株式を相続した場合、その株式の相続税評価額は、相続税の対象になります。評価方法は、その株式が下記のいずれに該当するかで区別されます。
- 上場株式
- 気配相場等のある株式
- 取引相場のない株式
このコラムでは取引相場のない株式、つまり非上場の株式の相続における評価額の算出方法について解説します。
目次 |
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1.相続する株式の評価方法 |
1.相続する株式の評価方法
1-1.上場株式の場合
上場株式とは、証券取引所に上場している株式をいいます。
証券取引所は、東京、札幌、名古屋、福岡証券取引所のいずれかでも構いません。
上場株式の評価は、証券取引所での取引価格を使用します。
1-2.気配相場等のある株式の場合
日本証券業協会の登録銘柄や店頭管理銘柄のほか、公開途上にある株式をいいます。
登録銘柄や店頭管理銘柄の評価には、その取引価格を使用し、公開途上にある株式の評価には、その公開価格を使用します。
1-3.取引相場のない株式の場合
取引相場のない株式とは、上記のいずれにも該当しない非上場の株式です。
市場価格がないことから、独自の方法での評価が必要で、この評価方法が今回のテーマとなります。
取引相場のない株式の評価方法は、その株式を相続する株主の経営支配力や会社の規模によって評価方式が変わります。
2.非上場株とは
非上場株式とは、証券取引所等に上場していない株式のことで、上場株式、登録銘柄、店頭管理銘柄、公開途上にある株式のいずれにも該当しない株式を指します。
非上場株式の評価方法は、まず、株式を相続した個人が、その会社に対する経営支配力のある株主かどうかによって変わります。
2-1.経営的支配力をもつ株主とは
非上場会社には「同族会社」といって、経営者一族が会社のほとんどの議決権を保有する会社が多く存在します。
経営支配力をもつ株主とは、多くの株式を保有する株主や、同族関係(親族のほか内縁、生計維持関係なども含む)のある株主同士で一定割合以上の株式を保有する場合の各株主などを指します。
経営支配力をもつ株主は、会社の経営を目的として株式を保有していると考えられることに対し、それ以外の株主は、配当金の取得などを目的に株式を保有していると考えられます。
この違いから、非上場株式の評価方法は、下記に分かれます。
■経営支配力をもつ株主・・・「原則的評価方式」 ■それ以外の株主・・・「配当還元方式」(特例的評価方式) |
したがって、非上場株式の評価方法は、株主ごとに判定が必要です。
2-2.評価方法の判定
各株主の評価方法が「原則的評価方式」か「配当還元方式」になるかの判定は、その会社が「同族株主のいる会社」と「同族株主のいない会社」で判定の手順が異なります。
ここでいう「同族株主」とは、議決権を30%以上もつ同族株主(株主の1人とその株主と同族関係にある株主のグループ。以下、「同族株主グループ」)を指します。
ただし、50%を超える同族株主グループがいる場合は、50%を超える同族株主グループが、「同族株主」となります。
以下に具体例を挙げながら、判定の手順をご紹介します。
【例:同族株主(同族株主グループ)のいる会社】
議決権の異なる株主A~Eについて、実際にそれぞれの評価方法を判定してみましょう。
(例)A:40%、B:25%、C:15%、D:4%、E:16%
-A、B、C、Dは同族株主グループ
-Dは役員ではない
■ステップ1(同族株主かどうかを判定)
・同族株主に該当する株主 →ステップ2へ
・それ以外の株主 →「配当還元方式」
⇒ステップ1の判定
*A~Dは次のステップへ進みます。
*Eは「配当還元方式」となります。
■ステップ2(中心的な同族株主の判定)
「同族株主」の中に、「中心的な同族株主」(議決権の25%以上をもつ、同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族)がいる場合
・中心的な同族株主 →「原則的評価方法」
・それ以外の株主 →ステップ3へ
・「中心的な同族株主」がいない →同族株主は全員、「原則的評価方式」
⇒ステップ2の判定
