「家族信託は自分でもできる?」 「家族信託を自分でやる場合の手続き方法は?」
家族信託の利用を検討している方の中には、どのように進めていくかわからないという方もいるでしょう。
家族信託を利用するときは専門家に依頼するのが一般的ですが、専門家でなくても手続きは可能です。
では自分でやる場合に決めていく点や手続きの流れはどうなっているのでしょうか。
本記事では家族信託を自分でするメリット・デメリット、手続きの流れ、必要な書類などについて解説します。
自分で手続きをしようか考えている・自分で行って後悔したくないという方は、記事の内容を参考にしてみてください。
目次
1. 家族信託とは?一般的には専門家に依頼
家族信託とは特定の財産の管理や処分について、信頼できる家族に委託する制度です。
たとえば不動産の所有者である親が高齢のため管理が大変になったとき、家族信託によって子供へ管理や処分を委託できます。
家族信託には、委託者・受託者・受益者の3者が登場します。
<家族信託の登場人物>
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委託者はアパートやマンションなど信託財産の所有人で、管理や処分を任せる人です。
受託者は信託財産の名義を受け持ち、管理や処分を行います。
受益者には信託財産からの利益が入ります。
一般的な家族信託では、親が委託者と受益者を兼任し、子供が受託者となるケースが多く見られます。
2. 家族信託は自分でもできる!メリット・デメリット
家族信託は専門家でなくとも手続きできるため、書類を用意して自分自身で行うことも可能です。
ただし、自分で行う場合にはメリット・デメリットの両方があるため、それぞれくわしく見ていきましょう。
2-1. 家族信託を自分でするメリット
家族信託を自分で行うことの大きなメリットは、専門家への依頼料が発生しないことです。
家族信託は弁護士・税理士・司法書士などに依頼できますが、依頼費用として信託する財産の1%程度の支払いが必要です。
その他に信託契約書の作成手数料、不動産登記の手数料なども発生します。
家族信託を自分でやれば数十万円~数百万円の手数料を節約できるため、できるだけ費用を低く抑えたい方に向いています。
ただ費用面以外には、家族信託を自分で行うメリットはありません。
2-2. 家族信託を自分でやるデメリット
家族信託を自分でやる場合、以下のデメリットに注意が必要です。
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まず、家族信託という制度について、関係する家族が十分理解する必要があります。
「受託者」などの用語も登場するため、それだけで拒否反応を示す家族がいるかもしれません。
また、特定の家族に管理や処分の権限を与えることについて、反対する家族が出てくる可能性もあります。
制度の理解が難しかったり、契約内容の合意が得られなかったりと手続きが全く進まず、結局利用できなくなることもあるでしょう。
次に、法律の専門家でない方が信託契約書を作成すると、内容に不備が生じる恐れがあるのもデメリットです。
契約書としての形式が整っていない、複数の解釈ができるなどの理由で、契約が無効になることがあります。
契約書の内容によっては税金が発生することもあるため、税務面での確認も欠かせません。
家族信託のひな形などもネットで検索すると出てきますが、不完全なものもありそのまま利用するのは危険です。
さらに、銀行から口座開設を断られる可能性があることにも注意が必要です。
家族信託の利用では「信託口口座」の開設がおすすめですが、金融機関によっては弁護士や司法書士などの専門家が契約書作成に関与していることを条件とする場合もあります。
専門家に依頼せず、自分だけで手続きを進めると、口座開設ができなくなる恐れがある点もデメリットとなるでしょう。
3. 家族信託手続きを自分でやる際に決めること
家族信託を利用するには、家族信託契約を結ぶ必要があり、以下の要素を決めていくことになります。
<家族信託手続きで決めること>
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それぞれどのレベルまで決めていく必要があるのか、くわしく解説していきます。
3-1. 家族信託を利用する目的
最初に重要なのは、そもそも家族信託を利用する目的を明らかにすることです。
一般的なケースとしては親が健康面で不安があるため、子供が代わりにアパートなど不動産の管理を行い、親の生活費や医療費に役立てるといった事例があります。
