死後認知とは?請求手続きの方法からメリットや時効・相続への影響まで解説
父親が、婚姻外で生まれた子どもを「自分の子ども」と法的に承認することを「認知」といいます。
また、父親が亡くなった後に、法律関係上の子どもと認めてもらうことが「死後認知」です。
死後認知は、法的な手続きが必要になります。
死後認知の手続き時に必要な準備や、手続きのポイントを解説します。死後認知を考えている方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
1. 死後認知とは:非嫡出子が父親の死後に認知してもらうこと
死後認知とは、非嫡出子が父親の死後に認知してもらうことです。
法律上婚姻関係を結んでいない、男女の間に生まれた子どもを「非嫡出子(ひちゃくしゅつし)」といいます。
出産の事実から、母と子の親子関係は明らかですが、父親は「認知」をしないと親子関係が認められません。
父親の場合は「認知」によって、法律上、親子関係があると認められます。
また、不慮の事故などで父親が亡くなってしまった後に、父親だと法的に承認してほしいときは「死後認知」が必要になります。
では、どのような流れで死後認知を行えばよいのでしょうか。
手続きをする際のポイントを3つ解説します。
1-1. 死後認知を得るためには訴訟を提起する必要がある
父親である男性が亡くなったあとに「自分の子どもです」と法律で認めてもらうためには、家庭裁判所で「認知の訴え」という裁判を起こす必要があります。
民法では、父親が亡くなってから3年以内に「認知の訴え」を提起しなければならないと定められています。(民法781条)
この訴えが認められると、子どもと正式に認知され、相続権などが得られます。
1-2. 死後認知を請求できる人とは:相手方は検察官
死後認知の裁判(認知の訴え)を起こせるのは、以下の人です。
①:婚姻外で生まれた子ども
②:①の子どもまたは孫
③:①または②の法定代理人
相手方は、本来父親となりますが、亡くなっているため、裁判の相手は「検察官」になります。
1-3. 死後認知の請求時効:父親の死後3年以内
死後認知は、父親が亡くなってから3年以内に、家庭裁判所で申し立てをしなければいけません。
3年を過ぎてしまうと、どのような事実があったとしても、法律的には「子ども」として認められないことがあります。
必ず、期限内に申し立てをしましょう。
1-4. 死後認知と遺言認知の違いは?
亡くなった方との親子関係を法的に認めてもらう方法に「遺言認知」があります。
死後認知と遺言認知では「いつ認めるか」「誰が手続きを行うか」に違いがあります。
「遺言認知」とは、父親が生前に遺言書で子どもを法的に承認する方法です。
たとえば、自分の子どもであると認識していても、さまざまな理由から一緒に暮らすことができなかった場合があります。
このとき、遺言書に明記しておけば、法的に承認されるのです。
どちらも「子どもであることを法的に認めてもらう」点では共通しています。
しかし、認知を行うのが父親本人か子ども側か、そしてそのタイミングによって、手続き方法が異なります。
2. 死後認知訴訟を提起する2つのメリット
死後認知訴訟を起こすメリットは、以下の2つです。
- 父親の相続において相続権を得られる
- 自分の戸籍に父親の名前が載せられる
1つずつ解説します。
2-1. 父親の相続において相続権を得られる
父親が亡くなった後でも、その人の子どもとして認められれば、相続権を得ることができます。
たとえ生物学上の子どもであっても、父親が「自分の子どもである」と法的に承認していなければ、法律上の親子関係があるとはみなされません。
つまり、父親の認知がなければ相続権がないのです。
遺産を相続したい場合には、死後認知訴訟を起こして、親子関係を法律的に成立させましょう。
2-2. 自分の戸籍に父親の名前が記載される
死後認知によって法律上の親子関係が承認されると、戸籍に父親の名前が正式に記録されます。
親子関係は「戸籍」で管理されています。
しかし、父親が「自分の子ども」と法的に承認をしなかった場合、子どもの戸籍には父親の名前が記載されません。
死後認知すると、親子関係が書類上でも明確にできます。
3. 死後認知訴訟の手続きの流れ
死後認知を申請する際は、以下のような手順をたどります。
- 家庭裁判所へ認知の訴えを起こす
- 関係する人々へ訴訟が行われた旨を通知
- 裁判を通じて親子関係があるか審査される