*AとBは中心的な同族株主なので「原則的評価方法」となります。
*CとDはステップ3に進みます。
【例:同族株主(同族株主グループ)のいない会社】
次の株主A~Fについて、実際にそれぞれの評価方法を判定してみましょう。
(例)A:25%、B:25%、C:25%、D:12%、E:9%、F:4%
-同族株主グループなし
-Fは役員ではない
■ステップ1(議決権の判定)
議決権15%以上の同族株主グループが
・いる → 全員次へ
・いない → 全員「配当還元方式」
⇒ステップ1の判定
*A、B、Cがそれぞれ 15%以上の議決権をもっているため、全員次のステップに進みます。
■ステップ2(中心的な株主の判定)
「中心的な株主」(15%以上の同族株主グループのうち、単独で10%以上の議決権をもつ株主のこと)がいる場合
・中心的な株主→「原則的評価方式」
・それ以外 →単独で5%以上「原則的評価方式」
→単独で5%未満 役員「原則的評価方式」・役員以外「配当還元方式」
⇒ステップ2の判定
*「中心的な株主」に該当するA、B、Cは、「原則的評価方式」となります。
*D、Eも、単独で5%以上の議決権をもつため「原則的評価方式」です。
*Fは5%未満で、かつ役員ではないため「配当還元方式」となります。
ここでいう「中心的な株主」は、「同族株主のいる会社」における「中心的な同族株主」の要件が異なる点に注意しましょう。
3.非上場株の原則的評価方法
非上場株式を相続した非上場株主の評価方法は、その株主や同族関係者の経営的支配力によって、原則的評価方式と配当還元方式の2つがあることは前項で解説しました。
しかし非上場会社といっても、その会社の資産や従業員数などには、かなり差があります。中には、上場してもおかしくない大規模な会社もあります。
そこで、原則的評価方式による評価を受ける株式は、評価会社を大会社、中会社、小会社に分類し、次のように評価方式が分かれます。
経営支配力のある株主 | 少数の株主 |
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原則的評価方式 ・大会社・・・類似業種比準価額方式 ・中会社・・・併用方式 ・小会社・・・純資産価額方式 |
配当還元方式 (配当還元価額または原則的評価方式による価額) |
なお、配当還元方式では、「配当還元価額」が原則的評価方式による評価額を超える場合、その評価額は、原則的評価方式による評価額となります。
つまり、経営支配力のある株主もそれ以外の株主も、いずれにせよ原則的評価方式での計算が必要になるということです。
それでは、原則的評価方式の
・類似業種比準価額方式
・併用方式
・純資産価額方式
と、配当還元方式の計算方法を見ていきましょう。
3-1.類似業種比準価額方式とは
類似業種比準価額方式は、大会社の原則的評価方式による評価額の計算方法です。 大会社とは、非上場会社の中でも上場できるほどの大きな規模をもつ会社のことで、その株式の評価は、上場会社の中から類似する会社の平均株価を参考に評価するものとされました。
このとき使用するのが、類似する会社から計算した「類似業種比準価額」です。
■類似業種比準価額の計算式
A ×( b /B + c /C + d /D )÷ 3×0.7・・・①
①×評価会社の1株あたりの資本金等の額÷50円=類似業種比準価額
A・・・類似業種の株価(前3ヶ月のうち最も低いもの)
b・・・評価会社の1株あたりの配当金額
c・・・評価会社の1株あたりの利益金額
d・・・評価会社の1株あたりの純資産価額
B・・・類似業種の1株あたりの配当金額
C・・・類似業種の1株あたりの利益金額
D・・・類似業種の1株あたりの純資産価額
類似業種の株価に、類似業種に対する評価会社の配当金、利益、純資産の平均割合を乗じ、それを大会社は0.7倍するというものです。この0.7倍は、中会社、小会社の評価で類似業種比準価額を使用する場合、変わります。
さらにこの額を、評価会社の1株あたりの資本金の額の50円に対する倍数を乗じて計算したものが、「類似業種比準価額」となります。
