相続税を納めたものの、後日納めすぎたことに気付いたとお困りではありませんか。
相続税の計算は複雑なので、納めすぎることもあれば、不足することもあります。
不足した場合は再度納めればいいものの、納めすぎた場合はどうすべきなのでしょうか。
そこで本記事では、相続税還付について詳しく解説します。
税金を納めすぎてしまう理由と還付の手順も紹介するので、相続税を払いすぎてお困りの方はぜひご覧ください。
相続税還付とは?基本から専門的な理解まで
相続税を払いすぎたときは、還付の手続きを行うことが大切です。
ここでは、相続税還付の基礎知識と、請求期限を紹介します。
相続税還付の基礎知識と発生条件
相続税還付とは、払いすぎた税金を返してもらうことです。
相続税の申告と納付は、自己申告で行います。
税務署は申告された内容に誤りがないという認識で受理するため、受け取ってからすぐに内容をチェックすることはありません。
申告した相続税額が不足している場合は税務署から連絡が来るものの、払いすぎた場合の連絡はありません。
そのため、納付額に不安を覚えたら、申告者自身が再度計算しなおして返金の手続きを行う必要があるのです。
これを相続税の還付といい、返金手続きを「更正の請求」といいます。
還付請求可能な期限とタイミングの重要性
相続税の還付には請求期限が定められているため、早めに計算しなおすことが大切です。
請求期限は、相続税の申告期限から5年以内です。
相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10カ月以内なので、間違えないよう注意しましょう。
例として、2024年8月1日に相続開始を知ったケースを紹介します。
2024年8月1日に相続開始を知ったケースの期限
- 相続税の申告期限:2025年6月2日
- 相続税還付の請求期限:2030年6月2日
相続税の申告期限から5年の期間があるとはいえ、日常生活を送る中でつい再計算を先延ばししてしまうケースも多いでしょう。
気付けば期間が過ぎていたということがないよう、できるだけ早めに再計算することがおすすめです。
相続税が多すぎる気はするけれど、再計算しても誤りがない場合は税理士に相談してみましょう。
税のプロに依頼すれば正しく計算してもらえるため、誤りがある場合は還付請求の手続きを行えます。
相続税還付が起こってしまう理由|なぜ納めすぎてしまう?
相続税の払い過ぎによる還付は珍しくありません。
税金を払いすぎてしまう理由として、以下が挙げられます。
<税金を納めすぎてしまう理由>
- 不動産の評価が難しい
- 相続税の計算が複雑
- 相続税の申告に慣れていない税理士に依頼した
相続財産のなかに、建物や土地などの評価が難しいものが含まれているケースも多いでしょう。
評価が難しいあまり、高めに評価してしまうと相続税は多くなってしまいます。
その結果、払いすぎて更正の請求を行わなければならなくなるのです。
また、相続税の計算が複雑であることも払い過ぎの一因です。
相続税の計算方法は以下のとおりです。
<相続税の計算>
- 相続財産すべての価額+みなし相続で取得した財産の価額-非課税財産の価額+相続時精算課税制度を適用した財産の価額-故人の借金と葬儀にかかった費用=純資産価額
- 純資産価額+暦年課税にかかる贈与財産の価額=相続人別の課税価格
- 相続人別の課税価格-基礎控除=課税遺産総額
- 課税遺産総額×相続人別の法定相続分=相続人別の取得金額
- 相続人別の取得金額×税率=相続税額
相続税の計算は複雑で、個人での対応は難しいケースが多いため、税理士に相談することがおすすめです。
しかし相続税に関する依頼を受けたことがない、または実績が少ない税理士に依頼することで払い過ぎが起こる可能性もあります。
税理士に依頼する際は、相続税に関する実績が豊富なところを選びましょう。
実績の多いところに依頼すれば、不足・払い過ぎのどちらもない正しい申告を行えます。
相続税の具体的な計算方法が知りたい方は、下記記事も併せてご覧ください。
【関連記事】:相続税の計算方法|便利な計算表や相続税計算シミュレーションも紹介
相続税還付が成功した3つの実例
