相続税の悩みをサポートできる税理士は限られており、依頼先の厳選は必須です。
他方で「税理士はみな同じスキルがあるように見えてしまう」のが一般的であり、専門性やサポート力を見極めるための何らかの指針が欲しいところです。
下記では、過大申告や税務調査のリスクを防ぎ、遺産分割の段階から個別に適切なアドバイスができる税理士の選び方のポイントを紹介します。
1.同じに見える?実はそれぞれ専門分野がある!
税理士の業務範囲は広く、相続税はその一分野に過ぎません。一定期間で経験を積んで解決力を向上させる目的で、ほとんどの税理士は各分野に特化してサポートを実施しています。
【参考】税理士が対応できる分野と業務内容の例
- 個人(給与所得以外の収入がある人)向けの分野
…所得税申告・記帳代行&指導・年末調整など - 会社経営と事業向けの分野
…法人税申告・所得税課税事業者になったときの手続き支援など - 会社経営に特化した分野
…創業支援・事業承継・M&A・資金調達・会社の清算または解散など - 相続に特化した分野
…相続税申告・贈与税申告・生前準備など
上記以外にも特化している分野を持つ税理士はいますし、複数の得意分野を持つ税理士もいます。いずれにせよ共通しているのは、分野を特化するからこそ、その分野独自のノウハウや実務経験が溜まっていくことです。
税理士を選ぶ際には、解決したい悩みに特化している税理士を選ぶことが重要なポイントです。
1-1.税理士としての活動に「相続の知識&スキル」は必須ではない
対応した分野を得意とする税理士に任せなければならないもう1つの理由は、相続税の基礎知識をすべての税理士が有しているとは限らないことです。
相続に関する知識のない税理士が存在する背景のひとつは、国家試験で相続税分野が選択科目とされている点です。
そもそも税理士として登録する上で、国家試験は必須ではありません。2020年の統計によると、同年3月31日時点での登録数のうち試験免除者は全体の37%に及びます。他方で、試験合格者の数にその他十分な税務知識を持つ登録者の数(税務署出身者・公認会計士)を加えても、全体の61%程度にとどまります※。
これまで解説した通り、十分な税務知識を持つ税理士のなかでも、相続に関して専門性を有する人物はさらに数が限られます。
以上の点を踏まえると、ますます税理士を厳選する必要性は高いと言えるのです。
※参考資料:日税連『税理士界』(2020年5月発行分)
2.相続税に明るいか見分けるポイント
専門性の高い税理士は、相続税申告をただ機械的にこなすのではなく、少しでも節税につながるよう相続開始直後からさまざまなアドバイスを実施します。かつ、税務調査への十分な備えも欠かせません。
上記の「相続税を意識した総合的支援」が行える専門性の高い人物の見極めは、以下5点を押さえると良いかと思われます。
2-1.相続税申告の実績数
相続税申告に自信のある税理士であれば、その実績を隠す理由はありません。
「これまでの受任件数」「事務所で解決に至った困難な申告事例」など公開する情報はさまざまですが、熱意とスキルの両方を備える税理士は、自身の経験を事務所サイト等で欠かさずアピールしています。
2-2.税額軽減につながる特例の知識
相続開始後に課税額を最適化していく上で、遺産分割の提案スキルは欠かせません。提案の際は、課税額軽減につながる特例(下記)の適用要件等の網羅的な知識が前提となります。
【一例】相続税の税額軽減につながる特例の種類
- 配偶者の税額の軽減
- 小規模宅地等の特例
- 農地等を相続した場合の納税猶予
- 非上場株式・事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除の特例
相談時の提案内容で、上記のような特例に関して十分な知識があるかどうか、税制改正等に合わせた最新の情報を持っているかを確認することがポイントです。
2-3.不動産の評価スキル
相続税の申告業務のなかでも比較的難しく、かつ需要の高いものが「不動産の評価」です。 課税額の計算ベースとなる評価額は、土地建物ごとに備わる性質(土地の形状や傾き・接道状況・建築基準法への適応状況など)に左右されます。不動産固有の性質そのものも、相続関係者の手元にある測量図等の資料だけでは汲み取りきれないケースが多々あることは否めません。
税理士を見極める際は、不動産の性質をすべて汲み取って評価に反映するスキルだけではなく、現地調査もいとわないフットワークの軽さもチェックしましょう。
2-4.税務調査への対応力
相続税の税務調査が行われる割合は平成29年の時点で10人に1人※と決して低くありません。申告漏れ(あるいは過少申告)がまったく見られないケースでも、資産状況や税務署側の抽出作業しだいで調査が実施される可能性があります。
本調査の可能性に対し、税理士には「書面添付制度」の利用が認められています。
【書面添付制度とは】
税理士が手続きした申告において、税務署からの調査対応要請(日時等の通知や意見聴取など)を、申告者本人ではなく担当税理士を優先するよう求める権利を定めた制度です。本権利の行使にあたっては、申告時に税理士が所定の書面(自身が計算等を行った旨を明記したもの)を添付しなければなりません。
書面添付があれば、万が一税務調査の対象となっても「申告手順」や「税理士の責任範囲」の特定が円滑になり、申告者への直接の調査に至らずに済む結果が期待できます。
