相続税を計算する際には相続財産の総額が必要となるため、すべての財産を1つ1つ評価して評価額を決定する必要があります。
そのように、財産を評価して決定した金額が「相続税評価額」です。
財産には不動産や株式・預貯金などさまざまな種類があり、それぞれの評価方法は異なり複雑な方法が必要な財産もあります。
そこで本記事では、財産ごとの相続税評価額の計算方法を中心に解説。時価との関係や固定資産税評価額との違い・節税方法についても紹介しますので、相続税評価額について詳しく知りたいという方はぜひご覧ください。
目次
1.相続税評価額とは?
相続税評価額とは、財産ごとに決められた評価方法に則って評価した財産の価額です。相続税がかかるかどうかを判断するためには、被相続人が遺した財産にどのくらいの金銭的な価値があるのかを求めなければなりません。
現金であれば1億円は1億円などとわかりやすいのですが、ほかの財産については金銭的な価値に直すために複雑な計算が必要となります。相続では複雑な計算を経て算出した相続税評価額の合計をもとにして、相続税がかかるかどうか、どのくらいの金額になるかを決定していくのです。
1-1.相続税評価額と遺産の時価調査の関係
相続税の評価額は、原則として被相続人が遺した財産の時価をもとに計算します。
なぜなら、相続税は故人が遺した財産の時価が課税対象となるからです。
しかし土地や不動産はじめ株式など、財産によっては時価が変動するため、時価を把握することが難しい場合があります。
そのため、国税庁はそれぞれの財産に対して評価方法を詳細に定めています。
本記事とともに同庁のホームページも参考にして、相続税評価額についての理解を深めましょう。
1-2.相続税評価額と固定資産税評価額の違い
相続税評価額と似た言葉として固定資産税評価額という言葉があります。
固定資産税評価額とは、土地や家屋などの固定資産に対して、固定資産税や不動産取得税・都市計画税を課税するために使われる評価額です。
相続税評価額とは異なり、固定資産税評価額は自分で計算する必要がなく国が評価・決定を行います。
3年ごとに評価額の見直しが行われ、固定資産税の課税明細書や固定資産課税台帳で確認できます。
なお、固定資産税評価額は相続税評価額を自分で計算する際に利用することがあります。
2.財産ごとの相続税評価額の評価・計算方法
それでは財産ごとに相続税評価額の計算方法をみていきましょう。
まずは主要な6つの財産について解説します。
- 土地
- 建物
- 貸地
- マンション
- 預貯金
- 株式
それぞれの評価方法を知り、自分でも計算できるようになりましょう。
2-1.土地の評価方法
土地はまったく同じものは存在しないという特性を持ち、評価方法も複雑なルールが定められているため、相続税評価額の算出が一番難しいと言われています。
そんな土地を評価する方法は大きく2つの方法に分かれています。
- 路線価方式
- 倍率方式
2-1-1.路線価方式
1つ目の方法は路線価方式です。路線価とは「道路に面する土地1㎡あたりの評価額」で、路線価を利用して土地を評価する方法が路線価方式と呼ばれています。
路線価方式で相続税評価額を算出する際には下記の計算式を使用します。
【路線価×各種補正率×土地面積】
例 路線価:10万円 各種補正率:1.1 土地面積:1,000㎡ この土地の場合には「10万円×1.1×1,000」で1億1,000万円が相続税評価額となります。 なお、路線価は国が決定しており国税庁のホームページで確認できます。 |
2-1-2.倍率方式
2つ目の方法は倍率方式です。
倍率方式は、路線価が決定されていない地域の土地を評価する際に利用します。
倍率方式で相続税評価額を算出する際には下記の計算式を使用します。
【固定資産税評価額×倍率】
固定資産税評価額も国が評価・決定しており、固定資産税の課税明細書や固定資産課税台帳で確認できます。
例 固定資産税評価額:2,000万円 倍率:1.3 |
この土地の場合には「2,000万円×1.3」で2,600万円が相続税評価額となります。