一度払ってしまった相続税を、更正の請求で本当に返してもらえる?と不安を覚える方も多いでしょう。
ここでは、相続税の還付が成功した3つの実例を解説します。
成功事例1: 不動産評価の見直しによる大幅な還付金増加
2つの地番からなる土地を相続したAさんは、最初の申告で地番別の相続税評価額を算出していました。
2つの土地分の評価額は8600万円と非常に高額でしたが、Aさんは相続税を計算して納付しています。
後日、税理士に相談したところ、2つの地番はどちらも同じ方法で利用されていることがわかりました。
同じ方法で利用されている場合は2つの土地を1つとして計算できるため、再計算の結果、評価額は6800万円に減額されています。
評価額の減額によって600万円の還付が発生し、Aさんは払いすぎた分の受け取りに成功しました。
こちらのケースの成功ポイントは、申告後にAさんが疑問を抱いたことと、税理士に相談したことです。
小さいことでも疑問を抱いたら、相続の実績が豊富な税理士に相談するようにしましょう。
成功事例2: 特例適用漏れの修正で還付を受けたケース
賃貸アパートを相続したBさんは、相続税の申告を税理士に依頼していました。
不動産を含めた相続税額は1500万円と高額でしたが、税理士に依頼しているから誤りはないだろうと思い、納税しています。
しかし、高額な納税額に疑問を抱いたBさんはいくつかの税理士事務所に相談をしました。
いくつもの事務所で結果は変わらないと言われたものの、最後に完全報酬制の税理士事務所に相談に行きます。
そこで告げられたのは、借家権控除の適用漏れでした。
借家権控除を適用することで評価額を30%も下げられ、見直し後の相続税額は900万円にまで減額しています。その結果、Bさんは600万円の還付請求に成功しました。
こちらのケースの成功ポイントは、相続に関する特例・控除に強い税理士にたどり着いたことでしょう。
適用できる特例や控除は多くあるものの、税理士がすべて把握しているとは限りません。
申告内容に少しでも疑問を持ったら、相続実績が豊富な税理士に相談してみましょう。
成功事例3: 土地評価の訂正によって還付金を得たケース
Cさんは、正面と1つの側面が道路に面した土地を相続しました。
相続税の申告を税理士に任せていたものの、結果に疑問を持ったCさんは別の税理士に再調査を依頼します。
再調査後、評価額の計算に足りていない部分が判明しました。
Cさんが相続した土地は逆L字型です。
当初の税理士は正方形の形で評価額を計算しましたが、逆L字型なので側面は少ししか道路に接していません。
そのため、計算式に接している部分の面積を含める必要がありました。
再調査後に側面の道路に接する部分の数字を含めたところ、当初の評価額2640万円が2580万円に減額されました。
こちらのケースが成功したポイントは、土地に詳しい税理士に相談したことです。
相続財産に土地や建物などが含まれている場合は、不動産の知識を持つ税理士に依頼しましょう。
相続税還付の申請手順と成功するためのポイント
相続税の還付申請を行う前に、申請から受け取りまでの流れを押さえておくことがおすすめです。
なかには更正の請求に失敗するケースもあるため、成功させるポイントを把握しておくことで、還付の可能性を上げられるでしょう。
ここでは、相続税還付の申請手順と成功させるポイントを解説します。
相続税還付の申請手順を解説
相続税の再計算から還付金の受け取りまでの流れは以下のとおりです。
<還付金受け取りまでの流れ>
- 申告済みの書類の不備を調査
- 更正の請求に必要な書類を税務署に提出
- 更正通知書の受け取り
- 国税還付金振込通知書の受け取り
- 還付金の受け取り
まずは申告した書類の見直しから始めましょう。
不動産を受け取った場合は、評価額の計算を間違えている可能性があるため、評価額の計算からやり直すことが大切です。
見直しの結果、払いすぎていたことがわかったら更正の請求を行います。
更正の請求とは、払いすぎた、または不足した税金額を正しい金額に訂正するために書類を提出する手続きです。
更正の請求に必要な書類は以下のとおりです。
<更正の請求に必要な書類>
