近親者が亡くなった際には、被相続人が残した財産を受け継ぐために相続手続きを行い、定められた相続税を納めなければなりません。
相続人にとって、相続税の納付は重荷になる可能性があります。
しかし、事前に大体の納付額を把握できていれば、納税への不安を和らげられるでしょう。
本記事では、以前までの基礎控除額であった5,000万円を事例として取り上げ、現在の相続税法ではいくら相続税がかかるのか解説していきます。
また、早見表や実際の計算方法も紹介しますので、5,000万円の相続税について知りたいという方はぜひご覧ください。
目次
1. 5000万円の相続税はいくら?早見表で概算確認!
相続税の計算は複雑で、財産総額を求めたり、相続人数とその関係を明らかにしたりと算出するまでに時間がかかります。
相続税額を相続手続きの初期段階で知ることができれば、納税に対する不安を少し解消することができるでしょう。
このような場合に便利なのが、相続税の早見表です。
早見表を利用することで、相続人の組み合わせごとに財産価格に対してどのくらいの相続税がかかるのか、その概算をすぐに知ることができます。
以下では下記4つの相続人の組み合わせのパターンについての早見表を紹介します。
- 配偶者のみの場合
- 配偶者+子ども1人の場合
- 配偶者+子ども2人の場合
- 子どものみの場合
1-1. 配偶者のみの場合
配偶者のみが法定相続人となる場合の早見表はありません。
なぜなら、配偶者の相続には「配偶者の税額の軽減」という特例が利用でき、法定相続分の相続税が非課税になるからです。
配偶者控除とも呼ばれるこの特例を利用すると、下記2つのうちいずれか金額が大きいほうまで相続税が非課税になります。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分
配偶者控除を適用すれば、ほとんどのケースで相続税がかかりません。
しかし、実際の相続では法定相続分通りに財産が分配されるわけではないため、遺産分割の割合によっては相続税が発生する場合があります。
早見表は法定相続分を元に概算を算出している表のため、法定相続分が非課税になる配偶者のみの場合の早見表がないのです。
1-2. 配偶者+子ども1人の場合
配偶者と子ども1人が相続人の場合 | |
遺産総額 | 法定相続人の構成 ※配偶者は1/2の財産を取得する |
配偶者+子ども1人 | |
5,000万円 | 40万円 |
6,000万円 | 90万円 |
7,000万円 | 160万円 |
8,000万円 | 235万円 |
9,000万円 | 310万円 |
1億円 | 385万円 |
1.5億円 | 920万円 |
2億円 | 1,670万円 |
3億円 | 3,460万円 |
5億円 | 7,605万円 |
10億円 | 1億9,750万円 |
30億円 | 7億4,145万円 |
※表内の遺産総額は課税遺産総額からマイナスの財産を差し引いた正味の財産を表しています。
法定相続人が配偶者と子どもが1人の場合には、5,000万円を相続した際に40万円の相続税がかかります。
40万円の計算方法は以下の通りです。
5,000万円 - 4,200万円(基礎控除額)= 800万円
この800万円を法定相続分で分割すると、配偶者と子どもがそれぞれ400万円受け取ることになります。
配偶者の400万円は、前述の通り控除が適用できるため非課税。そのため、子どもが受け取った400万円にかかる相続税のみを算出していきます。
400万円 × 10%(税率)= 40万円
計算することで納付税額を把握できますが、早見表を利用すれば計算過程を省いて相続税額を確認できます。
1-3. 配偶者+子ども2人の場合
配偶者と子ども2人が相続人の場合 | |
遺産総額 | 法定相続人の構成 ※配偶者は1/2の財産を取得する |
配偶者+子ども2人 | |
5,000万円 | 10万円 |
6,000万円 | 60万円 |
7,000万円 | 113万円 |
8,000万円 | 175万円 |
9,000万円 | 240万円 |
1億円 | 315万円 |
1.5億円 | 748万円 |
2億円 | 1,350万円 |
3億円 | 2,860万円 |
5億円 | 6,555万円 |
10億円 | 1億7,810万円 |
30億円 | 7億380万円 |
※遺産総額は課税遺産総額からマイナスの財産を差し引いた正味の財産を表しています。
法定相続人が配偶者と子どもが2人の場合には、5,000万円を相続した際に10万円の相続税がかかります。
