相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があり、非常にタイトなスケジュールです。相続が発生してしまってから慌てないように、必要な手続きについてあらかじめ理解を深めておくことは、スムーズに相続税の申告を行うために重要です。
今回のコラムでは、一連の相続手続きの中でも初期に対応が必要な「検認」についてご紹介いたします。
目次 |
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1.遺言書の検認とは? |
1.遺言書の検認とは?
遺言書の検認とは、遺言書の内容等を家庭裁判所が確認し、後にその遺言書が偽造や変造されることを防ぐための手続きをいいます。 もし遺言書が、遺族に都合のよい内容に書き換えられた場合、遺言者の意思は尊重されません。
こうした不正を抑止するため、遺言書を発見した相続人や遺言書を保管している人は、相続の開始を知った後、遅滞なく家庭裁判所に遺言書の検認手続きを請求することが義務づけられているのです。(民法第1004条第1項)
【遺言書の「有効」「無効」は関係ない】
遺言書の検認は、遺言書の偽造等を防ぐためのもので、その内容が有効かどうかを判断するものではありません。
検認を受けたからその遺言書が有効であることにはなりませんし、逆に、検認を受けていない遺言書が無効ということにもなりません。
2.遺言書の検認が必要な遺言書とは
遺言書には、遺言の方法によって、自筆証書遺言・秘密証書遺言・公正証書遺言の3種類があります。
自筆証書遺言とは、遺言者が自筆で作成するものです。また、秘密証書遺言とは、遺言者が作成した遺言書の存在を公証人や証人に確認してもらうものをいいます。
一方、公正証書遺言とは、遺言者が遺言の内容を公証人に口述し、証人の立会いのもと、公証人によって作成・保管されるものをいいます。
参考コラム:遺言書の正しい書き方を種類別、ケース別で解説
家庭裁判所の検認の対象となるのは、自筆証書遺言と秘密証書遺言の2つです。
公正証書遺言は、もともと内容が公的機関において確認されていることから、検認の対象になりません。
3.遺言書の検認に必要な書類
遺言書の検認の申し立てに必要な書類は以下となります。
- 遺言書の検認の申立書
- 戸籍謄本等の添付書類
- 遺言書の写し(遺言書が開封されている場合)
【標準的な添付書類】
標準的な添付書類は、遺言者が亡くなったことや、遺言者の法定相続人が誰になるかを確認するための以下のような書類です。
- 遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本等
- 相続人全員の戸籍謄本等
戸籍謄本のほか、除籍謄本、改製原戸籍なども必要に応じて対象となります。
もし、遺言者のお子さんで遺言者より先に亡くなっている人がいれば、代襲相続人を確認する必要があるため、亡くなったお子さんの出生時から死亡時までの戸籍謄本等が必要になります。
そのほか、法定相続人が誰になるかによって、追加で書類が必要となる場合があります。事前に家庭裁判所に確認しておくとよいでしょう。
4.遺言書の検認手続きの流れ
検認手続きの申請から検認が終了するまでの流れは、次のようになります。
【検認手続きの流れ】
①検認の申し立てを行う
②検認期日の通知を受ける
③遺言書の検認を受ける
④検認済証明書の交付を受ける
それぞれの手続きがどのようなものか、具体的にみていきましょう。
①検認の申し立てを行う
遺言書の検認の申立人になることができるのは
・遺言書を保管していた人
・遺言書を発見した相続人
です。
申し立て先は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所になります。
申立人は、前記の必要書類を用意し、その書類を郵送または窓口に持参して、手続きの請求を行います。
申し立てにかかる費用として、遺言書1通につき800円分の収入印紙と、連絡用の郵便切手が必要です。必要となる連絡用の郵便切手の金額・枚数は、申し立て先の家庭裁判所に確認しましょう。
②検認期日の通知を受ける
検認の申し立て後、申し立てを受理した家庭裁判所から、検認期日(=検認を行う日付け)の通知が行われます。検認期日の通知が行われるのは、申し立ての日から2週間ほどです。
通知は書面(郵送)で行われますが、まずは電話によるスケジュール調整が行われることが一般的となります。
申し立てを行った日から、概ね1ヶ月内の期日で調整されることが多いようですが、家庭裁判所によって差があるものと考えられます。
