「相続税の申告の締切日はいつ?」「期限を過ぎたらペナルティはある?」
相続税を申告する必要があるけれどまだ手続きをしていない場合、このような心配をしている方が多いのではないでしょうか。
相続税の申告や納税は原則として10ヶ月内と決められており、遅れた場合にはペナルティとして税金が加算されてしまう可能性もあります。
この記事では相続税の期限、手続きの流れ、期限に遅れた場合のデメリットなどについて解説します。
期限に間に合わない場合の対処法や、期限に遅れないためのポイントについても解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 相続税の申告・納付期限は10ヶ月以内
相続税の申告と納付の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。
たとえばある家族の父(被相続人)が亡くなったのが2023年1月10日だとすると、配偶者である妻や子は、その年の11月10日までに申告・納付の手続きをする必要があります。
通常の場合、亡くなった日とそのことを知った日は同じであることがほとんどですので、亡くなった日の翌日が相続開始日です。
ただ被相続人が行方不明になっていたり、災害に巻き込まれたりした後に亡くなる場合もあります。
こういったケースでは死亡日を特定できないため、ケースごとに応じて相続の開始日が決定します。
なお、相続税の納付も同じ期限なので、支払いまで完了させる必要があります。
申告を済ませただけで安心しないように注意しましょう。
1-1. 特別な理由がある場合には最大2ヶ月延長可能
相続税の申告・納付は原則として延長できませんが、やむを得ない特別な事情がある場合のみ、最大2ヶ月延長することが認められています。
たとえば胎児が生まれて相続人となり、相続人の数に変動があった場合には、基礎控除などの計算が変わるため延長が認められます。
また、災害に遭って期限内の申告・納付が難しい場合も、期限を延長可能です。
期限を延長できるケースについては、後ほど詳しく説明しますのでそちらもご覧ください。
1-2. 期限日に税務署が休みの場合には次の平日になる
申告期限が土日・祝日の場合は、税務署が開いていないため次の平日が期限です。
また、年末年始(12月29日~翌年1月3日)も税務署が休みのため、期限は次の平日となります。
2. 相続税の申告・納税期限までの流れ
相続手続きの大まかな流れは下記のとおりです。
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上記における遺産分割協議とは、残された財産を誰がどのように相続するかについて、相続人全員で話し合って決めることです。
ただし、有効な遺言書がある場合は、原則としてその内容どおりに遺産分割を行うことになります。
遺言書がないまたは無効の場合に遺産分割協議を開きますが、円滑に進めるためには税理士など相続の専門家に依頼することがおすすめです。
分割内容が決まったら、遺産分割協議書を作成し、誰がその財産を相続するかを明確な文言で記載します。
その後に各財産の名義変更を行い、土地や建物は登記を変更、自動車なら登録を変更します。
2-1. 相続税を期限後に申告する場合のデメリット
相続税の期限後に申告した場合、無申告加算税・延滞税・重加算税のペナルティが課されます。
無申告加算税
申告のタイミング | 50万円以内にかかる税率 | 50万円を超える部分にかかる税率 |
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自主的に事後申告 | 5% | 5% |
税務調査の事前通知を受けてから 税務調査を受けるまでに申告 |
10% | 15% |
税務調査を受けた後に申告 | 15%または20%※ | 20%または25%※ |
※期限後申告があった日の前日から起算して5年前までの間に調査により無申告加算税又は重加算税を課されたことがある場合
延滞税
申告のタイミング | 税率 |
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納期限から2ヶ月以内 | 年7.3%または 「前年の11月30日の公定歩合+1%」のいずれか低い方 |
納期限から2ヶ月超 | 年14.6%または 「特例基準割合+7.3%」のいずれか低い方 |
重加算税
種類 | 税率 |
---|---|
過少申告の場合 | 35% |
不納付の場合 | 35% |
無申告の場合 | 40% |
無申告加算税は、自主的に申告した場合は税率が低いですが、税務調査の実施が決まると税率が上がります。
延滞税は納期限から2ヶ月を超えると税率が上がる仕組みです。
また、相続税の申告で隠蔽や偽装など意図的に行ったと判断された場合には、重加算税が課せられます。
申告や納付が遅れるほど税率が高くなり納める税金が多くなりますので、早めの対応がおすすめです。
2-2. 相続税の控除・特例が適用できなくなる
期限後に相続税を申告することで発生するペナルティは、無申告加算材や延滞税だけではありません。
以下のような控除・特例を利用できなくなるため、高い相続税を支払うことになります。
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小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たす宅地の評価額を最大80%下げることができる制度です。
また、配偶者控除はとても強力な特例で、配偶者にかかる相続税を大幅に減額できます。
これらの特例を使うには期限内に申告することも条件の1つであり、期限後は特例を使えず相続税額が高くなってしまうので注意しましょう。
関連記事: 相続税の配偶者控除で1.6億円まで非課税!計算方法やデメリットを解説!
