「配偶者が亡くなって未支給年金を請求したけれど、相続税は発生するの?」とお悩みではありませんか。
未支給年金とは、亡くなった人に支払われる予定だった未払いの年金です。
遺族が請求することで未支給年金は受け取れるため、近しい人が亡くなった方は請求手続きを行うことが大切です。
未支給年金の手続きの際に確認しておきたいのが、相続税の有無です。
故人の財産と判断されそうな未支給年金は、相続税の対象になるのでしょうか。
本記事では、未支給年金は相続税の対象になるのかを解説します。
また年金の種類別のケースと、未支給年金を請求する際の注意点も紹介するので、相続税の計算と未支給年金の請求手続きを行う予定の方はぜひ参考にしてください。
1. 未支給年金が生まれる3種類の年金
未支給年金が発生する年金は以下の通りです。
<未支給年金が発生する年金の種類>
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3つの年金の特徴をくわしく解説します。
1-1. 公的年金(国民年金・厚生年金)
公的年金とは、日本に居住する20歳以上60歳未満のすべての人が加入する義務のある年金です。
公的年金は国民年金と厚生年金に分かれており、国民年金は第1号~3号までの種類があります。
第1号~3号までの特徴をまとめました。
<国民年金第1号~3号までの特徴>
種類 |
対象者 |
届出方法 |
納付方法 |
第1号 |
20歳以上60歳未満の自営業・農業者・学生・無職の人 |
自治体に届出を提出 |
納付書、または口座振替 |
第2号 |
会社に勤める人や公務員 |
勤め先が申請 |
給与から天引き |
第3号 |
第2号被保険者に扶養されている、年収130万円未満の20歳以上60歳未満の人 |
第2号被保険者の勤め先が申請 |
自己負担なし |
会社に勤める人は勤め先が申請や納付を行ってくれるため、自身で手続きをする必要はありません。
第1号に該当する方は、自身で届出を提出したうえで納付しなければならないので、忘れずに手続きを済ませましょう。
1-2. 企業年金
企業年金とは、自社に勤める社員が豊かな老後を送れるよう、企業別に設けている年金制度です。
企業年金には3つの種類があり、それぞれで特徴が異なります。種類別の特徴をまとめました。
<企業年金の種類別の特徴>
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しっかり働いていても、老後が不安だと感じる方が加入できる年金制度です。
企業によって用意する制度が異なるため、加入を検討している方は、自社の年金制度を確認しておきましょう。
確定拠出年金には、企業型だけでなく個人型もあります。
自身で掛け金を拠出して運用していくもので、iDeCoが該当します。
1-3. 個人年金(個人年金契約)
個人年金は、将来の生活に備えて個人で加入するものです。
老後に年金を受け取るもの・資産形成するもの・死亡保障がついたものなど、さまざまな特徴をあわせもっています。
個人年金は以下の2種類にわかれます。
<個人年金の種類>
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変額個人年金保険は、運用実績に応じて支払われる額が変わります。
経済状況によって大幅に増えることもあれば、減ることもあると考えておきましょう。
定額個人年金は契約時点に支払われる金額が確定するため、運用実績に応じて金額が変わることはありません。
経済状況の悪化によって減額するリスクを抑えられるものの、好景気になっても金額は増えません。
2. 公的年金の未支給分は相続税ではなく所得税の対象
公的年金の未支給分は相続税の課税対象ではなく、所得税の対象です。
国民年金の給付を受け取る権利を持つ人が亡くなった場合、国民年金法第19条によって遺族は請求の権利を得られます。
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亡くなった人と生計を共にしていた遺族は、生活保障を目的に未支給分を請求できます。
未支給分は亡くなった人の相続財産とみなされないので、相続税を支払う必要はありません。
また、未支給分はみなし財産にも該当しないことを覚えておきましょう。
みなし相続財産とは、死亡をきっかけに発生する財産で、生命保険金や死亡退職金などが該当します。
定期金や何らかの事情によって一時的に支払われる定期金はみなし相続財産と判断されます。
未支給年金は最初から一時金であり、定期金ではありません。
最初から一時金のものはみなし財産と判断されないので、相続税を支払わずに済みます。
ただし、未支給年金は遺族の一時所得とみなされるため、所得税の支払い義務が発生します。
確定申告で受け取った額を申告し、所得税を納めましょう。
3. 企業年金の未支給分は相続税の対象!非課税枠が使える場合も
企業年金の未支給分は相続税の対象です。
在職中に亡くなった際に受け取る死亡退職金には非課税枠があるため、納税負担を抑えられるでしょう。
ここでは、年金受給中に亡くなるケースと、在職中に亡くなるケースをそれぞれ解説します。
3-1. 定期金(受給中に亡くなる場合)は権利に対して相続税がかかる
年金の受給中に亡くなった場合、遺族が受け取る未支給年金は相続税の課税対象になります。
企業から年金を受け取る契約をしていたのは故人なので、遺族は契約に関係ありません。
未支給分を受け取る際は定期金の権利を相続することになるため、相続税が発生するのです。
定期金を相続する場合、非課税枠を利用できません。
受け取る金額から相続税を計算し、納付期限内に収めましょう。
