遺産相続に伴う手続きを行うことになったけれど、遺産の種類が多すぎて手続きが大変…そんなお悩みを抱えていませんか。
相続では遺産の名義変更や銀行口座の解約など、早めにすべき手続きが多くあります。
多くある手続きの負担を軽減してくれるのが、法定相続情報証明制度です。
この記事では、法定相続情報証明制度とは何かを詳しく解説します。
制度を利用することで得られるメリット・デメリット、利用の流れも紹介するので、相続手続きの悩みを抱えている方は参考にしてください。
1. 法定相続情報証明制度とは?
法定相続情報証明制度という言葉をご存じでしょうか。
あまり聞くことのない単語なので、初めて目にしたという方も多いでしょう。
ここでは、法定相続情報証明制度とは何かを詳しく解説します。
1-1. 法定相続情報一覧図1枚で手続きが簡略化できる!
法定相続情報証明制度とは、亡くなった人に関係する法定相続人の一覧図を、法務局が証明する制度です。
人によって、法定相続人の有無は大きく異なります。
親や兄弟が存命、または子どもがすでに家庭を持っており、孫も複数人いる場合は、法定相続人の数が多くなるでしょう。
相続人の数が多いほど、遺産を受け取る権利を持つ人の把握が難しくなります。
相続手続きを行う機関は戸籍謄本から相続関係を読み取る必要があるので、相続する人・手続きを行う機関の双方に大きな負担が生じるのです。
法務局から証明されている法定相続情報一覧図があれば、手続きを行う機関は相続の権利を持つ人をすぐに把握できます。
相続する人は手続きのたびに戸籍謄本を用意する手間を省けるため、手続きの簡略化に有効です。
1-2. 相続関連の手続きが多い人におすすめ!
法定相続情報一覧図の作成は、相続関連の手続きが多い方に特におすすめです。
相続関連の手続きの数は、故人の財産内容に応じて異なります。
不動産や車を持っている場合は名義変更、銀行口座がある場合は解約手続きなどのほか、相続税の申告時にも戸籍謄本が必要になります。
戸籍謄本は出生から死亡までの分を用意しなければなりません。
これまでに何度か本籍地を変更している場合は、本籍地別の戸籍謄本を用意しなければならないので、相続手続きを終えるまでに時間がかかります。
法定相続情報一覧図があれば、手続きのたびに戸籍謄本を用意せずに済みます。
一覧図は必要な枚数を無料で取得できるため、取得にかかる費用を抑えられることも魅力です。
1-3. 法定相続情報一覧図だけでできる相続手続きは?
法定相続情報一覧図のみで行える相続手続きは以下の通りです。
- 不動産の名義変更
- 車の名義変更
- 預金の払い戻し
- 有価証券の名義変更
- 相続税の申告
- 遺族年金や死亡保険金の請求
法定相続情報一覧図を用意しておけば、上記の手続きを簡略化できます。
戸籍謄本を用意する必要がなくなるだけでなく、手続きを行う側も早めに作業を進められるため、どちらもメリットを得られるでしょう。
下記記事では、相続手続きを自分で行う場合について解説していますので、ぜひ併せてご覧ください。
【関連記事】相続手続きは自分でできる?相続登記など自分で行う方法や流れを解説!
