タックスヘイブンと相続税の関係とは?課税リスクと資金移転の注意点を解説

監修
中村亨
日本クレアス税理士法人 代表 税理士 公認会計士
収入が一般より多い方の中には、「税金の負担が重い」「タックスヘイブンを利用すれば相続税を回避できるのでは?」と考えている方も多いでしょう。
タックスヘイブンは租税回避のための地域として知られていますが、日本の税制ではさまざまな対策が講じられており、利用には大きなリスクを伴います。
本記事では、タックスヘイブンの基本的な仕組みから、相続税との関係、実際の節税効果の可能性と注意点まで、詳しく解説します。
税金を負担に感じている方や、タックスヘイブンに興味を持っている方は、最後までご覧ください。
目次
1. そもそもタックスヘイブンとは?
そもそもタックスヘイブンとは、どのようなものなのでしょうか。
- タックスヘイブンの定義と目的
- 代表的な租税回避地
- 税務当局の監視とタックスヘイブン対策の強化
以上の3つのポイントを元に、タックスヘイブンについて解説します。
1-1. タックスヘイブンの定義と目的|なぜ課税を回避できるのか
タックスヘイブンとは、税率が極めて低い、または課税そのものがない国や地域を指します。
「Tax Heaven(税金の天国)」と間違われますが、正しくは「Tax Haven(税金の避難所)」です。
これらの地域では、低税率制度、金融秘匿性の確保、規制緩和、租税条約ネットワークにより課税回避が可能となっています。
また、タックスヘイブンは大きく以下の3つの種類に分類されます。
- タックスパラダイス:法人税や所得税が全く課されない完全非課税型で、ケイマン諸島やバハマが該当。
- タックスリゾート:低い税率を設定している軽課税型で、シンガポールや香港などが該当。
- タックスシェルター:特定の業種や取引に対して優遇措置を設けている特定優遇型で、アイルランドやルクセンブルクなどが該当。
これらの仕組みにより、個人や企業は本国での高い税負担を回避し、資産の蓄積や事業運営上の優位性を獲得可能です。
1-2. 代表的な租税回避地|シンガポール・ケイマン諸島・香港など
現在、世界各地に存在するタックスヘイブンですが、その中でも日本人にとって利用しやすい代表的な地域を紹介します。
- シンガポール
アジアの金融ハブとして知られるシンガポールは、法人税率が17%と比較的低く設定されている国です。
また、キャピタルゲインへの課税がないことや、外国源泉所得への優遇措置があることから、多くの富裕層や多国籍企業が拠点を置いています。
金融サービスが充実しており、日本からのアクセスも良好なため、日本人にとって最も身近なタックスヘイブンの1つです。
- ケイマン諸島
カリブ海に位置するケイマン諸島は、法人税・所得税・キャピタルゲイン税がすべてゼロという極めて優遇された税制を採用しています。
特にヘッジファンドや投資ファンドの設立地として世界的に有名で、金融業界では「オフショア金融センター」として重要な役割を果たしています。
- 香港
中国の特別行政区である香港は、法人税率が16.5%と低く、海外源泉所得に対する課税がないのが特徴です。
また、キャピタルゲインに対する課税もありません。
中国本土へのゲートウェイとしての機能も果たしており、アジア太平洋地域での事業展開を考える企業にとって魅力的な立地です。
- その他の主要なタックスヘイブン
その他、英領バージン諸島(BVI)やルクセンブルク、アイルランド、バハマもタックスヘイブンの地域です。
これらの地域は、それぞれ異なる特徴と優位性を持っているため、利用目的に応じて適切な選択をしましょう。
1-3. 税務当局の監視とタックスヘイブン対策の強化
国際社会では、タックスヘイブンを利用した租税回避に対する監視と規制が大幅に強化されており、透明性の向上が図られています。
2016年に発覚した「パナマ文書」は、この流れを決定的にしました。
パナマの法律事務所から1,150万件もの機密文書が流出し、世界各国の首脳や政治家、富裕層がタックスヘイブンを使って資産の隠匿をしていたことが公表されました。
この事件を契機に、各国は対策を強化しています。
2017年から開始されたCRS(共通報告基準)により、参加国間で金融口座情報の自動交換が実現しました。
また日本でも外国子会社合算税制が改正され、ペーパーカンパニーや経済的活動基準を満たさない外国関係会社に対する合算課税の適用範囲が拡大されました。
さらに、BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトにより多国籍企業の租税回避対策も進んでいます。
これらの対策により、従来のような安易なタックスヘイブンの利用は困難となり、大きなリスクが伴うようになっています。
2. タックスヘイブンに移住したら相続税はかからない?
