「法定相続人の範囲はどこまで?」
「ほかの人より優先して相続できるのは誰?」
遺産相続において法定相続人になれる家族や親族は誰か、その範囲について気になる方も多いでしょう。
実は法定相続人として認められる方、相続できる遺産の割合は、被相続人の状況によって変わります。
そこで本記事では、法定相続人の範囲・順位や相続割合などについて解説します。
誰が法定相続人になるのか知っておきたいという方や相続手続き中の方はぜひご覧ください。
目次
1. 法定相続人とは?
まず法定相続人とは、被相続人の財産の相続権利を有していることを、民法で認められている方です。
法定相続人の代表例としては、被相続人の配偶者や子供など。
実は遺産を相続可能な方や相続できる順番・相続する財産の割合などは、民法でルールとして定められています。
遺産の分割方法について家族・親族で話し合う「遺産分割協議」も民法のルールに則って進めます。
このように、遺産相続や分割は被相続人などが好き勝手に決められるわけではなく、民法の規定に従う必要があります。
2. 法定相続人の範囲・相続順位・法定相続分
具体的に誰が法定相続人となるかについては、民法の886条から890条に記載があります。
遺言などで別途遺産を分け与えないかぎり、民法が定めた範囲ではない方が相続人になることはできません。
また民法では、相続できる人が決まる順番や相続可能な財産の割合についてのルールも決められています。
たとえば被相続人に配偶者と子供がいる場合、その他の家族や親族は法定相続人に含まれません。
この場合、配偶者と子供ですべての財産を相続することになります。
ここからは、民法における相続順位や相続分のルールについて解説していきます。
2-1. 配偶者は常に法定相続人になる
被相続人に配偶者がいる場合には、条件なしで常に法定相続人として扱われます。
ただし、法律上で婚姻をしている場合に限られ、内縁関係にある夫や妻は法定相続人に含まれません。
たとえ何十年と長期間にわたって連れ添った間柄だとしても、法律婚を済ませていないと法定相続人として認められませんので注意しましょう。
逆に言えば、婚姻して1日経過しただけでも法定相続人となります。
なお、たとえ相続発生時に別居または離婚調停が行われている状況でも、婚姻関係が継続している状態なら法定相続人と認められます。
配偶者以外に法定相続人として認められるのは、血族相続人のうちもっとも高い順位の方です。
ここから、その順番について解説します。
2-2. 第1順位:子や孫などの直系卑属(血族相続人)
配偶者を除いた家族・親族のなかで、第1順位として扱われるのが子・孫などであり、直系卑属といいます。
直系卑属とは被相続人から見て、下の世代に位置する血縁者のことを意味します。
ただし、再婚相手の子供などが被相続人の実子でない場合、法定相続人とは認められません。
子がすでに亡くなり、さらにその子である孫がいる場合、孫が代襲相続人として認められます。
被相続人に配偶者と子の両方が存在している場合、被相続人の父・母や兄弟姉妹は法定相続人にはなれません。
配偶者がすでに亡くなっている場合、相続人となるのは子のみです。
2-3. 第2順位:父母や祖父母などの直系尊属(血族相続人)
子・孫などの次に、第2順位を認められているのは、被相続人の父母などの直系尊属です。
被相続人から見て上の世代に位置する血縁者を直系尊属といいます。
子・孫などの直系卑属の場合と異なり、直系尊属には代襲相続が発生しません。
父母が他界している場合、その子(被相続人の兄弟姉妹)による代襲相続はできません。
被相続人の父母が亡くなっており、子もいない場合は、被相続人の祖父母が法定相続人となります。
2-4. 第3順位 兄弟姉妹(血族相続人)
第3順位として認められているのは、被相続人の兄弟姉妹です。
兄弟姉妹が法定相続人となるのは、被相続人の父母や祖父母が亡くなり、子もいない場合です。
兄弟姉妹の子には代襲相続が認められているため、兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪が法定相続人です。
ただし、子・孫など直系卑属の代襲相続では世代の制限はありませんが、兄弟姉妹の代襲相続は1世代のみと限定されています。
このため、甥や姪も亡くなっていた場合、さらにその下の子が代襲相続することはできません。
2-5. 法定相続人のパターン別の相続割合
法定相続人として誰がいるかによって、各人が相続できる財産割合は異なります。
法定相続人のパターン別に、相続割合を下記の表にまとめました。
<パターン別・法定相続人の相続割合>
常に法定相続人となる配偶者はもっとも多くの割合が認められ、その次に割合が多いのは子供です。
3. 【パターン別】法定相続人の範囲
相続にはさまざまなパターンがあり、法定相続人の範囲も変わってきます。
具体的には下記のパターンがあります。
