平成29年度の税制改正で、「相続税の物納財産の順位と財産の範囲の変更」がされました。
物納財産、順位、範囲という言葉だけで難しくてわかりにくいですね。簡単にいうと、相続税を払うときに、現金を用意できない場合に現金以外のもので払う制度についての変更があったのです。
今回の記事では「物納とはなにか」、「どのようなものを相続税を払うときに使うことができるのか」などをまとめました。
目次 |
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1.相続税の「物納」とは |
1.相続税の「物納」とは
相続税は、納付期限内に金銭つまり現金で、一括して納付することが原則です。
どうしても現金で一括して払うことができない場合には、納期をのばしてもらう(延納)、分割して払うなど税務署と話し合って納付の方法を考えていくこともできますが、納期をのばしたり分割しても相続税が払えそうにない場合には、納付期限内に現金ではなく相続した不動産などで支払うこともできます。この制度を「物納」といいます。 物納制度を利用するには、いろいろな条件があります。
2.物納制度を利用するための条件
物納制度を利用できるのは、次の要件をすべて満たした場合です。
(1)納期をのばしてもらう、分割して払うなど延納制度によっても現金で相続税を納付することが難しい理由があり、実際に納付が難しいこと。
(2)物納をしようとする財産は日本国内の財産で、一定の種類の財産で一定の順位によるものであること。
(3)物納をしようとする財産が、物納できない財産にあてはまらないこと。もし物納できない財産にあてはまる場合には、ほかに物納できる財産がないこと。
(4)物納申請書、物納手続関係書類といった必要な書類を期限までに税務署に提出すること。
以上の条件を満たした場合に、物納制度を利用することができます。
3.物納にあてることのできる財産の種類とその順位
物納できる財産は種類が決められているだけでなく、物納できる順位があります。
まず、物納しようと思う財産が日本国内にあり、所轄税務署の事前の許可が必要となります。物納申請しても、国が処分するために不適格な財産は物納が却下されることもあります。
順位とは、たとえば第2順位の財産を物納しょうと思っても、相続した財産に第1順位のものがある場合には、第2順位の財産は物納することができません。第1順位の財産から順番に、物納財産に充当していくことになります。不動産の場合は、物納する財産の価格は相続税上の評価額になります。
まず、平成29年度税制改正後に物納にあてることのできる財産の種類とその順位をみていきましょう。
(1)第1順位・・・ ①国債、地方債、不動産、船舶、上場株式等②不動産、上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
(2)第2順位・・・①非上場株式等②非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
(3)第3順位・・・ 動産
この中に出てくる「物納劣後財産」とは、ほかにに物納にあてることのできる財産がないと認められる場合に限り、物納をすることができる財産です。たとえば、法令に違反して建築された建物などがこれにあてはまります。
4.物納することができない財産
物納することができない財産を「管理処分不適格財産」といいます。
国も管理や処分に困る財産を物納されても困るので、物納することのできない財産を定めているわけです。たとえば、担保が設定されている不動産、裁判などで権利について争いの途中である不動産、境界の明らかでない土地などがこれにあたります。
ここまで物納制度の基本を確認してきました。 それでは平成29年度の税制改正ではどこが改正されたのでしょうか?相続税の物納の基本を踏まえ、改正のポイントと手続きの流れについて説明していきます。
5.物納制度が拡充する今回の改正
(1)上場株式が第一順位に変更
今回の改正は、物納制度が拡充するといった方向で行われました。つまり今までよりも物納しやすくなったといえます。 とくに、相続財産に上場株式があった場合に相続してから申告期限までの間に、価格が急に下落するなどの理由から納税資金が確保できなくなった場合などを想定した改正になっています。
改正前 | 改正後 | |
第一順位 | ①国際、地方債、不動産、船舶 ②不動産のうち劣後財産 |
①不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含みますが、短期社債等は除かれます。) ②不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの |
第二順位 | ③社債、株式、証券投資信託又は貸付信託の受益証券 ④株式のうち劣後財産 |
③非上場株式等(特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含みますが、短期社債等は除かれます。) ④非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの |
第三順位 | ⑤動産 | ⑤動産 |
(2)改正の影響
今回の改正では、物納対象となる不動産を持っている場合でも上場株式を物納にあてることができるようになったので、不動産の処分をしなくてもよいケースがある、ということがあげられます。
不動産の物納をするには、居住している不動産であれば引越しを考えなければなりませんし評価の問題もあり大変です。 今まで物納することができなかった上場株式を物納に使うことができるようになり、納税資金対策を考える場合にも上場株式を物納できることを前提にしていく必要があります。
(3)いつの申請分から対象になるのか?
今回の物納できる財産の順位と範囲の変更された改正は、平成29年4月以降の物納申請分から適用になります。
6.物納の手続に必要な書類
相続税を物納するためには、以下のような書類が必要になります。
物納申請書
①金銭納付を困難とする理由書
物納ができる条件として、納期をのばしてもらう、分割して払うなど延納制度によっても現金で相続税を納付することが難しい理由があり、実際に納付が難しいことがありますが、この理由を書類として提出する必要があります。
②物納財産目録
物納をするには、物納ができる国内にある財産を物納順位にしたがって納めることになりますが、どのような財産を物納するのかを一覧表にして提出する必要があります。 これらの書類の雛形は、国税庁のホームページでダウンロードすることもできます。
※国税庁ウェブサイト 《相続税・贈与税の延納申請書》
その他の物納手続き関係書類
その他に必要な書類を物納申請書に添付する必要があります。必要な書類はどのような財産を物納するかによって違ってきます。
たとえば、物納財産が土地の場合には登記簿謄本、所在図などが必要になります。場合によって境界確認書、土地の維持管理に要する費用の明細書なども必要になります。さらに、所有権移転に必要な所有権移転登記承諾書や印鑑証明書も必要になります。
7.まとめ
相続税対策を考えている方にとって、納税資金の確保は頭の痛い問題です。不動産が多い方であれば不動産の物納を考えている方も多いと思います。
今回の税制改正で、物納の範囲と順位が変更されましたので納税資金対策も見直す必要があります。相続対策は、早めにシミュレーションを行っていくほうが検討できる方法も広がります。早めの生前対策をすることが大切です。
相続対策には、相続財産の評価、納税資金の確保、相続時の想定できるトラブルについての対策などさまざまな対策が必要になります。相続に強い信頼できる税理士に相談することで、安心して相続問題に取り組んでいくことができます。
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