自動車の所有者が亡くなったときは、車両を処分するか否かによらず運輸支局(もしくは軽自動車検査協会)での手続きが必須です。また、車両保有者には保険加入が義務付けられているため、保険会社へ契約内容変更の申請も行わなければなりません。
自動車を相続する際に必要となる手続きについて、本記事でご紹介いたします。
1.自動車を相続するには?
相続財産に自動車が含まれている場合、①相続人が次の所有者となるか、②第三者に譲渡するか、③相続放棄あるいは④廃車にするかの4つの選択肢があります。
扱いによって手続きが異なるため、まずは今後の方針を固めましょう。
【相続方法別】自動車に必要な手続き
- ①相続人が次の所有者になる場合…車両と自動車保険の名義変更
- ②第三者に譲渡する場合…車両と自動車保険の名義変更+売却代金の引き渡し(※有償譲渡の場合)
- ③相続放棄する場合…相続放棄の申述+債権者への証明書提示
- ④廃車にする場合…一時抹消登録or永久抹消登録or解体届出
①~④の共通点として、普通自動車は「管轄運輸支局」・軽自動車は「軽自動車検査協会」とのように、車種ごとの登録先で申請しなければなりません。個別の車両登録先は、亡くなった人が保管していた自動車検査証(車検証)で確認可能です。
以下では、車両登録先での手続きの流れ・必要書類を順に解説します。
2.【相続人が新所有者になる場合】車の名義変更手続きの流れ
相続人が自動車の新所有者になろうとする場合、登録先支局での名義変更の手続きが必要です。死亡から車両の名義変更までの流れを示すと、次のようになります。
【相続に伴う自動車の名義変更手続きの流れ】
①自動車の所有名義確認
…自動車検査証(車検証)の「使用者の氏名又は名称」の欄に亡くなった人の名前が書かれているか確認します。
②自動車の査定
…自動車の取引業者に相談し、売却した場合の価格を調べます。ここで調査した価格は、名義変更時の必要書類の内容に影響を与えるほか、相続税の課税ベースにもなります。
③新所有者の決定(遺産分割協議)
…遺言書で自動車の相続人が指定されている場合を除き、法定相続人全員で話し合って新しい所有者を決めます。
④戸籍謄本など必要書類の収集
…遺言書がない場合、話し合いで自動車の新所有者を決めた旨を記載した「遺産分割協議書」を作成し、戸籍謄本などの必要書類を収集します。
⑤管轄運輸支局(または軽自動車検査協会)への書類提出
…③で集めた書類に所定の申請書を添付し、手数料と合わせて登録先に提出します。
③で行う遺産分割協議では、自動車以外の相続財産も含めて次の所有者を取り決めます。
不動産や預貯金など相続財産の種類が多い場合や、次の項目で解説する遺産分割協議書の作成方法に悩む場合は、積極的に弁護士のサポートを得ましょう。
2-1.遺産分割協議書の書き方
名義変更の手続き時に作成する「遺産分割協議書」は、単なる添付書類のひとつではなく、法律上の契約を成立させるための重要書類です。自動車については下記情報を網羅し、対象車両を特定できる内容とする必要があります。
【車両相続に関する遺産分割協議書の必須記載項目】
- 車名
- 車の形式
- 車台番号
- 登録番号(ナンバープレートの番号)
2-2.必要書類と手数料
運輸支局(もしくは軽自動車検査協会)で名義変更の申請をする際は、一例として以下書類等をすべて収集する必要があります。
※相続の状況によって提出書類が変化するため、書類収集の前に登録先に問い合わせるよう呼びかけられています。個別のケースについては、車検証記載の連絡先に相談しましょう。
※相続の状況によって提出書類が変化するため、書類収集の前に登録先に問い合わせるよう呼びかけられています。個別のケースについては、車検証記載の連絡先に相談しましょう。
【自動車の名義変更(相続)の際の提出物】※以下すべて要
申請書※1
・自動車検査証(車検証)
・遺産分割協議書+相続人全員分の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)または遺言書