なお、倍率に関しても国が決定しており国税庁のホームページで確認できます。
2-1-3.土地の減額要素
土地にかかる相続税は高額のため、評価額を下げることで税金を低く抑えることができます。
土地の評価額には減額要素があり、下記の条件に該当する場合には評価額を減額できる可能性があります。
- 不整形地(形が悪い)
- 500㎡以上の住宅・アパート敷地や田畑・空き地
- 市街地にある田畑・林
- 道路に接していない
- 道路や通路になっている
- 私道に面している
- 道路より高い・低い位置にあり、周りの宅地に比べ高低差がある
- 墓地や斎場などの忌み地に隣接している
- 正面に4m以下の道路が面している
- 同じ土地内に2棟以上の建物が立っている
- 建物の建築が難しいことが見込まれる
- 傾斜がある
- 土地に水路が通っている
- 住環境が悪い(悪臭・騒音など)
- 高圧線の下にある など
減額要素はさまざまありますので、相続税評価額を算出する際には保有している土地が条件に該当するか調べましょう。
2-2.建物(家屋)の評価方法
建物の相続税評価額を算出する方法は簡単で、下記の計算式を利用します。
【固定資産税評価額×1.0】
つまり、国が定めた固定資産税評価額がそのまま建物の相続税評価額になります。
しかし、相続した建物を誰かに貸していた場合やリフォームしていた場合などには評価方法が変化しますので注意しましょう。
2-3.貸地の評価方法
土地を自分で利用せずに誰かに貸している場合には、通常の土地に比べ相続税評価額が下がります。
貸地を評価する際には下記の計算式を使用します。
【更地の評価額×(1−借地権割合)】
借地権割合は国が30%~90%の間で定めているもので、利用価値が高い土地ほど割合も高くなる傾向があります。
また、ここでの更地とは「土地を貸していなかった場合の土地」を指します。つまり通常の土地と同じで、路線価方式・倍率方式のいずれかを用いて計算します。
例 更地の評価額:1億円 借地権割合:60% |
この土地の場合には「1億円×(1-60%)」で相続税評価額は4,000万円になります。
2-4.マンションの評価方法
マンションの相続税評価額は、建物と土地に分けて算出してから合算する形で算出します。
そのため、建物に関しては【固定資産税評価額×1.0】で算出できます。
マンションの土地に関しては通常の土地とは異なり、路線価と土地全体におけるマンションが占める敷地の割合(敷地権割合)をもとに算出します。
計算式は以下の通り。
【路線価×土地の面積×敷地権割合】
例 路線価:50万円 土地の面積:3,000㎡ 敷地権割合:4,000/200,000 |
この土地の場合「50万円×3,000×4,000/200,000」で3,000万円が相続税評価額となります。
なお、マンション全体の相続税評価額を算出する際には、建物の評価額を加算しましょう。
2-5.預貯金の評価方法
預貯金の評価方法は財産のなかでも簡単です。
預貯金は「普通預金」・「定期預金」の2種類に分けて評価する必要があります。
普通預金の場合には利子がとても少ないため、相続開始日の残高を相続税評価額とします。
一方定期預金は相続開始日に定期預金を解約したとみなし、元本に利子を加算した額を相続税の評価額とします。
2-6.株式の評価方法(上場・非上場)
株式には「上場株式」と「非上場株式」があり、それぞれで評価方法が異なります。
まずは上場株式の評価方法からみていきましょう。
2-6-1.上場株式
上場株式とは、証券取引所が運営する株式市場で売買できる株式です。
上場株式を評価する際には、下記の4つのうち一番低い額を採用して計算します。
- 被相続人が亡くなった日の終値
- 相続発生月の終値の平均額
- 相続発生月の前月の終値の平均額
- 相続発生月の前々月の終値の平均額
例
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採用された金額に対して保有している株式数を乗じた金額を相続税評価額とします。
たとえば、採用値が1,500円で100株持っていたとしたら、15万円が評価額となります。
