相続税の申告・納税は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。
相続税の申告・納税は、数ある相続手続きの中では最も長いものである一方で、書類作成などが非常に複雑です。
そこで、「相続税申告・納税期限を少し過ぎても良いのではないか」と考える方も多いのですが、この期限を過ぎることにはデメリットがあります。
本記事では、相続税の期限が過ぎてしまった場合のペナルティや特例の利用可否について解説していきます。
期限後に申告することのデメリットが知りたいという方はぜひご覧ください。
目次
1. 相続税を期限後に申告した場合の2つのデメリット
相続税の申告期限後に申告を行なった場合には主に下記2つのデメリットがあります。
<期限後申告のデメリット>
|
それぞれの内容を簡単に解説します。
1-1. 加算税や延滞税などのペナルティ
まず、期限内に申告納税ができなかった場合には、税金の滞納となりペナルティがあります。
相続税に限らず、税金の申告・納税期限を過ぎてしまうと、ペナルティとして加算税・延滞税という、税金を上乗せする制度があります。
また、ケースによっては刑事罰を課される可能性もありますので注意しましょう。
1-2. 配偶者控除や小規模宅地等の特例などが利用できない
相続税の申告・納税期限を過ぎてしまうと、配偶者控除や小規模宅地等の特例などが利用できません。
相続税には、相続人の負担を考慮し、特定のケースにおいて相続税を優遇するための制度を設けていることがあります。
しかし期限内に申告をしなかった場合には、これらの制度が利用できなくなりますので注意しましょう。
2. 期限後申告によって課されてしまう税金
期限後に申告することでペナルティとして課されてしまう税金は、どのようなものがあるのでしょうか。
<追徴課税区分>
|
それぞれどのようなケースにおいて、どのくらいの割合で課税されてしまうのか解説します。
2-1. 無申告加算税
相続税を期限内に申告しなかった場合に課されるのが無申告加算税です。
無申告加算税は、次の区分によって課税されます。
申告区分 | 追徴課税 |
---|---|
申告期限から1ヶ月以内に自主申告して納税 | 無申告加算税なし |
自主申告して納税 | 納付する税金の5% |
税務調査の結果申告する | 納付する税金の額の15% |
税務調査の結果申告する場合で50万円を超える部分 | 納付する税金の額の20% |
自主申告をするか、税務調査を受けるかによって割合が大きく変わるので、遅れた場合でも必ず自主申告をするのが重要だといえるでしょう。
2-2. 延滞税
相続税の納税を延滞している場合に課されるのが延滞税です。
仮に申告をしても納税が遅れれば延滞税は課税され、申告もしていない場合には加算税と一緒に課税されてしまいます。
延滞税は納期限の翌日から2ヶ月は7.3%、2ヶ月を過ぎたものは14.6%となっていますが、現在は特例で下記の税率となっています。
期間 | 2ヶ月以内 | 2ヶ月を過ぎた |
---|---|---|
令和3年1月1日~令和3年12月31日 | 2.5% | 8.8% |
令和4年1月1日~令和4年12月31日 | 2.4% | 8.7% |
令和5年1月1日~令和4年12月31日 | 2.4% | 8.7% |
2ヶ月を境に、税率がおよそ4倍にも跳ね上がるため、もし遅れてしまった場合でも必ず2ヶ月以内には納税できるようにしましょう。
2-3. 重加算税
相続税申告を意図的に行なっていないような悪質な事例では、無申告加算税ではなく重加算税が課されます。
申告区分 | 税率 |
---|---|
過少申告 | 35% |
無申告 | 40% |
より悪質な無申告の場合には、重加算税の税率は40%と非常に重くなっているので、絶対に避けるべきといえるでしょう。
3. 期限後の申告によって利用できなくなってしまう控除・特例
次に、相続税の申告期限を過ぎることによって、利用できなくなってしまう控除や特例について確認しておきましょう。
<相続税申告が期限後になってしまうことで、利用できなくなる控除や特例>
|
とくに適用されることが多い、配偶者控除と小規模宅地等の特例について詳しく見てみましょう。
3-1. 配偶者控除(配偶者の税額軽減)
相続税の申告期限を過ぎてしまうと、配偶者控除の利用ができなくなる可能性があります。
相続財産となるものは、配偶者とともに築き上げてきた財産といえることや配偶者の生活保障
といった観点から、相続人が配偶者である場合には、相続税では配偶者に優遇措置を与えています。
配偶者控除が適用される場合には、法定相続分もしくは1億6千万円まで控除がされ、非常に多くのケースで配偶者に相続税がかからないような配慮がされています。
この配偶者控除は、基本的には相続税の期限内に申告しなければ適用できなくなりますので注意しましょう。
3-2. 小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、居住等に使っている土地についての評価額を最大80%減額できる制度です。
居住に適している宅地は価値が高いことが多く、保有していると相続税の課税対象になることが多い一方で、住居を確保する必要もあります。
そのため、相続税が過大にかからないように配慮されているのが、小規模宅地等の特例です。
小規模宅地等の特例を利用するためには、相続税の申告を期限内に行う必要があり、期限を過ぎてしまう場合にはこの特例は使えないのが原則のため注意しましょう。
3-3. 期限後申告の特則によって利用できる場合もある!