その他にも、認知症による資産凍結への対策・自社の事業継承・障がいのある子供の生活維持などのケースも考えられます。
利用目的を明確にすると、逆に家族信託以外の制度のほうが適切だと分かることもあるでしょう。
たとえば親の財産を自分たちの車の購入費や教育費に役立てたいなら、生前贈与のほうが向いています。
利用目的が明らかになるにつれ、信託契約の内容も固めやすくなります。
何のために家族信託を利用するのかを最初に明確にしましょう。
3-2. 家族信託する財産
家族信託では、信託する財産を特定する必要があります。
所有している財産をすべて信託財産とする必要はありません。
どの不動産を信託財産にするか、現金の場合はいくらにするかなどを決定します。
しかし財産の中には、そもそも信託が認められない財産もあるので注意が必要です。
たとえば銀行口座は信託財産にすることはできません。
ただ、銀行口座内の金銭は信託できるなど複雑な決まりがありますので、この場面でも家族信託制度の理解が求められるでしょう。
3-3. 受託者・受益者・帰属権利者
先ほど解説したとおり、信託財産を管理・処分する受託者、財産から得る利益を取得する受益者を決めます。
一般的な家族信託のケースでは、受託者が委託者の子供、受益者は委託者である親となることが多いです。
受託者には財産管理に関して多大な負担がかかるため、十分な説明を行い合意を得たうえで決定しましょう。
帰属権利者とは信託契約が終了または当事者の合意で解除された場合、残った信託財産を受け取る方のことです。
帰属権利者は実質的な相続人となるため、法定相続人との関係や遺留分などについても検討する必要があります。
3-4. 受託者に委託する内容・期限・権限
受託者にどのような作業を依頼するのか、どのような権限を与えるのか、期限をいつまでにするかを決定します。
具体的に、以下のような事例が想定されます。
<受託者への委託例>
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このように、家族信託は始まるときだけでなく、終わるときのこともしっかり考えておく必要があります。
なお、財産管理の方法は細かい事項も付与できるため、不動産の売却を禁止することなどが可能です。
3-5. 信託監督人と受益者代理人
家族信託において必要な場合は信託監督人を設定することも可能です。
信託監督人とは受託者が問題なく作業内容を行っているかを監督する立場の人のことを指します。
信託監督人を設定しない場合、通常は委託者(受益者)が監督することになります。
そのため、委託者が高齢である場合や正常に監督ができない状態にあるときは利用を検討するといいでしょう。
また受益者に加え、受益者代理人も必要に応じて設定できます。
受益者代理人とは受益者に代わって権利を代表する立場の人間で、判断能力の低下の恐れのある高齢者が受益者になる場合などに活用可能です。
4. 家族信託手続きを自分で行う流れ・やり方
家族信託を自分でする場合、下記のステップで進めていきます。
<家族信託手続きの流れ>
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1つずつくわしく見ていきましょう。
4-1. 家族・関係者全員で話し合う
まず家族や関係者全員で家族信託の仕組みを理解したうえで、どのように家族信託を利用するのか話し合う必要があります。
委託者・受託者・受益者を設定し、対象となる財産を指定し、受託者に与える権限や期限を決めていきます。
一部の家族が独断で家族信託を進めてしまうと、後でトラブルに発展する危険があります。
必ず全員が納得したうえで、手続きを進めていくようにしましょう。
4-2. 家族信託契約書を公正証書で作成・契約締結
話し合いで合意した内容を基に、家族信託契約書を作成します。
信託契約書の形式に厳格なルールはありませんが、具体的かつ明確な内容で、誰が読んでも同じように解釈できる内容にすることが大切です。
複数の解釈ができたり曖昧な個所があったりすると、誤解や争いへとつながる危険があります。
作成した契約書について合意が取れたら、捺印して契約を締結します。
信託契約書は自分たちで作成したものでも有効ですが、公証役場に出向いて書類を公正証書にしてもらうのが一般的です。
信託口口座の開設でも、公正証書にした契約書の提出が求められるケースが多くあります。
信用力・証拠力に優れた公文書で、紛失・盗難時の再発行が可能などさまざまなメリットがあるので、契約書は公正証書で作成しましょう。
4-3. 信託口口座の開設
契約が締結できたら、信託口口座を開設しましょう。