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
・相続人全員分の相続関係が分かる戸籍謄本
・相続人全員分の署名捺印のある同意書
・新所有者となる相続人の実印(代理申請の場合は、実印による押印済の委任状)
・自動車保管場所証明書(警察署証明の日から40日以内のもの)※2
※1:普通自動車はOCR第1号様式、軽自動車は申請依頼書の様式1を用います。
上記のほかに、名義変更手続きの手数料として500円を納付します(金額は2020年6月現在)。納付書・印紙は窓口で配布されているため、事前の納付準備は現金の用意のみで問題ありません。なお、必要書類の集め方については注意点があります(後章解説)。
3.【第三者に譲渡する場合】車の名義変更手続きの流れ
それでは「乗る予定がないので換金したい」等の事情で、亡くなった人から第三者に直接譲渡する場合の手続きはどうでしょうか。結論を述べると、基本的には前章解説の「相続人が所有者となる場合の名義変更」とほとんど同じ手続きです。
下記のように、売却代金の受け渡しは名義変更後になる点には留意しましょう。
【自動車の名義変更(譲渡)の手続きの流れ】
①自動車の所有名義確認
②自動車の査定
③新所有者の決定(遺産分割協議)
④必要書類の準備
⑤車両登録先への書類提出(譲渡者or譲受者が代表して行う)
⑥(有償譲渡の場合)売却代金の受け渡し
3-1.必要書類と手数料
先で触れた通り、運輸支局(軽自動車の場合は軽自動車検査協会)での必要書類・手数料等は、相続人が新所有者となる場合に準じます。
ただし、譲渡者側で「譲渡証明書」を追加添付する必要があるほか、提出物のうち「印鑑証明書」「自動車保管場所証明書」の2点については譲受者側での準備を要するのが原則です。 他方、実印の準備は譲渡者・譲受者のうち申請手続き(書類提出)を行う人だけで構いません。
4.車の名義変更時の注意点
名義変更に必要な「同意書」と「相続関係を示す戸籍謄本」の集め方には注意点があります。 「書類不備で名義変更手続きを受理してもらえない」「遺産分割協議が無効になる」といった失敗を防ぐため、下記の状況に心当たりがないか確認しましょう。
4-1.相続人の姓名に変更があった場合
結婚もしくは離婚で相続人の姓名が変わっているケースでは、相続関係を示すため書類の追加提出が求められる可能性があります。
姓名変更のあった相続人について、被相続人の戸籍(全部事項証明書※含む)にはどれも旧姓名で表記されており、相続人側の戸籍との記載内容不一致が原因で相続関係を証明できないことがあるのです。
上記のように通常の戸籍謄本一式では相続関係を証明することが出来ない場合、該当の相続人の姓名変更の記録を示す書類(除籍前後の戸籍謄本や住民票など)が必須です。
※全部事項証明書とは…対応する役場で発行できる戸籍謄本の一種で、出生から死亡までの変更履歴がすべて記載されています。
4-2.相続人に未成年者・認知症患者が含まれる場合
未成年者・認知症患者・知的障碍者などの判断能力の低い人は、独力での財産行為(財産の移転を伴う法律上の契約)が認められていません。ここでは自動車の名義変更手続きへの同意が財産行為にあたり、同意書作成の際に財産行為できない相続人がいる場合、その法定代理人による署名捺印が必須です。
ここで言う法定代理人とは、未成年者なら親権者、認知症など判断能力に障碍のある人は「成年後見人」「任意後見人」「代理権が付与された保佐人または補助人」が該当します。成年後見人以下の法定代理人については、事前に家庭裁判所で後見開始(もしくは代理権付与)の審判を申し立てる必要があります。
4-3.「特別代理人」が必要になる場合も
法定代理人自身も亡くなった人の相続人にあたる場合、家庭裁判所に選任された臨時の「特別代理人」に同意書へのサインを任せなければなりません。法定代理人と本人との間で利益相反(一方に損失を被らせる形で利益を得る状況)が生じてしまうからです。