- 更正の請求書
- 再計算後の相続税額を証明する資料
更正の請求書は、パソコンから国税庁の確定申告書作成コーナーにアクセスしてe-Taxから申請することがおすすめです。
書類を提出してから3カ月以内に、税務署から更正通知書が届きます。
それから約1カ月後に届く国税還付金振込通知書には、還付される税金額が記載されているので確認しておきましょう。
国税還付金振込通知書の受け取りから2週間ほどで、請求書に記載した銀行口座に還付金が振り込まれます。
更正の請求を行う際に注意しておきたいのが、請求後に税務調査が入るリスクが高まる点です。
再調査によって還付金を受けられることがわかったものの、税務調査で未申告の財産が見つかるケースもあります。
この場合は追徴課税を命じられるため、ペナルティとあわせて高額の支払いになるかもしれません。
申告内容の再調査をする際は、未申告の財産の有無も確認しておきましょう。
ほかに問題がなければ、税務調査が入ったとしても安心です。
還付申請時に犯しやすいミスと成功のためのポイント
還付申請を行う際は、提出する書類の不備に注意しましょう。
申請書には、申告内容の訂正やその理由を明確に記載しなければなりません。
内容があいまいだと還付が認められないため、なぜ更正の請求を行うことになったのかを具体的に書いておきましょう。
また、申請書を提出する際は当初の申告内容に誤りがあったことを証明する資料が必須です。
相続財産の評価意見書や債務の証明書など、誤りを証明できる書類を必ず用意しましょう。
還付申請時の記載内容があいまいだったり、資料が添付されていなかったりすると、税務所に調査を行ってもらえません。
受理されない可能性もあるため、還付の理由と誤りを証明する資料をしっかり準備したうえで提出しましょう。
相続税還付を税理士に依頼した場合のメリット
相続税を払いすぎている気がするけれど、還付の手続きがよくわからないとお困りの方は税理士に依頼しましょう。
税理士に依頼すれば、当初の申告内容を詳しく再調査してくれます。
再調査の結果、誤りがあることがわかれば、更正の請求手続きを依頼することがおすすめです。
相続税の還付手続きを税理士に依頼するメリットは以下のとおりです。
<還付手続きを税理士に依頼するメリット>
- 再調査や再計算をプロにお任せできる
- 還付手続きを依頼できる
- 税理士に任せることで税務調査のリスクを抑えられる
税理士に依頼する大きなメリットは、複雑な相続税の調査や再計算をプロにお任せできる点です。
個人では難しいことでも、税のプロである税理士なら正確な調査を実施してくれます。
適用できる特例や控除も教えてくれるので、適用漏れの特例・控除があれば還付金を受け取れるかもしれません。
また、税理士に依頼する際は還付請求の申請書に税理士名を記載します。
税理士が再調査・再計算を行っていることがわかれば、内容に不備がある可能性が低いと判断されます。
そのため、税務調査のリスクも抑えられるでしょう。
税理士に依頼する際は、相続専門、または相続の実績が豊富なところにお任せすることがおすすめです。
相続税還付を最大化するための専門的なテクニック
相続税を払いすぎたと思ったら、再調査や再計算を行う必要があります。
その際に、還付金を最大化するテクニックを活用することで、より多くの還付金を受け取れるでしょう。
ここでは、相続税の還付金を最大化するテクニックを解説します。
不動産評価の見直しで還付を最大限にする方法
相続した不動産の評価方法を見直すことで、還付金を最大化できる可能性があります。
不動産の評価は、路線価方式や倍率方式によって自身で計算することが可能です。
しかし、土地の特徴別に用意される減額割合や特例、控除を知らなければ、算出した評価額のまま申告してしまうでしょう。
たとえば、形がいびつな土地は全面を有効活用しにくいことから、評価額から最大40%の減額が可能です。
路線価方式や倍率方式から算出した評価額が3000万円の土地でも、形がいびつだと判断されれば評価額を1800万円に下げられます。
そのほかにも、土地の特徴によっては評価額を減額できるケースがあります。
