家族信託は財産管理方法の1つで、認知症など病気リスクへの対策として利用できる制度です。
家族信託は財産の凍結を防いだり、財産管理の自由度が上がったりと大きなメリットがいくつもあります。
しかし、家族信託にはメリットだけでなくデメリットも存在しています。
そこで本記事では、家族信託のデメリット・注意点を中心に解説。
また、家族信託を利用すべきパターンも紹介します。
家族信託のデメリットを知りたい、利用を検討しているという方はぜひご覧ください。
目次
- 1. 家族信託のデメリット・注意点15選
- 1-1. 家族信託では信託できない財産がある
- 1-2. 身上監護はできない
- 1-3. 受託者は義務が多く負担が大きい
- 1-4. 受託者は無限責任を負う
- 1-5. 受託者が決まらない可能性がある
- 1-6. 委託者に意思能力がないと利用できない
- 1-7. 家族間でトラブルの種になる可能性がある
- 1-8. 直接的な節税効果はない
- 1-9. 課税対象になった場合には税務申告が必要
- 1-10. 赤字でも損益通算や繰り越しができない
- 1-11. 家族信託に特化した専門家が少ない
- 1-12. 専門家への報酬が必要になる
- 1-13. 遺留分を侵害してしまう可能性がある
- 1-14. 受託者が暴走してしまう危険性がある
- 1-15. 両親・祖父母の了承が得づらい
- 2. デメリットを加味したうえで家族信託がおすすめな3つのパターン
- 3. まとめ
1. 家族信託のデメリット・注意点15選
家族信託のデメリットは注意点と合わせて15個あります。
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それぞれのどのようなデメリットなのか、1つずつみていきましょう。
1-1. 家族信託では信託できない財産がある
財産の種類にはさまざまなものがありますが、家族信託が利用できない財産もあります。
家族信託は財産管理方法の1つで比較的自由度も高いため、信託できない財産があることはデメリットとなる場合があるでしょう。
代表的なものとして下記3つの財産は、信託財産にすることができません。
<信託できない主な財産>
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預貯金は現金として「〇〇万円を信託財産とする」といったことはできますが「〇〇銀行・〇〇支店・口座番号〇〇」というふうに、口座を指定して信託財産とすることができないため注意しましょう。
また、農地は「農地法第3条2項3号」によって信託財産とすることができないことが定められています。
現在農地として扱っていない場合でも、登記上の地目が農地となっている場合には信託財産にできません。
このような場合には、農業委員会から許可をもらうことで信託財産にすることができます。
そして、年金受給権や生活保護受給権などは、本人以外への帰属が認められない「一身尊属権」に該当するため信託財産にはできません。
ただし、年金や生活保護によって振り込まれた現金を信託財産とすることは可能です。
なお、基本的に財産的価値がある財産であれば信託財産にできます。
<信託できる主な財産>
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信託したい財産が家族信託に対応しているのかについて、事前に調べておくことがおすすめです。
1-2. 身上監護はできない
家族信託では身上監護は認められていないため、認知症などの病気リスクへの対策として不十分な側面があります。
身上監護とは、被後見人の安定した生活を保つために、仕事や健康・療養に関する法律行為を行うことを指します。
たとえば、委託者が認知症になってしまった場合に、家族信託だけでは施設への入居契約などを行うことができません。
そのため、身上監護までを想定して対策を行う場合には、家族信託による財産管理だけでなく任意後見制度も利用しましょう。
任意後見制度とは、あらかじめ後見人となってくれる人と契約を結ぶことで、自身の意思能力が欠如した場合に支援してもらうことができる制度です。
任意後見制度と家族信託を利用することで、後見人は委任者に代わって入居などの契約行為を行うことができ、それに伴う費用なども自由に使うことが可能になります。
どこまでを目的として家族信託を行うか明確にし、任意後見制度の利用も検討しましょう。
1-3. 受託者は義務が多く負担が大きい
家族信託では委託者と受託者・受益者の3者が存在しますが、受託者は義務が多く最も負担が大きい役回りです。
受託者には下記のような義務が定められています。
<受託者に定めれらた義務>
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受託者となった場合には、これらの義務をすべて負わなければいけないため、簡単に引き受けると後々大変な目に遭ってしまう可能性があります。
とくに「帳簿等の作成・報告・保存義務」の負担が一番大きく、定期的に委託者へ収支の報告を行いながら、毎年税務署にも申告を行う役割を担います。