10万円の計算方法は以下の通りです。
5,000万円 - 4,800万円(基礎控除額)= 200万円
この200万円を法定相続分で分割すると下記のようになります。
配偶者:100万円
子どもA・B:50万円(合計100万円)
配偶者の100万円は、前述の通り控除が適用できるため非課税。そのため、子どもが受け取った100万円にかかる相続税のみを算出していきます。
100万円 × 10%(税率)= 10万円
基礎控除額は法定相続人の数に応じて増加します。
そのため、同じ5000万円の財産を受け取る場合でも、子どもの人数が多い方が相続税は安くなると考えておきましょう。
1-4. 子どもだけの場合
子どもだけが相続人の場合 |
|||
遺産総額 | 法定相続人の構成 | ||
子ども1人 | 子ども2人 | 子ども3人 | |
5,000万円 | 160万円 | 80万円 | 20万円 |
6,000万円 | 310万円 | 180万円 | 120万円 |
7,000万円 | 480万円 | 320万円 | 220万円 |
8,000万円 | 680万円 | 470万円 | 330万円 |
9,000万円 | 920万円 | 620万円 | 480万円 |
1億円 | 1,220万円 | 770万円 | 630万円 |
1.5億円 | 2,860万円 | 1,840万円 | 1,440万円 |
2億円 | 4,860万円 | 3,340万円 | 2,460万円 |
3億円 | 9,180万円 | 6,920万円 | 5,460万円 |
5億円 | 1億9,000万円 | 1億5,210万円 | 1億2,980万円 |
10億円 | 4億5,820万円 | 3億9,500万円 | 3億5,000万円 |
30億円 | 15億5,820万円 | 14億8,290万円 | 14億760万円 |
※遺産総額は課税遺産総額からマイナスの財産を差し引いた正味の財産を表しています。
法定相続人が子どものみの場合には、配偶者控除を利用できないため、配偶者がいた場合に比べて相続税の負担が大きくなります。
法定相続人の数は同じですが配偶者控除が使えない、子ども2人のみの場合で相続税を計算してみましょう。
5,000万円 - 4,200万円(基礎控除額)= 800万円
800万円 × 10%(税率)= 80万円
配偶者控除が使えないと、法定相続人の数が2人と同じ場合でも40万円もの差があります。
関連記事: 相続税の基礎控除とは?控除の種類・控除額の計算方法
関連記事: 相続税の配偶者控除で1.6億円まで非課税!計算方法やデメリットを解説!
2. 5,000万円の遺産に相続税がかかるか判断する流れ
5,000万円の遺産を受け取った場合、「どれくらい相続税がかかるの?」と気になっている方も多いでしょう。
そもそも5,000万円の遺産には相続税がかかるのでしょうか。
ここでは、そもそも相続税が発生するのか判断する流れを解説します。
2-1. 本当に遺産が5,000万円であるか計算する
相続税を計算する前に確認しておきたいのが、本当に遺産は5,000万円なのかという点です。
遺産には、現金のほか土地や株なども含まれます。
現金はそのままの金額が課税対象となりますが、土地や株などは時価で判断されるため、5,000万円を前後する恐れがあるのです。
現金以外の遺産を受け取った場合は、国が定める相続税財産評価基本通達を参考に計算しましょう。
相続税財産評価基本通達とは、贈与・相続で受け取った財産の評価方法をまとめたものです。
日本円は時期によって評価が変わることはないものの、不動産・株・外資などは時期に応じて評価額が変わります。
評価額が変動する財産を受け取る場合は、財産評価基本通達に則って価額を算出しなければなりません。
まずは自身が受け取る財産の内容を細かく把握しましょう。
現金以外の財産を受け取る場合は財産評価基本通達に則って価額を算出し、相続する財産の総額を計算します。
2-2. 基礎控除額以下であるか確認する
受け取る相続財産すべてを把握したら、基礎控除額以下かどうかを確認しましょう。
相続税には基礎控除額があり、相続財産額が控除の範囲内であれば相続税はかかりません。
ただし、基礎控除を超える場合は相続税額を計算したうえで納税する必要があるため、必ず計算することが大切です。
以前まで、相続税の基礎控除額は5,000万円でしたが、現在は金額が変更されています。
変更後の具体的な控除額をみていきましょう。
3. 相続税の基礎控除額は5,000万円から変更されている