2. 法定相続情報証明制度を利用するメリット4つ
法定相続情報証明制度のことはわかったけれど、作成することでメリットは得られるの?と気になった方も多いでしょう。
ここでは、一覧図を作成することで得られるメリットを4つ紹介します。
2-1. 相続時の手続き負担を軽減できる
一覧図を作成する最大のメリットは、相続時の手続き負担を大きく減らせることです。
前述したように、相続の手続きを進める機関は戸籍謄本から法定相続人を読み解かなければなりません。
相続の権利を持つ人を把握するまでに時間がかかるため、手続き完了まで機関を要するでしょう。
法定相続情報一覧図があれば、相続の権利を持つ人をすぐに把握できます。
機関側が手続きをスムーズに進めることで、相続をする人は手続き完了までの期間を短縮できるメリットを得られるので、双方の負担を減らせるでしょう。
2-2. 戸籍の束で相続人を証明する必要がなくなる
法定相続情報一覧図を作成しておけば、書類の提出場所別に戸籍の束を用意せずに済みます。
前述したように、相続手続きの際には故人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要です。
複数回本籍地を変更している場合は、すべての戸籍謄本を集めて提出する必要があるため、持ち込む手間もあるでしょう。
すべての戸籍謄本を集めて法定相続情報一覧図を作成すれば、一覧図1枚を提出するだけで手続きを行えます。
戸籍の束を持って手続きに行く必要がないので、手続きのたびにかかる負担を軽減することが可能です。
2-3. 一覧図の発行に関して費用がかからない
一覧図を発行する際の費用は無料となっているので、金銭的な負担を軽減できる点も魅力です。
戸籍謄本は1通につき450円の発行手数料がかかります。
手続きを同時に進めたい場合は複数枚発行する必要があるので、高額の手数料が発生するでしょう。
相続情報一覧図は無料で発行できるので、取得するたびにお金がかかることはありません。
金銭的な負担なく手続きを進められるでしょう。
2-4. 申請から5年以内なら何度でも発行可能
相続情報一覧図の申請後5年間は、何度でも一覧図を発行できます。
一覧図を発行する際は、故人の戸籍謄本や相続人全員の現在の戸籍を証明する書類など、用意すべきものが多くあります。
申請時のみ発行可能な手続きとなると、その後の再発行が難しくなるでしょう。
発行のたびに戸籍謄本を用意しなければならなくなるので、手続きの手間が増えてしまいます。
相続情報一覧図の発行は申請から5年間の発行期間が設けられているため、必要に応じて書類をもらえます。
3. 法定相続情報証明制度の4つのデメリット
法定相続情報証明制度には、手続きのたびにたくさんの戸籍謄本を用意する必要がないメリットがあります。
その一方で注意しておきたいデメリットもあるので、ここで紹介しましょう。
3-1. 戸籍謄本の収集・関係図の作成など作成の負担が大きい
制度を利用する前に、申請者が相続人の関係図を作成する手間がある点は大きなデメリットだといえます。
申請前にすべきこととして、故人の戸籍謄本を集める手間があります。
戸籍謄本を集めた後、故人を中心とした家系図を作成しなければなりません。
家系図を作成するには、親族関係の調査も必要です。
関係が希薄であまり連絡も取らない人ばかりだと、調査に時間がかかる恐れもあります。
3-2. 相続手続きが少ないと一覧図作成の負担に見合わない
一覧図作成の前に家系図の作成という大きな手間があるものの、実際に一覧図を使う機会が少ないと恩恵を受けられない点もデメリットです。
故人の遺産の種類がバラバラで、相続手続きが多い方は大きなメリットを得られるでしょう。
遺産の種類が限られており、相続手続きも少ない場合は一覧図作成による負担のほうが大きく感じるかもしれません。
まずは遺産内容を確認し、相続手続きの数を確認することがおすすめです。
3-3. 戸籍謄本は結局収集する必要がある
一覧図を作成すれば戸籍謄本を何度も発行する必要はないものの、申請前に一度集めなければなりません。
相続手続きが多い方にとって、何度も戸籍謄本を発行する必要がない点は大きなメリットだといえるでしょう。
しかし、申請時に戸籍謄本が必要になるため、一度は収集しなければなりません。
一覧図の作成有無を問わず、一度は戸籍謄本を集める必要がある点に注意しておきましょう。
3-4. 法定相続情報一覧図が利用できない場合もある
相続手続きの場所によっては、相続情報一覧図を受け付けてもらえないところもあります。
受け付けていない場所に一覧図を持って行っても手続きが行えないので、二度手間にならないよう事前に確認することが大切です。
事前に確認しておきたい点は以下の通りです。
- 手続きに相続情報一覧図は利用可能か
- 受け付けていない場合は戸籍謄本のコピーの提出でも問題ないか
まずは手続きを行う場所に、相続情報一覧図を利用できるかを聞いておきましょう。
利用可能な場合は一覧図、利用不可の場合は戸籍謄本のコピーでも受け付けてもらえるかを確認します。