申告手続きの正確さに自信があり、責任感とともに業務達成できる税理士は、本制度を積極的に提案します。相談の際は書面添付制度の利用可否を尋ねるか、提案の有無をチェックしましょう。
※参考:(いずれも国税庁資料)
『平成29年分の相続税の申告状況について』⇒Webサイトはこちら
『平成29事務年度における相続税の調査の状況について』⇒PDFファイルはこちら
2-5.他分野士業との連携状況
相続手続きは税理士だけでは完結できません。
税理士が課税額を最適化できる遺産分割方針を提案しても、遺留分問題の解決・遺産分割協議書の作成等を経て分割を実施するには、相続法を専門分野とする「弁護士」のサポートが必須です。不動産の評価でも、建築基準法への合致状況や測量図作成などのプロセスで「土地家屋調査士」等の専門職の力を借りなければなりません。
解決満足度の高い税理士を見極める際は、上記「弁護士」「土地家屋調査士」を含む他分野の士業と適宜連携が取れるか、事務所公式サイトや相談を通じてチェックしましょう。
3.要注意!?後で後悔しないためのチェックポイント
税理士選びで「価格が安いから」「早く手続きに入ってくれそうだから」等の基準を用いるのは考えものです。過大申告の発生でかえってコストがかさんだり、後日税務署から申告漏れや過少申告を指摘されたりする恐れがあるからです。
初回相談までのあいだに下記のような特徴がみられるときは、別の税理士も含めて依頼先を再検討しましょう。
3-1.相続財産に関する資料をあまりチェックしない
税理士にあってはならない失敗ではあるものの、相続ではその性質上起きやすいのが「申告漏れ」です。これを防ぐには、課税額計算等の本格的な申告手続きに着手する前に、被相続人が遺した財産関連の資料を出来るだけ過去にさかのぼってチェックしなければなりません。
申告漏れを防ぐための財産確認は、相続の申告業務の中の基本でもあり最重要項目の一つでもあります。 初回相談時に「資料の準備や財産調査の話が出ない」「あまりヒアリングされないまま契約を勧められた」等の状況がみられるときは要注意です。
3-2.報酬体系が不明瞭
税理士の業務内容と範囲は相続状況に左右されるため、安心して依頼できるよう個別に報酬体系を明らかにするのが通常です。
しかし、事前の報酬体系の明確化がない場合には、あとから「対応範囲外であるため追加料金がかかる」等の説明を受ける可能性があります。
税理士への初回相談時は「基本報酬の金額と対応範囲」を必ず尋ねましょう。その解答に不審な点があるときは、依頼手続きを保留して再検討するのがベストです。
3-3.「低価格」を強調している
「激安」「低価格」をアピールしている場合には、その安さの理由について確認すると良いでしょう。
税理士事務所が低価格を実現できるのは、扱う分野を絞り、資格を持っていない従業員が機械的に業務の大部分を担える仕組みを整えているケースがあるようです。また、「低価格」なのは基本報酬だけで、財産評価や預金調査の加算報酬が高く見積もられ、結局はあまり低価格ではない結果になるケースも、可能性としては否定できません。
一生涯のあいだに築いた財産を扱う相続分野は、有資格者による緻密な専門的対応が必要だと言わざるを得ません。価格重視で機械的な業務を行う税理士を選んでしまうと「税理士本人の対応が遅い」「依頼先では対応しきれず別の税理士にセカンドオピニオンを受ける羽目になった」等の後悔につながる恐れがあります。
4.専門家に依頼する相場とは?
日本クレアス税理士法人では、「相続の申告に必要な費用感に関する調査」を実施いたしました。ネットリサーチを活用し、相続に関する業務に関わる弁護士・司法書士・税理士などの専門家に支払った報酬についての費用感に関する本調査では、想像していた費用と実際の費用の乖離に関するコメントも寄せられました。
・相談と書類作成費用だけで結構高額だと感じました。(50代/男性/自営業)
・自分が思っていた金額より多かった(70代/女性/専業主婦)
前項でも費用に関して注意するポイントをご紹介しましたが、専門家と事前の話し合いをしっかり行い、業務内容と費用について理解をしておくことが重要なのではないでしょうか。
レポート:【調査報告】「相続の申告に必要な費用感に関する調査」-弁護士・司法書士・税理士…その専門家への報酬は高い?安い?
5.まとめ
相続に明るい税理士は、事務所公式サイトや初回相談を通じて「熱意とスキルのサイン」を発信しています。業界知識がまったくない人でも、本記事で紹介した5つのポイントを手掛かりにすることで、相続開始時からアフターフォローまで満足できる専門家と出会えます。
【相続手続きに強い税理士を見分けるポイント】
- 相続税の申告実績を公開している
- 税額軽減の特例に関する知識を持っている
- 不動産評価のスキルがあり、現地調査をいとわない
- 税務調査を意識して「書面添付制度」を積極的に提案する
- 弁護士や土地家屋調査士等との連携が十分とれている
相続税を正しく納税するため、また少なからず遺産の減少を招くため、申告手続き・課税額ともにベストを尽くさなければなりません。依頼先選びは慎重に、家族の遺志を最大限尊重できる人物を厳選しましょう。
【お役立ちコンテンツ】
相続相談はどこにするべき?専門家(税理士、司法書士、弁護士)の強み
【クレアスの相続税サービス】
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