特別代理人に必要な資格は「相続関係者でないこと」の1点のみで、遠縁の親類のうち適当な人物に任せても構いません。任せられそうな人物に心当たりがない場合は、相続専門の弁護士に相談しましょう。
5.相続放棄する場合
自動車ローンの残債・交通事故の損害賠償金など、被相続人の遺した債務が重すぎるケースでは「相続放棄の申述」が検討できます。申述が受理されれば、自動車を含め資産の名義変更手続きは一切不要です。
ただし、以下2点には注意しなければなりません。
注意1:「相続放棄申述受理証明書」を取得する
相続放棄したことは自然に債権者に伝わるわけではありません。
申述受理後の申請で交付される「相続放棄申述受理証明書」を取得し、申述者自ら債権者に提示して返済義務のないことを説明する必要があります。
注意2:「自動車の管理義務」は残る
相続放棄の申述が受理されても、車庫で適切に保管するなどの「管理義務」は申述者に残されます (民法第907条)。これを免れるには、別途あらためて家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任申立てを行い、選ばれた人物に管理義務が委譲された状態にしなければなりません。
また、相続財産管理人が選任されるまでのあいだは、自己判断での自動車の使用や有償譲渡を控えるべきです。放棄するはずの財産から利益を得ていると、単純承認(=放棄せず遺産の相続をすること)したものとして扱われる可能性があるからです。
車の使用や譲渡が必要となるやむを得ない事情がある場合は、弁護士に相談しましょう。
6.廃車手続きの流れ
事情により相続せず廃車にする場合は、やはり運輸支局または軽自動車検査協会で車両登録を抹消する手続きが必要です。手続きには2通りあり、一時的に車を使用しないつもりなのか、それともすぐに解体するつもりなのかにより申請手続き名称が異なります(下記参照)。
【2種類】廃車手続きの方法
■一時抹消登録(軽自動車の場合は“一時使用中止”)・・・一時的に車の使用を停止する手続き
■永久抹消登録(軽自動車の場合は“解体返納”)・・・解体処分を前提とする登録抹消手続き
廃車手続きの最大の注意点は、車両の名義変更手続き後(相続人が次の所有者となる場合の手続き/前章参照)しか受理されない点です。なお、いったん一時抹消登録しておき、後日永久抹消登録へと切り替えることも可能です。
下記ではさらに、一時抹消登録・永久抹消登録の各必要書類と手数料について解説します。
6-1.一時抹消登録の必要書類・手数料
一時抹消登録では、下記の必要書類等が指定されています。
【一時抹消登録(一時使用中止)の提出物】
・申請書※
・所有者の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)
・所有者の実印(代理申請の場合は、実印による押印済の委任状)
・ナンバープレート(前後2枚)
・手数料350円(2020年6月現在)
※申請書は車種により様式が異なります。リンクをクリックすると書式ダウンロードページに遷移します。
普通自動車:OCR申請書第3号様式の2
軽自動車:申請依頼書様式1+自動車検査証返納証明書交付申請書+自動車検査証返納届出書
上記のほか、事業用車両の場合は「事業用自動車等連絡書」・車両総重量が8トン以上または最大積載量が5トン以上のダンプカーの場合は「土砂等運搬大型自動車使用廃止届出書」の追加提出が求められます。
また、ナンバープレートを紛失している場合は、警察署届出の上で理由書を追加提出しなければなりません。
6-2.永久抹消登録の必要書類・手数料
永久抹消登録では、車両登録先での手続きに先立って解体を済ませておく必要があります。申請の際に移動報告番号・解体報告記録日の2点が必要となるからです。
必要書類等は一時抹消登録とほとんど共通していますが、解体業者発行の証明書に加え、自動車重量税の還付を受けるための追加提出物が必要となる点に要注意です(下記リスト青字部分)。
【永久抹消登録(解体返納)の申請書・手数料】※以下すべて要
・申請書※