1-4. 受託者は無限責任を負う
受託者は信託財産に関する業務について無限責任を負うため、何か損害を起こしてしまった場合には個人財産から弁済しなければなりません。
これは信託法第21条によって定められており、受託者が負わなければいけない責任です。
たとえば、現金を信託財産として委託者の生活・医療費をなどを管理しているとします。
家族信託を進めていくうえで、この現金が底をついてしまった場合には不足分について受託者が個人資産から補填しなければなりません。
業務的な義務だけでなく、金銭的な責任も負わなければいけない点に注意しましょう。
1-5. 受託者が決まらない可能性がある
受託者の義務・責任は大きく契約も長期間となるため、受託者が決まらない可能性がある点には注意しましょう。
財産の運用や義務をしっかりと果たしてくれる人がいないという場合には、残念ながら家族信託を利用することはできません。
受託者候補がいるという場合には、信託内容についてお互いの条件を話し合うことが大切です。
また、受託者に対して信託財産から毎月報酬を支払う形で、引き受けてもらうということもできるでしょう。
委託者・受託者同士が納得する形で、信託内容・受託者を決定することが求められます。
1-6. 委託者に意思能力がないと利用できない
家族信託を開始するには、委託者の意思能力がなければなりません。
なぜなら家族信託おいては、当事者間で信託契約を交わさなければならず、意思能力がない場合には契約という法律行為に効力が生まれないからです。
たとえば、委託者となるはずだった父が認知症を発症してしまった後では、意思能力が認められず家族信託を始めることができません。
家族委託は病気リスクへの有効な対策になりますが、早め早めに動く必要がある点に注意しましょう。
1-7. 家族間でトラブルの種になる可能性がある
委託者と受託者間で勝手に話を進めて家族信託を行ってしまうと、家族間でトラブルの種になる可能性があります。
なぜなら、家族信託は遺言の代わりになる効力を持っているため、実質的に財産の相続人が決定するからです。
また、信託契約中に報酬をもらう場合には、不平等を感じる家族がいてもおかしくありません。
このような問題から、家族間でのトラブルに発展する可能性があるため、家族信託を進める際は家族全員で話し合って同意を得ましょう。
1-8. 直接的な節税効果はない
家族信託を利用したとしても直接的な節税効果はなく、贈与税や所得税・相続税が少なくなることはありません。
他益信託(委託者と受益者が異なる)の場合には、財産の収益に対して贈与税がかかります。
一方、自益信託(委託者と受益者が同じ)の場合には、財産の収益は所得税(住民税)の対象になります。
そして、家族信託が終了し財産が承継された場合には、財産の評価額に応じて相続税が発生します。
ただ、財産を信託することで受託者に報酬を渡し納税資金に充てさせたり、2次相続までを想定して財産の承継を決定したりと間接的な節税効果はあります。
しかし、家族信託を節税目的で利用しても、制度の特性上高い効果は期待できませんので注意しましょう。
1-9. 課税対象になった場合には税務申告が必要
上述の通り、家族信託を利用した場合には、状況によって税金の対象となる場合があります。
対象となる可能性が高い税金は下記の3つです。
<税金の種類>
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それぞれ控除の枠を越えるなど、課税対象となった場合には税務申告が必要になりますので注意しましょう。
相続税は相続の開始後10ヶ月以内に、贈与税は贈与税申告を翌年の3/15日までに、所得税も同様に確定申告を翌年の3/15日までに行わなければなりません。
1-10. 赤字でも損益通算や繰り越しができない
通常複数の事業を運営している場合には、赤字の事業と黒字の事業で損益通算することが可能です。
また、通常であれば赤字を翌年に繰り越すといったこともできます。
しかし信託財産で損害が生じた場合、その損害はなかったものとみなされます(租税特別措置法第41条)。
そのため信託財産以外の財産と損益通算することも、赤字を繰り越すこともできません。
そうなってしまうと、損益通算によって減額できるはずだった収益がそのまま残るため、税金が大きくなってしまう可能性があります。
信託財産を選択する場合には、自身の節税も考慮できるといいでしょう。
1-11. 家族信託に特化した専門家が少ない
家族信託の利用にあたっては、専門家にコンサルティングを依頼することが一般的です。
しかし、家族信託に特化した専門家が少ないというデメリットがありますので注意しましょう。
家族信託は弁護士や司法書士・税理士などに相談可能ですが、近年注目されてきている財産管理法なため、特化して業務を行っている専門家がまだ少ないのです。
知識としては持っていても、実務として数多くの案件を扱っている専門家とそうでない場合では、大きな差が生じてしまいます。
しかし特化している専門家もいるため、家族信託を検討する場合にはそのような専門家に相談しましょう。