類似業種に関する各価額は、国税庁のHPで最新のものを確認できます。 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hyoka/r01/1906/index.htm
なお、大会社の類似業種比準価額方式では、類似業種比準価額か純資産価額のいずれか低い方を評価額とすることができます。純資産価額は、後述の「純資産価額方式」をご覧ください。
3-2.併用方式とは
併用方式とは、大会社の「類似業種比準価額方式」と小会社の「純資産価額方式」を併用する方式です。
どちらの価額に比重を置くかは、業種や事業規模ごとに設定された「L」の割合で決まります。
■計算式
類似業種比準価額×L+純資産価額×(1-L)
3-3.純資産価額方式とは
純資産価額は、純資産の額を発行済み株式数で割って計算します。
■計算式
(総資産価額-負債の額-法人税等)/純資産の額を発行済み株式数
注意点は、計算に使用する総資産や負債の額が、帳簿価額ではなく「相続税評価額」であることです。また、相続税評価額と帳簿価額の差額に生じる法人税等の額を、純資産の額から控除することも必要になります。
また、株式の取得者とその同族関係者の議決権割合が50%以下の場合は、純資産価額を80%で評価します。ただし、この80%での評価は、大会社や中会社の評価で「純資産価額」を使用する際には適用しません。
3-4.配当還元方式(原則的評価方式以外の評価方式)
配当還元方式とは、同族株主でない少数の株主が取得した株式の評価方法です。原則的評価方式に対し、特例的評価方式ともいいます。
配当還元方式では、年間の配当金等から計算した「配当還元価額」で株式を評価します。
■配当還元価額の計算式
その株式に係る年配当金額/10% × その株式の1株あたりの資本金等の額 /50円
ただし、上記の「配当還元価額」よりも「原則的評価方式による評価額」の方が低い場合は、「原則的評価方式による評価額」が配当還元方式による評価額となります。
4.どの評価方法を用いて計算を行うべきか?
原則的評価方式の評価額を分ける会社の規模は、評価会社の業種、従業員の数、総資産価額、直前期末以前1年間における取引額を基に、次のように判断します。
従業員数・業種 | 総資産価額(帳簿価額によって計算した金額)及び従業員数 | 直前期末以前1年間における取引金額 | ||
---|---|---|---|---|
大会社 | 従業員数が70人以上の会社又は右のいずれかに該当する会社 | 卸売業 | 20億円以上 (従業員数が35人以下の会社を除く) |
30億円以上 |
小売・サービス業 | 15億円以上 (従業員数が35人以下の会社を除く) |
20億円以上 | ||
卸売業、小売・サービス業以外 | 15億円以上 (従業員数が35人以下の会社を除く) |
15億円以上 | ||
中会社 | 従業員数が70人未満の会社で右のいずれかに該当する会社(大会社に該当する場合を除く) | 卸売業 | 7,000万円以上 (従業員数が5人以下の会社を除く) |
2億円以上 |
小売・サービス業 | 4,000万円以上 (従業員数が5人以下の会社を除く) |
6,000万円以上20億円未満 | ||
卸売業、小売・サービス業以外 | 5,000万円以上 (従業員数が5人以下の会社を除く) |
8,000万円以上15億円未満 | ||
小会社 | 従業員数が70人未満の会社で右のいずれにも該当する会社 | 卸売業 | 7,000万円未満 又は従業員数が5人以下 |
2億円未満 |
小売・サービス業 | 4,000万円未満 又は従業員数が5人以下 |
6,000万円未満 | ||
卸売業、小売・サービス業以外 | 5,000万円未満 又は従業員数が5人以下 |
8,000万円未満 |
それでは、大会社、中会社、小会社の具体的な判定方法を確認しましょう。
【例】卸売業(従業員数:70人、総資産:5億円、前1年間の取引額:10億円)の場合
→判定:大会社
従業員数が70人以上なので、大会社となります。
仮に70人未満であっても、従業員数、総資産、前1年間の取引額のいずれか1つでも大会社の要件に該当すれば、大会社に判定されます。