実は、相続税の基礎控除額は過去に4度も変更がされており、平成25年度に改正されるまでは5,000万円の基礎控除額がありました。
具体的には、「5,000万円 +(1,000万円 × 法定相続人数)」とされており、5,000万円までは相続税がかからないという共通認識が存在していました。
現在の基礎控除額や税制の改正によって課税対象者がどのように変化したのかについて紹介します。
3-1. 現在の基礎控除額|税改正の流れ
現在の基礎控除額は、「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人数)」と定められています。
これまでの税制の改正について、基礎控除額とともにまとめましたのでご覧ください。
相続税の税改正 | 適用時期 | 基礎控除額 | 法定相続人1人の場合の 基礎控除額 |
抜本改正前 | 昭和62年以前 | 2,000万円+(400万円×法定相続人の数) | 2,400万円 |
抜本改正 | 昭和63年(1988年) 1月1日以降 |
4,000万円+(800万円×法定相続人の数) | 4,800万円 |
平成4年度改正 | 平成4年(1992年) 1月1日以降 |
4,800万円+(950万円×法定相続人の数) | 5,750万円 |
平成6年度改正 | 平成6年(1994年) 1月1日以降 |
5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数) | 6,000万円 |
平成25年度改正 | 平成27年(2015年) 1月1日以降 |
3,000万円+(600万円×法定相続人の数) | 3,600万円 |
平成5年度の改正までは、基礎控除額は上がり続けていましたが、平成25年度の改正を期に控除される額が大幅に減少していることがわかります。
なぜ今まで上がり続けていた基礎控除額が縮小されてしまったのでしょうか。
3-2. 税制の改正によって課税対象者が増加
平成25年度の税制の改正前後で比較すると、2,400万円もの乖離があります。(法定相続人数1人の場合)
この改正によって、今までの税制であれば相続税を支払わなくてもよかった多数の人が課税対象となってしまいました。
平成25年度の改正は、大きく下記3つの理由が絡んでおり、財政赤字の解消などを目的として行われました。
- 少子高齢化:財政赤字となることへの対応
- 消費税の増税(5%→8%):国民の不満から富裕層への課税強化をアピール
- 地価の下落:バブル崩壊後の水準に合わせる
課税対象者を増やすことで財政を安定させるとともに、前回の改正から変化した社会情勢に合わせるという狙いがあったようです。
4. 相続税の計算方法|相続財産5,000万円の事例で解説!
相続財産が5,000万円である事例を用いて、相続税の計算方法を紹介します。
相続税の計算は下記5つのSTEPで進めていきます。
- 遺産総額を計算する
- 相続人の確定・基礎控除額の計算
- 課税遺産総額を算出する
- 相続税の合計額を計算する
- 各相続人の相続税額を計算する
4-1. 遺産総額を計算する
相続税の手続きを始める際には、まず被相続人が保有していた財産を一覧化(財産目録)することから始めましょう。
財産目録が作成できたら各財産の評価額を確定していき、遺産総額を計算します。
この際、借金やローンなどのマイナスの財産は、現預金や不動産などの課税対象となるプラスの財産金額の合計から差し引くことができます。
プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた金額が遺産総額となり、これは正味の財産とも呼ばれます。
4-2. 相続人の確定・基礎控除額の計算
遺産総額が計算できたら、法定相続人を確定し基礎控除額を計算しましょう。
法定相続人については、民法の886条〜890条にてその範囲と順位が定められています。
法定相続人 | 順位 |
配偶者 | 常に相続人 |
被相続人の子 亡くなっている場合は孫 |
第1順位 |
被相続人の両親 亡くなっている場合は祖父母 |
第2順位 |
被相続人の兄弟 亡くなっている場合は兄弟の子 |
第3順位 |
法定相続人になる人の数が確定できたら、基礎控除額を計算しましょう。
今回の事例では、法定相続人が子ども2人の場合で考えていきます。
「基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 2」
計算式は上記のようになり、基礎控除額が4,200万円と算出できます。
4-3. 課税遺産総額を算出する