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それぞれのパターンで法定相続人となる方や相続順位を解説します。
3-1. 相続放棄をした場合
相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続する権利を手放すことです。
借金などを相続しなくて済む代わりに、現金や不動産などプラスの財産もすべて相続できなくなります。
相続放棄をするには、相続開始を知った時点から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述書を提出し、受理されれば相続放棄が認められます。
相続放棄をした方は相続人と認められないため、ほかの法定相続人で財産を分割することになります。
ただし、相続放棄をすると代襲相続が適用されません。
たとえば被相続人の子が相続放棄をした場合に、孫による代襲相続は認められません。
また相続放棄は、異なる順位の方が同時に手続きすることはできません。
たとえば第2順位の方が相続放棄をできるようになるのは、第1順位の方が相続放棄をしてからです。
第1順位の方が相続放棄行い、相続権が回ってきてはじめて相続放棄を選択できるようになります。
3-2. 相続欠格・相続人廃除者がいた場合
相続欠格とは、犯罪を犯したなど相続人としてふさわしくない方の相続権を被相続人の意思とは関係なく剥奪することを指します。
相続欠格に該当する事由は以下のとおりです。
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相続欠格に該当すると、最初から相続人ではないとみなされるため、その他の法定相続人で遺産を分け合います。
相続廃除とは、被相続人の意思で相続する権利を手続きによって奪うことです。
DVや借金などで長年家族に苦しめられたなどの場合に、その家族に対して相続廃除の手続きが取られるケースがあります。
なお、相続廃除の対象となるのは、被相続人の配偶者・第1順位・第2順位のみで、第三順位は対象に含まれません。
相続欠格・相続廃除の方が法定相続人であった場合、子供がいればその子供が代襲相続人となり、相続権が引き継がれます。
3-3. 非嫡出子(内縁の妻の子)がいた場合
婚姻関係ではない男女から生まれた子が非嫡出子です。
非嫡出子も父または母が認知をすることで、嫡出子と同様に相続に関する第一順位を得られます。
一方、認知をしない場合は相続権がありません。
3-4. 再婚相手に連れ子がいた場合
嫡出子や認知をした非嫡出子は、第1順位としての相続権があります。
これに対して再婚相手の連れ子の場合、相続権は発生しません。
ただし、親の再婚相手と子供が養子縁組をした場合は、再婚相手の嫡出子として扱われるため、第1順位の相続権が発生します。
3-5. 離婚済みの元妻・元夫がいた場合
離婚をすると、法律上の婚姻関係ではなくなりますので、配偶者としての相続権は発生しません。
ただし、両親が離婚した子供の場合、離婚をしても親子関係は消滅せず残ります。
このため、親権のある親の相続権はもちろんのこと、親権のない親の相続権も第1順位として発生します。
3-6. 養子がいた場合
養子縁組によって養子がいる場合、実子と同じく法定相続人となります。
相続順位も第1順位であり、相続割合も実子と同様の権利が認められます。
ただし、普通養子と特別養子では扱いが異なるため注意が必要です。
普通養子は生みの親との親子関係を消滅させず、養親とも親子関係が発生する制度です。
よって普通養子は実親と養親の両方の相続権が発生します。
これに対し、特別養子は生みの親とは親子関係がなくなるため、実親の相続権は発生しません。
また、相続税の計算においては、法定相続人の数として含めることができる養子の数は最大で2人までです。
被相続人に実子がいる場合には1人、実子がいない場合には2人を法定相続人の数に含めることができます。
3-7. 相続開始時に胎児がいる場合
相続開始時に、被相続人の子・孫・兄弟姉妹などに胎児がいた場合、その胎児も法定相続人として認められます。
その理由は、民法において胎児はすでに出生したものとみなされるからです。
ただし相続するには無事に出生することが条件であり、死産・流産・中絶となってしまった場合には相続人として扱われません。
3-8. 代襲相続が発生した場合
被相続人の孫や甥・姪などによる代襲相続が発生した場合、その順位や相続割合は、本来の相続人と同等の内容が認められます。
このため、たとえば孫ならその親である子の順位や相続割合を引き継ぐことになります。
代襲相続人が複数いる場合には、本来の相続人が持つ相続割合を代襲相続人が等分して相続します。
3-9. 相続人に行方不明者がいる場合
法定相続人が行方不明となった場合も、相続人としての権利がすぐ失われるわけではありません。
よって、その他の法定相続人だけで遺産分割を進めることは不可能です。
ただし、行方不明者について失踪宣告の手続きをすることで、行方不明者は死亡したものとして扱われます。
