「知人や友人に低価格で不動産を売ろうと考えているけれど、税金は発生するの?」とお悩みではありませんか。
通常よりも安価で不動産を譲る場合、みなし贈与と判断される恐れがあります。
みなし贈与は売る側と買う側双方に税金の支払いが発生する可能性があるため、注意が必要です。
本記事では、不動産のみなし贈与でかかる税金と、贈与税・所得税の二重課税について解説します。
みなし贈与における注意点も紹介するので、不動産を低価格で譲ろうと考えている方は参考にしてください。
目次
1. 不動産の低額譲渡がみなし贈与と判断された場合の税金
不動産を安価に譲った場合、売った方と買ったほうのどちらにも納税義務が発生します。
それぞれに課される税金の種類は異なるため、何を支払うべきかをチェックすることが大切です。
ここでは、みなし贈与と判断された場合の税金を解説します。
1-1. 【売主】譲渡所得に対して所得税が課税される
不動産を売った人は、売ることによって得た譲渡所得に対して税金が発生します。
譲渡所得で払わなければならないのは所得税です。
譲渡所得から、売った不動産を取得した際にかかった費用を差し引いた額をもとに、所得税額を計算します。
譲渡所得の計算は、不動産を所有していた期間に応じて変わるため、取得からどれくらい経過しているかも確認しておきましょう。
不動産を売った年の1月1日時点で、所有期間が5年を超えている場合は長期譲渡所得、下回る場合は短期譲渡所得から計算します。
長期・短期どちらも計算方法は同じです。
「不動産を譲った価格-(不動産取得にかかった費用+不動産を譲る際にかかった費用)-特別控除」
から譲渡所得額を算出し、長期・短期別に定められる税率を掛けて所得税額を計算しましょう。
それぞれの税率は以下の通りです。
長期・短期の税率
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取得から5年以下の不動産を譲る場合は、所得税額が高額になる恐れがあります。
5年を超えていれば大幅に下がるため、譲る時期を慎重に考慮することも大切です。
1-2. 【買主】時価と譲渡価格の差分に対して贈与税が課税される
著しく低い価額で不動産を買った人には、贈与税が発生します。
みなし贈与は通常よりも安い価格で不動産を手に入れられるため、時価と購入価格の差額分に納税義務が生じます。
たとえば、時価2,000万円の不動産を500万円で譲り受けたとしましょう。
この場合、低価格で不動産を贈与されたと判断され、差額の1,500万円に贈与税が発生します。
低価格で譲り受けても、贈与税の支払い負担が大きくなる恐れがあるため、売主と買主の双方でしっかり話し合うことが大切です。
2. みなし贈与が発生しても贈与税と所得税が二重課税されることはない!
「低価格で不動産を譲り受けるみなし贈与だと、贈与税・所得税の二重課税を課されるのでは?」と心配する方も多いでしょう。
前述したように、不動産を売る側と買う側それぞれで課税される税金の種類が異なります。
売る側は所得税、買う側には贈与税で、課税対象となる人も異なるため、二重課税になる恐れはありません。
低価格で不動産の譲渡ができるものの、双方に納税負担が生じるため、よく話し合ったうえで贈与を決めましょう。
3. みなし贈与と判断されやすい財産と対策
みなし贈与の対象となるのは不動産だけではありません。
判断される恐れがある財産には以下のようなものがあります。
みなし贈与と判断される恐れがある財産
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みなし贈与は贈与をしたと判断されるため、贈与税が発生します。
税金の納め忘れを防ぐためにも、みなし贈与とみなされる恐れのある財産の種類を把握することが大切です。
ここでは、みなし贈与と判断されやすい財産と、税金対策のポイントを解説します。
3-1. 保険料を負担していない生命保険金
保険料を負担していない生命保険金は、みなし贈与と判断されやすい財産のひとつです。
死亡時に受け取る生命保険金は、保険料を支払っている人の財産とみなされます。
保険金を受け取る場合には相続税が発生するので、計算したうえで納めなければなりません。
相続税対策として、親が子どもに保険料を渡し、子ども自身が契約者となって保険料を支払うケースもあります。
この場合、保険料を贈与された証拠を残しておけば、受け取る保険金は相続とみなされません。
生命保険には控除があり、年末調整や確定申告の際に活用できます。
保険料を支払っているからと親が控除を使うと、子どもに保険料を贈与したといえなくなるため、保険料も控除も子どもに譲ることが大切です。
以下の記事では、母親が生命保険金を負担しているケースについて詳しく解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。
【関連記事】母親が保険料を支払っている私の名義の生命保険は相続税の対象になる?
