相続における現物分割が気になっているけれど、詳しい内容がわからないとお困りではありませんか。
現物分割をすると、形ある財産を相続人それぞれに分配できます。
ただし、一点注意したいデメリットもあるので、内容やメリットとともに把握することが大切です。
そこでこの記事では、現物分割とは何かをわかりやすく解説します。
メリットやデメリット、相続で利用されるケースも紹介するので、形ある財産の相続にお悩みの方はぜひ参考にしてください。
1. 現物分割とは|シンプルな手続きで相続財産を分けられる!
現物分割とは、故人が遺した形ある財産をそのまま分配する方法です。
財産と聞くと現金を思い浮かべる人も多いでしょう。
しかし、なかには建物や土地、車などの形ある財産を遺して亡くなる方もいます。
不動産や車は財産となるので、相続人に引き継がれます。
しかし、形ある財産をどのように分配すればいいのか迷ってしまう方もいるでしょう。
形ある財産を相続人別に分配する方法は以下の通りです。
- 現物分割:形ある財産をそのまま分配する
- 代償分割:財産を受け取る代わりに、ほかの相続人に相応のお金を渡す
- 換価分割:財産を売却し、相続人間で売却益を分ける
代償分割は、財産を受け取る代わりに、相応のお金をほかの相続人に渡す方法です。
たとえば、故人の財産が2,000万円の土地のみだったとします。
法定相続人が2人の子どものみで、1人が土地を相続した場合、もう1人は何も相続できずに損してしまうでしょう。
そこで、土地を受け取った人が法定相続分に則って相応のお金を渡すことで、平等に遺産を分配することが可能です。
法定相続人が子ども2人のみであれば、相続財産は半分ずつになるため、土地を受け取った人がもう一方に1,000万円を渡すことになります。
換価分割とは、形ある財産を売却し、得た利益を法定相続分に則って分配する方法です。
利益を相続人別に分配できるため、相続人間で不満が起きにくい方法だといえます。
形ある財産をそのまま受け継ぎたい方には、現物分割がおすすめです。
売却せず、そのまま受け取れる方法を選べば、故人の財産を相続人が活用できます。
2. 相続で現物分割を利用する2つのメリット
相続で現物分割を利用すると、不動産や土地などをそのまま受け取れるメリットを得られます。
このほかにも魅力があるため、ここで見ていきましょう。
2-1. 相続手続きがシンプルになる
現物分割は形ある財産をそのまま受け継ぐので、手続きがシンプルです。
相続人は、受け継いだものの登記変更や名義変更を行うだけで済みます。
代償分割で多額の現金を用意することも、換価分割で財産を売却する手間もないため、手続きを簡略化可能です。
また、不動産を共同で相続する場合に比べても、現物分割はシンプルだといえます。
複数人の共有名義で不動産を相続することも可能ですが、自身の持分しか自由に扱えない・固定資産税の支払いで揉めるなどのトラブルが起こる恐れがあります。
現物分割は1人が1つの財産を受け継ぐため、共有名義によるトラブルも避けられるでしょう。
2-2. 評価を巡ってトラブルが起こりづらい
1人1人が形ある財産を受け継げば、評価額に関するトラブルを避けられます。
たとえば、代償分割を行う際は評価額に応じた金額をほかの相続人に支払わなければなりません。
相続する人は評価額を下げたい、相続しない人は評価額を上げたいという風に、それぞれの思惑が異なります。
評価額が高すぎても、低すぎてもどちらかが不満を持つ可能性が高くなるでしょう。
現物分割は評価額を気にせず分配するので、トラブルのリスクを抑えられます。
相続人が希望する財産を受け取れば円満に手続きを進められるため、揉めることなく遺産分割を終えられるでしょう。
3. 現物分割の利用時に注意が必要な3つのデメリット
現物分割を選ぶにあたって、気を付けておきたい3つの注意点があります。
後々トラブルが起こる恐れもあるため、ここで紹介するデメリットを核にしておきましょう。
3-1. 不公平な分配になりやすい
現物分割は、内容によっては不公平な分配となり、相続人同士のトラブルにつながります。
故人が遺す財産は、人によってさまざまです。
