相続税

専業主婦のへそくりや貯金は相続税の対象?税務調査や対策について解説

監修

中村亨

日本クレアス税理士法人 代表 税理士 公認会計士

専業主婦として家を守りながら家計管理をして、長年コツコツとへそくりを貯めてきたという方も多いでしょう。

生活費をやりくりして貯めたへそくりでも、相続税の対象になる可能性があります。

実際に、税務調査で専業主婦名義の貯金が「名義預金」として指摘され、追徴課税を受けるケースが増えています。

しかし、事前に適切な対策を行えば、へそくりを正当な妻の財産として認めてもらうことも可能です。

本記事では、専業主婦のへそくり貯金がなぜ相続税の対象になるのか、どのような場合に名義預金と判断されるのか、そして税金を回避するための具体的な対策について詳しく解説します。

大切な財産を守るために、ぜひ最後までご覧ください。

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1. 専業主婦のへそくり貯金は相続税の対象になる?

専業主婦のへそくり貯金であっても、金額によっては相続税の対象になる可能性があります。

税務署は「誰のお金で貯金したか」を重視します。

そのため妻名義の通帳に入っているからといって、必ずしも妻の財産になるわけではありません。

なぜ専業主婦のへそくり貯金も相続税の対象になるのか、詳しくみていきましょう。

1-1. 生活費の中から貯めたへそくりでも相続財産とされる

税務署は「お金の出どころ」を最も重視します。

パートやアルバイトで稼いだお金をへそくり貯金していれば専業主婦である「妻の財産」とみなされます。

一方で、へそくりの資金源が「夫の収入」の場合、夫の財産とみなされるのが一般的です。

たとえば、夫から毎月10万円の生活費をもらい、そこから2万円ずつ貯金していた場合、その貯金は夫の財産として相続税の対象になります。

妻が家計をやりくりして貯めたという事実があっても、法的には資金提供者である夫の財産という判断になる可能性が高いのです。

へそくりの金額や期間に関係なく、この原則が適用されます。

1-2. 税務調査では「資金の出どころ」と「管理状況」が見られる

生活費からやりくりしているへそくりであれば、お金のでどころは分からないためバレないと考える方もいるでしょう。

しかし、税務調査では、貯金の「資金の出どころ」と「実際の管理状況」が詳しく調べられます。

調査官は通帳の入金履歴を確認し、夫の給料振込日と妻の口座への入金日を照合したり、ATMの利用記録から誰が実際に出し入れしていたかを調べることもあります。

また、通帳や印鑑を誰が保管していたか、妻がその口座の存在や残高を把握していたかも重要なポイントです。

夫が妻名義の通帳と印鑑を管理し、妻が残高を知らなければ「夫の貯金」とみなされる可能性が高くなります。

調査は非常に細かく行われるため、日頃から適切に管理することが大切です。

2. 名義預金と判断されるケースとは?

名義預金とは、口座の名義人と実際に預金または管理している人が異なる預金口座のことを指します。

たとえば、親が子ども名義で口座開設をして貯金している場合、「子どもの貯金」ではなく「名義預金」とみなされます。

税務署は形式的な名義ではなく、実質的な所有者が誰かを重視するのです。

亡くなった祖父母が、生前に孫名義で口座開設していたといったように、名義預金は相続税の申告漏れでよく問題となるため注意しましょう。

2-1. そもそも名義預金とは?4つの判断基準

名義預金の判断には4つの基準があります。

パターン①:資金提供者が本人ではない(お金の出どころが夫) 