この場合、その他の法定相続人だけで遺産分割協議を進められるようになります。
4. 法定相続人の範囲を調べる方法
遺産相続では、はじめにすべての法定相続人を特定する必要があります。
遺産分割を進めたものの、実はほかの法定相続人がいたことが後から判明すると、遺産分割が難航するからです。
家族関係が複雑化している現在、どこに相続人がいるのか分からない場合もあるため、法定相続人の特定は最初に行いましょう。
法定相続人の範囲を調べるには、戸籍謄本を順番に調べていくことが必要です。
被相続人の出生から死亡まですべての戸籍を取り寄せて、1つ1つ内容を確認します。
たとえば離婚した元夫・妻などに子供がいた場合、その子供も法定相続人として含めます。
必要な戸籍謄本をすべて取り寄せるには手間も時間も多くかかるため、相続が発生したら速やかに取り掛かる必要があります。
5. 法定相続人の範囲外の人に相続させる方法
相続する権利とは、法定相続人だけに認められるものではありません。
友人・知人、いとこなど、法定相続人ではない方に相続させる方法として下記の3つがあります。
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1つずつくわしく見ていきましょう。
5-1. 生前贈与を利用した相続
生前贈与とは、生きている間に財産を無償で与えることで、法定相続人以外にも贈与できます。
まったく血縁関係のない他人に生前贈与をしても問題ありません。
ただし生前贈与は契約の1つであり、受け取る側の承諾が必要ですので、意思を確認できない相手への贈与はできない点に注意しましょう。
後で法定相続人とトラブルにならないよう、贈与に関する契約書を作成しておくことが望ましいです。
多額の財産を一度に贈与すると、受け取る側に贈与税の負担が発生しますので、複数年に分けて贈与をするなどの工夫をしましょう。
5-2. 家族信託を利用した相続
家族信託とは、財産の管理や処分について、信頼できる家族に委託する契約のことです。
たとえば親が高齢でマンションの管理が大変になったとき、家族に委託して代わりに管理してもらえます。
近年では認知症対策としても注目されており、親の判断能力が低下する前に契約するケースもあります。
家族信託契約では、契約終了時に財産を引き継ぐ帰属権利者を定めることが可能です。
家族信託は家族や親族以外の第三者と契約することもできるため、第三者に財産を譲ることもできます。
ただし、帰属権利者に孫を指定すると遺贈と同じ扱いになり、相続税の2割加算発生するなどの注意点もあります。
家族信託は知識のない方が契約書を作成するのが難しいため、法律の専門家などに相談すると良いでしょう。
5-3. 遺言を利用した相続
財産を譲り渡す手段として、遺言をイメージした方も多いでしょう。
被相続人が財産について、遺言書を通じて自分の意思を示すことができます。
遺言書を遺すことで被相続人の意思どおりに遺産を分割でき、法定相続人以外の第三者に遺贈することも可能です。
たとえば子供の配偶者が長年面倒を見てくれたとしても、子供の配偶者は法定相続人ではないため財産の相続権がありません。
このような場合に遺言書によって、子供の配偶者に財産を遺贈することができます。
5-4. 遺言を残す場合は遺留分に注意
遺言によって遺贈するときは、遺留分を侵害しないように注意が必要です。
遺留分とは、法定相続人が財産を相続できる最低限の割合のことで、民法で認められています。
具体的な遺留分の例は下記のとおりです。
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上記以外にもパターン別に遺留分は変化します。
遺留分は人数で等分するため、たとえば法定相続人が2人の子のみなら、遺留分は1/4ずつです。
法定相続人が遺留分を受け取れない場合、相続・遺贈された方に対して遺留分侵害額請求を行うことで、遺留分を請求できます。
遺言によって遺留分を消滅させることはできないため、遺言書を作成する場合には遺留分に配慮する必要があります。
6. 法定相続人の範囲は被相続人を取り巻く状況で異なる!
法定相続人の範囲や法定相続分について、パターン別に紹介しました。
家族構成など被相続人を取り巻く状況によって、法定相続人の範囲は変化します。
相続放棄・相続欠格や廃除・養子の存在などによって、法定相続人が減ったり増えたりすることもあります。
過去に離婚した配偶者の子供など、想定外のところに法定相続人がいる可能性があるのも注意点です。
知識のない方では法定相続人の範囲を間違える可能性もあるため、相続の専門家に相談すると安心でしょう。
また法定相続人を特定するには、戸籍謄本をすべて取り寄せる必要があり、かなり手間がかかります。
遺産分割をスムーズに進めるには、相続が発生した時点で速やかに着手する必要があります。
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