3-2. 死亡退職金(在職中に亡くなる場合)は相続税の非課税枠がある
在職中に亡くなった際に受け取れる死亡退職金も相続税の対象ですが、非課税枠を利用できます。
非課税枠の計算式は以下の通りです。
「500万円×法定相続人の数=非課税枠」
たとえば、配偶者が在職中に亡くなり、妻・娘・息子の3人が法定相続人だとします。
この場合は500万円×3=1,500万円なので、1,500万円までの受け取りであれば相続税は発生しません。
4. 個人年金の未支給分は相続税の対象
個人年金の未支給分も相続税の対象です。
企業年金同様、遺族は年金を受け取る権利を相続するとみなされるため、相続税を納めなければなりません。
個人年金の未支給分には非課税枠が適用されないので、受け取る金額から相続税額を計算し、納める必要があります。
5. 未支給年金の請求方法と受け取れる人
「家族が年金受給中に亡くなったけれど、未払い分はどうやって請求すればいいの?」とお困りの方も多いでしょう。
支給されていない年金は受け取れる人が限定されており、請求の際にはいくつかの書類が必要です。
ここでは、未支給年金を受け取れる人と請求方法を解説します。
5-1. 未支給年金を受け取れる人と順位
未支給年金は、故人と生計をともにしていた一定範囲の遺族に給付されます。
以前までの範囲は配偶者・子ども・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹のみでしたが、2014年から三親等以内の親族に変更されました。
変更後の範囲と、順位を見てみましょう。
<未支給年金を受け取れる範囲と順位>
受け取れる範囲 |
順位 |
配偶者 |
1 |
子ども |
2 |
父母 |
3 |
孫 |
4 |
祖父母 |
5 |
兄弟姉妹 |
6 |
・子どもの配偶者 ・配偶者の父母 ・配偶者の兄弟姉妹 ・配偶者の祖父母 ・配偶者の甥と姪 ・配偶者の叔父と叔母 ・配偶者の曾祖父母 ・孫の配偶者 ・兄弟姉妹の配偶者 ・曾孫 ・曾孫の配偶者 ・曾祖父母 ・甥と姪 ・甥と姪の配偶者 ・伯父と叔母 ・伯父と叔母の配偶者 |
7 |
受け取れる範囲が大幅に拡大されているものの、順位が定められているため、誰もが受け取れるわけではありません。
優先度の高い人から受け取れると考えておきましょう。
5-2. 未支給年金の請求方法と必要書類
未支給年金の請求方法と必要書類は、年金の種類によって異なります。
公的年金の未支給年金を受け取る際に必要な書類は以下の通りです。
<公的年金の未支給年金の請求に必要な書類>
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すべての書類を用意し、住んでいる地域を管轄する年金事務所に提出しましょう。
続いて、企業年金の請求方法ですが、インターネット・電話・郵送のいずれかから選べます。
インターネットから手続きを行う場合は企業年金連合会ホームページにある死亡届送付依頼を行い、自宅に書類を取り寄せます。
送付依頼は電話や郵送からも可能です。
手元に届いたら、必要事項を記載し、企業年金連合会に郵送しましょう。
個人年金は契約しているところによって請求方法や必要書類が異なるため、契約している生命保険会社に連絡をすることが大切です。
生命保険金の受け取りの連絡をする際に、未支給年金についても確認しておきましょう。
6. 未支給年金に関する3つの注意点
未支給年金を請求する際に、注意しておきたいポイントが3つあります。
- 未支給年金は相続放棄しても受け取ることが可能
- 個人年金は贈与税の対象になるケースがある
- 遺族年金は相続税も所得税もかからない
ここで注意点を解説するので、請求前に確認しておきましょう。
6-1. 未支給年金は相続放棄しても受け取ることが可能
家族が亡くなった際に相続放棄をしていても、未支給年金の受け取りは可能です。
前述したように、未支給年金は相続財産とみなさないため、相続には関係ありません。
以下の要件を満たす方は請求できます。
<請求する際に満たす必要のある要件>
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2つの要件を満たしている方は、請求の手続きを行いましょう。
6-2. 個人年金は贈与税の対象になるケースがある
年金を受給する権利を持つ人が年金保険料を納めていなかった場合、相続税ではなく、贈与税が発生するケースもあります。
毎月の給与では保険料を用意できず、子どもや父母に支払ってもらっていたという方もいるでしょう。
この場合、亡くなった後に遺族が得る年金受給権は、贈与されたとみなされます。
贈与の場合は相続税や所得税ではなく贈与税が発生するので、別途計算して納税しなければなりません。
6-3. 遺族年金は相続税も所得税もかからない
遺族年金には相続税も所得税もかかりません。
遺族年金とは、亡くなった人と生計を共にしていた遺族の生活を保障するために支払われるものです。
定期的に給付を受けても、所得税や相続税の対象にはならないため、必ず受け取りましょう。
7. 未支給年金はケースによって相続税の対象となる!
未支給年金は、種類によって支払う税金が異なります。
企業年金と個人年金は相続税、公的年金は所得税の対象になるため、どの税金を支払えばいいのか、きちんと確認しておきましょう。
個人年金は場合によっては贈与税の対象になるので、不安な方は税理士に相談することがおすすめです。
未支給年金の請求方法も、種類に応じて変わります。
ここで紹介した必要書類をすべて用意し、早めに請求手続きを行いましょう。
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