信託財産は個別管理義務によって、個人財産と明確に区分して管理しなければなりません。
普通口座でも信託財産の管理は可能ですが、差し押さえられない・凍結されないといったメリットがあるため、信託口口座での管理がおすすめです。
銀行などの金融機関に連絡し、信託口口座の開設方法について問い合わせをしましょう。
一般的に金融機関では、公正証書化された信託契約書の内容をチェックし、口座を開設しても問題ないかを判断します。
契約書作成の段階で専門家の関与がないと、口座開設ができない場合もあるので、事前にしっかり確認しておきましょう。
4-4. 信託財産の名義を委託者から受託者に変更する
信託口口座を開設したら、信託財産の名義変更を行います。
不動産の場合、法務局にて不動産登記の手続きが必要です。
具体的には不動産の名義を受託者に変更する「所有権移転登記」と、信託財産であることを明示する「信託登記」の2つを行います。
現金・預金の場合、金融機関で信託専用口座を開設し、委託者が信託専用口座へ送金します。
信託専用口座の開設に必要な書類や手続き方法は、金融機関によって異なるため事前にチェックしておきましょう。
株式などの金融商品の場合、委託者が保有している証券会社に信託口口座を開設します。
ただし、信託口口座を開設できる証券会社は一部のみのため、信託契約書を作成する前にあらかじめ証券会社に確認しておきましょう。
5. 自分で家族信託手続きをする際に必要な書類
家族信託の手続きをするには、下記の書類が必要となります。
<家族信託手続きで必要な書類>
想定ケース | 必要書類 |
---|---|
通常の相続 | ・公正証書作成時:住民票/印鑑証明書/実印/本人確認のための身分証 など ・信託口座開設時:締結済みの信託契約書/本人確認のための身分証/銀行印 など |
信託登記 | ・登記済証または登記識別情報(権利書) ・固定資産税評価証明書 ・戸籍謄本または抄本 ・委託者の実印および受託者の認印 ・委託者の印鑑証明書(発行後3カ月以内のもの) ・委託者と受託者の本人確認書類(運転免許証など) ・受託者の住民票 |
そのほか財産がある場合 | ・証券会社の信託口座開設時:委託者および受託者の本人確認書類/公正証書による信託契約書 |
公正証書を作成する際に、身分証明書や印鑑などが必要です。
信託登記では戸籍謄本や固定資産材評価証明書など多数の書類が必要なため、漏れがないように準備しましょう。
信託口座を開設するためには、一般的に公正証書にした信託契約書を提出する必要があります。
金融機関からは上記以外の書類の提出も求められる可能性があるため、指定された書類をすべて用意しましょう。
6. 自分で家族信託手続きをする際にかかる費用
家族信託の手続きで発生する費用の目安について、下記の表にまとめました。
<家族信託手続きでかかる費用>
想定ケース | 費用と内訳 |
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自分で行う場合の実費 | ・信託契約書に貼付する収入印紙:200円 ・公正証書の作成費用:4~10万円 ・戸籍謄本・印鑑証明書 ・住民票など各種書類の発行手数料:約1万円 |
信託口口座の開設費用 | ・1口座あたり5~10万円 |
信託登記にかかる費用 | ・登録免許税 土地:財産評価額×0.3% 建物:財産評価額×0.4% |
専門家に依頼する費用 | ・相談料:信託財産の1%(相場) ・登録代行手数料:1件あたりおよそ8万円〜12万円 ・信託契約書の作成手数料:1通あたりおよそ10万円〜30万円 |
家族信託の手続きにかかる費用は、信託財産の種類や財産評価額によって異なります。
不動産が含まれていると登録免許税がかかるため、費用が高額になる傾向です。
現金・預金だけなら信託登記の必要がないため、手数料は比較的少なくて済みます。
専門家に依頼する場合、相談料に加え、各種書類の作成手数料が発生します。
信託財産の金額にもよりますが、一般的には合計で数十万~数百万円の費用がかかるでしょう。
7. 家族信託手続きを自分でする際の注意点・リスク
家族信託手続きは自分でもできますが、専門家のチェックやアドバイスがないため、下記の点に注意しましょう。
<家族信託を自分で行う場合の注意点>
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それぞれの注意点について詳しく解説します。
7-1. 契約に効力が発生しない可能性がある
信託契約書には決まったフォーマットはなく、個別のケースごとに最適な内容にする必要があります。