- 認知が認められた後、役所へ「認知届」を提出
以下では、手続きのポイントを説明します。
3-1. 認知の請求方法は3つある
認知の請求方法は、「任意認知」「審判認知」「強制認知」の3つがあります。
- 任意認知:父親が「自分の子ども」と生きているときに認める方法です。遺言書に記載した場合も、任意認知にあたります。
- 審判認知:審判で行われる手続きで、話し合いと調査があります。父親の合意があり、かつ裁判所もそれを認めるかを判断されます。
- 強制認知:もしも父親が認知を拒否した場合に行われます。裁判所が証拠を見て「親子」と判断する方法です。
このように、認知には「任意認知」「審判認知」「強制認知」の3つのやり方があります。
父親が亡くなった場合は、合意を得ることはできないため、「強制認知」を行うことになります。
3-2. 死後認知を得るために必要な2つの要件
認知を受けるには、次の2つの条件を満たしていることが必要です。
- 血縁によるつながり(生物学的親子関係)が存在すること
- 現在、法的な親子関係が成立していないこと
裁判所ではDNA検査の結果や、親子の関係性を示す写真・手紙などの証拠をもとに、関係性の有無を判断します。
手続きを行う前に、これらの証明手段が整っているかを確認しておきましょう。
3-3. 死後認知訴訟の提起にかかる費用
死後認知訴訟を行うためには、数十万円程度の費用がかかります。
たとえば、次のような費用が発生します。
- 収入印紙代:約1,200円〜
- 郵便切手代:約数百円〜1,000円程度
- 戸籍・証明書の取得費:300〜750円程度/通
- 弁護士費用(任意):約10万円以上
- DNA鑑定費用(任意):約5万〜10万円前後
それぞれの金額は、地域やケースによって異なりますが、特に弁護士を頼むかどうかで、費用が大きく変わります。
自分でできる手続きは、数千円程度で済みますが、難しい場合は専門家に依頼すると安心です。
4. 死後認知が認められた場合どうやって遺産を相続する?
死後認知が認められた場合は、どのように遺産相続が行われるのでしょうか。
たとえ、遺産分割後であっても、相続を受けることが可能です。しかし、相続するための手続きが異なります。
遺産分割前と遺産分割後の、必要な手続きを確認しましょう。
4-1. 遺産分割前の場合
もし遺産分割がまだ進んでいない段階で死後認知が確定すれば、他の法定相続人と同じ立場で分割の話し合いに加わることができます。
裁判で親子関係が確認されれば、亡くなった父の法定相続人として、正当な持ち分の取得が可能になります。
このため、分割の話し合いに参加し、遺産の一部を正式に受け取れるようになります。
4-2. すでに遺産分割が終了していた場合
すでに他の相続人の間で遺産の分け方が決まっていた場合は、その協議内容をやり直すことは原則できません。
死後認知によって法的な親子関係が成立した場合には、「本来受け取るべきだった相続分」に相当する金額を、他の相続人に請求することが可能です。
遺産分割後のため、相続できるものは、相当分の金銭のみの受け取りです。
5. 死後認知が認められることで相続税にはどんな影響がある?
死後認知が認められると、新たに相続人が増えるため、相続税が軽くなります。
相続税の基礎控除は、以下の計算式で算出されます。
- 3,000万円+600万円×(法定相続人の数)
法定相続人が増えれば、基礎控除額も増えるため、課税される金額が減るのです。
また、死亡保険金の非課税枠も、以下の計算式で算出されます。
- 500万円×(法定相続人の数)
法定相続人が増えると、非課税枠が増えます。そのため、相続税と同様に課税される金額が少なくなるのです。
6. 期限内に死後認知訴訟を提起して相続権を得よう!
亡くなった父と法律上の親子関係を成立させるには、期限内に家庭裁判所へ「死後認知の訴え」を申し立てる必要があります。
この訴訟により、子どもとして「相続を受ける立場」を獲得できます。
相続に関する制度では、親子である証拠が戸籍に反映されていないと、法律上は「子ども」とは認定されません。
したがって、父親の死後に「自分の子である」と法的に示すには、裁判所の判断を仰ぐことが求められます。
この訴訟には時効があり、父が死亡してから3年以内に行動しなければなりません。
期限を過ぎると、たとえ血縁関係が証明されても、法律上は親子として認められない場合があります。
スムーズに進めるためには、なるべく早い段階で専門家に相談し、余裕を持って準備を進めましょう。