手続き場所によってコピーを受け付けているところもあれば、原本のみ受け付けというところもあります。
事前に確認することで原本を何通用意しておくべきかを把握できるので、後々の手続きをスムーズに進められるでしょう。
4. 法定相続情報証明制度を利用するまでの5ステップ
法定相続情報証明制度の利用を検討している方は、利用の流れを把握することが大切です。
流れを把握することで困ることなく一覧図を入手できるので、ここで解説します。
4-1. 戸籍謄本や住民票の除票など必要書類を収集
まずは申請に必要な書類を集めましょう。
必要な書類は以下の通りです。
- 故人の除籍謄本
- 故人の住民票の除票
- 故人の戸籍謄本、または抄本
- 申請者の本人確認書類
上記の4つの書類は必ず提出しなければならないので、申請までに用意しておきましょう。
続いて、場合によって必要となる書類を紹介します。
- 相続人全員の住民票記載事項証明書(一覧図に相続人の住所を記載する場合)
- 故人の戸籍の附票(故人の住民票の除票を取得できない場合)
- 委任状(代理人が申請をする場合)
ケースに該当する場合は、上記の4つの書類にあわせて必要なものを用意しましょう。
4-2. 自分で「法定相続情報一覧図」を作成
申請前に、家系図を作成しましょう。
家系図の例は以下の通りです。
引用:法務局「主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例」
こちらは、法定相続人が配偶者と子どもの場合の記載例です。
法定相続人に応じて家系図の記載例が異なるため、法務局のホームページから例をチェックすることがおすすめです。
4-3. 申出書を記入して法務局に提出する
家系図を作成したら、次は申請書をダウンロードしましょう。
申請書は法務局のホームページからダウンロードできます。書き方は以下の通りです。
記入する項目がいくつもあるので、記載例をもとに書き進めることがおすすめです。
記入後は、内容に誤りがないかを入念に確認しましょう。
作成し終えたら、法務局に申請書と家系図などを提出します。
法務局は全国各地にあり、受け付けてもらえるのは以下いずれかの場所です。
- 故人が亡くなったときの本籍地
- 故人の最後の住所があった地域
- 申請者の住所の地域
- 故人名義の不動産がある地域
いずれかに該当する地域にある法務局に申請できるので、申請しやすい場所の法務局を調べましょう。
4-4. 「法定相続情報一覧図」の写しを発行してもらう
申請から1週間ほど経過した後に、法定相続情報一覧図の写しが交付されます。
交付される際に、必要な数を伝えておくことが大切です。
登記所が必要枚数分の相続情報一覧図を発行してくれるので、事前に手続きの数を確認しておきましょう。
4-5. 一覧図の写しを利用して相続手続きを行う
相続情報一覧図の写しを入手したら、相続手続きを進めていきましょう。
一覧図には有効期限がないので、すぐに手続きができなくても問題はありません。
ただし、手続きを行う機関によってはいつ頃発行されたものかをチェックされるので、手続き前に聞いておくといいでしょう。
5. 法定相続情報証明制度利用時の注意点
法定相続情報証明制度は、相続手続きを簡略化できる便利な制度です。
ただし、利用におけるいくつかの注意点があるので、ここで解説します。
5-1. 一覧図の写しは即日交付されるわけではない
相続情報一覧図の申請をしたその日に、写しを交付してもらえるわけではありません。
写しが発行されるのは、申請をしてから約1週間後です。
すぐに写しをもらえないので、手続きをする直前に申請するのはおすすめできません。
申請から少し時間が経過してから写しをもらえることを念頭に置き、さまざまな手続きを進めていきましょう。
相続手続きを早く終えたい場合は、一覧図の申請も早めに済ませることが大切です。
5-2. 住所を記載していないと一覧図以外の書類が必要になる場合も
相続情報一覧図に相続人の住所を記載していないと、相続手続きの際に別途書類を求められる可能性があります。
前述したように、一覧図に相続人の住所を書く場合は、申請時に住民票記載事項証明書をあわせて提出しなければなりません。
一覧図に住所を記載するかどうかは相続人が自由に決められるので、必ずしも提出する必要はありません。
しかし、一覧図に相続人の住所が記載されていないと、相続登記の申請や遺言書情報証明書の交付の請求時などに住民票の写しを用意しなければなりません。
一覧図に住所を記載しておけば後々の手続きで別途書類を用意せずに済むため、一覧図の申請時に用意することがおすすめです。
5-3. 数次相続の場合には一覧図が2枚必要
数次相続となる場合は、相続情報一覧図を被相続人別に用意しなければなりません。
数次相続とは、亡くなった人の遺産分割協議中に相続人が亡くなり、別の相続が開始することです。
身内であっても、人によって相続関係が変わります。
そのため、数次相続の際は亡くなった人別に相続情報一覧図を作成する必要があるのです。
5-4. 相続税申告に利用する場合には2つの形式を満たす必要がある