2-6-2.非上場株式
非上場株式とは証券取引所に上場していない、株式市場では取引できない株式です。
上場株式とは異なり、非上場株式は市場取引価格が存在しません。
そのため自分で情報を集めて評価額を決定する必要があります。
非上場株式の評価方法は大きく3つに分けられます。
- 類似業種比準方式
- 純資産価額方式
- 配当還元方式
会社の規模感によっても利用する方式が異なりとても複雑なため、非上場株式を評価する場合には専門家への相談がおすすめです。
3.小規模宅地等の特例で節税する方法
相続税には相続人の負担を考慮して税額を抑えるための特例や控除がいくつか設けられています。
そのなかの小規模宅地等の特例を利用すれば、土地の評価額を最大80%減額可能です。
たとえば、1億円の土地の場合には最大で2,000万円まで土地の評価額が下げられます。
なお、小規模宅地等の特例の対象となる土地は下記の3種類に限定されています。
- 特定居住用宅地:居住用に使っていた土地(自宅の土地など)
- 特定事業用宅地等:被相続人が事業用に使っていた敷地(お店の土地など)
- 貸付事業用宅地等:貸付事業で使っていた土地(駐輪場・マンションなど)
相続財産のなかに土地が含まれている場合には、小規模宅地等の特例が利用できないか検討しましょう。
4.その他の財産の財産評価額の計算方法
最後に相続税の対象となる可能性がある死亡保険金や、相続されることが多い財産の評価方法について見ていきましょう。
- 死亡保険金・死亡退職金
- 宝石・貴金属
- 自動車
- ゴルフ会員権
とくに貴金属や自動車は相続されることが多い財産のため、評価方法を確認しておきましょう。
4-1.死亡保険金・死亡退職金の評価方法
死亡保険金や死亡退職金は相続時点で相続される財産ではなく、被相続人が亡くなったことをきっかけとして相続人が受け取るため、みなし相続財産と呼ばれます。
両者には非課税限度額が定められており、下記の計算式で算出できる範囲を超えた場合に相続税の対象となります。
「500万円×法定相続人の数」
例 死亡保険金:2,000万円 死亡退職金:500万円 法定相続人の数:3人 |
この場合には、死亡退職金は非課税限度額の範囲内ですが、死亡保険金は500万円分が範囲外になるため、500万円が相続税評価額となります。
4-2.宝石・貴金属の評価方法
宝石や貴金属は被相続人が亡くなった時点の時価で相続税評価額を算出します。
時価を調べる際には下記4つのうちいずれかの方法を利用しましょう。
- 購入店・質屋で調べる
- ネットで相場を調べる
- 専門家に鑑定
- 売却済みの場合には売却額
なお、単体で5万円以上のものは1つずつ相続税評価額を算出し、5万円以下のものはまとめて算出します。
4-3.自動車の評価方法
自動車の相続税評価額を算出する際も原則は変わりませんので、被相続人が亡くなった時点での時価を利用しましょう。
自動車の場合に注意したいのは、販売価格ではなく買取価格が相続税評価額になる点です。
ネットにて車種や年式・走行距離を入力すれば、おおよその見積もりが提示されますのでその金額を利用しましょう。
4-4.ゴルフ会員権の評価方法
相続財産として多いですが忘れがちな財産としてゴルフの会員権があります。
ゴルフ会員権の相続税評価額は、「被相続人が亡くなった時点での時価×70%」で計算します。
取引相場をインターネットで調べたり、ゴルフ場に問い合せたりして確認しましょう。
また、預託金を預けている場合はその金額も加算する必要があります。
5.まとめ
ここまで相続税評価額について、それぞれの財産の評価方法を中心に解説しました。
相続税評価額は相続税を計算する際に必ず必要になる数値で、評価方法は財産ごとに異なります。
とくに土地の評価方法は複雑なため、不安な方は税理士などの専門家への相談がおすすめです。
本記事を参考に相続税評価額についての理解を深め、相続の際にお役立てください。
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