「代襲相続すると相続税の基礎控除はどうなる?」「普通の相続と代襲相続は何が違うの?」
代襲相続という言葉を見て、このような疑問を持つ方も多いでしょう。
相続開始の時点で相続人がすでに亡くなっていたなどの場合に、相続人の子供などが代わりに相続することを代襲相続といいます。
代襲相続は相続税の計算や手続きについて、通常の相続と違う点がいくつかあるため注意が必要です。
本記事では代襲相続とは何か、相続税の基礎控除への影響、代襲相続に関する注意点について解説します。
代襲相続について知りたい方はぜひ参考にしてください。
1. 代襲相続とは?
代襲相続とは、相続が発生した時点で本来の相続人が死亡しているなどの理由により、相続人の子供などが代わりに相続することを意味します。
被相続人からみて、相続人であった子供がすでに死亡した場合は、その子供である孫が代襲相続人となります。
相続人であった兄弟姉妹がすでに死亡していた場合は、その子供である甥・姪が代襲相続人となります。
なお、相続人が父母の場合には代襲相続は発生せず、相続権が祖父母に移ります。
相続人が相続放棄をした場合、初めから相続人ではなかったとみなされます。
そのため、相続放棄をした人の子供などが代襲相続をすることはできません。
代襲相続人になれるのは、相続人の直系卑属に限定されます。
直系卑属とは、子供・孫など自分より後の世代で、直通する系統の親族のことです。
被相続人の養子の子供は、実子と同じく直系卑属に該当します。
これに対して養子の連れ子は被相続人の直系卑属ではないので、代襲相続はできません。
相続人が死亡した場合に加え、相続欠格や相続廃除の場合にも、代襲相続が発生します。
相続欠格とは、相続人が犯罪を犯したなどの理由で、相続人としての資格を失うことです。
相続欠格となる事例として、具体的に以下のケースがあります。
<相続欠格の事例>
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相続欠格では被相続人の意思はまったく関係がなく、自動的に資格を失います。
たとえ被相続人が遺産を残す旨の遺言を残していたとしても、相続欠格となった人が相続することは不可能です。
一度相続欠格となると、永遠に相続人としての資格を取り戻すことはできません。
相続廃除とは、被相続人や遺言執行者が相続人の資格を奪う行為のことです。
相続廃除が行われるケースとして、以下のような事例が挙げられます。
<相続廃除の事例>
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家庭裁判所へ申し立てを行い、審判を経て認められれば相続廃除ができます。
なお、相続廃除は後で取り消すことも可能なため、相続欠格とは異なり相続人の資格を回復させることもできます。
2. 代襲相続により法定相続人が増える場合がある
法定相続人とは、被相続人の財産を相続する権利を持つ人のことです。
具体的には民法886〜890条によって、下記のように規定されています。
法定相続人は相続順位で決まります。
たとえば、被相続人の配偶者と子どもが生きている場合、法定相続人は配偶者と子供のみです。
配偶者がすでに亡くなっている場合、子供のみが法定相続人となります。
上記の表で「亡くなっている場合」として記載しているのが、代襲相続の可能性がある血縁者です。
子供がすでに亡くなっている場合は孫、孫が亡くなっている場合は両親といった順番で決めていきます。
代襲相続によって法定相続人が増えるケースがあり、簡単な例でいうと、相続人に子供が2人いる場合です。
相続人1人が死亡して、代襲相続人が2人発生するため、結果的に相続人が1人増えることになります。
3. 代襲相続における基礎控除額の変化
相続税の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
たとえば法定相続人が3人なら、3,000万円+600万円×3=4,800万円となります。
法定相続人が1人増えるごとに、相続税の基礎控除額が600万円増える仕組みです。
代襲相続によって相続人となった人を代襲相続人と呼び、代襲相続人も基礎控除額の法定相続人に含まれます。
よって代襲相続によって、基礎控除額が増えるケースがあります。
基礎控除額が増える分、相続税が安くなるため節税になる点がメリットです。
<基礎控除額の計算例>
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4. 代襲相続に関する4つの注意点
代襲相続は通常の相続とは異なる点が複数あり、相続税の手続きでは以下の4点に注意が必要です。
<代襲相続の注意点>
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1つずつくわしく解説していきます。
4-1. 代襲相続が発生することで相続手続きが複雑になる
先ほど解説したとおり、代襲相続によって法定相続人が増えることは珍しくありません。
法定相続人が増えることにより基礎控除額が増加し、相続税を節税できる点はメリットといえます。
ただし、代襲相続で法定相続人が増えることで、手続きが複雑になる点に注意が必要です。
代襲相続人は孫や甥・姪などであり、親族同士が近くに住んでいなかったり、そもそも交流もあまりなかったりするケースも多いでしょう。
遺言書がなく遺産分割協議書を作成するとなれば、基本的に相続人全員が集まって協議を行う必要があります。
その場合スケジュールの調整など、遺産分割協議を開くだけでも大変になるでしょう。
さらに協議の結果を書類として残すため、遺産分割協議書を作成する必要があります。
書類の作成にあたり全員の署名と押印・印鑑証明書も必要となり、相続人同士の関係性が希薄だと手続きをスムーズに進めるのも困難です。
また、そもそもまったく面識のない法定相続人が発生することもあります。
たとえば被相続人の子供が全員先に死亡し、その子供(孫)同士が代襲相続人となるケースがあります。
この場合親戚同士で一切交流がなければ、相続をきっかけに初めて代襲相続人同士が顔を合わせることになります。
初対面で遺産の話をするとなると、揉めてしまう恐れもありますので注意が必要です。
4-2. 相続欠格・相続廃除を受けた相続人は計算に含めない
