は発生しませんが所得税が発生します。
宗教や学術などを目的とする人が取得した財産は、目的のために使われなければ贈与税が非課税になりません。
いずれかに当てはまるものを贈与する場合は、非課税になるための要件もチェックしておきましょう。
6-2. 贈与税を抑える方法
贈与税を抑えて子どもや孫に財産を譲りたい方は、以下の方法を確認してみましょう。
贈与税を抑える方法
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前述したように、生活費・教育費・結婚・子育てに必要だと認められる贈与には税金が発生しません。
贈る相手によっていずれかの目的が適用できる場合は、贈与税を非課税にできるでしょう。
ただし、毎年110万円以内のお金を贈る場合は注意が必要です。
定期的に一定の財産を送り続けると、定期贈与とみなされる恐れがあります。
定期贈与は、贈与を取り決めた際に定期金に関する権利を贈与されたと判断されるので、贈与の総額に対して税金を課せられます。
贈与の年数によっては高額の贈与税が発生するので、贈り方を工夫することが大切です。
110万円を超える贈与をする場合は、暦年贈与や相続時精算課税制度を活用しましょう。
どちらも生前贈与分を相続時の財産に加算できるため、納税額を抑えられます。
7. 贈与税のシミュレーションでよくある質問
贈与税のシミュレーションを見て計算方法はわかったけれど、まだわからない点がいくつかあるという方も多いでしょう。
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ここでは、贈与税のシミュレーションでよく寄せられる質問を紹介します。
7-1. 贈与税に基礎控除はある?
贈与税の基礎控除は毎年(1月1日〜12月31日)110万円です。
年間110万円以下の贈与なら基礎控除内なので、贈与税を支払わずに済みます。
ただし、暦年課税は生前贈与分が相続時に加算されるので注意が必要です。
相続時精算課税制度は改正によって基礎控除が創設されたため、110万円以下の贈与なら贈与税・相続税のどちらも発生しません。
ただし、利用できる年齢が60歳以上と決められているので、60歳前に贈与をする際は暦年課税制度を選ぶ必要があります。
7-2. 贈与税の計算で端数が出てしまった場合は?
贈与税の計算をする際に端数が出てしまった場合は、暦年課税と相続時精算課税制度のどちらを利用しているかによって処理方法が異なります。
暦年課税は算出した贈与税額の1,000円未満の端数は切り捨てです。
相続時精算課税制度は、特定贈与者別の価額の1,000円未満の端数を全額切り捨てます。
相続時精算課税制度は特定贈与者別に適用されるため、贈与の総額で計算しないよう気を付けましょう。
特定贈与者別に端数を切り捨てる必要があるので注意が必要です。
7-3. 贈与税の計算はエクセルでできる?
贈与税の計算は農林水産省が提供するエクセルシートで行なえます。
エクセルシートには贈与税の計算だけでなく、相続税の計算ができるシートも付いているため、どちらかを計算する際に活用しましょう。
ただし、シートでの計算はあくまで簡易版になるため、実際には金額が異なります。
大体の目安を把握するために使うものを考えておきましょう。
8. 賢い生前贈与対策が必要に。
令和5年の税制改正大綱では、贈与制度に大幅な変更が行われました。
今までは一般的な家庭の場合、年間110万円までの暦年課税制度をコツコツ利用することが節税方法として多く活用されていましたが、今回の改正により相続時清算課税制度も非常に利用しやすくなっています。
暦年課税の加算期間も7年に延長されているため、相続時清算課税制度の方がいいのでは?と考える方も多いでしょう。
しかし、すぐに決めつけるのは危うく、ケースによってはこれまで通り暦年課税を利用した方がいい場合もあります。
相続時清算課税制度は一度選択してしまうと生涯適用される方法のため、詳細なシミュレーションを行ったうえで判断しましょう。
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