たとえば専業主婦の通帳に毎月夫からの振込があり、そこに貯金されている場合、実際には「夫の財産」とみなされます。

資金のでどころが夫の給料であれば、妻名義の口座であっても、口座内の資金は夫のものという判断です。

パターン②:預金の通帳・印鑑を本人が管理していない 

たとえば、妻名義の口座ですが、実際には夫が通帳と印鑑の保管や資金の出し入れをしている場合「実質的所有者は夫」と判断されやすいです。

名義だけでなく、実際に管理しているのが誰なのかも重要な判断材料となります。

パターン③:本人が存在すら認識していない口座 

たとえば、親が子どもの将来を考え、子どもの名義で口座を作り貯金していた場合が該当します。

この場合、子は"名義だけ借りられている"状態です。そのため、口座内の資金は、親から贈与ではなく親の財産扱いになります。

パターン④:贈与の証拠がなく、贈与契約が成立していない 

たとえば、贈与税の非課税枠内(年間110万円以下)であっても、契約書や通帳の履歴がなければ贈与とみなされない可能性が高いです。

そのため、税務調査で贈与の事実を否認される可能性があります。贈与契約が成立していないと、贈与した金額に関わらず課税される場合があるので注意しましょう。

2-2. 税務調査で申告漏れが発覚した場合のペナルティと注意点

税務調査で名義預金の申告漏れが発覚すると、重いペナルティが課される可能性があります。

申告漏れがあった場合、本来の相続税に加えて、過少申告加算税や延滞税が発生します。

さらに、悪質と判断されれば重加算税が課されることもあるため注意しましょう。

税金を払いすぎた場合は、「更生の請求」を行うことで払いすぎた税金を還付してもらえます。

払いすぎた税金は申請しないと還付されない可能性が高いので注意が必要です。

適正に申告を行い、ペナルティや税金の払いすぎを避けましょう。

3. へそくりを課税対象にしないための対策

専業主婦のへそくりを課税対象にしないためには、事前の対策が重要です。

以下の2つのポイントを抑えておくことで、適切な贈与手続きを行え、妻名義の貯金を正当な妻の財産として認めてもらうことができます。

  • 夫婦間の贈与契約と年間110万円の非課税枠を活用する
  • 配偶者控除や贈与の特例を活用する

1つずつ解説します。

3-1. 夫婦間の贈与契約と年間110万円の非課税枠を活用する

夫婦間でも正式な贈与契約を結ぶことで、へそくりを妻の正当な財産にできます。

正当な財産にするには「贈与契約」を行うのがおすすめです。

年間110万円までは贈与税がかかりませんが、毎年この枠内で夫から妻へ贈与を行ったことを証明するために、契約書を作成して記録に残しましょう。

たとえば、毎年100万円ずつ10年間贈与すれば、1,000万円を税金なしで妻の財産にできます。

贈与契約書には日付、金額、双方の署名押印を記載し、実際に妻の口座に振込を行うことで贈与の事実を明確にします。

また、へそくりを口座で管理する場合、妻が通帳と印鑑を管理し、自由に使用できる状態にしておくことも大切なポイントです。

3-2. 配偶者控除や贈与の特例を活用する

夫婦間の贈与では、年間110万円の非課税枠に加えて「贈与税の配偶者控除」を利用できます。

「贈与税の配偶者控除」は、婚姻期間20年以上の夫婦が居住用不動産や居住用不動産を取得するための資金を贈与する場合、最大2,000万円まで非課税となる特例です。

この制度は生涯に一度だけ使用可能で、通常の基礎控除110万円と合わせて利用できるため、最大2,110万円まで贈与税がかかりません。

また、親から子どもに贈与したい場合は、教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与特例があります。

目的に応じた特例制度も活用することで、相続税対策を行うことが可能です。

4. 専業主婦のへそくりについてよくある質問

専業主婦のへそくりについてよくある質問をまとめました。

  • 専業主婦名義の貯金は全て相続財産になるの?
  • 夫の収入を妻が管理していたら贈与?それとも名義預金?

1つずつ解説します。

4-1. 専業主婦名義の貯金は全て相続財産になるの?

専業主婦名義の貯金がすべて相続財産になるわけではありません。

妻が独身時代に貯めた貯金やパート収入から貯めた分、親から相続した財産などは妻の財産として認められます。

重要なのは「資金の出どころ」と「実質的な管理状況」です。

結婚後、夫の収入から渡された生活費を貯めたへそくりは、適切な贈与手続きがなければ夫の財産とみなされる可能性が高いです。

そのため、夫が亡くなった場合、へそくりは相続財産とみなされます。

4-2. 夫の収入を妻が管理していたら贈与?それとも名義預金?

夫の収入を妻が管理している場合でも、自動的に贈与になるわけではありません。

税務署は「実質的な所有者は誰か」を重視するため、単に家計管理を任されているだけでは妻の財産とは認められないのが一般的です。

妻が夫の給料を受け取り、そこから生活費を支払って残りを貯金していても、正式な贈与契約がなければ「夫のお金を妻が預かって管理している」状態と判断されます。

贈与として認めてもらうためには、以下のポイントを抑えておくことが大切です。

  • 年間110万円以内の受け渡しに留める
  • 贈与契約書を作成する
  • 妻が自由に使用できる状態にしておく
  • 妻自身が通帳や印鑑を管理し、貯金の存在を把握していること

管理している預金が「名義預金」になっていないか、以上のポイントを基に確認しておくと相続時に安心です。

5. へそくりが相続財産とならないためには工夫が必要!

専業主婦のへそくりを相続財産から除外するためには、事前の対策と適切な手続きが不可欠です。

税務署は形式ではなく実質を重視するため、妻名義の口座であっても、資金の出どころや管理状況によっては夫の財産と判断されてしまいます。

年間110万円の贈与税非課税枠を活用した正式な贈与契約や、配偶者控除などの特例制度を組み合わせることで、合法的に財産を移すことができます。

また、妻が通帳と印鑑を自分で管理し、貯金の存在を把握していることも重要です。

将来の相続税負担を軽減するためにも、早めの対策をしておきましょう。

監修

中村亨

日本クレアス税理士法人 代表
税理士
公認会計士

2002年8月に会計事務所として創業、2005年には税理士事務所を開業し、法人や個人のお客様の会計・税務の支援をする中で、「人事労務の問題を相談をしたい」「事業承継を検討している」といったお客様のニーズに応える形でサービスを拡大し続け、現在では社会保険労務士法人など複数の法人からなるグループ企業に成長してきました。お客様に必要なサービスをワンストップで提供できることが当社の強みです。

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