タックスヘイブンは税金が回避ができる、というイメージから「相続税対策になる」と考える方も多いでしょう。
- 日本の相続税は「全世界課税」が原則|国外財産も対象になる?
- 海外移住で相続税を回避できる?10年ルール・制限納税義務者について
- 国外財産調書の提出義務とペナルティ
タックスヘイブンに移住したら、相続税はかからないのか、3つのポイントをもとに解説します。
2-1. 日本の相続税は「全世界課税」が原則|国外財産も対象になる?
日本の相続税制度では「全世界課税」が原則となっており、相続人・被相続人のどちらかが日本に住所を有する場合、世界中のすべての財産が課税対象となります。
単純に海外移住をしても、相続税を完全に回避することは難しいです。
たとえば、日本に住む父親が海外の銀行預金2,000万円とアメリカの株式1,000万円を所有していた場合、これらも日本国内の財産と合わせて相続税の計算対象になります。
さらに注意しておくこととして、日本にある財産については、海外移住後も日本での課税が継続される点です。
出国時には、1億円以上の有価証券を所有していると含み益に所得税が課される「国外転出時課税制度」が適用されます。
また、不動産を現金化する際には譲渡所得税も発生します。
つまり、海外移住による相続税対策を検討する際は、出国時の所得税や将来の譲渡所得税も含めた総合的な税負担を考慮することが大切です。
安易にタックスヘイブンの地域に移住しても、期待した節税効果を得られない可能性が高いので注意しましょう。
2-2. 海外移住で相続税を回避できる?10年ルール・制限納税義務者について
海外移住による相続税回避を検討する際に、必ず理解しておかなければならないのが「10年ルール」と「制限納税義務者」の概念です。
- 10年ルール
被相続人が日本国外に移住してから10年以上経っている、または相続人が外国籍となった場合、国外財産には相続税がかからないというルールです。
すなわち、被相続人または相続人のいずれかが、相続開始前10年以内のいずれかの時において日本国内に住所を有していたことがある場合は、その相続については全世界の財産日本の相続税の課税対象となります。
- 制限納税義務者
相続が発生した時点または、その時点からさかのぼって5年以内に国内に住所がない人のことを指します。
制限納税義務者の場合、国外財産には相続税は課されません。しかし国内で保有している財産は課税対象です。
これらの要件から分かる通り、相続税を完全に回避することは極めて困難といえます。
2-3. 国外財産調書の提出義務とペナルティ
海外に財産を持つ日本の居住者には、国外財産調書の提出義務があります。
国外財産調書の提出対象者は、日本の居住者でその年の12月31日時点で、国外財産の価額の合計額が5,000万円を超える方で、その年の翌年の6月30日までに所得税の納税地を所轄する税務署に提出が必要です。
もしも国外財産調書を提出しない、または申告内容に虚偽があった場合、以下のペナルティが発生します。
- 正当な理由のない国外財産調書の不提出等に対する罰則
国外財産調書に虚偽の内容を記載する、または正当な理由なく提出期限内に提出をしなかった場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処される。
- 国外財産調書の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置
国外財産調書が提出期限内に提出されない、または提出期限内に提出されたが記載内容の不備や不足がある場合、所得税・相続税の加算税が5%加重される。
以上のように、国外財産調書は税務署での厳格な審査対象となっており、記載内容に不備があった場合は、厳しいペナルティを受ける可能性があるので注意しましょう。
3. タックスヘイブンを利用した資金移転と贈与・相続税の回避方法
タックスヘイブンを利用するにはリスクがあることが分かりました。
しかし、リスクも踏まえてタックスヘイブンを利用したいと考える方もいるでしょう。
どのようにすれば、タックスヘイブンを利用した資金移転と贈与・相続税の回避ができるのかを紹介します。
相続対策としてタックスヘイブンは、本当に有効なのかも踏まえて解説します。
3-1. 海外法人(ペーパーカンパニー)を設立して資産を移す方法
タックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立し、個人資産を移転することで相続税を回避する方法が存在しますが、規制・判定が厳しくなってきているのが現状です。
日本のタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)により、実体のない法人や資産運用が主な目的の法人については、その所得が日本の所得と合算課税される仕組みが強化されています。
近年では、CRSによる国際的な情報交換制度により、海外法人の実態や取引内容も把握されやすくなりました。
税務当局は移転価格税制も活用して、親族間の法人を介した取引を厳格にチェックしています。
このため、従来のように単純なペーパーカンパニー設立による節税スキームは、大きなリスクを伴うようになっています。
3-2. 相続対策としてのタックスヘイブン活用は本当に有効か
タックスヘイブンを利用した相続対策について、その実効性を現実的な観点から検証してみましょう。
たしかに、以下のようなケースでは、一定の節税効果が期待できます。
- 完全な海外移住:被相続人・相続人ともに10年以上の海外居住
- 外国籍への変更:日本国籍を放棄し、外国籍を取得
- 適切な法人を設立:実体のある海外事業を通じた資産管理
しかし、実際には以下の制約により、期待した効果を得ることは困難です。
たとえば、相続税回避のためとはいえ、家族全員が長期間海外に居住することや外国籍を取得することのコストと不便さは相当なものです。
また、近年の税務調査では、CRSによる情報交換制度により、海外の金融資産は税務当局に把握されやすくなっています。
また、海外法人を設立しても、維持費用や専門家への報酬・コンプライアンス費用を考慮すると、中程度の資産規模では費用対効果が見合わない場合が多いです。
以上のことから、タックスヘイブンの有効性は低い、または活用は難しいことが分かります。
4. タックスヘイブンについてよくある質問
タックスヘイブンについてよくある質問をまとめました。
- 相続前に海外移住すれば相続税はゼロになる?
