住宅購入を検討している人にとって、親の持つ土地は“渡りに船”かもしれません。身内のよしみで持ち家を建設させてもらえれば、土地購入コストの削減のみならず、両親の生活を側で見守れる安心感も一挙に得られるでしょう。
ここで注意を要するのは、親所有の土地に住宅を建設する場合の課税関係(贈与税・相続税)です。もっとも、気をつけたいのは贈与税ばかりではありません。
住宅ローンの担保供与や遺産分割を想定した注意点まで、住宅購入前に家族全員で話し合っておきたい事項について網羅的に解説します。
【この記事でわかること】
- 親の土地に子が住宅を建設する場合の課税関係・・・親子間の取引条件(有償or無償・借り受けor譲渡)の贈与税の課税有無について
- 相続を見越した贈与税対策・・・相続時精算課税・小規模宅地等特例の解説
- 親と同敷地内に家を建てる場合のポイント・・・敷地を分けるための分割・分筆が必要となるケース
- 金銭トラブルや相続の防止策・・・遺産分割・固定資産税負担について
1.親の土地に家を建てるときは贈与税に要注意
社会通念上、住宅建設のために土地を借りたり譲渡したりする際は、しかるべき対価の支払いを要します。しかし、取引当事者が親密な関係である場合、ましてや親子間の取引のケースでは、無償もしくはそれに近い破格で契約されるのが一般的でしょう。
問題は、無償もしくは格安であるという点です。これは税法上「本来支払うべき対価が親から贈与された」とみなし、この対価について子に贈与税が課税されるのが原則なのです。
ただし、取引の内容と手続きにより、課税を免れるケースもあります。以下ではパターン1〜4に分け、それぞれの課税関係を解説します。
パターン①:親の土地を無償で借り受ける場合
最も多いと考えられるのが、親が所有権を持つ土地に、子どもが無償で借地権を設定するケースです。本事例は民法で「使用貸借」(第593条)として扱われ、贈与税は課税されません。
所有権者と親しい関係にある家族がその土地を使用する場合、たんに所有権者が自分の土地(自用地)を使っているだけと税法上考えるからです。
【親以外に地主が存在する場合も課税なし】
親が所有権者ではなく、借地権者(=別に存在する地主から借り受けている)として地代を払っている場合どうでしょうか。
問題となるのは、借地権設定にあたって「権利金」(あるいは一時金)などのまとまった額を支払う慣行がある地域の場合です。親が地主に収めた権利金・一時金は子が本来支払うべき対価であり、贈与税が課せられるかのように思われます。
結論として、親が借地権者であるケースでも、使用貸借なら子に贈与税は課税されません。使用貸借において、権利金・一時金は評価額ゼロとして扱われるからです。
パターン②:親の土地を有償で借り受ける場合
家庭の方針によっては、親が所有権や借地権を持つ土地を子どもが借り受ける際に、借地権設定の対価を支払うものとするケースもあるでしょう。
本事例はパターン1の対概念として「賃貸借」(民法第601条)として扱い、慣行のある地域で権利金(あるいは一時金)が支払われなかった場合に、子に贈与税が課せられます。
【参考】妥当と見なされる権利金(一時金)の金額・・・土地の更地価格※に対し年率6%程度
※更地価格・・・その土地の時価を指します。査定が難しい場合は、課税額が著しく低くなる等の弊害がない限り「近隣の類似した土地の公示価格などから合理的に計算した額」や「相続税評価額」あるいは「相続税評価額の過去3年間の平均額」を用いることもあります。
継続的に地代を払う約束をする以上、慣行があるにも関わらず権利金や一時金を払わないのは「親から子へ経済的利益を贈与している」と認識されるからです。
【贈与税を課税されないようにするには】
子が親に支払う地代を妥当な金額に設定しておけば、贈与税の課税は避けられます。ただし、権利金・一時金に「地代の前払い的な性格」が認められる場合は、結局のところ分割して地代に上乗せる方法で支払いを実施しなければなりません。
有償にしたい理由をあらためて整理し、親子間で税理士を交えながら協議するべきでしょう。
パターン③:親の土地を無償or格安で譲渡する場合
では、親が土地に対して持つ所有権あるいは借地権そのものを、無償で子へ移転する場合はどうでしょうか。本事例では、土地権利の時価と実際に支払われた額の差額について、原則通り子どもに贈与税が課税されます。
