借地権とは、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいいます(借地借家法第2条)。一言で表現すると、他人の土地を利用できる権利です。
借地権者(土地を借りている人)が亡くなって、その借地権を相続した場合、相続人は、土地の利用という経済的な利益を受け続ける権利を得ることから、その権利の評価額に対して、相続税が課税されます。
今回は、相続における借地権の評価方法として、相続で取り上げられやすい普通借地権、定期借地権(一般定期・事業用定期・譲渡特約付)の評価方法や、その他の参考として一時使用目的の借地権について解説を行います。
目次 |
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1.普通借地権とは |
1.普通借地権とは
普通借地権とは、借地権者の権利に配慮した借地権です。
契約期間は30年以上とされ、それより短期間の契約を締結した場合でも、契約期間は30年間存続させることができます。
また、契約期間が満了しても、借地に借地権者の建物が在る状態で、借地権者からの更新を請求すれば、原則、契約は更新できます。このとき、地主は正当な理由がなければ、更新を断ることはできません。(正当な理由があれば断ることができます)
さらに、契約の更新が行われなかった場合、借地権者は地主に、その建物を時価で買い取ることを請求できます。
このように普通借地権は、借地権者が土地を借り続けられるように、借地権者側にかなり有利に設定されています。
なお、定期借地権と区別するため、便宜上、普通借地権と呼びますが、法律上の名称ではありません。
1-1.普通借地権の相続税評価額の計算
普通借地権の相続税評価額は、次の計算式となります。
<計算式> 普通借地権の価額=自用地の価額×借地権割合 |
自用地の価額とは、その土地を人に貸していない状態での評価額です。
自用地は、路線価方式といって、土地に接する道路に付された「路線価」に、地積や、土地の形状等に応じた補正率をかけて計算されます。
路線価のない地域の土地は、倍率方式といって、国税庁が定めた所定の倍率を、土地の固定資産税評価額にかけて評価します。
※土地の値段の算出方法はこちらのコラムをご参考ください⇒「相続税路線価(そうぞくぜいろせんか)の基本」
1-2.自用地の評価は“補正”が難しい
自用地の評価は、その土地の個々の形状や区域、立地状況、利便性などから、必要な補正率を選択して適用しなければなりません。
補正率は非常に多くの種類があり、その土地にどの補正率を適用するかが非常に難しくなります。
また、二方、三方と路線価が付された道路に接している場合などで、計算方法も変わるため、実際の計算はかなりルールが複雑です。
1-3.借地権割合について
借地権割合とは、借地権を評価するための割合のことです。
路線価に、A~Gの7段階で付されています。
Aが90%、Bが80%・・・と10%刻みで下がり、Gの30%まで設定されています。
たとえば、路線価図に「100A」と記載されていたら、「路線価は1平方メートルあたり10万円、借地権割合は90%」という意味になります。
最高のA(90%)では、自用地の9割もの価額で借地権が評価されますが、これは使用価値が非常に高い土地であることを示しています。
なお、路線価のない倍率方式の地域では、倍率とともに、適用する借地権割合が記載されています。
1-4.借地権割合のない土地がある?