- 海外資産を相続したことは税務署にバレる?
- 子どもに海外法人を持たせれば節税できる?
それぞれについて解答・解説します。
4-1. 相続前に海外移住すれば相続税はゼロになる?
相続前の海外移住によって相続税をゼロにすることは、原則として不可能です。
日本には「10年ルール」という厳格な規制があり、被相続人または相続人のいずれかが相続開始前10年以内に日本に住所を有していた場合、全世界の財産が日本の相続税の課税対象となります。
完全に相続税を回避するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 被相続人と相続人の両方が10年以上継続して海外に居住
- 相続人が日本国籍を有しない
しかし、日本で事業を営んでいる場合や家族の事情により、実務上この条件を満たすことは困難です。
また、出国時には1億円以上の有価証券に対して含み益課税が適用される「国外転出時課税制度」もあります。
税務当局は住所の認定を厳格に行っており、形式的な海外移住では否認される可能性が高いため、安易な海外移住による相続税対策は現実的ではありません。
4-2. 海外資産を相続したことは税務署にバレる?
現在の制度では、海外資産の相続についても税務署に把握される可能性は高いです。
2017年から開始されたCRS(共通報告基準)により、参加国間で金融口座情報が自動的に交換される仕組みが構築されており、海外の銀行預金や証券口座の情報が日本の税務署に提供されています。
また、100万円を超える国外送金については金融機関から税務署に調書が提出されるため、相続に伴う資金の動きも把握されやすくなっています。
税務調査では、パスポートの出入国記録、過去の確定申告書における外国税額控除の記録、関係者への反面調査なども活用して海外資産の存在が発覚するケースが多数報告されています。
隠匿リスクは格段に高まっているため、適正な申告が不可欠です。
4-3. 子どもに海外法人を持たせれば節税できる?
子どもに海外法人を持たせる節税は、税務上のさまざまな問題により期待した効果を得ることは困難です。
最も重要な問題は、外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)の適用です。
子どもが日本居住者である限り、租税負担割合が27%未満の海外法人で、実体のないペーパーカンパニーや主として資産運用を行う事実上のキャッシュボックスに該当する場合、その所得は子どもの所得に合算されて課税されます。
さらに、親から子への資産移転の過程では贈与税の問題が発生します。
海外法人株式の贈与には株式の時価相当額に贈与税が課され、海外法人への資産移転は利益供与として贈与税の対象となる可能性が高いです。
以上のことから、子どもに海外法人をもたせても節税効果は期待できません。
5. 租税回避は複雑でリスクが高いため専門家への相談がおすすめ
タックスヘイブンを利用した租税回避は、表面的には魅力的に見えますが、実際には多くの法的リスクと実務上の難しさを伴います。
タックスヘイブンを活用したい方は、実務的な負担や、法的なリスクの可能性から専門家へ相談するのがおすすめです。
相続税や所得税の専門知識を持つ税理士、国際税務や相続に詳しい弁護士など、信頼できる専門家に相談することで、個別の事情に応じた適切な対策をアドバイスしてもらえます。
租税回避を考えている方は、専門家へ相談しましょう。

監修
中村亨
日本クレアス税理士法人 代表
税理士
公認会計士
2002年8月に会計事務所として創業、2005年には税理士事務所を開業し、法人や個人のお客様の会計・税務の支援をする中で、「人事労務の問題を相談をしたい」「事業承継を検討している」といったお客様のニーズに応える形でサービスを拡大し続け、現在では社会保険労務士法人など複数の法人からなるグループ企業に成長してきました。お客様に必要なサービスをワンストップで提供できることが当社の強みです。