3-2. 掛け金を負担していない個人年金
掛け金を負担していない個人年金も、みなし贈与と判断されやすい財産で、仕組みは生命保険と同じです。
自身で掛け金を支払って加入している個人年金の受給権を、死亡後に子どもが取得した場合、年金は相続財産に含まれます。
相続税対策の一環で年金の受取人を子どもにする場合は、贈与の証拠を残しておきましょう。
3-3. 債務免除・債務引き受け
親が他社からお金を借りており、債務免除を受けた場合もみなし贈与と判断される可能性があります。
たとえば、親が会社を経営しており、死亡後に子どもが会社を相続するとしましょう。
死亡をきっかけに債務免除を受けた場合、企業資産がプラスになることもあります。
プラスになった資産を贈与されたと判断され、贈与税の支払い義務が生じるため、忘れずに納めることが大切です。
ただし、債務免除を受けても純資産がマイナスの場合は、みなし贈与とみなされません。
また、債務引き受けは一部の贈与税が発生しないケースもあると覚えておきましょう。
お金を借りている人が、扶養義務者に債務引き受けをしてもらった場合、返済が困難であると判断される部分には贈与税が課されません。
引き受ける側の負担が軽くなるので、安心して経営を引き継げます。
4. みなし贈与の4つの注意点
みなし贈与と判断されるケースには4つの注意点があります。
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ポイントを把握しておくことで後々のトラブルを防げるため、ここで疑問を解消しておきましょう。
4-1. みなし贈与に「贈与の意思があったか」は関係ない
みなし贈与には、譲る側と受け取る側の合意や意思が必要ない点に注意しましょう。
通常の贈与は、双方が合意したうえで成立します。
しかし、安価なものを譲る場合は、合意なしで贈与が成立してしまうケースもあるでしょう。
双方が贈与だと思っていなくても、みなし贈与の疑いがあれば贈与税が発生します。
申告し忘れたままだといくつかのペナルティが課されるため、譲渡によって受け取る側に経済的利益が発生する場合は、税理士に相談しておくことがおすすめです。
4-2. 著しく低い価額の判断基準は明文化されていない
みなし贈与は「社会通念上、著しく低い価額での譲渡」をした場合に判断されますが、著しく低い価額については明文化されていません。
譲渡されるものの種類別に価額が定められていれば、個人でもみなし贈与に該当するか判断しやすくなるでしょう。
しかし、価額は明確になっておらず、個別で判断されます。
個人では判断しにくいため、税理士に相談し、みなし贈与に該当するかを聞いてみましょう。
4-3. 時価の算定方法に気を付ける
譲渡するものに応じて時価の算定方法は異なるため、事前に確認しておくことが大切です。
たとえば、建物の時価の算定方法は「固定資産税評価額÷0.7」ですが、土地は路線価や実勢価格から算出しなければなりません。
時価の計算に必要な情報が異なるため、譲渡する予定のもの別に計算方法をチェックしておきましょう。
4-4. みなし贈与と判断されても贈与税が課税されない場合もある
みなし贈与と判断されても、贈与税が発生しないケースもあります。
たとえば、経営者が多額の債務を抱えており、債務者の扶養義務者(子どもや孫)が債務を引き受けたとしましょう。
元の債務者が返済能力を持っておらず、債務者の扶養義務者が債務を引き受けた場合は、返済が困難であると判断される部分に贈与税が課されません。
会社の経営権を贈与してもらったとしても、一部の税金は免除されるため、支払い負担を抑えられるでしょう。
5. 贈与税と所得税が二重課税されることはない!みなし贈与には注意しよう
みなし贈与と判断される譲渡があったとしても、贈与税と所得税が二重課税されることはありません。
譲った側に所得税、受け取った側に贈与税が課されるため、双方が支払う税金は異なると考えておきましょう。
みなし贈与と判断されるものは、不動産だけでなく、生命保険金や個人年金などもあります。
身内や親しい間柄の人との譲渡であっても贈与とみなされるケースはあるので、不安な方は税理士に相談することがおすすめです。
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