2-3. 連帯納付義務によってほかの相続人に迷惑がかかる
相続税には「連帯納付義務」があり、複数の相続人は互いに協力しながら納付しなくてはならないと定められています。
たとえ自分の分の納付が完了したとしても、他の相続人の納付が完了しないと、督促が届いてしまいます。
逆に自分の納付が終わらないと、他の相続人に督促が行き、迷惑をかけることになります。
また相続税に関する督促を受けても納付しない状態が続くと、財産を差し押さえられ公売にかけられる恐れがあります。
公売とは差し押さえた財産を強制的に売却し、代金を滞納分の税金に充てる処分のことです。
ほかの相続人に迷惑をかけないことはもちろん、督促状が届いてしまった際にはすぐに相続税を納付しましょう。
3. 相続税の申告・納税期限に間に合わない場合の対処法
相続税の申告や納税は、期限内に行うことがベストです。
しかし遺産分割協議で揉めていて結論が出ない、現金が少なく土地や建物などを売らなくてはならないといった事情で、どうしても期限に間に合わないケースもあります。
そのような場合に無申告加算税や延滞税などのペナルティを受けなければならないのか、と心配する方もいるかもしれませんが回避できる方法はあります。
ここからは、期限に間に合わない場合に取れる対処方法を紹介します。
3-1. 申告に間に合わない場合は未分割で申告する
期限までに遺産分割が完了できそうにない場合は、いったん未分割の状態で申告書を作成し納付する方法があります。
期限までに申告と納付を済ませれば、ひとまず無申告加算税や延滞税を回避できます。
この場合は改めて分割した後、納税額が増えた相続人は相続税の修正申告、減った相続人は更正の請求をしましょう。
なお下記の特例は、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付して申告期限内に提出することで、分割後でも適用できます。
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一旦申告するといった手続きを行えば、期限後でも特例が利用できますので安心してください。
3-2. 納税に間に合わない場合は延納・物納を検討する
現金での納付が難しい場合は、延納または物納を検討しましょう。
延納とは相続税を分割払いにする制度で、原則として5年、特定の条件を満たすことで最大20年の分割が認められます。
物納はその名のとおり、住宅などの財産で相続税を納付する方法です。
ただ、延納や物納を利用するにはさまざまな条件があり、誰でも利用できるわけではありません。
また期限内に申告・手続きが必要なことに変わりはありませんので注意しましょう。
4. 申告・納税期限に遅れないためのポイント
相続税の申告期限や手続き内容を事前に把握しておくと、相続が発生してから迅速に対応できるようになります。
相続が発生するまでに、以下の3点をおさえておきましょう。
<申告・納税に遅れないポイント>
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では、1つずつくわしく解説していきます。
4-1. 全体スケジュールを確認しいち早く動き出す
相続税の申告には、財産の確定や遺産分割などかなり手間と時間がかかりますので、早めの準備が必要です。
相続人の確認や財産・債務の把握など、いつまでに何をしなくてはならないのか、スケジュールを整理して対応を始めましょう。
相続税の延納や物納を行うなどイレギュラーなケースは、その分の時間も取られてしまいます。
そのため余裕をもって、早め早めに動きだすことが重要です。
4-2. 生前から被相続人を交え相続について話し合う
被相続人の死後、遺産の分割方法について相続人同士で揉めることも少なくありません。
相続税申告・納税をスムーズに終えるには、生前から相続について、被相続人も交えて話し合っておくことが重要です。
また、その内容を遺言書を残しておくことで、確実に希望通りの相続を実現できるでしょう。
4-3. 税理士などの専門家に相談・依頼する
相続税の申告・納税では、財産の把握や遺産分割協議、関連書類の取り寄せなどを行ううちにあっという間に期限が迫ります。
相続税の申告・納税に関して不安を感じる場合、ノウハウや知識が豊富な税理士に早めに相談することもおすすめです。
申告・納付が期限に間に合うように適切な助言をしてくれるだけではなく、納税額を少なくするためのさまざまなアドバイスも受けられます。
不動産が多くて現金が不足しそう、どの相続人も多忙で遺産分割協議がすぐ開けないといった問題を抱えている方は、早めに税理士に相談して対策を講じるようにしましょう。
5. 相続税の申告・納税についてよくある質問
ここからは、相続税の申告や納付についてよくある質問と回答を紹介します。
<よくある質問>
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それぞれ、くわしく見ていきましょう。
5-1. 相続税の納付は現金のみ?
