死後離婚という言葉を耳にしたけれど、通常の離婚とは何が違うの?と気になっていませんか。
夫、または妻が亡くなった後に離婚するというイメージはできるものの、通常のものと何が違うのか、実施することでどのようなメリットがあるのかを知ることが大切です。
この記事では、死後離婚とは何か、通常の離婚とは何が異なるのかを紹介します。
実施することで得られるメリットと注意したいデメリット、手続きの流れも解説します。
夫、または妻が亡くなった後の義理の家族との関係にお悩みの方は参考にしてください。
1. 死後離婚とは?
死後離婚という言葉を聞いたけれど、どういったものなの?と気になっている方も多いでしょう。
ここでは、死後離婚とは何か、通常の離婚との違いについて解説します。
1-1. 配偶者の死後に姻族関係を終わらせること
死後離婚とは、夫、または妻が亡くなった後に、義理の家族との関係を終わらせることです。
夫か妻が亡くなっても、相手の親族との関係が一切なくなるわけではありません。
姻族関係は続いていくので、良好な仲であれば、その後もよいお付き合いができるでしょう。
ただし、義理の家族と不仲な場合はその限りではありません。
夫、または妻とは仲がよかったものの、両親や兄弟などとは疎遠だった場合は、関係を続けることに躊躇するでしょう。
夫、または妻の死後に姻族関係を続けたくない人が離婚の手続きを実施することで、今後の関係に悩まされずに済みます。
1-2. 死後離婚と通常の離婚の違い
生前と死後の離婚の違いは以下の通りです。
実施する時期 |
戸籍 |
書類の提出先 |
|
通常の離婚 |
夫・妻どちらも生きている間 |
分離される |
自治体 |
死後離婚 |
夫、または妻のどちらかが亡くなった後 |
変わらない |
自治体 |
2つには、実施する時期と戸籍に違いがあります。
通常の場合は、夫と妻が生きている間に、何らかの事情によって関係を絶つものです。
自治体に書類提出後、戸籍が分離されて別世帯を持つことになります。
死後離婚は夫、または妻のどちらかが亡くなった後に、もう一方が自治体に書類を提出するものです。
書類提出後、戸籍は変わりませんが、義理の家族との関係を絶つことが可能です。
2. 死後離婚を行う5つのメリット
夫、または妻が亡くなった後に離婚する必要はあるの?とお悩みの方も多いでしょう。
亡くなった後に書類を提出することで、義理の家族との関係に悩む方はいくつものメリットを得られます。
ここで5つのメリットを紹介するので、ぜひ参考にしてください。
2-1.配偶者の親族との関係を絶てる
パートナーが亡くなった後に書類を提出することで、義理の家族との関係を絶ち、心の平穏を守れます。
前述したように、義理の家族と良好な関係を築けていれば、離婚する必要はありません。
しかし、不仲な状態でパートナーが亡くなれば、その後の関係を負担に感じるでしょう。
離婚書類を提出すれば、義理の家族との関係を絶つことが可能です。
パートナーが亡くなった後の関係に悩まされることもなくなるため、不要な人間関係にストレスを感じることもなくなります。
2-2. 義両親の介護をせずに済む
書類の提出で関係を絶てば、義両親の介護に頭を悩ませることもありません。
離婚しなければ、いずれは義両親の介護問題にも巻き込まれるでしょう。
パートナーが一人っ子、またはほかの兄弟が面倒を見る気がなければ、介護を押し付けられる恐れもあります。
離婚によって関係を絶てば、介護の問題に巻き込まれることはなくなります。
万が一話を持ち掛けられても、離婚によって姻族関係が終了したことを突きつければ、無理に介護をする必要もありません。
2-3. 代々伝わるお墓を管理する必要がない
姻族関係が終了すれば、代々伝わるお墓の管理も必要なくなります。
配偶者の両親が亡くなっている・配偶者が一人っ子、または長男や長女だった場合は、義理の家族が持つお墓を管理していたかと思います。
しかし、夫か妻が亡くなれば、自身が一人で管理を続けなければなりません。
死後離婚すれば義理の家族が持つお墓を管理する義務もなくなるため、面倒な手間から解放されるメリットも得られます。
2-4. 不仲だった配偶者との縁を切れる
不仲だった配偶者と縁を切れることも、死後離婚のメリットです。
離婚を考えていた、または夫・妻と仲が悪かったという家庭も多いでしょう。
生前に離婚しなかったものの、亡くなったのであればこの機に関係を終わらせたいと考える人もいます。
亡くなった後に書類を提出すれば、姻族関係が終了するため、パートナーとの関係をすべて絶てます。
精神的な負担を軽くできるでしょう。
2-5. 再婚におけるリスクを回避できる
配偶者が亡くなった後に書類を提出することで、再婚におけるリスクを回避できます。
夫、または妻が亡くなっても、離婚しなければ義理の家族との関係はそのままです。
関係を維持した状態で再婚すると、亡くなった配偶者の姻族関係と新しい配偶者の姻族関係の2つを維持することになるため、精神的な負担を感じるでしょう。