財産評価通達第2章27では、「権利金その他の一時金を支払うなど借地権の取引慣行があると認められる地域以外の地域」の借地権は評価しないとしています。
一般に利用価値の高い土地の賃借をする場合、地主は借地権者から、権利金等を一時金で受け取るという商慣行がありますが、上記の通達では、こうした慣行がない土地にまで、借地権を評価する必要はないとしたものです。
こうした慣行があるかどうかは、路線価図に借地権割合が記載されていないことでおおむね判断できます。
2.定期借地権とは
定期借地権とは、地主側の権利に配慮した借地権です。
更新しないことを前提としているため契約の満了とともに消滅します。
借地権者からすれば、契約終了時に必ず土地を返還しなければならないため、普通借地権ほど自由に利用できません。したがって、その分、評価額も低くなります。
定期借地権には、その貸付期間や使用目的などから、次の3つの区別があります。
・一般定期借地権
・事業用借地権
・建物譲渡特約付借地権
ただ、相続税評価額の計算方法については、この3つに区別はありません。
2-1.定期借地権の相続税評価額の計算
定期借地権は、原則、課税時期において借地権者に帰属する経済的利益及びその存続期間を基として評定した価額によって評価するものとされていますが、課税上の弊害がない限り、次の計算式で評価します。
<計算式> 定期借地権の価額=自用地の価額×定期借地権割合×逓減率 |
・定期借地権割合=A/B
A:定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益の総額
B:定期借地権等の設定の時におけるその宅地の通常の取引価額
・逓減率=C/D
C:課税時期におけるその定期借地権等の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
D:定期借地権等の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
定期借地権の価額を求めるためのAからDの項目について以下で解説をします。
■定期借地権割合
借地権設定時の取引価額に対し、借地権者に帰属する額が占める割合をいいます。
A:定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益の総額
Aは、次のア、イ、ウで計算した金額の総額となります。
要件 | 計算額 | |
ア | 定期借地権等の設定に際し、借地権者から借地権設定者に対し、権利金、協力金、礼金などその名称のいかんを問わず借地契約の終了の時に返還を要しないものとされる金銭の支払い又は財産の供与がある場合 | 課税時期において支払われるべき金額又は供与すべき財産の価額に相当する金額 |
イ | 定期借地権等の設定に際し、借地権者から借地権設定者に対し、保証金、敷金などその名称のいかんを問わず借地契約の終了の時に返還を要するものとされる金銭等(以下「保証金等」という。)の預託があった場合において、その保証金等につき基準年利率未満の約定利率による利息の支払いがあるとき又は無利息のとき | 【計算式】 保証金等の額に相当する金額-A-B A:(保証金等の額に相当する金額×定期借地権等の設定期間年数に応じる基準年利率による複利原価率) B:(保証金等の額に相当する金額×基準年利率未満の約定利率×定期借地権等の設定期間年数に応じる基準年利率による複利年金現価率) |
ウ | 定期借地権等の設定に際し、実質的に贈与を受けたと認められる差額地代の額がある場合 | 【計算式】 差額地代の額×定期借地権等に応じる基準年利率による複利年金現価率 |
アは、借地権設定の時に、被相続人が一時金として支払った権利金や礼金等がある場合、課税時期において支払われるべき金額を借地権者の経済的利益とするものです。
権利金や礼金など返還されない金銭は、地代の前払いのように借地権者の利益に帰属すると考えられます。ただし、権利金や礼金といった名称にかかわらず、返還の要否など内容や実態で判断しなければなりません。
イは、契約終了時に返還される保証金、敷金等を地主に預けているとき、その預けたお金に対し、利息がないか基本利率より低い利息が設定されている場合に必要な計算です。
利息がなければ、経済的利益というよりも損をしているように思えますが、返還される金銭は、そもそも借地権に帰属しない(返してもらえるので借地権の地代等になっていない)という認識が必要です。
そうなると計算から除外されるべきものですが、ここでは、本来もらえるべき利息がないことを捉え、もらえていない利息部分が、アと同様、地代の前払いのように借地権に帰属するという考え方をします。
なお、保証金、礼金といった名称にかかわらず、内容や実態での判断が必要です。
計算式は読みづらいですが、数字をあてはめるとイメージしやすくなると思います。
基準年利率は、国税庁のHPで確認できます。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hyoka/190520/01.htm
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hyoka/190520/pdf/002.pdf
