不動産の相続

土地売却の税金はいくらでいつ払うの?最新の計算方法や控除・特例

監修

中村亨

日本クレアス税理士法人 代表 税理士 公認会計士

保有している土地をなんらかの理由から売却したいと考える人もいるでしょう。

しかし、土地の売却にはさまざまな種類の税金が発生することはご存じでしょうか。

思わぬ課税に驚かないように、売却前から知識を蓄えておくことがおすすめです。

また、相続した土地を売却する場合には、通常の土地の売却とは異なる注意点や特例があるため、事前にしっかりと理解しておくことが大切です。

本記事では、土地売却にかかる税金について、最新の計算方法や注意点などをわかりやすく解説します。

1. 土地の売却時にかかる3つの税金とは

1. 土地の売却時にかかる3つの税金とは

相続を問わず、土地を売却する際には主に3つの種類の税金が発生します。

これらの税金は、売却益にかかるものや契約書にかかるものなど、それぞれ性質が異なります。

  1. 譲渡所得税
  2. 印紙税
  3. 登録免許税

1つずつ解説します。

1-1. 譲渡所得税

土地の売却時に発生する利益に対して課税されるのが「譲渡所得税」です。

不動産を売却して得た利益は「譲渡所得」と呼ばれ、所得税・住民税が課税されます。

譲渡所得税は所得税と住民税を合わせた総称です。

譲渡所得税の計算は複雑ですが、特定の要件を満たしていると「特別控除」で税金を抑えることも可能です。

1-2. 印紙税

「印紙税」とは、不動産などの売買契約書を作成する際に課される税金です。

土地の売買でも契約書を作る必要があり、印紙を貼って納税します。

印紙代は契約書に記載された契約金額(売却代金)によって税額が決まります

金額が高くなるほど印紙税額も上がる仕組みとなっており、現在の課税税額は以下のように設定されています。

<平成26年4月1日~令和9年3月31日、軽減税率適用後の印紙税額>

契約金額

印紙税額

1万円未満

非課税

1万円以上10万円以下

200円

10万円を超え50万円以下

200円

50万円を超え100万円以下

500円

100万円を超え500万円以下

1,000円

500万円を超え1,000万円以下

5,000円

1,000万円を超え5,000万円以下

10,000円

5,000万円を超え1億円以下

30,000円

1億円を超え5億円以下

60,000円

5億円を超え10億円以下

160,000円

10億円を超え50億円以下

320,000円

50億円を超えるもの

480,000円

参考:  国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで

1-3. 登録免許税

「登録免許税」とは、不動産を登記する際に課される税金です。

売却する土地に抵当権が付いている場合、抵当権抹消の登記を行う必要があります。

登記の際に課税されるもので、抵当権がなければ登録免許税は発生しません。

なお、所有権移転登記は買主が負担するため、売主側には課税されません。

抵当権抹消登記には、土地一筆につき1,000円、家屋にも1件につき1,000円の登録免許税が課税されます。

加えて、手続きを依頼する司法書士には別途報酬も発生します。

2. 譲渡所得税はいくら?計算方法と相続時の特別控除も解説

2. 譲渡所得税はいくら?計算方法と相続時の特別控除も解説

譲渡所得税は税務署が計算を行い、納付書を送ってくるものではありません。

土地の売買で利益を得る売主自身が計算し、譲渡所得税の申告と納税を行う必要があります。

そこで、この章では譲渡所得税の計算方法や相続時に活用できる特別控除について解説します。

2-1. 譲渡所得と税額の計算方法

譲渡所得税額を計算する計算式は以下です。

  • 譲渡所得税額 = 課税譲渡所得金額 × 税率

計算するにあたっては、まず課税対象となる譲渡所得金額を算出する必要があります。

  • 課税譲渡所得金額 = 収入金額 - (取得費 + 譲渡費用) - 特別控除額

以下で課税対象となる譲渡所得金額の計算時に必要となる項目を詳しく見ていきましょう。

  1. 収入金額:売主が土地の売却によって得る収入そのものです。

  2. 取得費:売却した土地を取得するためにかかった費用全般を指します。
    相続時において例にすると、相続時に納めた登記費用や登録免許税、不動産取得税や印紙税などです。
    測量関係の費用なども含めます。

  3. 譲渡費用:相続した土地を売却するためにかかった費用を指します。
    主なものとしては、売却時の仲介手数料や売主側が負担した印紙税、登記費用などが挙げられます。
    土地の維持管理費や固定資産税は含めません。

  4. 特別控除額:特定の要件を満たす場合に、課税譲渡所得金額から差し引ける金額です。
    後述する「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」や「相続した空き家を売却したときの3,000万円の特別控除」などがこれに該当します。
    特別控除を活用すれば、課税対象となる譲渡所得金額を減らせるしくみです。

