二次相続対策の正しい方法・間違った方法
家族構成
- 父(一次相続の被相続人)
- 母(二次相続の被相続人))
- 長男(一次・二次相続の相続人/相談者)
- 長女(一次・二次相続の相続人)
財産構成
- 郊外の自宅 3,500万円(相続税評価額/面積300㎡)
- 投資用マンション 5,500万円(相続税評価額/面積400㎡)
- 上場株式 6,000万円
- 父母共有の預金 5,000万円(全額父名義)
- 生命保険金 1,000万円(加入者は父/受取人は母)
- 合計:2億1,000万円
ご相談内容
「父の資産を相続するにあたり、配偶者の税額の軽減を最大限活用すべきか」とのご相談です。
将来については、預貯金はお母様の生活費として確保しつつ、自宅・投資用マンション・上場株式の半数の運用の3点を相談者(長男)が承継するとの方針が決まっていました。相談者の妹(長女)は遠方に嫁いでおり、上場株式の半数とご両親の死後遺された預貯金のみ取得することに同意されています。
ただ、ご家族揃って気がかりなのは、どのように節税するかです。ご相談時点までは、一次相続でいったんお母様が全額取得し、「配偶者の税額の軽減」を最大限活用する方向性で検討されています。その上で、念のため確認した上で遺言書作成等の相続準備を進めたいとのご希望でした。
日本クレアス税理士法人の対応
一次相続でお母様が全額取得された場合に関して、ほとんど節税効果は得られない旨をご案内しました。慎重に課税額試算を行った結果、生前贈与等を活用して一次相続・二次相続共に課税価格を抑えられることが判明し、ご家族全体で相続対策の検討を提案しました。
二次相続での節税のポイント
本事例の最大のポイントは、1回目の相続における配偶者取得分の抑制です。
「両親から子・孫へ」とのように続く数次相続では、最後の課税時までに相続人の数が減り、これに応じて基礎控除額も下がる点を意識しなければなりません。直近の節税効果ばかり気にかけ、「遅れて被相続人になる人」が多く取得するよう遺産分割の配分を決めるのは、かえって逆効果です。
それでは、本事例で「配偶者の税額の軽減」を最大限活用するつもりで相続対策していた場合、課税額は一体どのくらいになっていたのでしょうか。ここで一度、シミュレーション してみましょう。
1回目の相続
取得した課税価格(基礎控除含む) | 法定相続分に応じた課税額 | 各人の納付税額 | |
---|---|---|---|
母 | 1億8,134円(1,866万円減額済※) | 1,300万円 | 262万円 (1,970万円の控除) |
長男 | 0円 | 466万円 | 0万円 |
長女 | 0円 | 466万円 | 0万円 |
合計 | 1億8,134万円 | 2,232万円 | 262万円 |
◎基礎控除額=4,800万円(法定相続人=母・長男・長女の計3人)
※「小規模宅地等の特例」による評価減です(詳しくは後述)
【2回目の相続】(1回目の相続税納税以外に財産の費消がない場合)
取得した課税価格(基礎控除含む) | 法定相続分に応じた課税額 | 各人の納付税額 | |
---|---|---|---|
母 | ― | ― | ― |
長男 | 1億134万円(1,866万円減額済※) | 1500万円 | 1,611万円 |
長女 | 8,738万円(亡母が受け取った生命保険金含む) | 1500万円 | 1,389万円 |
合計 | 1億8,872万円 | 3,000万円 | 3,000万円 |
◎基礎控除額=4,800万円(法定相続人=母・長男・長女の計3人)
※「小規模宅地等の特例」による評価減です
2回目の相続までの課税額の総額 =263万円+3,000万円=3,263万円
上記金額を踏まえた上で、本ケースでは相談者の計画とは異なる提案を行います。その提案とは、これから紹介する3点です。
【1】小規模宅地等の特例を最大限活用する
二次相続対策で最初に着目したいのは、遺産総額を押し上げている不動産です。前提として、承継人(長男)が適用要件を満たす限り、取得時に「小規模宅地等の特例」を適用することで評価額を大きく減らせます。
- 自宅不動産(特定居住用宅地等)
→取得者が同居要件等を満たせば、限度面積330㎡まで80%減額 - 投資用マンション(貸付事業用宅地等)
→取得者が事業承継要件等を満たせば、限度面積200㎡まで50%減額
※上記カッコ内=特例の適用区分
ただ、小規模宅地等の特例を上記2つの区分で併用すると、適用可能な面積は330㎡+200㎡=530㎡であるところ、「全体で200㎡以内」に引き下げられてしまいます。そこで以下のように、相続税が課税されるタイミングをずらし、2区分の同時適用を避ける方法が考えられます。
- 父から母へ自宅不動産を生前贈与する→「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」の適用で、2,110万円の評価減
- 投資用マンションは1回目の相続で承継→1,370万円の評価減
- 自宅不動産は2回目の相続で承継→2,800万円の評価減
【2】現金は生前贈与で移転させておく
