相続税の基礎控除とは、亡くなった人から財産をもらう時に無条件で適用される、課税されない一定の限度額です。平成27年1月1日以降に相続が開始された場合には、3,000万円に法定相続人1人あたり600万円を上乗せした分が基礎控除額です。
本記事では、以下について解説します。
・相続税の基礎控除額の計算方法
・基礎控除額の計算で重要な「法定相続人」とは
・基礎控除額が適用される財産、相続税の計算方法
・基礎控除の他にもある代表的な控除制度
家族や自分自身の基礎控除額が知りたい時、課税額や申告の必要性が気掛かりな時に、必ず押さえておきたい知識です。
目次
1. 相続税の基礎控除とは?課税されない一定の限度額
相続税の基礎控除とは、亡くなった人の財産について課税対象と判断される範囲の中で、一定限度までなら相続税はゼロと判断される制度です。所定の計算で「もらい受けた財産の総額が基礎控除額を下回る」と判断される場合、相続税の申告・納付は不要になります。
相続税の基礎控除額について注意したいのは、一定ではなく、法定相続人の数や状況に応じて金額が変化する点です。個別事例での基礎控除額は、戸籍謄本の調査を通じて相続人が何人いるのか調べた上で、相続開始時点で適用される法律に沿った計算が必要です。
2. 相続税の基礎控除額の計算方法
相続税の基礎控除額は、土台部分と法定相続人の数による上乗せ部分の組み合わせで計算します。最新の法令に沿い、遺産をもらう時の基礎控除額を簡単に調べる方法を紹介すると、以下の通りです。
2-1.3千万円+6百万円×法定相続人の数
平成27年度以降に発生した相続は、基礎控除額の土台になる部分が3,000万円で、法定相続人1人につき600万円の上乗せがあります。下記の式を使えば、相続税の基礎控除額は簡単に計算可能です。
相続税の基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 |
2-2. 法定相続人に応じて基礎控除額も増える
2-1の方法で計算する相続税の基礎控除額は、法定相続人の数に応じて600万円ずつ増加します。基礎控除額の計算例をいくつか挙げてみましょう。
・法定相続人が2人の場合
相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 2 = 4,200万円 |
・法定相続人が3人の場合
相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円 |
・法定相続人が4人の場合
相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 4 = 6,000万円 |
3. 法定相続人とは?相続税の基礎控除額を決定づける要素
法定相続人とは、被相続人にとって戸籍上の親族に該当する人のうち、財産を取得する権利(相続権)を得る人です。民法では、配偶者がいれば必ず相続権を得て、血族は存する中で最も順位の高い人が相続権を得るとされます。
【法定相続人の判定方法】
配偶者相続人+下の血族相続人の中で最も順位が高い人
第1順位:子ども
第2順位:直系尊属(父母・祖父母)
第3順位:兄弟姉妹
相続税の計算では、上記のような近親者を「被相続人の資産で生計を立てている」と捉え、納税で困窮しないよう基礎控除額を上乗せします。
3-1. 配偶者
相続開始時に配偶者がいる場合、他の血族の有無に関わらず、必ず権利を得て法定相続人になります。ここで言う「配偶者」とは、婚姻届を出して戸籍上の夫や妻となっている相手です。いわゆる内縁関係や事実婚だと相続権はないため、注意しましょう。
3-2. 子ども
相続開始時に子どもがいれば、血族内で権利を独占して法定相続人になります。該当するのは、戸籍上の夫婦の間に生まれた子(実子)・養子縁組した子・認知した子・前の配偶者の子です。血族の中で最も優先される立場であり、相続関連の手続きでは第1順位と表現されます。
3-3. 父母・祖父母
相続開始時に子どもがいなければ、直系尊属と呼ばれる続柄の人が血族内で権利を独占して法定相続人になります。直系尊属とは、父母や祖父母など、親子関係を上に辿っていく時の家族です。相続関連の手続きでは第2順位と表現されます。
3-4. 兄弟姉妹
相続開始時に子どもも直系尊属もいなければ、兄弟姉妹が血族内で権利を独占して法定相続人になります。兄弟姉妹は、同一の父母から生まれたきょうだいに限りません。父違い・母違いの相手も相続権を得る余地があるのです。相続関連の手続きでは第3順位とされます。
4. 相続税の基礎控除額を調べる時の注意点
基礎控除額の計算ベースとなる「法定相続人の数」の考え方は、遺産を取得する時のそれと全く同じというわけではありません。課税逃れや、相続しなかったことが他の家族の課税額を著しく増やすトラブルを防ぐため、相続権のある人の数え方について税法独自のルールが一部設けられているのです。
以降では、基礎控除を計算する時の法定相続人の扱いについて、注意すべきポイントを3つにまとめます。
4-1. 養子は1人もしくは2人まで