課税評価額と実際に支払った額の差が「親から子への贈与」とみなされるからです(みなし贈与税)。
【「格安」と見なされる具体的な金額はケースバイケース】
「格安」とみなされる金額が時価に対してどの程度の割合なのか、国税局から明確にされているわけではありません。“個別具体的事案に基づき判定する”と示されているのみです。 したがって、みなし贈与税が発生するか否かは、管轄税務署や類似ケースに通じる税理士の判断を仰ぐ必要があります。
パターン④:地主から底地を買い取る場合
子どもに資金力がある場合等のイレギュラーな例として、親が借地権を有する土地の「底地」(=所有権)を子が地主から買い取るケースもあります。本事例では、パターン②・③とは異なり、子ではなく親に贈与税が課税されます。
通常、借地権者は底地を有する人に対して地代を払います。底地が地主から子へと移転したなら、親は子どもに対して地代支払いを開始しなければなりません。親から子への地代支払いが行われていなければ、この事実をもって「子が底地権者となったあとで親に借地権が贈与された」と考えるのです。
【借地権に対する贈与税を免れる方法】
親に贈与税がかからないようにするには、子どもが「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を居住地管轄の税務署に提出する必要があります。 申出書の提出により、税法上「底地取引が行われる以前から親の借地権が保持されつづけている」という扱いになり、借地権の贈与という考え方を否定できるのです。
2.贈与税が課せられないようするには?
親の土地に子が住宅建設をするケースの問題は、当事者のあいだで相続が予定されている点です。
ここまでの解説内容に沿って考えると、贈与税の課税を避けるには「使用貸借」あるいは「妥当な権利金あるいは一時金を支払った上での賃貸借」の形式での契約が適当だと思えるでしょう。しかしこれでは、単に課税時期を相続開始時に遅らせているだけであり、節税効果は得られません。
そこで積極的に活用したいのは、将来の相続を前提としているからこそ利用できる2つの税制です(以下参照)。いずれか適当な税制を適用することで、トータルの課税額(贈与税+相続税)を低減できるのです。
【親子間の土地貸借or譲渡に適用できる税制】
①相続時精算課税・・・相続時に精算する条件で贈与税が安くなる
②小規模宅地等特例・・相続税が大幅に安くなる(贈与税は通常通り)
活用の際は、相続時精算課税と小規模宅地等特例は併用不可である点に注意しましょう。個別事例で節税効果の大きいものを判断する際は、以下で解説する適用要件の詳細が参考になります。
2-1.相続時精算課税
相続時精算課税とは、被相続人から相続人への生前贈与に適用することで、贈与税の控除額を拡大した上で税率の優遇が受けられる制度です。ただし「精算」と題される通り、本制度を適用した贈与分は、親の死亡時に相続税が課税されます。
贈与税の課税を避けられないケース(無償譲渡・権利金や一時金を支払わない賃貸借契約)で検討できるでしょう。
【参考】相続時精算課税の節税効果
比較項目 | 適用前(暦年課税) | 適用後 |
控除額 | 110万円 | 2,500万円 |
税率 | 10%~55% | 20% |
【「将来価値が上がる土地」で特に節税効果あり】
贈与税の課税評価額が2,500万円を下回るケースでは、もちろん本制度が適しています。 そればかりではなく、子どもが住宅を建てようとしている土地に価値上昇が見込まれる場合(市街化地域周辺の土地など)でも有用です。制度適用後の相続税は、あくまでも「贈与したときの評価額」で課税されるためです。
参考コラム:相続時精算課税制度のメリットとデメリットをわかりやすく解説
2-2.小規模宅地等特例
小規模宅地等特例とは、被相続人あるいは相続人が使用していた土地建物に適用することで、相続税が減額される制度です。贈与税がそもそも課税されないケース(使用貸借など)において、トータルの課税額を安くするために適用しない手はありません。
なお、親から子へと居住用宅地等が承継されることを前提にした場合、本制度適用の詳細は以下の通りです。
【小規模宅地等特例の適用条件】
- 適用要件・・・「親子同居の居住用宅地等」もしくは「親と生計を一にしていた子の居住用宅地等」
- 相続税の減額率・・・課税評価額の80%(面積上限330㎡)