預貯金・現金の相続税は対策が難しく、死亡による承継を繰り返すことはなるべく避けたいものです。
考えられるのは、相続各回の被相続人のため生前の支出分を確保しておき、残った額は贈与で相続財産から除外する対策です。考えられる具体的な策として、ひとつは暦年課税の毎年の基礎控除額(=110万円)に収まるよう少しずつ贈与する方法が挙げられますが、下記のような特例の活用も検討の余地があります。
- 相続時精算課税の選択
60歳以上の父母から20歳以上の子や孫への贈与を条件に、相続開始まで総額2,500万円を限度に贈与税の基礎控除を拡大する制度です。なお、本制度を選択した贈与分は、相続財産に加算されます(=相続時精算)。そのため、現金ではなく購入した収益性不動産をプレゼントする等、相続時精算に向けた節税の工夫が必要です。 - 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税の特例
父母からその子や孫に対する贈与で、受贈者が居住する家屋の新築・取得・リフォーム等のための費用であることを条件に、最大1,500万円まで非課税(※令和2年4月1日~令和3年12月31日の贈与分)となる特例です。 - 教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税の特例
父母から30歳未満の子や孫名義の口座へ拠出することを条件に、教育資金を一括で贈与した場合、1,500万円を限度に非課税となる特例です(学校等以外に支払われる金銭は500万円が限度)。
本相談事例においては、長女に孫がいたため、教育資金の贈与を提案しました。
【3】生命保険金の受取人指定を変更する
死亡保険の契約内容も、二次相続では注意を要します。
前提として、生命保険金も「みなし相続財産」として扱われますが、受取額には法定相続人1人につき500万円の非課税枠が設けられています。紹介した事例では、保険会社から支払われた時点ではまだ課税されません。
問題は、配偶者、つまり「2回目の相続における被相続人」が受け取る予定になっている点です。受け取った配偶者がもし消費できなければ、亡くなった時点で「現金・預貯金」として課税価格に算入されてしまいます。この点を踏まえれば、受取人指定について下記のような対策が必要です。
- 納税資金対策にする
1つ目の変更案は、受取人を「高額資産を承継する相続人」に変更し、納税資金が枯渇しないようにするものです。本事例では、変更先の受取人候補者として、不動産を中心に取得する長男が考えられます。 - 相続トラブル対策にする
2つ目の変更案は、不動産の共有名義対策等の影響で「取得額が不十分な相続人」を受取人指定するものです。本事例では、変更先の受取人候補者として、遺産分割について将来不満を持つ可能性のある長女が考えられます。 - 3つめの項目
本相続事例では、納税資金と不動産の運用資金をしっかり確保するあったため、受取人指定を長男に変える策を提案しました。
二次相続対策後の相続税シミュレーション
ここまで解説した3つの対策を講じたところで、改めて相続税の課税額をシミュレーション してみましょう。すると、以下のような結果になります。
【1回目の相続】(夫婦間贈与適用時に贈与税450万円 を納税済)
取得した課税価格(基礎控除含む) | 法定相続分に応じた課税額 | 各人の納付税額 | |
---|---|---|---|
母 | 9,050万円 | 637万円 | 0万円(全額軽減) |
長男 | 4,125万円(1,370万円減額済) | 264万円 | 364万円 |
長女 | 0万円 | 264万円 | 0万円 |
合計 | 1億3,175万円 | 1,165万円 | 364万円 |
◎基礎控除額=4,800万円(法定相続人=母・長男・長女の計3人)
※「小規模宅地等の特例」による評価減です
【2回目の相続】(被相続人による財産の費消がない場合)
取得した課税価格(基礎控除含む) | 法定相続分に応じた課税額 | 各人の納付税額 | |
---|---|---|---|
母 | ― | ― | ― |
長男 | 3,700万円(2,800万円減額済※) | 366万円 | 277万円 |
長女 | 6,050万円 | 366万円 | 454万円 |
合計 | 9,750万円 | 732万円 | 732万円 |
◎基礎控除額=4,800万円(法定相続人=母・長男・長女の計3人)
※「小規模宅地等の特例」による評価減です
2回目の相続までの課税額の総額 =450万円+364万円+732万円 =1,546万円
→1,717万円の節税に成功
改めて二次相続のポイントを整理すると、配偶者等「中継ぎ」にあたる人には財産を集中させ過ぎず、将来を見据えてあらゆる対策を有効活用しなければなりません。また、個別の事例においては、親世代の年齢や今後の資産運用の展望まで個別に考慮する必要があります。
少しの無駄もなく財産を承継するために、まずは相続に強い税理士など専門家の相談を受けてみることから始めてはいかがでしょうか。

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