民法では養子と実子を区別せず、法定相続人として平等に扱います。実子も養子も、何人いようと平等に遺産を取得できるのです。
一方で、相続税の基礎控除額には養子の数に制限があります。実子は全員につき各600万円の基礎控除額を上乗せできますが、養子について控除できるのは原則1人まで、実子がいなければ養子は2人までとされます。
4-2. 代襲相続が起きた時の計算方法
代襲相続とは、孫以下の子どもの卑属や甥・姪が相続人となる場合です。死亡などの相続放棄以外の理由で、本来の相続人(子どもや兄弟姉妹)が相続権を失っている場合に発生します。
代襲相続がある時の相続税申告では、**孫・甥・姪などの代襲相続人を基礎控除額の計算に含めます。**例えば、被代襲相続人である子が結婚して2人の子に恵まれていたとすると、子1人の代わりに孫2人が基礎控除額のカウントに入ります。
4-3. 相続放棄した人も法定相続人扱いになる
相続放棄とは、相続人自ら家庭裁判所で手続きすることを条件に、亡くなった人に属する一切の権利義務を受け継がないとする制度です(民法第915条1項)。
放棄した人の遺産の取得は不可能ですが、遺産を取得した人の相続税申告では、相続放棄はなく法定相続人のままであるとして基礎控除額を計算します。
4-4. 相続欠格・相続廃除は法定相続人扱いにならない
相続放棄しない場合でも、「相続欠格」(民法第891条1号~5号)や「相続廃除」(民法第892条~第894条)の要件を満たせば、その相続人は権利を剥奪されます。
相続税申告では、**相続欠格・相続廃除の効果を反映し、法定相続人ではなくなったものとして基礎控除額の計算には含めません。**つまり、相続権を剥奪された人が出ると、遺産分割を進める他の家族の非課税枠が減ってしまいます。
5. 相続税の計算方法—基礎控除が適用される遺産総額とは
基礎控除の適用は、相続税の計算上「遺産総額」と呼ぶ課税対象に限られます。遺産総額とは、亡くなった時点の財産全体のことではありません。お墓など除外して良いものもあれば、晩年の贈与など加算しなくてはならないものもあります。
相続税の基礎控除額を正しく理解するため、課税対象になる財産につき、課税額の計算方法を含めて整理してみましょう。
5-1. 相続税の課税対象になる財産
相続税の課税対象になる範囲は広く、有形・無形のさまざまな権利が挙げられます。忘れがちな財産を含めて挙げていくと、次の通りです。
1.不動産(自宅、経営中の賃貸物件など)
2.金銭(外貨含む現金、銀行にある預金)
3.証券(株式、債券、投資信託など)
4.車両(自動車、オートバイなど)
5.その他の動産(家財道具、貴金属など)
6.生命保険金(法定相続人1人につき500万円を超える分)
7.退職手当金など(法定相続人1人につき500万円を超える分)
8.知的財産権(著作権、特許権、商標権など)
9.各種債権(まだ返してもらっていない金銭など)
10.未収金(保険料の還付、配当金の未収金など)
11.その他の権利や資産(ゴルフの会員権など)
5-2. 相続税が課税されない財産
相続税の課税対象にならない財産は、お墓の他に保険金の一部などがあります。数は限られていますが、挙げると下記の通りです。
1.祭祀財産(墓地、墓石、仏壇仏具など)
2.生命保険金(法定相続人1人につき500万円以内)
3.死亡退職金(法定相続人1人につき500万円以内)
4.各種公的給付(生活保護費、老齢年金、障害年金など)
5.国や地方公共団体、公益法人に寄付した財産
6.損害賠償金(相続開始後に権利が発生した場合に限る)
5-3. 計4ステップ!相続税の計算方法
相続税の計算は複雑ですが、単純に4ステップと考えると分かりやすくなります。「持ち家と老後資金の残りだけ」のように取得する財産が限られている場合は、Step2まで見て課税の有無を判断すると良いでしょう。例として、次のような場合を考えてみます。
Step1.課税価格を計算する
相続税の課税対象には、亡くなった時点で残されていた財産だけでなく、一定範囲の生前贈与も含まれます。上記合計につき、債務などのマイナス分を控除すると、相続税の計算における遺産総額が分かります。
【課税価格の計算方法】 |
Step2.基礎控除後の課税遺産総額を計算する
実際に相続税が課税されるのは、Step1で計算した遺産総額のうち基礎控除額を超える部分だけです。もしこのステップで「基礎控除額を超過しない」と分かれば、課税額ゼロで申告義務もありません。
【課税遺産総額の計算方法】 |
Step3.相続税の課税額の計算
相続税の計算は、課税遺産総額から直接行うわけではありません。まずは各人の納付すべき仮の課税額を、それぞれの法定相続分(民法で定める法定相続人ごとの取得割合)に沿って計算します。
【相続税の課税額の計算方法】 |
Step4.各人の課税額の計算
各人の仮の課税額はいったん合計し、不公平にならないよう調整します。実際の財産の取得割合に応じて分配し、それぞれの負担とするのです。
【各人の課税額の計算方法】 |
関連記事:
相続税が早見表ですぐにわかる!自分に相続税がかかるかチェック!