相続人が相続欠格や相続廃除を受けたことにより、代襲相続が発生することがあります。
この場合、相続人は存命の状態ですが、相続人の計算には含めないことをおさえておきましょう。
最初から相続人ではなかったと扱うため、法定相続人としてカウントすることはできません。
たとえば被相続人の子供Aが相続欠格のため、孫Bが代襲相続をする場合、相続人としてカウントするのは孫Bのみとなります。
4-3. 相続放棄の場合には代襲相続は発生しない
相続欠格や相続廃除とは違い、相続放棄の場合には代襲相続は発生しません。
相続放棄とは、被相続人の財産を相続する一切の権利を手放すことです。
借金などマイナスの財産の相続を回避できますが、預金などプラスの財産も相続できなくなります。
たとえば被相続人の子供や兄弟姉妹が相続放棄をした場合、孫や甥・姪が相続を希望しても代襲相続は不可能です。
ただし、相続放棄の場合には法定相続人として基礎控除額の計算には含めることになります。
相続税の計算で基礎控除額が増えるため、ほかの相続人の負担を減らすことができます。
4-4. 相続税が2割加算される場合がある
相続人が被相続人の一親等の血族と配偶者以外である場合、相続税額が2割加算されます。
一親等の血族とは、養子を含む子供と両親のことを意味します。
具体的に「2割加算」されるのは次のようなケースです。
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兄弟姉妹や甥・姪が代襲相続をする場合、2割加算の対象になります。
2割加算される理由は、相続税負担の均衡を図るためとされています。
5. 代襲相続についてよくある質問
代襲相続は通常の相続より手続きが複雑になるため、「この場合はどうなる?」と疑問が出てくる方も多いです。
ここからは代襲相続についてよくある質問と回答を紹介します。
<代襲相続についてよくある質問>
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それぞれの疑問を解消し、代襲相続について理解を深めましょう。
5-1. 甥や姪が代襲相続する場合もある?
被相続人の甥や姪が代襲相続するケースは、やや珍しいですが実際にあるケースです。
被相続人に子供・孫がおらず、両親もすでに亡くなっている場合は兄弟姉妹が相続人となりますが、兄弟姉妹も先に亡くなっている場合は甥・姪が代襲相続人となります。
甥や姪も亡くなっている場合、その先の子供による代襲相続(再代襲)は発生しません。
この点は、被相続人の孫が死亡していた場合にひ孫などによる再代襲ができるのと異なります。
また甥や姪が代襲相続をする際に、相続税が2割加算となる点にも注意が必要です。
5-2. 孫が代襲相続すると相続税は変わる?
孫が相続人となるケースは下記の3つです。
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このうち2つ目と3つ目のケースでのみ相続税が変わります。
これらのケースでは2割加算の対象となるため、相続税が増加します。
1つ目のケースは2割加算の対象にならないので、相続税は変化しません。
5-3. 養子がいる場合でも代襲相続は起こる?
血縁関係のある親子だけでなく、養子縁組を結んだ親子でも、条件に該当すれば代襲相続が発生します。 ただし、養子の子供(養親から見た場合の孫)が代襲相続人となるには、養子の子供が養子縁組後に生まれている必要があります。
養子縁組をする前に生まれた養子の子供の場合、代襲相続はできません。
また養親もしくは養子が亡くなった後に死後離縁をすると、法律上の親子関係がなくなるので代襲相続も発生しません。 死後離縁とは、養親または養子が亡くなった後に、養子縁組を解消するための手続きです。
5-4. 代襲相続人の法定相続分はどうなる?
代襲相続人にも、通常の相続人と同様の法定相続分が認められています。
たとえば孫が代襲相続人の場合、法定相続分は被相続人に配偶者や他の子供がいるかどうかで変わります。
配偶者がいる場合、配偶者の法定相続分は1/2であり、残りの1/2を他の法定相続人と分割していくことになります。
子供もいる場合、1/2のさらに半分である1/4が法定相続分として認められているため、代襲相続人の法定相続分は残りの1/4です。
5-5. 代襲相続人の遺留分はどうなる?
代襲相続人の遺留分請求は、元々の相続人に遺留分が認められている場合のみ可能です。
被相続人が兄弟姉妹の場合はそもそも遺留分がありませんので、代襲相続人の甥・姪が遺留分の請求をすることはできません。
これに対して孫の場合、本来の相続人である子供に遺留分が認められていますので、孫も遺留分侵害請求の手続きができます。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に認められている、法律で最低限保障される相続分のことを意味します。
遺留分は、誰が相続人となるかで割合が変わります。
たとえば、配偶者や子供・孫などがおらず、父母など直系尊属のみが相続人となる場合は、相続財産全体の3分の1が遺留分です。
直系尊属以外の人(兄弟姉妹を除く)が相続人となる場合、遺留分は相続財産全体の2分の1です。
遺留分の権利がある各相続人の法定相続分に応じて、財産を分け合います。
たとえば、配偶者と子どもが法定相続人の場合、相続財産に対する遺留分全体の割合は2分の1ずつとなります。
子供が複数いる場合、遺留分の2分の1について人数で等分します。
6. まとめ
ここまで代襲相続の仕組み、代襲相続の基礎控除額の変化などについて解説してきました。
相続人がすでに死亡していた場合、その子供である孫や、甥・姪などが代襲相続人となります。
代襲相続によって法定相続人が増えると、基礎控除額も増えるため、節税につながるメリットがあります。
しかし法定相続人の付き合いがあまりない場合、手続きがスムーズにいかなかったり協議で揉めたりするケースもあります。
また法定相続分や遺留分、2割加算など、相続に関する計算も煩雑になります。
複雑すぎて自分たちでは対応できないと考えるなら、税理士などの専門家に依頼しましょう!
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