課税遺産総額とは、正味の財産から基礎控除額を引いた金額を指します。
今回の事例では、正味の財産が5,000万円、基礎控除額が4,200万円のため、課税遺産総額は下記の式で求められます。
「5,000万円 - 4,200万円 = 800万円」
4-4. 相続税の合計額を計算する
課税遺産総額が計算できたら、課税遺産総額を法定相続分で分割し、それぞれの相続税額を計算。最後に全員の相続税を合計した金額を計算していきます。
子ども2人は相続順位が同格なため、800万円を均等に分割し、一人当たり400万円となります。
相続税を計算する際には、税率と控除額がまとまっている早見表を活用しましょう。
相続税の税率と控除額 | |||
課税遺産総額 | 税率 | 控除額 | |
1,000万円以下 | 10% | ー | |
1,000万円超え | 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超え | 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超え | 1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超え | 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超え | 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超え | 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超え | 55% | 7,200万円 |
子どもAの相続税 = 400万円 × 10%
子どもBの相続税 = 400万円 × 10%
それぞれの相続税額は40万円となるため、合計で80万円の相続税が発生することが計算できました。
4-5. 各相続人の相続税額を計算する
相続税の合計が計算できたら、実際に相続した財産額に応じた各相続人の相続税額を計算しましょう。
相続では法定相続分という概念をよく使用しますが、実際の相続では法定相続分通りに遺産分割を行わない場合も多々あります。
実際に受け取っている財産額は少ないのに、法定相続分の税金を払わないといけないとなると公平性が保たれないため、実際に相続した財産額に応じて相続税を計算します。
今回の事例では800万円のうち、子どもAが600万円、子どもBが200万円を相続した場合で考えていきます。
子どもA:80万円(相続税の合計額) × 0.75(600万円/800万円)= 60万円
子どもB:80万円(相続税の合計額) × 0.25(600万円/800万円)= 20万円
実際の相続財産を元にすると、子どもAが60万円、子どもBには20万円の相続税がかかることがわかりました。
4-6. 相続税の申告・納付【期限に注意】
相続税を計算し終えたら、申告・納付を行いましょう。
相続税の申告期限は、被相続人(財産を所有していた人)が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内です。
たとえば、1月10日に被相続人が亡くなった場合は同年11月10日が申告期限となります。
期限は申告・納付どちらも一緒です。期限内に相続税の申告を行ったうえで納付する必要があるため、財産を受け取ったら早めに計算しておきましょう。
相続税の申告は税務署、納付は税務署か金融機関で行えます。
税務署・銀行・郵便局に相続税の納付用紙が用意されているので、氏名・住所・電話番号・納付税額を記入して、現金と一緒に提出しましょう。
5. 相続税を計算・申告する際のルールや注意点
相続税を計算・申告する際には、下記4つのポイントに注意しましょう。
- 3ヶ月以内に相続放棄・単純承認・限定承認を選択する
- 相続税を計算する前に行う手続きがある
- 全ての財産が相続税の課税対象となるわけではない
- 控除・特例の利用で相続税が抑えられる
5-1. 3ヶ月以内に相続放棄・単純承認・限定承認を選択する
相続の方法には、相続放棄・単純承認・限定承認の3つの方法があります。
相続の手続きでは、3ヶ月以内(熟慮期間)に相続方法を選択しなければならず、選択しない場合には単純承認をしたとみなされます。
- 相続放棄:プラス・マイナスの財産関係なく、すべての財産を相続しない(放棄する)
- 単純承認:プラス・マイナスの財産関係なく、すべての財産を相続する
- 限定承認:プラスの財産の範囲でマイナスの財産の債務を支払い、プラスの財産が残った場合には相続する。