これらの控除制度は、基本的には相続税の申告期限内に申告した場合に適用されるものです。
しかし、これらの制度を利用しないで相続税申告をした後に、更正の請求という手続きをとることで、期限後にこれらの特例を利用する方法があります(ケースに応じてどのように行うか後述します)。
あきらめずに、期限内の相続税申告をするようにしましょう。
4.期限内の相続税申告が間に合わなくなるケース
そもそも期限内の相続税申告が間に合わなくなるケースには、どのようなものがあるのでしょうか。
<申告期限が間に合わないケース>
|
それぞれの場合について、どのような対策があるのかみていきましょう。
4-1. 遺産分割協議が間に合わない場合
相続税の申告が期限に間に合わないケースとして、遺産分割協議が間に合わない場合があります。
相続税の申告期限は10ヶ月と相続に関する期間では長期にわたるのですが、遺産分割協議が紛糾し、遺産分割調停・審判と進んでしまった場合、10ヶ月以内に遺産分割ができなくなる可能性が非常に高いです。
遺産分割が間に合っていないからといって、相続税申告の10ヶ月の期間制限を待ってもらえるわけではありません。
この場合には、一度法定相続分に従って控除・特例を利用せずに申告し、後に遺産分割が成立した段階で更正の請求という手続きを経ることで、控除・特例を後から適用できます。
これによって、控除・特例を適用してやり直した結果、一度納めた相続税を返してもらうことが可能となります。
4-2. 財産評価が間に合わない場合
2つ目のケースとして、財産評価が間に合わない場合があります。
相続財産を申告をする際には、決められたルール(財産評価基本通達)に従って財産を評価をする必要があります。
たとえば、土地がいくらなのかを計算をするにあたっては、路線価方式・倍率方式という計算式に従って評価を行うことになります。
これらは非常に複雑であり、時間がかかることがあるのですが、財産評価が間に合わないからといって、相続税の申告期間が伸びるわけではありません。
この場合には、財産評価を概算で行って、後に正確な評価が出てから、同じように更正の請求をします。
この場合に注意が必要なのが、財産評価の概算は多めに見積もることです。
少なく申告した場合には、財産を少なく見積もって相続税の支払いを逃れようとしたとして、過少申告加算税と延滞税の対象となる場合があります。
4-3. 単純に申告期限を過ぎてしまった場合
相続税申告が間に合わないケースとして、単純に申告期限を過ぎてしまう場合もあるでしょう。
この場合取れる対処法としては、税務調査が入る前に自主申告をして、無申告加算税を軽くする、重加算税を課されないようにすることしかないです。
少しのペナルティは覚悟のうえで、迅速かつ正確に申告を行いましょう。
5. 相続税の期限後申告についてよくある質問
相続税の期限後申告についてよくある質問としては次のようなものがあります。
<よくある質問>
|
それぞれ疑問を解消して、実際の相続の際にお役立てください。
5-1. 申告期限は延長できる?
申告期限は延長できるのでしょうか。
原則として申告期限は、次の事情が無い限りは、延長ができません。
|
これらの場合には2ヶ月の延長が認められます。
なお、最近ではコロナウイルス感染症との関係で自然災害に類するものとして、延長が認められました。
それ以外の事由では、基本的に延長は認められないので注意しましょう。
5-2. 申告期限後3年以内の分割見込書とは?
申告期限後3年以内の分割見込書とは、申告期限までに遺産分割ができない場合に提出するもので、どうして遺産分割ができていないのか、分割の見込みについて記載する書類です。
書面のフォーマットは、国税庁のホームページで公開されているので、ダウンロードして印刷して提出することができます。
この書類を提出しておくことで、分割が完了した後からでも特例の適用などが可能になるため、間に合わない場合には必ず提出しましょう。
5-3. 申告期限に間に合わせるコツはある?
申告期限に間に合わせるコツは、10ヶ月の期間制限を長いものと思わず、なるべく早く手続きに着手することでしょう。
たとえば、慣例として四十九日法要までは遺産分割の話をしないとすることが多いです。
この場合でも、遺産に関する情報を早めに集める、相続人の確定作業を早めに始めるなどすることで、遺産分割がスムーズにいきます。
また、手続きに不安がある場合には、税理士に依頼することも検討すべきです。
とくに、期限が迫ると税理士費用が加算されることがあるので、早めの相談を検討しましょう。
また、自分の相続で申告期限が心配なのであれば、遺言を遺しておきましょう。
申告期限に間に合わない原因の大きなものが、遺産分割の合意ができずに調停・審判に発展してしまうことです。
遺言をしておけば、遺産分割ができなくなることはありません。
また、いろんな種類の遺産がある場合、調査の負担を少なくするために、不要な遺産を整理してしまうことも検討しましょう(例:使っていない銀行口座を統合するなど)。
6. まとめ
ここまで、相続税の申告期限後に相続税申告をするデメリットなどを中心にお伝えしました。
相続税には10ヶ月の申告期限があり、これを過ぎてしまうと無申告加算税・重加算税・延滞税などのペナルティが課され、相続税が有利になる控除・特例の制度が使えなくなります。
なるべく間に合うように申告することはもちろん、間に合わない場合でも税務調査が来る前に申告するようにしましょう。
また、手続きが進まない場合には税理士などの専門家の力も借りることがおすすめです。
このコラムは「日本クレアス税理士法人」が公開しております。
東京本社
〒100-6033東京都千代田区霞が関3丁目2番5号 霞が関ビルディング33階
電話:03-3593-3243(個別相談予約窓口)
FAX:03-3593-3246
※コラムの情報は公開時のものです。最新の情報は個別相談でお問合せください