建物や土地などの不動産・車・株式・現金などの種類があり、相続人が希望する財産も異なるでしょう。
なかでも特に高額の財産である不動産は、多くの相続人が希望します。
しかし、現物分割は共有名義で相続するものではないため、1人しか引き継げません。
長男が5,000万円の土地を相続し、次男が500万円の車を相続したとなれば、不公平な分配となるでしょう。
財産は物によって価値が変わります。
1人1人が希望する財産を受け取れても、評価額の違いによって後々トラブルになる恐れもあると考えておきましょう。
3-2. 分筆できない土地も多い
土地によっては分筆ができないので、現物分割が難しくなります。
分筆とは、1つの土地を複数に分け、それぞれに所有者をあてる方法です。
共有名義と異なり、1人が1つの土地の所有者となるため、自身が持つ土地は自由に活用できます。
ただし、土地によっては分筆ができないので、相続人間で揉めてしまうかもしれません。
分筆できない理由として挙げられるのが、隣の土地との筆界がわからないことです。
筆界とは、自身の土地と隣の土地の境界を定める線のことで、登記事項証明書から確認できます。
しかし、証明書によっては所有する土地の筆界が記載されていません。
筆界が記載されていなければどの範囲まで分割できるかがわからないので、分筆による現物分割もできなくなります。
筆界を定めれば分筆ができるものの、以下の理由から筆界を定められません。
- 隣の土地の所有者から境界立会いを拒否される
- 隣の土地の所有者が海外に住んでいる
- 隣の土地の所有者が行方不明
- 隣の土地の所有者が存在しない企業である
上記のいずれかに当てはまる場合は、筆界を定めることが難しいといえます。
複数人が平等に土地を手に入れることもできなくなるので、別の方法で相続しなければなりません。
3-3. 分筆によって土地の評価が下がる可能性がある
複数人が土地を相続するために分筆をした場合、評価額が下がる恐れもあります。
土地を分筆すると、道路との接道状況が変わります。
評価額は面する道路によっても左右するため、場所によっては評価額が下がってしまうでしょう。
評価額が下がることによってトラブルが起こる恐れもあるので、売却を検討する方は現物分割をする前に分筆後の評価額を確認することがおすすめです。
評価額を算出したうえでどのように分配するかを話し合えば、後々のトラブルを防げるでしょう。
4. 現物分割が利用しやすいケース
現物分割に限らず、財産を分配する際は相続人全員が納得できる方法をとらなければなりません。
ここでは、現物分割で遺産を分配しやすいケースを紹介します。
4-1. 相続人全員が現物分割に納得している
相続人全員が現物分割に納得していれば、遺産分割協議もスムーズに進むでしょう。
相続人によって希望する財産は異なり、現金が欲しい人もいれば、不動産や車をそのまま引き継ぎたいという人もいるでしょう。
まずは遺産分割協議で全員の意見を聞き、現物分割に納得してくれるかを確認しましょう。
長男は建物、次男は車、三男は現金というように、相続人別に欲しいものがはっきりとわかれていれば、現物分割をしやすくなります。
後々のトラブルを防ぐためにも、分配先が決まったら遺産分割協議書を作成することがおすすめです。
協議書を作成し、相続人全員が署名捺印をすれば、内容に合意したことを証明できます。
4-2. 相続財産が豊富にあり種類も多い
故人がさまざまな種類の財産を豊富に遺している場合も、現物分割がしやすいといえます。
現物分割で気を付けたいのが、不公平にならないようにすることです。
長男は5,000万円の価値がある不動産を相続したにもかかわらず、長女は1,000万円の現金しか引き継げなかったとなれば、トラブルが起こるかもしれません。
土地や建物などの高額財産のほか、車・株式・貴金属などがあれば遺産を平等に分配できます。
たとえば、長男は5,000万円の価値がある不動産、長女には1,000万円の現金に加え、価値の高い貴金属や車などを分配すれば、それぞれが多くの遺産を受け取れるでしょう。
4-3. 預貯金で平等な分配が実現できる
多くの預貯金があれば、平等に財産を分配可能です。
たとえば、500万円の価値がある不動産と2500万円の預貯金があったとします。