死後離婚すれば、新しいパートナーとの姻族関係のみになるので、双方に気を配る必要はなくなります。
2つの姻族関係を維持することで起こりうるトラブルを回避できるため、安心して新しい家庭を築けるでしょう。
3. 死後離婚で注意したい4つのデメリット
配偶者が亡くなった後に離婚することで精神的な負担の軽減という大きなメリットを得られる一方で、注意したいデメリットもあります。
ここで解説するので、デメリットを確認したうえで手続きを実施しましょう。
3-1. 死後離婚の取り消しは不可能
生前の離婚同様、死後離婚の取り消しは不可能です。
義理の両親の介護をしたくない、不仲だった配偶者と完全に縁を切りたいと考えて離婚の手続きをしたものの、何らかの事情で姻族関係を復活させたいということもあるでしょう。
しかし、一度実施した手続きを取り消すことはできません。
生前の離婚であっても、再度結婚する際は婚姻届を提出する必要があります。
夫か妻が亡くなっていれば再度婚姻届けを提出することもできないので、義理の家族との関係は二度と結べないと考えておきましょう。
3-2. 死後離婚による子どもへの影響に注意
死後離婚の手続きを行うことで、子どもとの関係が悪化する可能性もあります。
自身は義理の家族との関係を断ち切れてすっきりしても、子どもが同じように感じるかはわかりません。
子どもが祖父母や叔父・叔母、いとこなどと仲がよければ、関係を絶ち切った父、または母に嫌悪感を覚える恐れがあります。
姻族関係を終了しても、義理の家族が子どもと仲良くしてくれるかはわからないので、疎遠になるケースもあるでしょう。
疎遠になった原因が離婚だとわかれば、子どもも反発するかもしれません。
3-3. 配偶者の法要や墓参りへの参加が難しくなる
姻族関係を断ち切ることで、配偶者の法要や墓参りへの参加も難しくなります。
配偶者や義理の家族と不仲であれば、関係が終了しても特に問題はないでしょう。
しかし、義理の家族と不仲でもパートナーとは良好だった場合、不参加へのデメリットを感じます。
法要や墓参りは、死者を悼む場でもあります。
身内で亡くなった人への思い出を語らうこともできますが、関係がなくなれば参加しにくくなるでしょう。
3-4. 自身のお墓を準備しなければならない
義理の家族との関係を絶てば、自身のお墓を準備しなければならない手間も発生します。
姻族関係をそのままにすることで、義理の両親が持つお墓に配偶者と入ることが可能です。
しかし、関係が終了すれば自身は義理の両親のお墓に入れなくなるため、自身でお墓を準備する必要があるのです。
夫や妻と仲が良かった方にとっては、お墓が別々になる点も大きなデメリットになるでしょう。
自身のお墓を準備したとしても、配偶者の遺骨を自身の墓に移すことは難しく、義理の家族とトラブルになる恐れがあります。
4. 死後離婚による生活や年金への影響
亡くなった配偶者と不仲だった、または義理の両親と仲違いしているから死後離婚の手続きを行いたいと考える方も多いでしょう。
しかし、手続きを行うことで、相続や年金などに影響が生じるのでは?と不安を覚えるかと思います。
ここでは、死後離婚による生活や年金への影響を解説しましょう。
4-1. 亡くなった配偶者の財産を相続することが可能
夫、または妻が亡くなった後に手続きを進めても、財産は受け継げます。
配偶者が亡くなった後は葬儀や遺品整理など、すべきことがいくつもあるので離婚のことは考えられないでしょう。
多くの人が、整理や手続きのすべてを終えてから考えるかと思います。
財産を受け継いでから手続きを実施しても、相続に影響することはありません。
義理の両親から相続財産の返還を求められても応じる必要はないため、資産は返さずに保有しましょう。
4-2. 遺族年金も受給可能
相続と一緒で、遺族年金も受給可能です。
遺族年金は、夫、または妻が亡くなった世帯の生活費を補填する目的で支給されます。
死後離婚によって義理の家族との縁が切れても、遺族年金を受給する権利が消失するわけではないので安心です。
ただし、遺族年金を受給するには、以下の要件を満たす必要があります。
- 厚生年金保険の被保険者が死亡した
- 構成年期保険の被保険者期間中に初診日がある病気・けがが原因で、初診日から5年以内に亡くなっている
- 1・2級の障害厚生年金を受け取る方が死亡した
- 老齢厚生年金の受給権者が死亡した
- 老齢厚生年金の受給資格を満たす方が死亡した
参考:日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」
上記のいずれかを満たしていれば、遺族年金を受給できます。
4-3. 手続きをしなければ姓もそのまま
死後離婚をしても、別の手続きを行わなければ姓はそのままなので、生活への影響も少ないでしょう。
生前・死後どちらの離婚も、復氏届を出さなければ苗字は変わりません。そのため、旧姓に戻りたいのであれば、別途手続きが必要です。