したがって、この会社の経営支配力のある株主が相続した株式は、類似業種比準価額方式で評価します。
【例】卸売業(従業員数:8人、総資産:5,000万円、前1年間の取引額:1億円)の場合
→判定:小会社
従業員数が70人未満で、総資産、前1年間の取引額のいずれも小会社の要件に合致している場合は、小会社に判定されます。
したがって経営支配力のある株主が相続した株式は、純資産価額方式で評価します。
【例】小売・サービス業(従業員数:30人、総資産5,000万円、前1年間の取引額:5, 000万円)の場合
→判定:中会社
従業員数が70人未満で、総資産、前1年間の取引額のいずれか1つでも中会社の要件に合致していれば、中会社に判定されます。(大会社の要件に該当すれば、大会社)
したがってこの会社の経営支配力のある株主が相続した株式は、併用方式で評価します。
【例】小売・サービス業以外(従業員数:5人、総資産1億円、前1年間の取引額:6,000万円)の場合
→判定:小会社
総資産の額が5,000万円以上なので中会社の要件を満たしていますが、従業員数が5人以下であるため、総資産の要件は適用されません。他の要件も中会社の要件を満たさないため、小会社になります。
したがって経営支配力のある株主が相続した株式は、純資産価額方式で評価します。
5.非上場株の相続税対策
非上場株式は、その評価額がそのまま相続財産の課税価格となります。したがって評価額が上がれば、それだけ多くの相続税の納税が必要です。
ここでは、非上場株式の相続税対策をご紹介します。
5-1.評価額を引き下げる
非上場株式の評価額は、類似業種比準価額や純資産額の減少によって下がります。
類似業種比準価額は、評価会社の配当金、利益、純資産(帳簿価額)を下げることで減少させることが可能です。
特に配当金の引き下げは、配当還元方式による評価額の引き下げにもなります。
また、純資産額評価方式等で使用する純資産額(相続税評価額)を下げる場合は、相続税評価による資産を減少させる方法があります。
5-2.事業承継税制を活用する
会社の後継者が相続する株式については、事業承継税制を活用することができます。
都道府県の認定や税務署への手続きなどが必要ですが、適用できれば、非上場株式の評価額に相当する相続税や贈与税が猶予され、要件を満たせば、最終的に納税が免除されます。
ただし、適用には細かい要件や手順が設定されているため、事業承継税制の適用を検討する場合には専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
6.まとめ
非上場株式の評価額の計算は非常に複雑です。
その上、会社規模の判定や各計算に使用する数字の算定には、まだまだ細かいルールが存在します。これらをすべて把握しなければ、正確な判定や計算ができません。
また、非上場株式の相続税対策は、理論上は配当金、利益、純資産の引き下げ等が考えられますが、その会社にとってベストな方法を選択することが重要です。
非上場株式の評価や相続税対策は、相続や事業承継の経験がある税理士にご相談ください。
日本クレアス税理士法人
執行役員 税理士 中川義敬
2007年 税理士登録(近畿税理士会)、2009年に日本クレアス税理士法人入社。東証一部上場企業から中小企業・医院の税務相談、税務申告対応、医院開業コンサルティング、組織再編コンサルティング、相続・事業承継コンサルティング、経理アウトソーシング決算早期化等に従事。事業承継・相続対策などのご相談に関しては、個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業承継」、「争続にならない相続」のアドバイスを行う税理士として定評がある。(プロフィールページ)
・執筆実績:「預貯金債券の仮払い制度」「贈与税の配偶者控除の改正」等
・セミナー実績:「クリニックの為の医院経営セミナー~クリニックの相続税・事業承継対策・承継で発生する税務のポイント」「事業承継対策セミナー~事業承継に必要な自己株式対策とは~」等多数
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