なお、遺言書が封書である場合、検認を受けるまで開封することができないため、なるべく早く申し立てを行うことが大切です。詳しくは、「遺言書の検認手続きの注意点」で解説します。
③遺言書の検認を受ける
検認期日に、申し立て先の家庭裁判所において遺言書の検認を受けます。
遺言書を保管している人は、このとき必ず遺言書を持参して家庭裁判所に出向きます。
検認は、家庭裁判所が相続人立ち会いのもとで遺言書を開封し、その遺言書の内容や、検認を行った状況を検認調書に記録して行われます。
検認には相続人全員で立ち会うこともできますが、申立人以外の相続人の立ち会いは任意です。
④検認済証明書の交付を受ける
検認を終えたら、家庭裁判所から「検認済証明書」を発行してもらえるようになります。
検認済み証明書は、遺言を執行するために必要な証明書で、たとえば自筆証書遺言によって不動産登記を行う場合もこの検認済証明書付きの遺言書が必要となります。
検認済証明書の申請には、遺言書1通につき150円分の収入印紙と申立人の印鑑が必要です。
5.遺言書の検認手続きの注意点
最後に、遺言書の検認に関する重要な注意点をお伝えします。
注意点①:封印のある遺言書は勝手に開封できない
遺言書が封印されている場合、勝手に開封してはいけません。
家庭裁判所において相続人やその代理人らの立ち会いがなければ、開封することは禁止されています。(民法第1004条第3項)
したがって、封印のある遺言書は、検認期日まで開封せずに保管しなければならないということです。
遺言書(自筆証書遺言・秘密証書遺言)は、封をされていようがいまいが検認を受けなければならないのですが、それが封印されている場合に限り、開封の手続きから家庭裁判所で行わなければならないということです。
注意点②:検認を受けないと過料に処されます
遺言書の検認を受けないまま、遺言書の内容を執行した人は5万円以下の過料に処されます。また、封印のある遺言書を家庭裁判所外で開封した人も5万円以下の過料に処されます。(民法第1005条)
注意点③:相続手続きの期限に注意
相続手続きにおいて、相続人は自己のために相続の開始があったことを知ったときから原則3ヶ月以内に、その相続について単純承認・限定承認・相続放棄の選択を行わなければなりません。
また、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告も必要です。
この間に相続人のスケジュールを調整して遺産分割協議を行うことを考慮すると、相続手続きのスケジュールは非常にタイトなものとなります。
遺言書があれば、このスケジュールに、遺言書の検認手続きが割り込んできます。
検認は、受けるまでに1ヶ月ほどかかる上、封印された遺言書であれば検認のときまで内容も確認できません。
遺言の内容がわからない以上、勝手に遺産分割をしても徒労に終わることがあるため、遺言書は発見次第すぐに検認の申し立てを行うことが必要です。
6.まとめ
不遺言書の不正防止のために家庭裁判所が行う「検認」について紹介を行いました。
【遺言書の検認のまとめ】
- 公正証書遺言による遺言書であれば検認は不要
- 手続きは、申し立てから1ヶ月ほどかかる
- 家庭裁判所外の開封等、罰金が発生する行為がある
封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができません。遺言書を発見したら勝手に開封せず、家庭裁判所にすぐ検認の申し立てを行いましょう。
日本クレアス税理士法人
執行役員 税理士 中川義敬
2007年 税理士登録(近畿税理士会)、2009年に日本クレアス税理士法人入社。東証一部上場企業から中小企業・医院の税務相談、税務申告対応、医院開業コンサルティング、組織再編コンサルティング、相続・事業承継コンサルティング、経理アウトソーシング決算早期化等に従事。事業承継・相続対策などのご相談に関しては、個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業承継」、「争続にならない相続」のアドバイスを行う税理士として定評がある。(プロフィールページ)
・執筆実績:「預貯金債券の仮払い制度」「贈与税の配偶者控除の改正」等
・セミナー実績:「クリニックの為の医院経営セミナー~クリニックの相続税・事業承継対策・承継で発生する税務のポイント」「事業承継対策セミナー~事業承継に必要な自己株式対策とは~」等多数
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