2-2. 不動産の所有期間で税率が異なる

上記の計算で譲渡所得金額を計算したら、次に譲渡所得税額を算出します。

この時に必要となるのが「税率」です。

税率は売却した土地の所有期間によって2種類に分かれているため注意が必要です。

土地の所有期間の算出は「売却した年の1月1日時点」での所有期間が基準となります。

  • 短期譲渡所得:土地の所有期間が5年以下の場合

    • 所得税: 30%
    • 住民税: 9%
    • 復興特別所得税: 所得税額の2.1%(※2037年12月31日まで)
    • 合計税率: 39.63%

  • 長期譲渡所得:土地の所有期間が5年を超える場合

    • 所得税: 15%
    • 住民税: 5%
    • 復興特別所得税: 所得税額の2.1%(※2037年12月31日まで)
    • 合計税率: 20.315%

土地を長く所有しているほうが、税率は低く設定されています。

相続した土地の場合、土地の所有期間は、被相続人(亡くなった方)がその不動産を取得した日から引き継ぐことができます。

(※)復興特別所得税は、東日本大震災からの復興のための財源を確保する目的で創設された税金であり、2037年末まで課税されます。

2-3. 譲渡所得と税額の計算例

相続した土地を売却した時に課税される譲渡所得とその税額の計算例は以下となります。

例:所有後5年以内と5年以上に分けて計算します。

  土地は5,000万円で売却、取得費は2,000万円、譲渡費用は150万円と仮定

■計算例

譲渡所得は 5,000万円ー(2,000万円+150万円)=2,850万円

譲渡所得税

  1. 所有期間5年以内の場合 2,850万円×39.63%=1,129万4,550円
  2. 所有期間5年以上の場合 2,850万円×20.315%= 578.9万円

5年以内の売却か、それ以上の所有期間の売却かによって、発生する譲渡所得税が大きく異なることがわかります。

2-4. 相続時の譲渡所得における特別控除とは

相続によって取得した土地や建物を売却する際には、特定の要件を満たすことで利用できる特別控除があります。

以下の特例を適用できれば、譲渡所得税を大きく減らすことが可能です。

2-4-1. 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除

本控除は、所有者が使用していた居住用財産(マイホーム)を売却する際に、適用要件を満たせば不動産売却益3,000万円まで譲渡所得から控除できるため、賢く活用すれば不動産譲渡税を0円にできるものです。

居住用財産3,000万円の特別控除 適用要件

  • 売却する不動産は居住用財産(マイホーム)である
  • 居住用財産の売却先は親や配偶者など特別な関係にある人以外
  • 他の居住用財産に関する特例や、住宅ローン控除との併用がない
  • 売却した年の翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告を行う

実際に本控除を適用する際には、さらに細かく要件を確認する必要があるため、国税庁は適用可否をわかりやすく判断するためのチェックシートを設けています。ぜひご確認ください。

参考:国税庁「令和6年分用 居住用の家屋や敷地(居住用財産)を譲渡した場合の特例チェックシート(PDF/271KB)」

2-4-2. 相続した空き家を売却したときの3,000万円の特別控除

本特例は空き家を相続した際に適用できる特例で、相続によって取得した空き家の譲渡所得(売却益)から最高3,000万円を控除できるものです。

日本全国で発生している空き家問題の増加を受け、相続によって誰も住まなくなった空き家の放置を防ぐことを目的としています。

相続した空き家を売却したときの3,000万円の特別控除 対象物件

  • 昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された家屋であること
  • 区分所有建物でないこと(マンションなどの区分所有建物は対象外)
  • 相続開始の直前において、被相続人(亡くなった方)が一人で居住していた家屋であること

上記の対象物件の3要件をすべてクリアした上で、相続開始から3年を経過した年の12月31日までに売却するなど、細やかな要件もクリアする必要があります。

令和6年(2024年)1月1日以降の譲渡については、相続または遺贈により家屋とその敷地等を取得した相続人の数が3人以上である場合、特別控除額は2,000万円となります。

本特例は現時点では令和9年(2027年)12月31日まで適用されることになっていますが、その後の適用に関しては要件などが変更・廃止されるおそれがあるため注意が必要です。

詳しい要件については以下の国税庁HPをご確認ください。

参考:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

3. 土地売却の税金はいつ払う?

3. 土地売却の税金はいつ払う?