相続税申告に一覧図を使う場合は、以下の条件を満たさなければなりません。
- 図形式の一覧図であること
- 子どもが実子と養子で区別されていること
相続情報一覧図は図形式・列挙形式のどちらかで作成します。
図形式の例は以下の通りです。
続いて、列挙形式の例を見てみましょう。
一般的に一覧図の作成は図形式で行われ、相続税申告に使えるのも図形式と決められています。
そのため、申請時には図形式での作成をお願いしましょう。
また、一覧図に記載されている子供の続柄が実子と養子で区別されているかを確認することも大切です。
実子と養子では、相続税の計算時に違いが出てきます。
実子と養子が区別されていないと税務署も関係を把握しづらいため、子どもの続柄を明確に記載しましょう。
6. 法定相続情報証明制度の申請は専門家への依頼もおすすめ
法定相続情報一覧図を作成したいけれど、必要な書類を集める時間だけでなく、申請にかけられる時間もないとお困りではありませんか。
一覧図作成に必要な書類収集や申請は、専門家に依頼できます。
ここでは、専門家への依頼に必要な委任状の書き方、依頼する際の費用相場を紹介します。
6-1. 専門家への依頼に必要な委任状の書き方
専門家に相続情報一覧図の申請を委任する際は、委任状を作成する必要があります。
委任状は以下の通りです。
引用:法務局
こちらは法務局から提供されているので、事前にダウンロードし、記入しておきましょう。
代理人の部分には申請を依頼する専門家の住所と氏名、被相続人の部分は亡くなった人の最後の住所・氏名・亡くなった日付を記載します。
最後に、申請を委任する人の住所と氏名を書けば完成です。
委任状は法定相続情報一覧図の申請の際に必要になるため、事前に作成しておきましょう。
6-2. 税理士に法定相続情報証明制度の申請を頼んだ際の費用相場
税理士に法定相続情報一覧図の申請を依頼する場合の費用相場は、30,000~50,000円です。
一覧図の作成にあたって必要になる書類を自身で集める場合は安く、書類収集から申請まですべての作業を任せる場合は高額になります。
税理士によって依頼費用が異なるため、できるだけ費用を抑えたい方は複数の税理士事務所を比較することがおすすめです。
7. 法定相続情報証明制度についてよくある質問
法定相続情報証明制度のメリットやデメリットはわかったけれど、まだ気になる点がいくつかあるという方も多いでしょう。
ここでは、法定相続情報証明制度によく寄せられる質問を紹介します。
7-1. 相続放棄・欠格・廃除者は一覧図でどのように扱う?
相続情報一覧図を作成する際、相続放棄・欠格・廃除者は以下のように扱います。
- 相続放棄:一覧図にも相続放棄をした人の住所や氏名を含める
- 欠格:欠格に該当する人の住所や氏名も含める
- 廃除者:推定相続人が廃除された場合はその人の住所や氏名を含めない
一覧図に含めるかどうかは、戸籍への記載有無に応じて変わります。
相続放棄をしたことや欠格に該当したことは、戸籍に記載されません。そのため、一覧図に含める必要があります。
その一方で、推定相続人の廃除の裁判が確定された場合は戸籍に情報が記載されるので、一覧図に含める必要はありません。
7-2. 法定相続情報一覧図の写しに有効期限はある?
法定相続情報一覧図には有効期限がないので、発行日を気にせず使えます。
交付してもらってから数カ月後に相続手続きを行うとしても、一覧図は問題なく使えるので、焦って手続きを進めずに済みます。
ただし、利用時には2つの点に注意が必要です。
1つ目は、交付は申請から5年間のみだということです。
5年の間であれば何度でも発行してもらえますが、5年を過ぎると発行できなくなるため、期限内に手続きのすべてを終えましょう。
2つ目は、民間企業や銀行のなかには有効期限を設けているところもある点です。
発行された日付によっては受け付けてもらえないので、手続き前に確認しておくといいでしょう。
7-3. 法定相続情報一覧図の再交付は即日できますか?
法定相続情報一覧図の再交付は、書類内容に問題がなければ即日で受け取れます。
前述したように、申請から初めて受け取るまでには約1週間ほどかかります。
しかし、再交付の場合は即日で受け取れるため、すぐに必要な場合は法務局に足を運びましょう。
8. 法定相続情報証明制度を利用して手続きを簡略化しよう!
法定相続情報証明制度とは、相続手続きに必要となる書類の用意を簡略化できる制度です。
故人に関係する相続情報をまとめた相続情報一覧図を作成しておけば、手続きの際に戸籍謄本を用意する必要はありません。
人によっては数多くなる戸籍謄本を、1枚にまとめられる大きなメリットがあります。
制度を利用する際は、必要書類を用意して法務局に申請する必要があります。
書類の収集や申請に時間をさけない方は、税理士などの専門家に依頼することも可能です。
委任すれば手間なく相続情報一覧図を入手できるため、相続手続きを円滑に進められるでしょう。
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