財産を整理した際に、確実にマイナスの財産が多い場合には相続放棄を選択するなど、相続によって相続人の生活に大きな負担がかからないよう、3種類の方法が用意されています。
5-2. 相続税を計算する前に行う手続きがある
受け取る財産を把握して相続税額を計算する前に、やるべきことが3つあります。
<相続税の計算前にやるべき3つのこと>
- 遺言書の確認
- 相続人の把握
- 相続財産の確認
被相続人が遺言書を遺していないか入念に探しましょう。
遺言書がある場合、内容通りに財産が分配されます。
遺言書がなければ相続順位に従って分配されるので、遺言書の有無を確認したうえで相続権利を持つ人を把握しましょう。
相続権利を持つ人を確認したら、被相続人の財産のすべてを確認します。
現金だけでなく、建物・土地・株・外資なども遺産に含まれるため、漏れがないよう調べることが大切です。
また、被相続人の借金も財産に含まれるので、借金の有無もチェックしておきましょう。
遺言書がある場合は内容通りに財産を分配した後に計算、遺言書がない場合は相続人を把握したうえで順位通りに分配した後に計算し、それぞれの相続税額を把握します。
5-3. すべての財産が相続税の課税対象となるわけではない
相続税の計算をする際は、課税対象かどうかを確認することが大切です。
課税対象にならない財産もあるため、1つずつチェックしておきましょう。
相続税の課税対象になる財産をまとめました。
<相続税の課税対象になる財産>
- 相続・遺贈で受け取ったもの(預貯金・有価証券・宝石・美術品など)
- みなし相続財産(死亡保険金や退職金・個人年金の受給権など)
- 相続時精算課税制度で受け取ったもの(生前に受け取った現金や土地など)
- 被相続人の死亡日以前の7年以内に受け取ったもの
被相続人からの相続や遺贈によって受け取ったもの、みなし相続財産で受け取ったものは課税対象になります。
みなし相続財産とは、被相続人の死亡をきっかけに発生した財産です。
死亡保険金や死亡退職金は被相続人が亡くなった際に発生する財産で、こちらも課税対象に含まれます。
被相続人の生前に相続時精算課税制度で受け取った財産も課税対象ですが、基礎控除110万円以内の財産であれば、相続税・贈与税どちらもかかりません。
生前に被相続人から財産を受け取る際、暦年課税制度を選択した方は、被相続人の死亡日以前から7年以内に受け取った財産が課税対象になります。
以前までは3年以内でしたが、2023年の税制改正で7年に延長されているため、期間を間違えないよう注意しましょう。
続いて、課税対象にならない財産を紹介します。
<相続税の課税対象にならない財産>
- 宗教的な財産(仏壇・仏具・墓地・墓石など)
- 死亡保険金と死亡退職金の非課税枠
仏壇や墓地などの宗教的な財産を相続しても課税対象にならないため、計算に含めないようにしましょう。
死亡保険金と死亡退職金には非課税枠が設けられており、非課税部分は相続税がかかりません。
非課税枠の計算は「500万円×法定相続人の数」で算出します。
たとえば、法定相続人が2人の場合は1,000万円の非課税枠が適用されるため、1,000万円以内の死亡保険金と死亡退職金であれば相続税は発生しません。
また、遺族年金も相続税の課税対象にならないため、安心して年金を受け取れます。
下記に具体的な財産をまとめましたので、相続財産を確認する際の参考にしてください。
課税対象となる財産 |
課税対象にならない財産 |
現預金 有価証券 宝石 土地 家屋 山・農地 貸付金 特許権 著作権 死亡保険金 死亡退職金など |
借金 住宅ローン 未払いの税金 未払いの家賃 未払いの医療費 買掛金 仏壇・仏具 墓地・墓石 弔慰金など |
5-4. 控除・特例の利用で相続税が抑えられる
本記事でも少し触れた配偶者控除など、相続税には控除や特例がいくつか設けられており、適用することで相続税を抑えることが可能です。
適用には条件を満たす必要がありますが、適用できれば大きく相続税の負担を軽減できる可能性があります。
しかし、控除・特例は条件を満たせば自動で適用されるわけではなく、制度を理解したうえで、自己申告が必要になりますので注意しましょう。
6. 相続財産が5,000万円の際に利用可能性がある控除・特例
相続税を申告する際に利用可能性がある控除・特例についてまとめましたので1つずつ紹介します。
- 配偶者の税額の軽減
- 小規模宅地等の特例
- 未成年者控除
- 障害者控除
6-1. 配偶者の税額の軽減