家族信託についての情報はインターネットでも増えており、信託契約書のひな形なども存在しています。
しかし、インターネットのひな形は万能ではないため、自分たち家族のケースに合った内容となるよう手を加えなくてはなりません。
契約書の内容に不備があると、そもそも契約書自体が無効とみなされ、想定した効力が発生しない可能性があります。
7-2. 希望通りの家族信託が実現できない可能性がある
家族信託についての仕組みをよく理解していないと、思い描いていた家族信託が実現できない可能性があります。
家族信託では良くも悪くも、受託者が信託財産に対して大きな裁量権を持ちます。
たとえば契約で縛っていなければ、不動産を売却することも可能です。
そのため「管理・運用によって発生する資金を介護費用にしてほしい」という希望が、実現されない可能性もあります。
想定できる事態については、あらかじめ契約で縛っておきましょう。
また、家族信託は財産の管理・処分を目的としたものであり、身上監護は含みません。
身上監護とは、被後見人の生活や医療・介護を整えるために必要な契約行為を指し、老人ホームへの入居契約などが該当します。
そのため、家族信託を契約しただけでは、包括的な介護対策が実現できませんので注意しましょう。
身上監護までを求める場合には、任意後見制度と家族信託を併用しましょう。
7-3. 法律・相続・税金などの知識が必要
ここまで解説してきたとおり、家族信託契約を結ぶには契約書の作成や不動産登記などの手続きがあり、法律に関する知識も必要になります。
また、思わぬ税金が発生する可能性もあり、節税するために一定程度の税務知識も求められます。
家族信託を自分でする場合、相続についての知識も身につけておくことも重要です。
相続においては遺留分という、法定相続人が最低限受け取れる取り分が定められています。
家族信託の契約内容が遺留分を侵害していたため、信託契約が無効になったケースもあるため、相続についての知識も欠かせません。
このように家族信託では法律・税金・相続などの知識が必要であり、適切な内容を設計し遂行することは容易でないことを覚えておきましょう。
7-4. 不動産の登記が難しい
信託財産に不動産が含まれていると、登記をして名義を変更する必要があります。
名義が委託者のままになっていると、受託者が管理・処分できないためです。
しかし不動産の登記は、一般的に司法書士など法律の専門家が行う手続きであり、専門知識のない方にはかなりハードルが高いでしょう。
自身も有資格者であるなど、特別な事情がない限り、自分で不動産登記をするのはおすすめできません。
7-5. 家族・関係者間の仲が悪くなる可能性がある
家族信託では、どの財産を信託するか、誰に財産の処分・管理を認めるかなどを家族・親族で決める必要があります。
受託者に選ばれなかった家族は信頼されていないと感じ、受託者や委託者などと関係が悪化してしまうこともあるでしょう。
トラブルになりやすいのは、一部の家族だけが独断で家族信託の手続きを進めてしまうケースです。
このため信託契約書を作成する前には、必ず家族や関係者全員が集まり、話し合うことが大切です。
家族だけでは話が進まない場合、専門家など第三者に仲裁してもらう必要があります。
7-6. 遺言よりも家族信託内容が優先される
家族信託は、遺言より優先されることにも注意が必要です。
家族信託契約を締結した後に遺言書が作成される場合、締結前に遺言書が作成される場合がありますが、いずれのケースでも家族信託契約が優先して適用されます。
家族信託を遺言書によって無効にするようなことはできませんので注意しましょう。
家族信託と遺言を併用する場合、家族信託で定めた財産以外について遺言書で定めるのが適切です。
8. 家族信託手続きは自分でも可能だが専門家への依頼がおすすめ!
家族信託を自分でやる場合の手続き方法や流れ・リスク・注意点について解説してきました。
法律や税務の専門家でなくても手続きは可能ですが、いくつもの書類を揃える必要があり、契約書の内容も不備がないよう慎重にチェックする必要があります。
不動産登記など、専門知識がないと対応できない手続きもあり、決して簡単ではありません。
家族信託をトラブルなくスムーズに手続きしたいなら、専門家へ依頼するのがおすすめです。
日本クレアス税理士法人では、家族信託をトータルサポートいたします。
司法書士や弁護士と連携しており包括的な家族信託が設計可能ですので、お気軽にご連絡ください。
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