夫、または妻のみであれば旧姓に戻った方がいいものの、子どもにとってはそのままの方がよいケースもあるでしょう。
大人・子どもどちらも手続きを行わなければ、亡くなったパートナーの姓をそのまま使えるため、手続きの可否を慎重に判断することがおすすめです。
5. 死後離婚に必要な書類と手続きの流れ
配偶者が亡くなった後に行う離婚にはどのような書類が必要なのか、生前の離婚とは手続きが異なるのかなど、疑問点がいくつも出てくるでしょう。
ここでは、手続きに必要な書類と流れを解説するので、離婚を検討している方は参考にしてください。
5-1. 死後離婚の手続きの流れ
死後離婚の手続きは以下の流れで進みます。
- 必要書類を準備する
- 自治体に提出する
手続きの流れは生前・死後どちらも変わりません。
手続きに必要な書類を準備し、すべてそろったら自治体に提出するだけです。
特に面倒な作業や手間もかからないので、手続きそのものはすぐに終えられるでしょう。
5-2. 手続きに必要な書類
パートナーの死後に離婚手続きを行う際は、以下の書類を準備しましょう。
- 姻族関係終了届
- 手続きを行う人の印鑑
- 本人確認書類
- 戸籍全部事項証明書
夫と妻が生きている場合は、離婚届と本人確認書類のみで手続きを終えられます。
しかし、死後の場合は印鑑が必要になるため、忘れずに持参しましょう。
また、手続きを行う人の本籍地以外の自治体に書類を提出する場合は、戸籍全部事項証明書も用意しなければなりません。
姻族関係終了届は、自治体、または自治体のホームページからダウンロードできます。
足を運ぶ機会がある方は直接受け取り、ホームページからダウンロードする場合は印刷後に必要事項を記入し、提出しましょう。
6. 死後離婚でよく寄せられる質問
配偶者が亡くなった後に離婚できることはわかったけれど、ほかにも疑問点がいくつかあるという方も多いでしょう。
ここでは、死後離婚に寄せられる質問を紹介します。
6-1. 死後離婚の手続きには期限がある?
手続きに期限はないので、希望するタイミングで行えます。
夫、または妻が亡くなった直後でも手続きは行えますし、亡くなってから数年が経過しても可能です。
亡くなってから数年後に義理の家族との関係が悪化する恐れもあるため、慎重に考えたうえで手続きを実施しましょう。
6-2. 配偶者の親族に黙って死後離婚できる?
手続きを行ったことを黙っていても、義理の家族が戸籍を見ればすぐにわかります。
離婚を検討する原因のなかには、義理の家族との関係が悪い・関係を保ち続けることが負担などの理由が挙げられるでしょう。
上記の理由に該当する方は、相手に黙って手続きを行うかと思います。
しかし、「姻族関係終了」の旨が戸籍上に記載されるため、誰かが戸籍にアクセスした場合、その瞬間にバレてしまいます。
何らかのタイミングで知られる可能性が高いため、黙って離婚することは不可能だと考えておいてください。
6-3. 死後離婚後に配偶者の親族から相続財産の返還を求められたけれど応じるべき?
配偶者から相続した財産は、死後離婚の影響を受けないため、返還に応じる必要はありません。
前述したように、手続きが相続・生活・年金に影響を及ぼすことはないので、相続した財産は大切に保管しましょう。
義理の親族との関係を絶ったのであれば返還することが筋だといわれても、応じる必要はありません。
財産を返す義務もないので、対応しないことが大切です。
6-4. 手続きを済ませれば相続放棄したことになる?
夫、または妻が亡くなってから離婚しても、相続放棄をしたことにはなりません。
生前から離婚を考えていて、配偶者が亡くなったタイミングですぐに実行する人もいるでしょう。
ただし、死後離婚は戸籍から外れないので、相続の権利を持ったままになります。
相続の権利を持っているのであれば、法定相続分に則って財産が分配されます。
配偶者には優先的に財産が分配されるため、放棄したい場合には手続きを行わなければなりません。
相続放棄の手続きは、相続開始から3カ月以内です。
必要書類を準備し、家庭裁判所に申し立てる必要があるので、財産を受け取るつもりがない方は、放棄の手続きを早めに済ませましょう。
7. 死後離婚における相続の悩みは税理士に相談しよう!
亡くなった夫、または妻と関係を絶ちたい場合は、死後離婚の手続きを進めましょう。
手続きを進めることで姻族関係が終了し、義実家との関係を断ち切ることが可能です。
ただし、配偶者の墓参りに行きにくくなる、子どもとの関係が悪化する恐れがあるなどのデメリットも生じるため、慎重に考えたうえで実行しましょう。
死後離婚は相続に影響しないとお話ししましたが、いくつかの点で不安を覚える方もいるかと思います。
何らかの疑問や不安を抱える方は、税理士に相談することがおすすめです。
プロの観点から、相続に関する疑問へのアドバイスをしてくれるため、悩みを解消できるでしょう。


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