・所有者の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)
・所有者の実印(代理申請の場合は、実印による押印済の委任状+代理人の運転免許証等)
・ナンバープレート(前後2枚)
・手数料:無料(2020年6月現在)
・使用済自動車引取証明書(リサイクル券)
・還付を受ける口座情報(金融機関名・支店名・口座種類・口座番号)
・個人番号記載の本人確認書類(マイナンバーカードがない場合、通知書もしくは個人番号記載の住民票+運転免許証等)
※申請書は車種により様式が異なります。リンクをクリックすると書式ダウンロードページに遷移します。
普通自動車の申請書:OCR申請書第3号様式の3
軽自動車の申請書:解体届出書・軽自動車税申告書(窓口配布)
また、事業用車両や一定以上の大きさのダンプカーで「事業用自動車等連絡書」「土砂等運搬大型自動車廃止届出書」などの追加書類が必要となる点も、一時抹消登録と共通です。
なお、災害・事故等で車両が行方不明になっているケースでも永久抹消登録を行います。左記状況にあてはまる場合、警察署へ届出を行った上で車両登録先のコールセンターで相談しましょう。
7.自動車保険の名義変更手続き・解約手続きも忘れずに
自動車の相続で忘れてはならないのが自動車保険の契約内容変更手続きです。廃車する場合は「解約」、今後も車の使用が見込まれる場合は「契約名義変更」をそれぞれ保険会社に申請しなければなりません。
車両登録先での手続き完了後に保険証券に記載のコールセンターに問い合わせ、手配について確認をとりましょう。
以下解説は車両の管理所有経験のある人にとっては既知の内容ですが。ここでは保険の契約内容変更にあたっての基礎知識として押さえます。
7-1.自動車保険には2種類ある
そもそも自動車保険には「自賠責保険」と「任意保険」の2種類があります。
国内にあるすべての車両に加入が義務付けられている自賠責保険は、車両相続の際は必ず契約内容を変更しなければなりません。
一方の任意保険については、生前加入があった場合に限り契約内容の変更が必要です。加入有無や加入先保険会社名が分からないときは、遺品に保険証券がないか捜索し、見つからなくとも念のため弁護士に調査を依頼しましょう。
7-2.契約名義の種類
加えて、自動車保険には1契約につき下記3つの名義があります。
解約せず名義変更を行う際は、加入先保険会社に対し「3つの名義のうちのどれを変更したいのか」を明確に伝えなければなりません。
【自動車保険の名義】
契約者・・・加入手続きし、保険料の支払いを行う人
記名被保険者・・・補償対象の車両を主に運転する人
車両所有者・・・補償対象の車両の所有名義人
【例】夫が車を購入して保険料支払いを行っているが、普段は妻が運転している
→契約者兼車両所有者は夫、記名被保険者は妻
また、記名被保険者の変更は等級の引継ぎ可否(後述)の判断基準にもなります。
7-3.等級(保険料の割引率)の引継ぎ可否
任意保険には、補償車両の事故歴が少ないほど保険料割引率が高くなる「ノンフリート等級」があります。
結論として、亡くなった人の等級が引き継げるのは、基本的に「記名被保険者を配偶者もしくは同居親族に変更する場合」のみです。配偶者以外の別居親族が記名被保険者となる場合、等級がリセットされて保険料が高くなる点に注意しましょう。
8.まとめ
亡くなった人の自動車の相続では、放棄の申述をしない限り車両登録先(運輸支局または軽自動車検査協会)での手続きが必須です。併せて、自動車保険の契約内容変更も忘れずに行いましょう。
そもそも車両をどう相続すべきか、家族それぞれのクルマ事情・課税額・査定価格をもとに多角的に検討しなければなりません。相続手続きの提出物も極めて多岐にわたり、追加書類や家庭裁判所での事前手続きが必要なケースもあります。
車の扱いに慣れている人でも、念のため相続の専門家にアドバイスを求めるのがベストです。
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