今年の1月に法務省が国会に提出した民法改正の要綱案には、成立すれば実に38年ぶりとなる相続関係の論点である「配偶者の居住権」が盛り込まれました。 ちなみに38年前の改正は「配偶者の法定相続分」に関する改訂でした。 今回は「配偶者の居住権」について、事例をふまえながら理解を深めていきましょう。
民法改正の要綱案のポイント
相続トラブルに巻き込まれず相続後も安心した生活を送りたい、とは誰しもが願うことでしょうが、遺産分割で揉めてしまい、残された配偶者が自宅に住めなくなってしまう、というケースが少なからず発生してしまっています。 このような状況を鑑み、今回の民法改正の要綱案には次の内容が盛り込まれています。
(1) 配偶者の居住権の保護
配偶者が被相続人が亡くなった時(相続が発生した時)に居住している被相続人所有の建物に、自宅として住み続けることが出来る権利を創設し、遺産相続の選択肢の一つとする。
(2) 遺産分割に関する見直し
婚姻期間が20年以上の夫婦が、配偶者に居住用の土地・建物を遺贈又は生前贈与したときは、遺産分割の対象としないものとする。
それでは、今回の改正案が適用された場合、現況と比較してどのようなことが起こるのか事例を使って理解を深めていきましょう。
事例
ご主人と二人暮らしのAさん。Aさんには息子が二人いますが、二人ともに折り合いが悪く交流が少ないそうです。
ご主人に万一のことがあれば、残される財産は自宅と少しの預金です。 Aさんは、自宅の評価額が都心に住んでいるため高いこと、また、配偶者は法定相続分では2分の1しか権利がないことを知り、相続が不安になっています。
ここで家族構成と財産構成を整理してみましょう。
家族構成
・夫
・Aさん(妻)
※夫の相続が発生した場合、法定相続分は1/2
・長男 ※夫の相続が発生した場合、法定相続分は1/4
・次男 ※夫の相続が発生した場合、法定相続分は1/4
財産構成
・自宅(土地・家屋) 5,000万円 ・預貯金 1,000万円
現状の制度下で相続が発生した場合
妻の法定相続分は (5,000万円+1,000万円)×1/2=3,000万円 となるため、現状の制度では自宅を全て妻名義にすることが出来ない上、預貯金も手元に残りません。
上記(1)の改正案「配偶者の居住権の保護」が適用された場合
現時点では法案がまだとおっていないため、相続税法上の居住権の評価がどのようになるかの詳細はわかりませんが、法の背景から想定すると、その評価額は低くなると想定されます。 そのため、相続税評価額自体が法定相続分以下になれば自宅に住み続けられ、さらに預貯金を受け取れる可能性があります。
上記(2)の改正案「遺産分割に関する見直し」が適用され、遺贈又は生前贈与が行われた場合
生前贈与または遺言による遺贈で妻が自宅を取得できた場合、自宅は遺産分割の対象から外れることになります。 したがって、妻は自宅に住み続けることができ、さらに法定相続分として預貯金 1,000万円×1/2=500万円 を相続することも可能です。
まとめ
今回の民法改正の要綱案は、多くの方々にとって重要な論点となってくるため注目度が大変高くなっています。今回の改正により残された配偶者の方への救済措置が具体化された場合、これまで以上に生前対策が重要になってくるものと考えられます。 早い段階で一度、相続人と相続財産について、整理をしてみることをおすすめします。
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