配偶者の税額軽減とは、被相続人の配偶者に対して相続税の軽減を行うために設けられている特例です。
正式には「配偶者に対する相続税額の軽減」と呼び、下記2パターンのうちどちらか金額の多いほうまで非課税となります。
①1億6,000万円 ②配偶者の法定相続分相当額 |
配偶者控除は下記3つの要件を満たすことで利用できる特例です。
- 法律上の配偶者である
- 相続税の申告書を提出する
※特例を適用する場合には、相続税がかからない場合でも相続税の申告を行う必要があります。 - 遺産分割が確定している
極端な話、配偶者が100億円を相続した場合でも、法定相続分の範囲内であれば非課税となるため、大幅に相続税を軽減できる可能性があります。
6-2. 小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、小規模な宅地について要件を満たすことができれば、その宅地の評価額を最大80%減額できる特例です。
相続において自宅の土地に高額の相続税がかかってしまい、自宅を手放さざるを得ないという状況に置かれてしまうケースは少なくありません。
そこで、配偶者や家族が被相続人の死後も自宅に住み続けられるように考慮して設けられた特例が、小規模宅地等の特例です。
小規模宅地等の特例の対象となる土地は3種類あります。
- 特定居住用宅地:自宅の土地など
- 特定事業用宅地等:お店の土地など
- 貸付事業用宅地等:貸借していたマンションの土地など
小規模宅地等の特例の適用要件は厳しく、土地の種類によっても要件が異なります。
特定居住用宅地の場合
- 配偶者が相続すること
- 同居していた相続人(子どもなど)が相続すること
- 家なき子(別居親族)が相続すること
特定事業用宅地等の適用要件
- 相続税の申告期限まで土地を保有&事業を行っていること
- 相続開始の直前から申告期限まで事業を営んでいること
- 相続税の申告期限まで土地を保有していること
貸付事業用宅地等
- 相続開始前から土地を貸し出ししていること
- 相続税の申告期限まで貸し出ししていること
条件こそ厳しいものの条件を満たせば、大幅に相続税を減額できるため、土地の相続税が高い場合には適用できないか検討しましょう。
6-3. 未成年者控除
相続人が未成年の場合には、「未成年者控除」という控除を利用できます。
未成年者控除は、未成年者が成人になるまでの養育費を考慮して設けられている特例です。
未成年者控除の控除額は下記の計算式で求めることができます。
「18(成人年齢)- 相続時の年齢 × 10万円 = 未成年者控除の控除額」
相続時の年齢を算出する際には、1年未満の期間を切り上げて1年として計算します。
未成年者であれば全員が適用できるわけではなく、下記3つの要件を満たす必要があります。
- 相続や遺贈で財産を取得したときに18歳未満である
- 法定相続人である
- 相続開始日に日本国内に住所がある
また、成人年齢の引き下げに伴い、令和4年4月1日以降に発生した相続については、20歳ではなく、18歳を適用して考えますので注意しましょう。
6-4. 障害者控除
障害者控除は、障害を持つ人が財産を相続した際に相続税額が軽減できるように設けられた特例です。
障害者控除の計算においては、障害の程度によって控除額を求める式が異なります。
一般障害者
「85歳-相続開始時の年齢 × 10万円 = 障害者控除額」
特別障害者
「85歳-相続開始時の年齢 × 20万円 = 障害者控除額」
障害者控除を利用するためには、下記3つの要件を満たす必要があります。
- 財産取得時に日本国内に住所がある
- 財産取得時に障害者である
- 法定相続人である
障害者控除では、障害を持つ本人の相続税だけでなく、控除額が余った場合には、ほかの相続人かつ扶養義務者の相続税も控除できます。
7. 相続税の計算は税理士に依頼しよう!
ここまで、5,000万円を例として相続税がいくらになるか解説してきました。
税制の改正によって日本ではこれまでに、4回も基礎控除額が変更されています。
平成25年度の改正によって、基礎控除額が低くなってしまったため、以前までは相続税がかからなかった5,000万円に対しても相続税がかかるようになっています。
相続税の計算は課税遺産総額や法定相続人の組み合わせによって、複雑になり、控除・特例の適用にはさまざまな準備が必要となります。
個人ですべて行うことが難しい場合には、相続税の専門家である税理士に依頼しましょう。
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