相続税の納付方法は、原則として現金での一括払いです。
しかし相続税は高額になることも多く、現金が少ない方は土地や建物などを売却して現金を用意するケースもあります。
現金以外の納付方法として、クレジットカードや物納もあります。
クレジットカードは「国税クレジットカードお支払サイト」を通じて支払う方法です。
24時間いつでも利用でき、自宅でも支払いができるので便利な方法と言えます。
クレジットカード払いの注意点は2つあり、まず決済額の上限があることで、クレジットカードの利用枠の上限を超える決済はできません。
またクレジットカードによる納税は1回あたり1,000万円が上限で、これ以上の納税をするには、複数回の決済をする必要があります。
2つめの注意点は手数料が発生することで、たとえば300万円を納税するには25,080円の手数料がかかります。
クレジットカードのポイント還元によって、手数料の負担をある程度取り戻せますが、すべてのクレジットカードでポイントが付くとは限りません。
決済をする前に、クレジットカード会社に確認しておくことが望ましいです。
物納とは、不動産など現金以外の財産によって相続税を納付する方法のことです。
物納を利用するには、下記の条件をすべて満たすことが必要です。
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物納をする前に、まず相続税を分割払いする「延納」の申請をする必要があり、延納でも支払えない場合に物納が認められます。
物納できる財産は相続で取得した国内の財産のみに限定されています。物納に充てる財産には優先順位があり、自由に物納財産を選定することはできません。
5-2. 申告・納税の期限を延長できるのはどんな場合?
相続税の申告・納税の期限を延長できるのは、具体的には下記のようなケースです。
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相続人の変動とは、相続期間中に胎児が無事に生まれて相続人となるようなケースが挙げられます。
胎児は無事に生まれてくるまで、相続人として扱うことができませんが、無事に生まれると相続人の人数に含めることができます。
相続人の人数が変わると基礎控除額なども変更され、場合によっては申告書の提出が不要になる場合もあるため、延長が認められます。
申告期限の直前になって遺言書が見つかり、相続人と面識のない第三者の方へ遺贈するとの記載があった場合も、期限延長に該当します。
その遺言書が有効な場合、相続財産の分割方法が大幅に変わる可能性があるため、申告手続きは時間的に間に合わないと判断され延長が認められます。
また相続人には遺留分という最低限保障された財産の取り分が決められていて、その遺留分を侵害している場合には、多くの財産を譲り受けた相続人に対して請求できます。
たとえば遺言書の内容が「財産はすべて長女に相続させる」という内容の場合、次男など他の相続人が納得できず、遺留分を請求することが考えられます。
また遺留分として財産を譲り受けたことで、相続税の申告が必要になることがあります。
つまり、遺留分減殺請求が認められると相続税の申告内容が変わるため、申告期限の延長が認められるのです。
地震や洪水など、災害によってやむを得ず期限内の申告・納税が難しい場合も、延長が認められることがあります。
国税庁の公式ホームページには、災害における申告・納税の延長の情報が掲載されていますので、災害に遭った場合はチェックしてみてください。
関連記事: 相続税の基礎控除とは?控除の種類・控除額の計算方法
5-3. 期限内であれば訂正申告はできる?
相続税の申告・納税の期限前であれば、訂正申告が可能です。
訂正後に納税額が増えたとしても、期限内であるため、無申告加算税や延滞税などのペナルティはありません。
ただし訂正申告をするには、改めて相続税の申告書を作成し期限内に提出する必要があります。
期限内に訂正申告を複数回行った場合は、最後に提出した申告書が正式なものとして取り扱われるため、過去に提出した申告書を取り下げるなどの手続きは必要ありません。
なお、期限が過ぎてしまった後の申告は訂正申告ではなく、修正申告となります。
6. 相続税の納付・申告期限には遅れないようにしよう
相続税の申告・納税期限は被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内で、結構長いと感じる方もいるかもしれません。
しかし実際に着手してみると、準備する書類や手続き内容が多く、想定していた以上に時間を取られるケースが多いです。
特に重要となるのが、被相続人の財産状況の確認・相続人となる人の特定・遺産分割方法の3点です。
申告・納税を期限内に行うため、相続税申告のスケジュールを事前に把握し早めに対応を始めましょう。
普段は仕事や家事・育児などのため時間が取れない方は、最初から税理士に依頼するのもおすすめです。
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