相続税の障害者控除は、障害を持つ人の相続税を軽減するために設けられている特例です。障害者控除は、障害を持つ方が相続によって財産を取得した際に適用できる可能性があります。
しかし障害を持っているからといって、必ず特例が適用できるわけではありません。
本記事では障害者控除の適用要件や計算方法について解説します。相続税の障害者控除について詳しく知りたい方はぜひご覧ください。
目次
1.障害者控除とは
障害者控除は相続人が障害を持っている場合に適用でき、その人の相続税額を一定額減額できる特例です。障害を持つ人の相続後の経済的負担を軽減することを目的として定められており、相続時の年齢や障害の度合いによって減額できる金額が異なります。
具体的には下記の計算式を用いて控除額を求めていきます。
一般障害者
(85歳-相続開始時の年齢)× 10万円 = 控除額
特別障害者
(85歳-相続開始時の年齢)× 20万円 = 控除額
障害者控除は自動的に適用されるわけではないため、自分で計算して税務署に申告する必要があります。
その際には、相続税申告書の「未成年者控除額・障害者控除額の計算書」に計算内容を記載したうえで、障害者手帳などと共に申告します。
過去の相続において障害者控除を利用している場合には、控除枠が減額される可能性もありますので専門家などに相談するといいでしょう。
1-1.平成27年に控除額が拡大されている
障害者控除は平成27年に控除額が拡大されており、以前に比べ控除できる金額が大きくなりました。
平成27年の改訂による変化
一般障害者
(85歳-相続開始時の年齢)× 6万円 →**(85歳-相続開始時の年齢)× 10万円**
特別障害者
(85歳-相続開始時の年齢)× 12万円 →**(85歳-相続開始時の年齢)× 20万円**
障害者控除を利用することで、大幅に相続税が減額できる可能性がありますので、要件を満たす場合には必ず利用しましょう。
1-2.相続人かつ扶養義務者の相続税も控除できる
障害者控除はほかの特例とは異なり、相続した本人だけでなく扶養義務者の相続税も控除ができる可能性があります。
具体的には下記3つの条件を満たす場合に、扶養義務者の相続税も控除できます。
- 本人の相続税を控除したうえで、控除枠が余っていること
- 扶養義務者(自分だけでは生活できない親族に経済的な援助を行う義務を負っているもの)であること
- 扶養義務者も相続人であること
例 本人の相続税額:100万円 扶養義務者の相続税額:300万円 相続税控除による控除枠:150万円 |
この場合には「150万円 - 100万円」で50万円の控除枠が余るため、扶養義務者の300万円から50万円を控除可能です。
障害を持つ本人だけでなく、その扶養義務者に対する経済的負担も減らすという目的からこのような仕組みが設けられています。
2.障害者控除の適用要件
相続や遺贈で財産を取得したときに、下記3つの要件を満たすことができれば障害者控除が適用できます。
- 相続や遺贈で財産を取得した時に日本国内に住所がある人
- 相続や遺贈で財産を取得した時に障害者である人
- 相続や遺贈で財産を取得した法定相続人であること(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)
どれか1つだけでなく、すべての要件を満たす必要がありますので注意しましょう。
2-1.一般障害者と特別障害者の定義
障害者控除は障害の度合いによって、控除枠の大きさが変化します。
では一般障害者と特別障害者はどのように定義されているのでしょうか。
以下に当てはまる方は一般障害者の対象となります。
- 身体障害者3~6級の認定を受けている
- 精神障害者保健福祉手帳2~3級を持っている
- 療育(愛護)手帳3~4度(B・C)である
- 戦傷者手帳第4~第6項症該当者である
また、国税庁では特別障害者は以下のように定義されています。
引用元:国税庁「特別障害者」 |
一般障害者と特別障害者では「年齢×10万円分」控除枠が違いますので、正しい申告をするためにもどちらに当てはまるのかしっかりと判断しましょう。
2-2.障害者手帳または医師の診断書が必要
相続税の障害者控除を受ける際には、相続税の申告書とともに証明書類として、障害者手帳のコピーを添付する必要があります。
障害者控除を受けるためには、財産の取得時に障害者であることが要件ですが、障害者手帳を申請中で手元にはないという場合もあるでしょう。
そういった場合には、医師の診断書を証明書類として提出することで認められる場合があります。
ただ、障害者手帳の方が確実なため、障害が認められる場合にはいち早く障害者手帳の申請を進めましょう。
3.障害者控除の計算方法【事例で解説】
実際の事例を用いて障害者控除の計算方法を解説します。
例
- 母親からの相続(父親はすでに他界している)
- 相続第1順位である子(長男・長女)が相続
- 特別障害者である長男(50歳2ヶ月)扶養義務者である長女(42歳6ヶ月)
- 相続税額はそれぞれ下記の通り 長男:500万円 長女:400万円
今回の場合には長男が一般障害者であるため、控除額は下記の計算式で求められます。
(85-50)× 20万円 = 700万円
なお、相続時の年齢を当てはめる際には満年齢で考えます。(50歳2ヶ月の場合→満50歳)
カウント方法を間違えるとズレが生じてしまいますので注意しましょう。
まず長男の相続税500万円に対して、控除枠の700万円を適用します。
「700万円 - 500万円 =200万円」
この場合控除枠の方が大きいため、障害者控除を利用することで長男には相続税が発生しません。
また、長男の相続税を控除したうえで200万円分の控除枠が余っているため、同じ相続人かつ扶養義務者である長女の相続税からも控除できます。
「400万円 - 200万円 = 200万円」
障害者控除を適用することで、長女は本来400万円だった相続税額を200万円に減額できました。
このように障害者控除は年齢や障害の度合いによっては、かなりの相続税を控除できますので積極的に利用しましょう。
4.障害者控除で相続税を減額しよう!
ここまで障害者控除について適用要件や計算方法を解説しました。
障害者控除は、相続人が障害を持っている場合に利用可能性がありますが、利用には自己申告が必要になるため注意しましょう。
利用にあたって不安がある場合には、相続税の専門家である税理士への相談がおすすめです。
また相続税には、法定相続人の数によって額が決まり誰でも利用できる基礎控除をはじめ、様々な控除の特例があります。
本コラムのカテゴリー「相続税の控除と特例」では相続税の基礎控除の他に、配偶者控除(配偶者の税額軽減)特例、未成年者控除、障害者控除、災害を受けたときの相続税の軽減など様々な控除や特例を計算式つきでご紹介しています。
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