6. 基礎控除以外にもある!相続税の控除の種類
課税額を減らす制度は、相続税の基礎控除だけではありません。法定相続人の年齢や障がいの有無によって税額を軽減したり、贈与税について二重課税にならないよう調整したりする制度もあります。
遺産が基礎控除額を超えていても、以降で紹介する制度によって課税額がゼロになる余地はあるでしょう。ただし、各制度を適用する場合、課税がない場合でも相続税申告が必要になる点に要注意です。
6-1. 配偶者の税額控除
配偶者の税額の軽減とは、遺産分割や遺贈によって被相続人の配偶者が受け取る財産につき、一定の限度で課税しないとする制度です。限度額は「1億6千万円」と「配偶者の法定相続分相当額」いずれか高い金額です。
関連記事: 相続税の配偶者控除で1.6億円まで非課税!計算方法やデメリットを解説!
6-2. 未成年控除
未成年控除とは、相続や遺贈で財産を取得した法定相続人が未成年者だった場合に、その人の相続税を控除する制度です。控除額は、満年齢で成年年齢に達するまで1年につき10万円です。
なお、2022年3月以前の控除額の計算では「満20歳まで」とされていましたが、同年4月以降は成年年齢引き下げに伴い「満18歳」に変更されています。
6-3. 障害者の税額控除
障害者控除とは、相続または遺贈で財産を取得した法定相続人が85歳未満の障がいを持つ人だった場合に、その人の相続税を控除する制度です。控除額は、満年齢で85歳になるまで1年につき10万円が原則ですが、特別障害者に該当すると1年につき20万円に引き上げられます。
特別障害者に該当する人として、1級の手帳が交付されている精神障害者や、1級または2級の身体障害者、その他に6か月以上寝たきり状態で複雑な介護を要する人などが挙げられます。
6-4. 贈与財産の加算と税額控除
相続税の計算では、生前贈与の価額について課税価格に上乗せします。一方で、上乗せ分について申告・納付した贈与税は、相続税から控除して二重課税にならないよう調整します。
加算及び税額控除の対象となる贈与財産の範囲は、原則(暦年課税)については相続開始前3年以内です。一方で、贈与税の申告で相続時精算課税を適用していた場合は、適用後の贈与全体が加算及び税額控除の対象です。
6-5. 小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、被相続人の自宅や賃貸物件につき、相続税評価額を50%または80%まで下げられる制度です。遺産総額の計算時に適用することで、本来高額な不動産の評価を大幅に圧縮し、結果的に基礎控除額を超えない(=課税額ゼロ)場合があります。
「小規模宅地等の特例」の基本的な適用条件
適用対象の宅地等 | 適用対象となる場合 | 評価減の割合 |
---|---|---|
特定居住用宅地等 | 被相続人の自宅を配偶者、同居親族、持ち家のない別居親族等が相続する場合 | 330平方メートルを限度に80%の評価減 |
貸付事業用宅地等 | 被相続人の営む賃貸物件や有料駐車場等を相続する場合 | 200平方メートルを限度に50%の評価減 |
特定事業用宅地等 | 被相続人の店舗・事務所等として利用されていた宅地等を相続する場合 | 200平方メートルを限度に50%の評価減 |
※同族会社の事業用宅地等は400平方メートルを限度に80% |
課税対象となる財産でも、制度の適用で評価額を下げられる場合があります。評価減に繋がる制度の代表が「小規模宅地等の特例」です。
7. まとめ
相続税の基礎控除とは「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算できる、課税されない限度です。もらい受けた財産の価額が上記結果を下回っていれば、相続税の申告・納付は不要です。
事例ごとに基礎控除額について調べるには、手続きのための書類収集を兼ねて戸籍を調査し、法定相続人を適切に判定しなくてはなりません。できるだけ課税額を抑えたいのであれば、小規模宅地等の特例などの各種税制の知識を駆使する必要があります。税金について心配な時は、網羅的に知識を持っている税理士に相談するのがベストです。


このコラムは「日本クレアス税理士法人」が公開しております。
東京本社
〒100-6033東京都千代田区霞が関3丁目2番5号 霞が関ビルディング33階
電話:03-3593-3243(個別相談予約窓口)
FAX:03-3593-3246
※コラムの情報は公開時のものです。最新の情報は個別相談でお問合せください