【二世帯住宅を予定している場合は注意】
親子同居の居宅であっても、区画を分けて親子それぞれの所有とする「区分登記」を実施してしまった場合、小規模宅地特例を適用できません。あくまでも1棟全体が親もしくは子の名義に属していることが、本制度における同居要件です。
二世帯住宅では「不動産取得税・固定資産税の節税効果が得たい」「居住空間が分かれているので何となく」といった理由で区分登記されやすい傾向にあります。
建設を予定する場合には、そもそもトータルで十分な節税効果が得られるのか、希望する居住スタイルも含めて税理士とよく話し合うべきでしょう。
参考コラム:小規模宅地等の特例とは?適用条件をわかりやすく解説
3.親の家と同じ敷地内に建てるケースの注意点
ここまでは税対策について解説しましたが、考慮すべき点は他にもあります。
特に気をつけたいのは、すでに親の家が建っている土地に住宅建設しようとするケースです。子ども名義の新築物件が融資契約や建築基準をクリアするために、敷地を2つに分けるための分割・分筆と呼ばれる手続きを経なければなりません。
二世帯住宅や両親を見守れる住環境を検討している人は、本章で解説する内容に留意しましょう。
3-1.【ポイント】分割と分筆の違い
本章の最初に押さえておきたいのは、敷地を2以上に分けるにあたり「分割」と「分筆」は全く別の手続きであることです。
分割:建築確認申請時に敷地を分ける(登記簿は1件のまま)
分筆:登記時に敷地を分ける(登記簿は分割数に応じて増える)
各手続きは並行して行っても構いません。どちらか一方だけ手続きを取るか、それとも並行して行うかは、個別事例で判断します。
では、分割・分筆を実施するケースとは何でしょうか。
3-2.「分割」が必要になるケース
分割を実施しなければならないのは、親の既存建築がある土地に2棟目として子が新築建設を行おうとするケースです。
そもそも建築基準法の基本ルールは「ひとつの敷地にひとつの建築物」です(施行規則第1条)。2棟目を建てようとするなら、元あった敷地を同法の基準(以下参照)に沿って分割しなければなりません。
【参考】敷地分割のルール(※以下すべて該当すること)
- 既存建物と新築建物の敷地が各々巾4m以上の道路に2m以上接道している
- 建築上のルール(建ぺい率・容積率等)を各建物が満たす
3-3.2棟が「用途上不可分」なら分割不要
敷地分割の要否には例外もあります。たとえ2棟目を建てるとしても、水回り共有など親子の建物が相互に機能を補完している(=用途上不可分)のであれば、分割は不要です
【参考】用途上可分・用途上不可分とは
- 用途上可分:2棟以上の建物において、各棟が独立して機能を果たす場合→敷地分割要(建物間に距離があっても差し支えないと考えられるため):(例)キッチンやトイレを別にしている母屋と離れ
- 用途上不可分:2棟以上の建物において、各棟が独立して機能を果たす場合→敷地分割不要(同じ敷地内にあることが合理的かつ必要であるため):(例)常時待機する必要のある業種における、従業員宿舎と事業用の建物
複数の建物が用途上可分か不可分かの判断基準は、自治体により異なります。 したがって、まずは建築士等の専門家に家を建てるときのイメージを伝えて分割要否を診断してもらってから、必要な場合は分割可能かどうか検討してもらうのが望ましい方法です。
3-4.「分筆」が必要になる理由
一方、登記を分割する「分筆」が必要になるのは、住宅ローンの担保供与(抵当権設定)で不都合が生じるケースです。
そもそも抵当権は登記単位で設定します。親子2棟の建つ土地が登記簿上一帯となっていると、親の住む土地までもが子どもの住宅ローンの抵当に入ってしまうのです。 親が連帯保証人になるケースでは無問題ですが、そうでない場合(親の現金資産が少ない等)は当然避けるべきでしょう。
こうした観点から、子どもの住む土地建物だけに抵当権を設定する目的で「分筆」が実施されます。
3-5.「分筆」は比較的簡単に行える
「分筆」は建築基準法上の分割と異なり、これといった立地要件はありません。必要物を準備して法務局で手続きすることで、ほぼどのような土地でも実施可能です。
ただし、提出すべき書類に含まれる「筆界確認書」「地積測量図」などを準備するため、土地家屋調査士に依頼する必要があります。
4.節税や敷地だけではない「親の土地に家を建てる時の注意点」