1-12. 専門家への報酬が必要になる
家族信託を専門家に依頼した場合には、専門家への報酬が必要です。
家族信託では基本的に、信託財産の価額に比例して報酬も大きくなります。
一般的な相場では、30〜100万円となる場合が多いようです。
自分で行うことも可能ですがあまりおすすめできないため、専門家報酬も考慮に入れて家族信託の利用を検討しましょう。
1-13. 遺留分を侵害してしまう可能性がある
家族信託を利用する際に相続について考慮しなければ、遺留分を侵害してしまう可能性があります。
遺留分とは法定相続人に対して保障されている、遺産総額に対する一定の相続割合を指します。
この遺留分を侵害してしまった場合には、相続人同士で遺留分侵害額請求が行われ、トラブルとなる可能性があります。
家族信託によって帰属権利者(信託終了時に財産を承継する者)を決定する場合には、遺留分も考慮に入れることを忘れないようにしましょう。
1-14. 受託者が暴走してしまう危険性がある
家族信託の受託者は、信託財産に対して大きな裁量権を持つことになります。
財産の管理はもちろん、処分も1人で行うことができ、財産の状況・報告をブラックボックス化することも可能です。
極端な話、収益を不当に使ってしまうことも難しくありません。
受託者に大きな権限を与えることになるため、受託者に正当な報酬を渡すなど、暴走してしまわないようにしましょう。
1-15. 両親・祖父母の了承が得づらい
家族信託は近年注目されてきている方法のため、両親や祖父母の年代の方には馴染みのない制度です。
そのため子供側から提案する際には、懐疑的な感情を持ってしまう可能性もあるでしょう。
信託という言葉にいいイメージを持っていない人もいるので、家族信託についてしっかりと説明する必要があります。
無理やり進めようとはせず、しっかりと話し合い同意を得たうえで制度を利用するようにしましょう。
2. デメリットを加味したうえで家族信託がおすすめな3つのパターン
家族信託には、上記のようにさまざまなデメリット・注意点があります。
しかし、そのデメリットを加味したうえでも家族信託がおすすめなパターンがいくつかあります。
今回は下記3つのパターンをピックアップして解説します。
<家族信託がおすすめなパターン>
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それぞれの場合について、なぜ家族信託がおすすめなのかみていきましょう。
2-1. 2次相続の対策も行いたい
相続対策を行いたい、2次相続までも対策したいという場合には、家族信託の利用がおすすめです。
家族信託では、信託財産を承継する人(帰属権利者)を指定できます。
帰属権利者は委託者が亡くなった場合に財産の相続人となるため、実質的に遺言書と類似した効力を発揮します。
このように相続対策に家族信託を利用可能ですが、家族信託では2次相続の対策まで行うことが可能です。
「受益者連続型信託」と呼ばれる仕組みで、「委託者が亡くなった場合にはAに財産を承継する。さらにAが亡くなった場合にはBに財産を承継する。」といったように2世代に渡る財産承継を指定できます。
この仕組みを利用することで、自分亡き後の財産の行方について強く自分の意思を反映させることが可能です。
2-2. 認知症に備えて対策したい
認知症に備えて対策したいという場合には、家族信託の利用がおすすめです。
家族信託は認知症対策を目的として近年注目を集めてきている方法で、認知症による財産の凍結を防止できます。
事前に家族信託を利用することで財産管理の自由度を高めるとともに、信頼できる家族のみで財産を運用管理していくことが可能です。
ただ、認知症対策として家族信託を利用する場合には、任意後見制度もあわせて利用するといいでしょう。
そうすることで、財産管理だけでなく身上監護まで可能になります。
2-3. 事業承継に利用したい
家族信託では株式を信託財産とすることが可能なため、事業承継にも利用できます。
会社を経営している場合など、一定割合の自社株式を信託財産とすることで、委託者の意思能力が欠けた場合でも受託者が議決権を行使可能です。
帰属権利者を事業を承継したいものに指定しておくことで、家族信託の終了時には株式が承継されます。
一定以上の株式を信託財産にしていれば、実質的に会社の運営に対する決定権を与えるといったことも可能です。
財産管理だけでなく、事業承継をしたいという場合でも家族信託を利用するといいでしょう。
3. まとめ
ここまで家族信託のデメリット・注意点を中心に解説しました。
家族信託には少なからずデメリットが存在しますが、状況によってデメリットを大きく上回るメリットを享受できます。
すべての場合において家族信託がおすすめできる訳ではないため、適切な判断が下せるよう家族信託について理解を深めましょう。
判断が難しい・家族信託を依頼したいという場合には、まず専門家への相談がおすすめです。
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