評価額が下がることによって支払いすぎていた相続税の一部を返してもらえるでしょう。
特例の適用漏れを見つけて還付を受けるための方法
最初の申告時に特例や控除を適用していない場合は、適用漏れがないかを確認することが大切です。
相続税に適用できる特例や控除は以下のとおりです。
<相続税に適用可能な特例・控除>
- 基礎控除
- 配偶者の税額軽減
- 未成年者の税額控除
- 相次相続控除
- 障害者の税額控除
- 贈与税額控除
- 小規模宅地の特例
- 納税猶予の特例
特例と控除を適用していない方は、上記のいずれかを適用できるかを確認しましょう。
適用できる場合は相続税額が変わるため、還付金を受け取れます。
相続財産に土地が含まれている場合は、土地の特徴をチェックすることがおすすめです。
特徴によっては評価額を減額できるため、還付金をより多くできるでしょう。
減額できる可能性のある土地の特徴は以下のとおりです。
<減額できる可能性のある土地の特徴>
- 形がいびつな土地
- 私道に面している土地
- 市街地の田んぼ・畑・山林
- 道路に面していない土地
- 建物の建築が難しい土地
- 傾斜のある土地
- 周辺環境が悪い土地
- 墓地が隣にある土地
減額できる可能性のある土地にはさまざまなものがあります。
問題なく建物を建てられない土地、使い方に困っている土地を相続した場合は、減額できる可能性があるかを税理士に相談してみましょう。
相続税還付と税務調査の関係とその対策
更正の請求を行うと、税務調査が来る可能性が高まるといわれています。
なぜ相続税の還付で税務調査の可能性が高くなるのか、その理由と対策について解説しましょう。
税務調査が入るリスクと還付申請への影響
相続金の還付請求を行うと税務調査のリスクが高まるものの、還付申請の内容が正しければ大きな影響はありません。
そもそも、税務調査は最初の相続税申告時にも行われます。
更正の請求をしたことをきっかけに調査が入るとは限らないので、過剰な心配をする必要はありません。
ただし、申告内容に怪しい点があれば税務調査が入る可能性は高まります。
財産の再調査や再計算を行うときに、未申告の財産がないかを入念に確認しましょう。
内容に不備がなければ、税務調査が入っても追徴課税を命じられる恐れはありません。
税務調査後の対応と還付成功のためのポイント
税務調査後、内容に不備がある場合は税務署から修正申告の連絡がくるので早めに対応しましょう。
連絡の際に不備の内容を詳しく説明されるため、しっかり確認したうえで修正申告に応じることが大切です。
修正を求められた内容に疑問を持ったときは、無理に修正申告を行う必要はありません。
税務署の決定に対する不服申し立てをすることができるため、税理士や弁護士などに相談することがおすすめです。
税務署とのやり取りが不安な場合は税理士への相談がおすすめ
相続税の還付請求を行いたいけれど、税務調査のリスクを考えると躊躇してしまうとお悩みの方も多いでしょう。
そんな方は、税理士に対応を任せることがおすすめです。
税理士は、依頼者に代わって税務署への対応をしてくれます。
税務調査への対応もお任せできるため、依頼者本人が税務署と直接やり取りをすることはありません。
もちろん、還付請求の手続きや手続きに伴う交渉も依頼できるので、相続税の申告内容に疑問を持ったら一度相談してみましょう。
相続税の還付手順を知り納めすぎた税金を取り戻そう!
相続税の申告を済ませて納税したものの、払いすぎたかも?と思ったら還付請求の手続きを行いましょう。
申請書や申告内容の誤りを証明する書類を用意すれば、還付請求を行えます。
結果に誤りが認められれば払いすぎた相続税が返ってくるため、損をせずに済むでしょう。
納めすぎたと思うけれど還付請求の手続きがよくわからない、税務署とのやり取りが不安という方は税理士に相談することが大切です。
依頼すれば、還付請求の手続きから税務署とのやり取り、請求に伴う税務調査の対応までお任せできます。
手間をかけずに払いすぎた税金を取り戻せるため、気になる方は一度問い合わせてみましょう。
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