どんな土地でも高額資産と一般的にみなされる以上、解決を要するのは節税や建設手続き上の課題だけではありません。住宅建設に応じてくれた親自身や他の相続人とのあいだで金銭トラブルに発展しないよう、家族で話し合って公平化を図るべきです。
本章で紹介する2つのポイントにも留意し、必要に応じて専門家の意見を仰ぎましょう。
注意点①遺産分割トラブルのリスク
子どもの家を建てた土地は、当然その子自身が承継することになります。親の資産評価額が該当の土地に偏っている場合、遺産分割において他の相続人とのあいだで不公平になることは避けられません。
特に注意したいのは、配偶者・子・直系尊属(父母や祖父母)に最低限保障された取り分である「遺留分」です。子どもが住宅を建てた土地の評価額が、他の相続人の遺留分を侵害した場合、係争化は免れません。
【遺言書作成・生前贈与などの「生前対策」は入念に】
トラブルを防ぐため、生前から公平に遺産分割を実施しておくことが欠かせません。
<生前対策の例>
●土地以外の資産を生前贈与しておく
●家を建てた子どもが現金資産も全額承継し、土地を分割する代わりに他の家族へ金銭を支払う(代償分割)
どんな対策が望ましいかは、家族構成や相続財産の資産配分に左右されます。弁護士をはじめとする専門家に相談して、個別事例にふさわしい対策を練るべきでしょう。
注意点②固定資産税は誰が負担するのか
使用貸借の見返りとして子が親の固定資産税を負担するケースでは、左記負担が税法上「親に対する贈与」とみなされるかどうかが問題です。
結論を述べると、固定資産税は贈与と見なされず、当然贈与税は課税されません。親子はお互いに遠慮しあわず、関係を円滑にするため税負担について話し合うと良いでしょう。 参考:最高裁昭和41年10月27日判決
5.まとめ
親の土地に子どもが家を建てるケースでは、当然“身内価格”で土地取引がされる点に要注意です。「本来支払われるべき対価」と「実際に子どもが支払った額」との差額について、その譲受者とみなされる側へ贈与税が課税されるからです。
親子間の取引パターンごとの贈与税課税のポイントは以下の通りです。
■パターン1:使用貸借
親が所有権or借地権を持つ土地に無償で借地権設定した場合、贈与税はかからない
■パターン2:賃貸借
親が所有権or借地権を持つ土地に有償で借地権設定した場合、支払われなかった権利金(あるいは一時金)について子に贈与税が課税される
■パターン3:無償or格安での譲渡
親の所有権or借地権を無償または格安で譲渡する場合、本来支払われるべき対価と実際に支払われた額の差額について子に贈与税が課税される
■パターン4:子による底地買い取り
親が借地権を持つ土地について、地主の持つ所有権を子が買い取った場合、借地権評価額について親に贈与税が課税される
トータルの課税額(贈与税+将来生じる相続税)の対策として相続時精算課税あるいは小規模宅地特例の適用が考えられますが、節税効果については税理士のシミュレーションが必要です。
課税関係だけではなく「登記の問題」「建築基準法上の問題」「家族間で公平化をはかるための生前対策」など、周辺事項も一帯の問題として考えなければなりません。 相談の際は、複数の分野と連携のとれる税理士事務所や法律事務所をあたるのがベストです。
日本クレアス税理士法人
執行役員 税理士 中川義敬
2007年 税理士登録(近畿税理士会)、2009年に日本クレアス税理士法人入社。東証一部上場企業から中小企業・医院の税務相談、税務申告対応、医院開業コンサルティング、組織再編コンサルティング、相続・事業承継コンサルティング、経理アウトソーシング決算早期化等に従事。事業承継・相続対策などのご相談に関しては、個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業承継」、「争続にならない相続」のアドバイスを行う税理士として定評がある。(プロフィールページ)
・執筆実績:「預貯金債券の仮払い制度」「贈与税の配偶者控除の改正」等
・セミナー実績:「クリニックの為の医院経営セミナー~クリニックの相続税・事業承継対策・承継で発生する税務のポイント」「事業承継対策セミナー~事業承継に必要な自己株式対策とは~」等多数
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