長男は500万円の不動産、次男は1250万円の現金、長女も1250万円の現金となると、長男だけが損をしてしまうでしょう。
この場合、長男が500万円の不動産+500万円の現金を相続すれば、平等になります。
次男と長女もそれぞれ1,000万円の現金を引き継げるので、形ある財産によって相続分に差が生じるときは、預貯金を活用することがおすすめです。
4-4. 特定の相続人に相続財産を集中させたい
特定の相続人に財産を集中して相続してほしいときにも、現物分割が有効です。
財産を分配するときは、必ずしも法定相続分に則って行う必要はありません。
たとえば、亡くなった両親の介護を長男が長くしていたとなれば、長男が多く財産を相続するべきという意見も出てくるでしょう。
現物分割は形ある財産なので、特定の相続人のみが引き継ぐことも可能です。
預貯金は兄弟間で分配し、形ある財産はすべて長男が引き継ぐようにすれば、長く介護をしていた長男も納得のいく結果になるでしょう。
ただし、特定の相続人に財産を集中させる場合は、相続人全員の了承を得ることが大切です。
了承を得ずに集中させるとほかの人から不満が出てくるかもしれません。事前に話し合い了承を得ましょう。
5. 現物分割を利用する手続きの流れ
現物分割を利用しやすいケースに該当する方は、手続きの流れもあわせて確認しましょう。
遺産分割協議から分配までの流れを解説するので、参考にしてください。
5-1. 遺産分割協議で現物分割の合意を得る
まずは相続人全員で遺産分割協議を行います。
遺産分割協議とは、故人の財産をどのように分配するかを話し合うものです。
財産を受け取る人を決定する必要があるため、協議までに故人の財産すべてを把握しておかなければなりません。
協議で注意しておきたいのが、遺産分割協議書を作成する・相続人全員が参加することです。
相続人が1人でも欠けた状態で話を進めると、後々トラブルになる恐れがあります。
相続の権利を持つ人全員が集まれる場を作り、話を進めましょう。
相続人全員の出席が難しい場合は、メールや手紙でも構いません。
ビデオツールを使ってリモートで行うことも可能なので、相続人の居住地や都合にあわせて決めましょう。
5-2. 遺産分割協議書を作成する
相続人全員が財産の分配先に納得したら、遺産分割協議書を作成します。
協議書の内容は、財産の分配先や内容への合意です。
最後に全員の署名捺印を行うことで、相続人全員が内容に合意したとみなされるため、後々のトラブルを防げるでしょう。
メールや手紙、ビデオツールで協議を行う際は、協議書を相続人に郵送し、署名捺印してもらうことがおすすめです。
協議書の作り方で迷ったら、インターネットからひな形をダウンロードしましょう。
ひな形を印刷すれば、あとは協議の内容を記載するだけで済みます。
5-3. 合意した内容通りに遺産を分配する
協議書作成後、内容通りに財産を分配します。
財産を受け取った人は、登記変更や名義変更を行わなければなりません。
なかでも、不動産を相続する人は早めに変更を済ませておくことが大切です。
令和6年4月1日から、不動産を相続した人の名義変更が義務化されました。
相続したことを知った日から3年以内に手続きを済ませる必要があるため、忘れないうちに変更することがおすすめです。
遺産を分配する際は、相続税の計算も忘れずに行いましょう。
相続税額が基礎控除の範囲内であれば申告不要ですが、少しでも超過する場合は申告の上、納税しなければなりません。
6. 現物分割を利用して相続手続きをシンプルに終えよう!
故人の財産に不動産や車などの形ある遺産が含まれている場合、どのように分配すればいいか迷う方も多いでしょう。
財産を売却して分配することもできますが、そのまま受け継ぎたい方は現物分割を選ぶことがおすすめです。
現物分割を選べば形ある財産をそのまま受け取れます。
相続人が希望する財産をもらえるので、意見が一致すればスムーズに相続手続きを進められるでしょう。
メリット・デメリットをチェックしたうえで、相続人全員が納得する分配方法を選んでください。
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