ウは、借地権設定の時に、相場より低い地代など、実質的に贈与を受けたと見られる額がある場合です。同種同等の他の定期借地権等における地代の額と、その定期借地権等の設定契約で定められた地代の額との差額を使用します。
なお、上記ア、イがある場合、実質的にこれらは地代の前払いですので、ア、イのそれぞれから一定の方法で算出した額を契約上の地代の額に上乗せして計算しなければなりません。
B:定期借地権等の設定の時におけるその宅地の通常の取引価額
定期借地権を設定している土地の取引価額です。借地権設定時の価額となる点に注意が必要となります。
■逓減率(C/D)
借地権の設定年数のうち、残存年数に対する複利年金現価率の割合です。
C:課税時期におけるその定期借地権等の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
D:定期借地権等の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率
複利年金現価率とは、一定の金額を毎年積み立てて複利運用した総額の、現在価値を計算する係数のことです。複利運用の率は、基準年利率を使用します。
2-2.定期借地権は当時の資料がカギ
計算が非常に複雑な定期借地権の相続税評価額の計算をご自身でやってみようと思われる方は、少ないかも知れません。
定期借地権の評価でカギとなるのは、定期借地権を設定した当時の情報を漏れなく収集できるかどうかにあります。地主に支払った権利金などに計上漏れがあれば、そのまま過少申告に繋がります。古い契約書や領収書の内容を、読み解かなければならないこともあるでしょう。
定期借地権の相続は、税理士などの専門家にお任せになることをお勧めします。
3.一時使用目的の借地権
一時使用目的の借地権とは、建設現場、博覧会場、一時的興行場等、その性質上一時的な事業に必要とされる臨時的な設備を所有することを目的とするいわゆる一時使用のための借地権です。
国税庁は、一時使用目的の借地権については、他の借地権より権利が著しく弱いため、通常の借地権の評価は適当でないとしています。
国税庁HP:一時使用のための借地権の評価(照会) https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/04/21.htm
このことから、一時使用のための借地権は、雑種地(宅地・田・山林などいずれの地目にも該当しない雑目的の土地)の賃借権と同じ方法で評価します。
借地権の存続期間について、明確な基準はありませんが、前掲の照会では、契約期間を「2年」とする賃貸借契約について、一時使用のための借地権として評価しています。
3-1.一時使用目的の借地権の相続税評価額の計算
雑種地の賃借権の価額は、原則として、その賃貸借契約の内容、利用の状況等を勘案して評価することとし、次の計算式で評価することが認められています。
■地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権(例:賃借権の登記がされているもの 等) ■上記以外の賃借権 |
(※)法定地上権割合・・・残存期間に応じて、5%~90%
4.借地権を相続したときの手続き
賃借権を他人に譲渡したり、転貸したりする場合は、地主の承諾が必要ですが、相続の場合は不要です。
この場合、地主に相続人になって新たな借地権者となったことだけ連絡しておきましょう。このとき、地主から立退きを請求されたとしても、賃借契約の期間が残っていれば、立退きは不要です。
また、地主から賃貸借契約書の名義書換が必要と言われ、その料金を請求されるケースがあるようですが、作り直す義務はありません。
ただし遺贈によって取得した場合は、地主の承諾が必要と解されることが一般的です。
5.まとめ
借地権を相続した場合の評価方法は、
・普通借地権
・定期借地権
・一時使用目的の借地権
で異なります。
どれも計算が複雑で専門的な判断を要する部分もあるため、専門家であったとしても簡単に評価できるものではありません。
借地権を相続したときや借地権にかかる相続対策をお考えの方は、相続の経験豊富な税理士にご相談下さい。
日本クレアス税理士法人
執行役員 税理士 中川義敬
2007年 税理士登録(近畿税理士会)、2009年に日本クレアス税理士法人入社。東証一部上場企業から中小企業・医院の税務相談、税務申告対応、医院開業コンサルティング、組織再編コンサルティング、相続・事業承継コンサルティング、経理アウトソーシング決算早期化等に従事。事業承継・相続対策などのご相談に関しては、個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業承継」、「争続にならない相続」のアドバイスを行う税理士として定評がある。(プロフィールページ)
・執筆実績:「預貯金債券の仮払い制度」「贈与税の配偶者控除の改正」等
・セミナー実績:「クリニックの為の医院経営セミナー~クリニックの相続税・事業承継対策・承継で発生する税務のポイント」「事業承継対策セミナー~事業承継に必要な自己株式対策とは~」等多数
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