土地を売却した際に発生する税金は、その種類によって支払うタイミングが異なります。

詳しくは以下のとおりです。

3-1. 印紙税

印紙税は不動産売買契約書を作成する時に支払います。

印紙税自体が文書作成時に納税義務が発生するためです。

契約書に税額分の収入印紙を貼り付け、消印を押すことで納税します。

3-2. 登録免許税

登録免許税は登記を申請する際に支払います。

土地売買時の場合は、所有権移転登記や抵当権抹消登記を行う時に支払います。

金融機関や法務局での現金納付が可能です。

登録免許税が3万円未満なら登記申請用紙に収入印紙を貼って納付することもできます。

クレジットカード決済、インターネットバンキング決済も可能です。

3-3. 譲渡所得税(所得税・復興特別所得税・住民税)

土地を売却して利益(譲渡所得)が出た場合に課される税金です。

土地を売却した翌年の2月16日から3月15日の間の確定申告期間中に、確定申告と同時に納税します。

確定申告時に、税務署の窓口で現金で納付、振替納税、e-Taxによる電子納税などが選択できます。

売却によって損失が出た場合は原則として課税されません。

しかし、特定の特例の利用時など、必要となるケースもあるため不安な場合は税務署や税理士への確認がおすすめです。

4. 相続税を支払った人向け|相続税の取得費加算の特例とは

3. 相続税を支払った人向け|相続税の取得費加算の特例とは

「相続税を支払ったのに、譲渡所得税も支払うのか」と二重の課税に悩まされないように、相続した不動産の売却については「相続税の取得費加算の特例」も用意されています。

相続または遺贈によって取得した財産を、一定期間内に譲渡(売却)した場合に、支払った相続税のうち一定額を、その財産の譲渡所得を計算する際の「取得費」に加算できるものです。

相続税を取得税に加算すれば譲渡所得が減少するため、結果として課される譲渡所得税を軽減できます。

4-1. 取得費加算の特例の適用要件

この特例の適用を受けるには、以下3つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. 相続や遺贈により財産を取得した者であること
    相続または遺贈によって、土地、建物、株式などの財産を取得した個人が対象です。

  2. その財産を取得した人が相続税を納めていること
    相続によって財産を取得した人が、その相続について相続税を実際に納税している必要があります。
    相続税が発生しない(基礎控除以下など)場合は、この特例は適用できません。

  3. 相続・遺贈で取得した財産を一定期間内に売却していること
    相続・遺贈で取得した財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日(相続開始のあった日の翌日から3年10ヶ月以内)までに売却している必要があります。

相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。

土地の売却なら、相続発生から3年10ヶ月以内に売却していなければなりません。

相続税の取得費加算の特例における注意点

取得費加算の特例を適用するためには、譲渡(売却)した年の翌年に確定申告を行う必要があります。

また、特例には適用期限があるため遺産分割協議を完了させ、誰がその財産を取得するのか確定させる必要があります。

協議が長引くと特例を受けられなくなる可能性があります。

さらに、「相続した空き家を売却したときの3,000万円特別控除」とは併用できません。

ただし、相続税の節税に効果がある「小規模宅地等の特例」や、今回解説の「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」など併用できる特例はあります。

4-2. 相続税の取得費加算の計算方法

本特例を受けるためには、以下の計算式で取得費に加算される相続税額を算出する必要があります。

取得費に加算できる相続税額=その人の相続税額×(その人の相続税課税価格+その人の債務控除)

土地の相続で本特例を利用したい場合、遺産分割で土地を代償分割することになると、通常よりも加算額が減少します。

せっかくの取得費加算の特例による効果が期待できなくなってしまうのです。

つまり、本特例の利用を検討しているなら遺産分割協議時から慎重に分割方法を検討しておく必要があります。

先に触れたように注意点も多い特例のため、相続開始後すぐから税理士に相談の上で利用の有無を検討しましょう。

【関連記事】取得費加算の特例とは?適用要件や計算方法・注意点をわかりやすく解説!

5. 相続後の土地の売却については税理士へご相談ください

4. 相続後の土地の売却については税理士へご相談ください

本記事では相続時における土地の売却にかかる税金について、種類や計算方法、さまざまな種類の特例にも触れながら解説しました。

土地の売却では譲渡所得税を支払う必要がありますが、相続時には相続税と二重課税の状態となってしまいます。

そこで、お得な控除や特例が複数用意されています。

ただし、特例には要件があり計算方法も複雑であるため、相続開始後からすぐに税理士へ相談されることがおすすめです。

監修

中村亨

日本クレアス税理士法人 代表
税理士
公認会計士

2002年8月に会計事務所として創業、2005年には税理士事務所を開業し、法人や個人のお客様の会計・税務の支援をする中で、「人事労務の問題を相談をしたい」「事業承継を検討している」といったお客様のニーズに応える形でサービスを拡大し続け、現在では社会保険労務士法人など複数の法人からなるグループ企業に成長してきました。お客様に必要なサービスをワンストップで提供できることが当社の強みです。

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